第65話:実存的危機
ログハウスに入ると3人はカウンセリングをしていたソファへ向かう。
九鬼は急に立ち止まり後ろを振り返ると山田に話しかけた。
「あっ、そういや……山田さん聞くの忘れていたのですが山田さんは甘いものをよく食べていますか?」
山田は立ち止まると少し考え九鬼の質問に応えた。
「確かに女性が一緒にいる時にイライラしてチョコとかやっっすい遺伝子組み換えのスナック菓子とか食べていましたね……」
九鬼は山田に言葉を返した。
「やっぱり、そうですか…」
山田はなぜその質問をしたのかわかっておらず、九鬼に質問をした。
「それ聞いて何か気になる事があるんですか?」
山田の不思議そうな表情に九鬼は説明を始めた。
「山田さん女性と話していて”自分はここにいていいかな?”とか常に不安に感じていることありませんでしたか?」
山田はハッとしながら九鬼の言葉を深く考えていた。過去の記憶を遡りながら、女性の言葉を受け取るたびに常に不安に煽られている自分自身に気がついた。
……女性がいる中での仕事は正直窮屈に感じていたな。言葉を発するたびにセクハラやパワハラにならないのか考え声をかけていた。何より気を張りながら女性上司に配慮し、仕事を組み立てると自分の仕事が何も出来なかった。そのたびに仕事が遅くなりその女性上司に怒られていた。そのたびに……
「そっか、俺っ……常にここにいていいのか。自然に女性と話せているのか考えていました。ずっと不安だったんですね俺」
山田は気持ちが腑に落ちた感覚が残っていた。九鬼は山田に言葉を返した。
「正直に言うとですね。俺にはその感覚は分かりません。ですが……甘いものを食べる人は自己否定が多く安心感を得るたびに甘いものを食べるので胃や膵臓が弱っていきます。胃もたれや消化不良になりやすく自律神経を壊しやすくなります。なので……常に"俺はここにいていい”と自分に刷り込んであげてください。その時に呼吸が浅くなるので深呼吸するといいですね」
山田は深く頷き九鬼に言葉を返した。
「なるほど……その感情に対処法がないと思っていました。1回自分の中で受け止める事が大事なんですね。そういや、そしじぃがずっと言ってくれていたのに俺……今の今まで理解出来なかった。ちゃんと言ってくれていたんですね」
深く反省する山田に対し九鬼は淡々と応える。
「反省しなくていいです。人間は理解するスピードがそれぞれ違いますから、その時は理解できなくても解決するキッカケをそしじぃは作ってくれたんだと思いますよ。遅かれ早かれ理解するタイミングが今だったそれだけですよ。俺はそう思いますね」
九鬼の言葉は攻めているわけでもなく褒めているわけでもない曖昧だがなぜか深みがある言葉に山田は安心をするとなぜか九鬼に一言お礼を言った。
「ありがとうございます」
璻は2人の会話を後ろで静かに聞いていた。
……なんだ。思ったより九鬼さんカウンセリング出来るじゃないですか…
九鬼はニヤッと笑うと山田に言葉を返した。
「なんでお礼をいうんですか。俺何もしてないですよ。つか、立ち話してましたね。山田さんソファにかけてください」
山田は九鬼に言われた通りにソファに座ると九鬼も山田の向かい合わせのソファにかけた。山田は九鬼に話しかける。
「九鬼さんに今日はたくさん勉強になりました。こんなに気軽に話しかけられたのは初めてで、とても嬉しかったです。あと龍後さんもありがとうございました」
九鬼は静かに後ろを振り返ると璻が背後に立っていた。九鬼は驚いた表情を見せると璻に話しかける
「おっ、お前……いたのかよ。静かにしてるから消えたかと」
璻は九鬼に向かって思い切って言い返した。
「九鬼さん、失礼ですよ。依頼主放り出して消えるわけないじゃないですか!静かに二人の話聞いていただけです。全く…」
山田は九鬼と璻のやりとりをなぜか笑っていた。
山田は九鬼と璻の自然なやりとりに羨ましく感じていた。
「ふっ……あはは。仲良さそうですね。俺も九鬼さんや龍後さんみたいにどんな人でも飾らない関係になる事を目標にします。まず自分の彼女に対しても飾らずに本音を話せるような関係になりたいですね」
璻はその言葉にツッコミを入れそうになるのをギュッと堪えていた。
……いや、まずどこを見てコイツ(九鬼)と仲良さそうだと思ったんだ。つか、飾らなさすぎて逆に気つかえって思うのは私だけ?それならまだ鬱陶しい藤宮さんのほうが幾分かマシなんですけど……
璻は悶々としながら、山田に話をする
「やっ、山田さんは自分に向き合うつもりがあるので大丈夫だと思います。あとちなみにですね。山田さんのトラウマの場合多分…ラスボスがお母様、いや、お母様の関係を改善していくようになると思うんですが、山田さんはお母様とお話は出来そうですか?」
