表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- 新人研修編 -

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/68

第63話:お焚き上げ


 

 

 九鬼は顔を下に向けて少し考えていた。


 

 ……俺より年下で女で俺より優秀だってなんだよそれっ!なんで依頼主に担当の俺よりコイツでしゃばってるんだ!つか、解決するの俺の役目じゃねぇのかよ?クソッ……なんでこんなイラつくんだ……

 


九鬼の頭の中で一瞬映像が出てきた。九鬼の幼い頃の記憶だというのはなんとなくわかっていた。嫌な感高い声が聞こえる。


「おにぃは出来が悪いってお母さんが言ってたよ。おにぃ?まだ出来ないの?」


その声が聞こえると胃がキリキリする感覚がする。


……これっ…昔も感じていた痛みだ……


九鬼がぼーっとしていたのか肩を軽く揺らし璻は声をかけた。



「九鬼さんっ?九鬼さん?大丈夫ですか?」



 九鬼はハッとし璻を見た。九鬼は無意識のうちに妹に詰められている幼少期を思い出したことに気づいた。元気がなさそうに璻に返事を返した。



「あっ…わりぃ。さっき昔の事思い出していた」

 

 山田は九鬼の様子を見ながら言葉をかけた。


「俺が今トラウマを考えたので一緒に考えてくれたんじゃないですか?」


 

九鬼は前のめりになりながら山田に返事を返した。

 

「いや、山田さんが振り返っているのを見ててそういえば自分の事を考える暇がなくここまできちゃったなって思ったんですよ。それで自分の人生をサッと振り返ってましたね。山田さんの話を聞いて気づいていないトラウマあったかなと考えていたんですけど、なぜか自分の過去で嫌だった記憶が出てきたんです。そしたら胃が痛み始めて。我に帰ったら胃の痛みがなくなって全くこれ…なんなんだろうって」


 九鬼は深刻に悩んでいる様子に見えた。璻は九鬼の話を聞きながら考えるとある仮説を九鬼に教えた。


「胃?……胃の臓器は拒絶、恐れ、敵意を強く感じた時に痛みが出ますね。何かに対して拒絶、怖いと感じる事や敵意を感じる記憶がないとそう感じないですねって藤宮さんが前おっしゃってましたよ。」



 九鬼は璻の説明を聞きさっきの記憶の断片と胃の痛み、年下の女性対する苛つき、これら全てがつながっていたことに気が付くと妙に納得した。九鬼は深く頷くと少し考え込んだ様子で頭の中の記憶を整理し始めた。

 



九鬼の家は男性が毎回家を継ぐため修行をするのがしきたりだった。父親は師匠であり"父親"という概念はあまりなかった。家業に対しては礼儀正しくしないと怒られたことが多くあった。一方の母親は男性にトラウマがあった。幼い頃から九鬼よりも妹を溺愛していた。妹が生まれてから妹自身、自分が愛される事が当たり前だと思って育ていたんだろう。俺は家にいても肩身が狭い思いを毎回感じていた。ただ母親とは幼い頃から口を聞かない事が多く触れる事も甘える事も許されなかった。目の前で母親が妹を褒める光景を見ては九鬼は毎回怒っていた。その光景を見るたびにイライラし胃がキリキリと痛むようになっていた。同時に父や母に褒められ甘えられる妹が許せなかった。


 


……ああそっか。俺、ずっと母や父に愛されている妹が許せなかったんだな。妹ばかり褒められて羨ましく思っていた。俺だって無視されず母親に甘えたかったし、父にも認めてほしかった。なぜ、今まで気づけなかったんだろうか……



九鬼はボソッと呟いた。



「だからずっと敵対視していたのか……」

 

九鬼はハァッ……と深いため息を出すと急にペンを持ち紙に向き合って何かを書き始めた。自分の気持ちを認識した九鬼はスッキリとした表情で夢中になって紙に感情を書いた。


 

……トラウマ?そんなん知ったこっちゃねよ!今気づけた出来事を共有する事で山田さんの気づきになるなら恥をかいても今書くべきだ……



 九鬼は書き終わると山田と璻に紙を見せた


「とりあえず書けたから見て欲しい」


 紙にはこのように書かれていた。


『 トラウマ:父や母に愛されている妹が許せなかった


自分の感情:父や母親に愛されたかった。特に母親は男にトラウマがある事なんて俺は知らなかった。説明なく無視されスキンシップさえなかった。妹が心底羨ましかった。俺だって認められようと頑張ったが全く見向きもしてくれなかった。いつも妹と比較され嫌な気持ちを毎日毎晩感じていた。だから年下の女が褒められるたびに俺は無意識にイライラしていた。


→具体的な解決策:もっと母親に愛されたかった。構って欲しかった。優しくしてほしかった。話を聞いて欲しかった。一緒になって考えて欲しかった』


 

 璻と山田は黙って九鬼の書いた文章を読んだ。


山田は深く頷くと九鬼に対して優しく語りかける。


「俺とは違うけどやっぱり似たような境遇だったんですね……共感できます。小さい頃母親に拒絶されるとショックですよね」


 山田の話が終わると璻も続けて話しかけた。


「九鬼さんだから年下の私にいつも煽っていたんですね……私を妹のようだと無意識に考えていた」



九鬼はその言葉を聞いて自分の感情が溢れ出しそうになっていた。


 ……認めたくなかった。年下の女性にその事実を知られたくなかった。弱みを握られているみたいで勝てないって思っていたんだ。なんで勝たなきゃ愛されない。褒められないって思ったんだろう……


