第64話:循環
「はい。それでトラウマが消えたら人生苦労しないですよ。燃やす事でその紙が燃えて綺麗になったという”記憶”が必要なんです。トラウマは認識し乗り越えるまで時間がかかります。しかしこの紙が燃えた記憶があるとトラウマも綺麗に燃えてなくなるという想像が頭の中で作られ嫌な記憶が頭の中で感じにくくなったり時間がかかっていたトラウマが解消されやすくなったりする事があります。今回はそしじぃと話してその手法をやってみました」
九鬼は山田と諏訪の話に割って入ると急に質問をする
「諏訪さんこの燃やすやり方考えたの諏訪さんっすか?」
諏訪は頷くと応えた
「ああ、俺と喜三郎さんとそしじぃだな」
九鬼はそれらの名前を聞いてなぜか納得がいった。
……俺の行動を全て読んでやがったな……
九鬼は大きくため息をつくと急にしゃがみ下を向いて落ち込んでいた。隣にいた山田は少し震えながら諏訪に対して不安を口にした。
「トラウマを書いた紙を燃やしたって事実が必要なんですか?トラウマは根本的には無くならないとそしじぃは仰っていた。トラウマは……嫌な記憶は……消せないそうじゃなかったんですか」
その発言に対して諏訪は淡々と山田の質問に応えた。
「おっしゃられた通りトラウマの事実は消えないです。嫌だった感情を変える事は出来ます。トラウマは山田さんが考えているより悪い事でもないですし、むしろトラウマを経験する事の方が価値があったりします。意外に解消するまで俺は楽しかったりするんですよ」
山田は不思議そうな表情を浮かべた。どうやら山田は諏訪の意図が伝わっていないように見えた。
「俺はトラウマが苦しいって感情しか湧かないので今はわかりませんね」
諏訪は焚き火を見ながら山田の質問に答える
「それは……山田さんが"今苦しい"にしか感情をフォーカスしてないからです。トラウマは全て悪いわけではありません。トラウマは本人の人生経験の一つ、見方が変われば最悪な出来事も最高になります。例えば……そうだな……今ここで死んだと仮定しましょう。生きて経験したトラウマ自体感じる事はなりますが、同時に生きてトラウマを根本的に解消する事は出来なくなります。さて、ここで山田さんに質問です。死んだら自分のトラウマはどこに行くと思います?」
山田は少し考えると諏訪の質問に応えた。
「俺の想像ですけど、自分が死んだら経験したトラウマ自体は綺麗サッパリ無くなるんじゃないですか?転生アニメとかそうですし、転生したらめちゃくちゃ強くなって無双状態になるとかそうなるんじゃないですか」
諏訪は山田の返答を聞いてガッカリしていた。と同時に近くにいた璻は山田の返答を静かに聞いていた。
……その考えどっかで……あっ!それ水流士になる前に前職をクビになった私の考え方だ!……
璻は山田と似たような考えを昔持っていた事に気づいた。それがいい悪いではなくただツライ現実にぶち当たり逃げたくなったんだ。都合のいい妄想の中でふわふわと生きて、水流士になる前の璻は自分の意志で現実を生きていなかった。
……前職をクビになっていた時に山田さんと同じ事を考えていたな……
諏訪はなぜか山田を見ると大きくため息を吐いた。心の中で文句を言う。
……こういう頭の中妄想お花畑の男がいっから、俺ら水流士が苦労する……
諏訪は山田に呆れながら言葉を返した
「残念ながら今死んでもトラウマはなくなりません。次に生きる事になった場合にトラウマは引き継がれていくからです」
山田は諏訪に言葉を返した。
「どうしてわかるんですか……?」
落ち込んでいた九鬼がその場から立ち上がると山田と諏訪の会話に割って入る。
「ああっ…山田さん説明するの忘れていましたが……諏訪さんは俺の上司で特異体質なんすよ。水流士をやる人間は超能力を使う連中が多いんですが、諏訪さんは元々前世死んだ記憶が残って今も覚えているんですよ。だから山田さんにアドバイスしてるんだと思いますね」
九鬼は諏訪に近づくと諏訪に説教するように言葉をかける。
「全く……諏訪さん最初からそう言わないとわからんしょ。一般の依頼主ですから諏訪さんが話端折っても通じない事くらい考えてください」
諏訪は申し訳なさそうに九鬼に誤った。
「わりぃな。朔」
山田は九鬼と諏訪に質問をする
「じゃあっ……俺は今死んだら俺のトラウマは消えずにまた転生した先で同じ…苦しい体験をしなければいけないって事ですか」