山田は璻の問いに少し戸惑いながら応える
「そうですか、話は出来ると思います。喧嘩になりやすくなるので事務的な事しか話さないと先程言いましたが実は数年前から母親は安楽死か脳内器具かで迷っていました。つい2ヶ月前くらいに俺に相談せず脳内器具を取り付けてしまい、それから母は人が変わったようになりました。」
山田の口から脳内器具の話が出ると思わなかった璻は頭の中である事を思い出していた。紙で貰っていた山田の個人プロフィールには来店記録が2ヶ月前になっていた。それまでは毎月必ず来店されていたはず……と璻は疑問に思っていたが、他の事が重なり今の今まですっかり忘れてしまっていたことを思い出した。璻は山田に問いかけた。
「だから、2ヶ月前くらいからこちらに来れなくなっていたんですね」
山田は静かに頷くと言葉を返した。
「はい。なので一旦その事も含めてそしじぃに話そうと思います。どうしたらいいのか……脳内器具をつけた人間がどうなるのかそしじぃは詳しいはずなので」
山田の会話を聞き九鬼は驚いた表情を見せると一言つぶやいた。
「マジか……」
璻は山田に話しかけた。
「脳内器具を入れたら感情をなかった事にしますからね。もし、山田さんと話して過去の話をすると自分の都合の悪い事を思い出した瞬間、微弱の電流が出て感情がなくなり淡々と話せるようになるのが一般的です。これは自分の感情と向き合いたくない人が脳内器具をいれますが……お母様はそっち側を選んでしまったのですね」
山田は俯きながら璻に言葉をかけた。
「母の選択だったので、そこはしょうがないかなとも思いますが……なにより安楽死よりは幾分マシだと思います。ただ以前の母と違い不自然すぎるほど穏やかになりました。これは本当に自分の母なのかと疑うほどにです。正直以前の母の記憶が残っているので今の母と話すと誰と話しているのか段々わからなくなります。父は母さんの決めた事だからそれでいいと……おっ、俺どうすればよかったんですかねぇ?」
山田の表情は悲しそうに璻を見ていた。璻は山田に助言を言った。
「山田さんは脳内器具を入れたお母様の方が幸せそうに見えますか?それとも……昔のお母様の方が幸せそうでしたか?」
山田は静かに考えるとゆっくりと口を開いた。
「正直……母のバックグラウンドを知っているので脳内器具を入れた今の母の方が幸せそうに俺には見えました。でもっ……やっ……やっぱり昔の母にもっと話しかけておけばなって……」
山田の手が少し震えているのがわかった。璻は山田の気持ちを察するように言葉をかけた。
「脳内器具を入れる前のお母様にも山田さんは愛されたかったんですね。山田さんのお母様も山田さんもベストの選択をしました。それはそれでよかったと思える日は必ず来ます。そしじぃにもその山田さんが感じた感情を話してあげてください。そしじぃは私たちよりも水流士が長いので、何かヒントをくれるかもしれませんし、話すだけでもスッキリすると思います」
山田は頭を下げて璻にお礼を言った。
「ありがとうございます。今の時代になって脳内器具を入れている人がたくさんいるのは理解しています。鬱病も多く、病気も前に比べたら多い。なのに世界政府はそれが全て"感情が原因だと責任転嫁する"俺はそれに納得いかないんです。だから自分のトラウマに向き合い真剣に生きようって決めたんです。どんなに周りから古いと言われようが俺はそう生きていきたい」
山田の意志は固く目は真剣だった。確かに山田の言うように2031年まで世界は不安定だった。酷いのは食べ物が買えず、どんどん鬱病や流行り病が増え働けずに亡くなる人が多くいた。赤ちゃんや幼い子供を亡くした人は家から出ずに引きこもり、鬱病に。外では夜中ゾンビのように徘徊する人も多く増えていた。そんな中、やりたい事や目的意識がある人間は変わらず元気に仕事をしていたのだ。脳内器具が世の中に承認されてから脳内器具を入れていない人は古いという価値観が今現在も世界中に広まっている。璻は山田の言葉を聞き考えていた。
……渦見さんの時もそうだったけど脳内器具入れるも入れないのも自由なのに古いもクソもないでしょ……
脳内器具で頭を誰かに都合よく管理される事よりも自分で目的意識を見つけ生きたいと強い意志を山田からひしひしと感じる。九鬼は山田に言葉をかけた。
「俺らは脳内器具をいれない人たちのトラウマ解決場でもありますよ。山田さんがそう生きたいなら俺らはサポートをするだけです。それが俺らの仕事なんで」
