第60話:父性と母性
「そうだったんですか。では別の質問をさせていただきますね」
山田は頷きながら九鬼に返事をした。
「ええ、どうぞ」
九鬼は書類をペラペラめくりながら質問をした。
「山田さんのお父様はどんな性格ですか?」
山田は考えながら九鬼の質問に答える。
「俺の父か…世話焼きでしたね。鬱陶しいくらいでしたよ。ホント。父がずっと幼少期寄り添ってくれました」
山田は父親の話になると少し笑顔が多めに見える。九鬼の目には山田が父親が嫌いではないように感じた。
「山田さんの中でお父様のこれちょっとやだなと思う所はありますか?あればでいいので教えてください」
山田は少し考え込むとなにか思いついたように話し始めた。
「あっ……そういえば、父は人と争うのは大の苦手で自分から交渉してもすぐ折れる人間でしたよ。そのたびに祖父が代わりに交渉していましたね。自分で決める事が出来ない上に人の顔色ばかり見ていて腹が立つ時がありました。父も過干渉で育っていたのでそこは俺も理解はしています」
九鬼は山田のその話を聞きなぜか妙に納得してしまった。
山田陽翔が来る10分前、璻とすり合わせの事を九鬼は頭の中で思い出していた。璻は九鬼に話しかける。
「九鬼さん、山田さんに父親の事を聞く時に必ず嫌だった所を聞いてください。その時にどういう単語が出てくるのかも注意して聞いてくださいね」
九鬼は璻の質問にわけもわからず聞き返す
「なんでだよ?」
璻は九鬼の問いかけに丁寧に説明をした。
「その時の山田さんの返ってくる単語に自分で決められない、優柔不断、人の顔色を伺っている、自分で意見が言えないなどが出てきたら、確実に山田さんの父親は過干渉の可能性が高いです。それが山田さんの欠点でもありますよ」
そんな事を話していると諏訪が近くを通り九鬼と璻に声をかける。
「なんだお前ら過干渉の話してんのか?」
璻は諏訪の返答に応える
「はい。諏訪さん過干渉の父親で育った場合依頼主にどう考えてアドバイスしますか?」
諏訪は少し考えると椅子に座り2人に応える
「そうだな。2人とも覚えておけよ。幼少期に父性と母性を自分の中に育て大人になるが過干渉やネグレクトに育った親に育てられると何かが欠けて育つ事になる。父性は人や社会的な関係を父親から学び、母親からは母性を学ぶ。主に心の土台を学ぶんだ」
九鬼はなにか疑問に思ったのか諏訪に質問をした。
「父や母がいない子供は根本的に学べないじゃないですか?」
九鬼の問いかけに諏訪は首を横に振り応える。
「いや、学ぶことはできる。父親や母親がいようがいないがそれに似た関係は作ることができるだろう?父親がいても父性が身についていない人間なんかごまんといるし母親がいても母性が身についてない人間なんて普通にいるぞ。父や母がいるいないはもはや形だけだ。お飾りで父親や母親をやってる連中なんか死ぬほどいっからな。大事なのは心が子供から育っているかいないかだ。」
諏訪の言い草からするに九鬼は言いたい事はなんとなく察した。
……両親が両方ともいる親で何年も一緒にいる方が稀だろうな。諏訪さん曰く、片親でも両親がいなくても区別せず個々で対処するようにと言ってるみたいだな……
九鬼は頷きながら諏訪に質問する。
「わあーわかってますよ。で結局は父性はなんすか。諏訪さんそういう解決策見つけるの得意っすよね」
諏訪は九鬼の質問に答える。
「あ、そうだったな。父性は自立だよ。個の自立、個の決断、決めて動く土台になる。父性が不足している人は人との距離感、色んな感情に対してどう対応したらいいか常にわからない。何がよくて何がよくないのかがわからないが土台になる。じゃぁそういう人間の判断基準はどこになると思う?じゃあ朔から順番に答えろ」
九鬼は自身に話が振られ慌てて応える。
「いきなり?俺か?自立出来ないんだろ?周りが素晴らしいと思う奴とか有名な人間を基準にするんじゃね?」
諏訪は九鬼がまさかそんなドンピシャな回答をするとは思っても見なかった。諏訪は少し成長した九鬼を褒めた。
「ほおー朔珍しくいい回答じゃねぇかよ。じゃあ次、龍後はどうだ」
璻は諏訪の質問に淡々と応える。
「そうですね。自分が判断できないと身近にいる父親や母親に判断を求めることでしょうか?」
諏訪はニヤニヤしながら2人を褒めた。
「2人とも大当たりだ。優秀でよろしい。では次、母性が不足するとどうなる?朔から」
九鬼はまた諏訪の質問に飽き飽きしながら回答を話す。
「また俺?チッ……母性の不足だろ?心の土台とか言ってたな。常に不安で依存体質になるんじゃね?」
諏訪は次に璻を見ると璻の考えはどうなのか聞いた。
「ほーじゃあ次龍後はどうだ?」
璻は少し考えながら諏訪の質問に答えた。