山田はガッカリする様子で九鬼と諏訪に問いかけると諏訪は山田にアドバイスをする。
「そうなりますけど、それが嫌ならトラウマを解消できるよう逃げずに訓練すればいい話です。人は亡くなった時点の気持ちと生きていた走馬灯を見て次の転生する課題を決めます。生きていた記憶の6割以上がトラウマだらけだとまた同じ人生を辿る事になります。そういうルールなんですよね……だからこそ、今生きている視点でしか学べないトラウマが目の前にあるなら、解消した方が人生の自由度が高くなりますねって話です。トラウマを乗り越えた分だけ誰かの役に立つかもって考えたら面白い事だなと俺は思いますね」
山田は諏訪の言葉にハッとし言葉を返した。
「そういう視点で考えた事なかったな。俺。女性が苦手な事も母親が苦手な事も生きてくうえでお金にもならない。こんな経験隠したかったし、どうせ役に立たないって思って生きてきた。自分自身何も期待してなかったんですよ」
九鬼はそんな山田の発言を聞いていてなぜか昔の自分を思い出した。「俺はどうせ役に立たない」と諏訪にぼやいていた九鬼は諏訪に何度も怒られていた。沸々と感情が湧き上がってくるのがわかる。
……役に立たないだと?誰が決めてんだクソ野郎……
いてもたってもいられず九鬼は山田に言葉をかけた。
「役に立たないって自分が決めているだけで他人が決めたわけじゃないじゃないですか。役に立つ、立たないを自分の分際で決めないでください。少なくとも俺、山田さんのおかげで目を背けたい過去を振り返る事が出来た。今日一緒に過ごして沢山勉強になりましたし、俺の方がたくさん気づきをもらいました。自分をそんなふうにぞんざいに扱わないでくださいっ。お願いします」
九鬼は山田に深々と頭を下げた。
山田は驚きつつ頭を下げた九鬼に近寄り言葉をかける。
「頭上げて下さい。九鬼さん。今日初めてお会いしたのに。そこまでっ……おっ……俺を信じてくれてっ……ありがとうございます」
今まで山田を雑に扱ってきた人が多くいた。親身になってくれた人がそしじぃ以外いなかった。山田は頭を下げてまで自分を肯定してくれる人が今目の前にいる。その事実になぜか目頭が熱くなっていた。
九鬼はゆっくり顔を上げると微笑んだ。
「山田さんは今まで生きる事に必死になって人に揺さぶられて生きて来ました。自分の気持ちに気づけなかっただけです。でも今気づけたなら視点は変わるはずです」
璻はその様子を近くで見守りながら少しホッとした。
諏訪は話に割って入り3人に声をかけた。
「よし。話終わったな。焚き火の中にアルミホイル巻いたジャガイモとさつまいもあるけどどれ食べるか選択してくれ」
山田と九鬼は諏訪を見つめ璻は諏訪に質問をした。
「へっ?諏訪さんどういう事です?」
諏訪は璻の質問に応える。
「いや、さっきそしじぃがふらっとココに来て、アルミホイルに巻いた新じゃがとさつまいもと塩が入った袋を持って俺に渡しに来てさ。『ここの畑から出来て美味しいから4人で食べなさい』って……しょうがないから焚き火の中に入れてあっためてたわ」
璻は思わず諏訪にツッコミを入れる。
「どんなカウンセリングですか…聞いた事ないですよ」
山田はそれを聞き少し嬉しそうにした。
……ほんっと相変わらず変な爺さんだな。そしじぃは……
山田は3人に声をかけた。
「俺昔、そしじぃとカウンセリングして終わった時、庭で焚き火して焼き芋焼いてもらった事ありました。あの人の優しさはいつも変わらないんですね」
璻はバケツに入ったトングとバケツの近くにあった軍手を見つけると九鬼と諏訪の反対側に移動し、焚き火の中をトングで漁りながら山田に声をかける
「山田さんどっちにします?というか、新じゃがとさつまいもどっちが美味しいと思います?」
山田は反対側にいた璻に近寄ると楽しそうに璻に話しかけた。
「いや、龍後さん自分で好きなの選んで下さいよ」
諏訪はそんな2人を見ながら九鬼に話しかけた。
「朔のトラウマも認識出来てよかったな」
その言葉に九鬼はイラっとしながら諏訪に言い返した。
「はぁっ……諏訪さん、俺のトラウマ知ってて山田さんを当てたんすね。よく似たトラウマは自分のトラウマを移す。そしじぃがやりそうな事。だから助手として超感覚である璻をセットにして理解させるようにした。ほんっと、よく出来たシナリオだわ」