山田は自分の意見を言えてスッキリしたのかお礼を言うと九鬼と璻に質問をした。
「九鬼さん龍後さんありがとうございます。あのっ……あともう一ついいでしょうか?さっきトラウマを書いた紙どうしたらいいですか?」
璻は山田の質問に応えた。
「トラウマを書いた紙はいつも見える場所に貼り自覚するようにしてください。自覚するとまた自分はトラウマに入り込んでいるなとわかる瞬間が絶対にあります。トラウマに入り込んでる自分が認識できたらさっき見た焚き火のように燃えているイメージをし、トラウマの記憶にありがとうとさよならを心の中で言って綺麗に燃え尽きるまでイメージしてください。ここまで何回も繰り返すとだんだんトラウマは薄れていくと諏訪さんから教えてもらいました。なのでトラウマを自覚し感情を捉えるまでが本当に難しいです。紙を貼って毎日自分のトラウマを自覚する。そこまできちんと行動しないと人間はすぐ忘れてしまいますから」
九鬼はその話を聞き2人の話に割って入る
「うん?待ってそれ……俺もやるって事?」
璻は九鬼の顔を一瞬チラッと見ると笑顔で応えた。
「はい。九鬼さんは必ず毎回見てください。自分のトラウマに気づけないと水流士は勤まりませんよ」
九鬼は璻の言葉が気に食わなかったのかイラっとしながら璻に言葉を返した。
「はぁぁっ…やっ、やりゃいいんだろ!」
璻は笑顔で九鬼に応えた。
「はい。私も含めて山田さんも九鬼さんもトラウマを3人で乗り越えていきましょうね」
山田も九鬼も目を泳ぎつつ2人は同時に返事をした。
「はいっ……」
璻は時計をチラッと見ると山田と九鬼に話しかけた。
「では、お時間も来ましたし、今回はこれで終了になります」
九鬼はソファから立ち上がると山田に声をかけた。
「もうそんな時間か……では山田さん玄関までお送りします」
山田は荷物を持って頷き返事をした。
「はい」
山田が玄関前まで歩くと九鬼と璻に話しかけた。
「今日はありがとうございました。またお二人にカウンセリングして頂いてもよろしいですか?」
九鬼と璻は山田の発言にすぐ返答出来ず返事を渋っていた。璻は九鬼はチラッと見ながらふと自分の考えがよぎる。
……いや……今回は研修期間で九鬼さんと組んでいるだけで、そう言われても困るなぁ……
九鬼は困りながら山田に言葉をかけた。
「ああーそしじぃにそれは言ってください。俺らが決める事じゃないですし、それに俺は基本長野や山梨あたりにいますけど、コイツは都会にいますからね」
コイツ発言で九鬼に指を刺された璻は複雑な気持ちを抱いていた。山田は璻を見ると申し訳なくなっていた。
「龍後さん都会にいるんですね…遠いところをわざわざ来てくれていたんですか。もう気軽に直接カウンセリングして下さいって言えないですね」
璻は顔を左右に顔を振る
「いえ、方針を決めるのはそしじぃなので相談されるといいと思います」
山田は頷くと返事をする。
「わかりました」
ログハウスのドアを開けるとそしじぃが歩いてくるのがわかった。山田はそしじぃに声をかける。
「そしじぃっ……久しぶりです。」
そしじぃは山田を久しぶりに見たのか嬉しそうに話しかけていた。
「ああっ…久しぶり。では歩きながら話そうか」
山田は頷きそしじぃに返事をした。
「はい」
そしじぃは九鬼と璻の方に顔を向けると声をかけた。
「ありがとう。2人とも助かったよ」
九鬼と璻はお互い顔を合わせて嬉しそうにしながら2人はそしじぃに返事をした。
「はいっ!」
山田は手を振りログハウスを去っていった。
璻は玄関のドアを閉め振り返るとそこには諏訪が立っていた。
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・自分はここにいていいかな?とか常に不安に感じる
幼少期に母性が学べない場合や自分で満たせなかった場合にこの傾向は強く出ます。こう感じる方は膵臓や胃が弱い方が特に多いです。あとは常に自分の結果に満足できない方、自分はまだやれると感じやすい方とかもそうですね。自分は常にベストを尽くしたと思える練習を毎日することで必要以上に食べ物や飲み物で補うことをしなくなります。
・世界政府はそれが全て"感情が原因だと責任転嫁する"
全ては自分の中に解決策はあります。自分が原因だとそう思っている考え方に問題があるのであって何かのせいにするのは山田は違うと思っていました。実際問題自分の外側をいくら綺麗にしようが心のトラウマは一向に変わりません。ですが脳内器具をつける人たちは外側に問題があると認識しがちになります。
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