そんな気持ちが九鬼の中で静かに渦巻いていた。九鬼はそんな事を感じている気持ちすら今ここで吐き出してしまおうと思った。九鬼は気持ちを吐き出すように璻に言葉を吐いた



「ずっと年下の女性にイライラしていた自分がいたんだ。妹にバカにされているみたいだったし、年下の女性が褒められている姿が気に食わなかった。この事マジで知られたくなかったし、みっともないと思われたくなかったんだよ。もういいだろ?とりあえず書いたぞ。次どうするんだ?」



璻は九鬼の本音を聞けた気がした。

 

 ……この人はずっと比較されたり、親がいても親の愛情を知らずに生きてきたんだ。プライドの高い九鬼さんが自分と向き合ってくれた。これは大きな一歩だ……


 

 璻は九鬼がようやく心を開いてくれたと思うと少し嬉しくなった。璻は九鬼に笑顔で質問に応えた。


「ではもう1枚紙に同じ事を書いてください。山田さんはさっき私に仰った事を書いていただければそれで大丈夫です」


 2人とも紙に書いたら終わりだと思っていたのか驚いた表情を見せた。思わず九鬼は璻に質問する


「なんで同じ事描かなきゃいけねぇんだよ!」

 

璻は九鬼にもう1枚書く事の説明をする

 

「もう1枚は燃やしてもう1枚はとっておきます」


 九鬼は理解が出来ず璻の言葉を聞き返した。

 

「燃やすって……どういう?」

 

深く考える九鬼と山田に璻はお願いをする

 

「とりあえず!必要なのでもう一枚書いてください!書いて頂けるとわかりますので」


 山田と九鬼は渋々、もう1枚紙にトラウマを書き出した。書き出したのが終わったように見えた璻は2人に声をかけた

 

 

「お二人とも出来ましたか?」


九鬼は「ああ」と頷き、山田は深く頷くと璻は両手でパンッと柏手を打った。璻はソファから立ち上がり2人に声をかけた。


「もう時間もいい頃合いですし、外に行きますか!諏訪さんも待ってますしね。2人とも私の後についてきてもらえますか?」


 そういうと璻は玄関まで歩き出した。九鬼と山田は不思議そうな顔をしながらトボトボと璻の後ろをついていた。


山田は九鬼に話しかけた。

 

「九鬼さんは龍後さんが何されるから聞いているんですか?」


 九鬼は顔を左、右に振りながら山田の質問を返した。

 

「実は聞いてないです。最後の五分は私にくださいって言ってたので内容は全く……」


 璻は玄関から外へ歩き出し、ログハウスより離れた広い畑の場所についた。

 春なのに焚き火をしている諏訪がそこには立っていた。璻は山田に諏訪を紹介する


「こちらは今回の焚き火管理人の諏訪さんです。諏訪さん準備大丈夫ですか?」


 諏訪は山田に向かって軽く頭を下げた。

 

「ども。そうじゃねぇよ。焚き火管理人ってなんだよ。人をアゴで使うな!ああっ。いい頃合いだから入れていいぞ」


 璻は笑いながら諏訪に応えた。


「はい。ありがとうございます」


璻は2人に次の指示をする

 

「今トラウマを書いた紙を焚き火の中に入れてください!こうやって……」


 璻は自分が書いたトラウマの紙を焚き火に入れて燃やした。山田は驚いた表情で璻に質問をした。


「燃やすって紙ごとですか?」


 璻は山田の質問に笑顔で応える。

 

「はい。その紙が灰になるまでちゃんと見てくださいね。もう1枚はポケットにしまってください」


 そういうと山田と九鬼は1枚はポケットにしまいもう1枚の紙を焚き火の中に入れた。山田と九鬼はじっと燃えている紙を見ていた。火はあっという間に紙を飲み込んで灰になってしまった。


 疑問に思ったのか九鬼は璻に質問をした


「見終わったぞ。なんで焚き火で燃やす必要があんだよ」


 璻は答えようとした瞬間


 「それはっ……」


 諏訪がなぜか話に割って入る。


「火は感情を燃やすにはもってこいだからさ。火で焚き上げて供養する儀式は日本にあるだろ?お焚き上げとか。書いた紙を燃やす事でトラウマに感謝する事が出来んだよ」


璻は諏訪の説明に頷きながら嬉しそうに応えた


「そういう事です」

 

 諏訪は焚き火を見つつ璻にツッコミを入れる。


「お前何も説明してねぇーだろうが!偉そうにすんな」


九鬼はその説明を聞き納得がいった。

 

 ……だから諏訪さんがいたのか……

 

山田は静かに手をあげて質問をした。


「あの〜俺が1番よくわかってないので質問なのですが。燃やすした事ですぐにトラウマはなくなるわけじゃないですよね?」


 諏訪はゆっくりと頷くと山田の質問に応えた。

。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。


・九鬼の年下女性の苛立ち

もともと妹と比較されつつ育ったため、年下の女性といつも比べられるものだと思ってこれまで生きてきました。なので比べられる年下の女性を見ると無意識に競争したくなり口が悪くなっていました。兄弟姉妹で比較されることが多いと大人になっても周りから比較される人生を選びやすくなります。本当はそんな人生望んでいないことが多いですが本人がそれに気づかないと大人になってもそれが続きます。



・比較されて育つ

兄弟姉妹で比較されて育つと競争をいつもしなくてはいけないと思って育ちます。競争をすると勝たなきゃいけないという固定概念を作るので勝つことが全てと考えがちになります。その考えは資本主義社会で育った大人が子供に押し付けたものでした。資本主義社会だから成り立っていましたが、病気になる人が増え働く人が減り経済が回らなくなった時その考えに人々は価値を感じなくなりました。兄弟姉妹で勝たなきゃ親に愛されない時代は間違いだったとどこかで考え直すきっかけになります。


コメント、評価、ブックマークいただけると喜びます✨

 

。:*:★。:*:★━━━━━━━━━★:*:。★:*:。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