諏訪は九鬼が怒っているのがわかるとなだめるように言葉をかけた。
「怒ってんのかよ。自分のトラウマを解消するのも水流士の仕事だ。お前がいつまでもほっといてるのがわりぃな」
九鬼は諏訪に文句を言った
「なら最初から言ってくれりゃ……」
諏訪は追い討ちをかけるように言い返した。
「お前が最初から言葉を素直に受け取って理解できる人間じゃねぇよな?」
九鬼は黙って頷くと辿々しく応えた。
「くっ……そりゃ……まぁっ……」
諏訪は九鬼を見ながら言葉をかける。
「お前は経験して腑に落ちた方が理解力は上がるって俺が判断した。まぁ今回は上出来だな」
面白くなかったのか九鬼はぼそっと言い返した。
「ハメられていて俺は嬉しくないっす」
諏訪は九鬼の言い訳に無視をしながら璻に呼びかけた。
「おい、龍後。俺、新じゃがくれ。朔お前、どれ食べんだよ」
璻は思わず返事をした
「はい。九鬼さん何食べます?」
九鬼は璻に返事をした。
「ったく。さつまいもくれっ!」
璻は「はいはい」と返事をしながら焚き火の中からアルミホイルに入った新じゃがとさつまいもを探し、いったん焚き火から出して地面に置いた。諏訪は軍手を九鬼と山田に渡すと各々新じゃがとさつまいもを璻は配り終えた。諏訪は3人に話しかける。
「軍手して食べ終わったらログハウス戻って今日のカウンセリング終了な」
山田と九鬼がアルミホイルを開けると湯気が立っていた。ゆっくりとさつまいもと新じゃがを手で割り少しずつ食べ始める。璻は結局さつまいもを選びアルミホイルから出すと湯気が出ていた。ゆっくりとさつまいもにかぶりついた。春先で外は寒いがさつまいもは温かく甘くて美味しい。長野の土地の豊かさを感じながらありがたく食べていた。九鬼と山田もモグモグと美味しそうに食べている。
山田は楽しそうに話しかけた。
「トラウマを書いた紙が消えて新じゃがになるなんて考えもしなかったです」
璻も頷きながら応えた
「誰もこの事態を想定してなかったですよ。トラウマ認識してよかったですね」
九鬼は璻に頷く「ああっ……」
食べ終わった九鬼は諏訪に質問をした。
「ちなみに諏訪さんこの焚き火の灰どうするんすか?」
諏訪は新じゃがを食べながら応えた。
「ああ、畑にまくってそしじぃが言ってたな」
璻は諏訪に言葉をかけた
「トラウマの紙が堆肥に循環するんですね。環境に優しい」
諏訪は頷きながら璻に返答を返した。
「まぁ。"全ては循環するがルール"だからな。後片付けは俺やっとくから、3人はログハウスに戻って」
璻は山田と九鬼に話しかける。
「じゃぁ戻りましょうか」
璻も九鬼もログハウスへ歩き出すとなぜか山田は諏訪に深く頭を下げ言葉をかけた。
「ありがとうございました」
諏訪は嬉しそうに山田に声をかけた。
「いえ。俺は俺の出来る事をやっただけですから」
山田は九鬼と璻の後を急いで歩いていき3人はログハウスへと戻っていった。
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・人は亡くなった時点の気持ちと生きていた走馬灯を見て次の転生する課題を決める
人は亡くなった瞬間の感情がネガティブかポジティブかで転生が早くなったり遅くなったりします。亡くなったことに納得がいかないと地縛霊や浮遊霊になったりします。大概はお迎えが来て消えていきます。ちなみに生きていた走馬灯を見て次の課題を決めるんですが、トラウマが解消されない人生だと同じ人生を辿ってまたトラウマを解消する作業に入ります。諏訪はこのサイクルを経験していますが、基本的に2025年以降に生まれてくる子供は過去の記憶を覚えて生まれてくる子が多くいました。
・"全ては循環するがルール"
そしじぃの村周辺は循環するがルールになっています。紙や布は燃やして灰にし土に戻します。土と混ぜ堆肥にし、野菜のかすや貝殻も土に返して微生物の餌にしています。環境を汚すことなく循環している社会をそしじぃは作っています。水が汚れれば人間は水が飲めない、土が腐れば作物は取れないそうすると人は段々と亡くなり動物も植物もいなくなり人間は生きていけなくなるそのことをそしじぃはわかっていました。だから全て無駄にしないというそしじぃの優しさが込められていたりします。
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