「はい。んんん、そうですね。心の土台、自分の存在自体認めてもらえていなかったり、人が信用できなくなるとかですかね?」
諏訪は感心しながら2人を見るとまた質問を始めた。
「おお、当たり。2人とも初回なのによく考えられたな。では最後の質問、父性や母性が不足している。そんな人が政治家やインフラのお偉いさんになったらどうなると思う?」
諏訪はすぐに真面目な顔になった。諏訪の質問には何か怒りが込み上げてくるような言い草に感じた。璻はなぜか背筋がゾッとする。璻は恐る恐る諏訪に聞いた。
「いっ……人や国に依存した政治家が増え、自分の利益のためにインフラも高いお金で売ってしまうとかですか?」
諏訪は静かに立ち上がり2人に応えた。
「拝金主義ってそういう時代だったからな。依頼主の時代背景もトラウマに影響する事はある。そこはある程度考える事は必須だな。きっとそんな政治家がまだいたならキミのような勘のいいガキは嫌いだよって言って消しにかかるかもな」
九鬼はその言葉にゾッとしながら黙って話を聞いていた。璻が諏訪に問いかける。
「等価交換は今関係ないですよね?」
諏訪は少しニヤッとすると今度はいつも通りダルそうに応える。
「おお、龍後わかってんな〜もうアドバイスはいいな。俺隣の部屋にいっから、なんかあったら呼んでくれ。上は下の責任を取るのが仕事だからな。じゃあ朔、頑張れ」
そういうと諏訪は椅子を綺麗に戻し手を振りながら別の部屋へ歩き出した。
璻は個別プロフィールをじっと見つめ紙をめくり2枚の所に目を向けた。すると九鬼に璻が話しかける。
「あっ…でもそしじぃの経過報告を見るとそしじぃは山田さん父親が過干渉だったのを気づいてますね。ほら、九鬼さん見てここ」
璻が書類に指を刺し該当箇所を読み上げた。
「1年前に山田陽翔は父親が過干渉という事を知り、母親がネグレクトで育った事を知った。父親のトラウマはある程度認識できたが母親に対してはあまり気づけていない部分が多いって書いてありますね。じゃあ……母親と女性関係も軽く聞いた方がいいかもですね」
九鬼は璻の問いかけに答えた。
「そうだな。女性関係多めで聞くか」
その事を思い出した九鬼はやはり山田の父親が過干渉という育て方をしていた事にも気づいている様子に見えた。父性の質問や母性の質問もさらっと聞いとくべきだと考えた。急に九鬼は頭に疑問が浮かんだ。
……そういえば、なぜ女性に辛く当たるの治したいのか聞いていないな……
九鬼は山田に質問をした。
「ありがとうございます。山田さん。次になぜ女性に辛く当たるのを治したいのか教えてもらってもいいですか?なんか理由があるのかなって」
山田は顔を赤らめながら九鬼の質問に対して応える
「いや……実はこの歳でようやく彼女ができまして。その彼女にも言い方がキツイと言われた事があって治したいなと…」
九鬼は山田の理由を聞いてびっくりした。頑固そうな見た目でそれなりに年齢を重ねてもやはり嫌われたくない意識が働く事に九鬼はなぜか山田に興味が湧いた。
……人って何しても変わらねって思ってたが女が絡むとこんなにも変わるんだな。性欲ってすげー……
九鬼はフッと少し笑うと山田に応える。
「彼女のためですか。モチベーションになりますね」
山田は嬉しそうに笑っていた。
「自分の感じ方が変われば相手の接し方も変わるってそしじぃに教えてもらったんで。今まで女性苦手だったからまず自分と向き合って原因を直してからちゃんとした自分で彼女と向き合いたいなと」
その言葉を聞いてそしじぃの凄さを九鬼は改めて実感したのと同時にそれほど本気な山田に対し九鬼は少し羨ましく感じた。
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・父性
個の自立、個の決断、決めて動くことを幼少期に学んでいく段階。父性が不足したまま大人になると自分で決めることを放置しがちになったり他人の顔色をうかがったりする。大人になってこの考え方が不足していると周りに流されたり自分で判断することが苦手になりやすい。わからないが口癖になりやすいのも心の父性の欠如が原因です。
・母性
母性は心の土台でもある。母性が不足した状態だと自分が生きていていいのかわからなくなったり、人のことが信用できなくなったり。母性を誰かに埋めてほしくてパートナーに対して依存的になりやすかったり、不安が一生つきまとったりしますね。
※父母がネグレクトや過干渉で育った場合子供にも少なからず引き継がれます。このトラウマの解決方法は自分でその習慣を認識し紙に書き出すことですね。この作業は長い時間かかります。ちなみにこの解決策を考えるのは諏訪が得意だったりします。
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