第59話:試す人の心理
時計をじっと見る。
九鬼と軽く段取りの打ち合わせをし諸々の準備を終えた璻はカップとポットを用意する。
すると玄関からインターフォンの音が聞こえ璻は玄関まで向かい九鬼に声をかけた。
「九鬼さん!山田さん来ましたよ」
九鬼はソファから立ち上がるとゆっくりと玄関に向かって歩き出す。玄関のドアがガチャっと開く音がした。低い声で目の前の璻に話しかける。
「あのっ……今日予約した山田陽翔ですが……」
山田陽翔が思ったより穏やかな見た目で璻はびっくりした。最初の印象が強い依頼主しか出会った事がない璻にとって穏やかそうな依頼主に出会ったのは初めてだ。最初の依頼主でもあった狭山はやせ細く、具合が悪い様子だったり、2番目の依頼主であった渦見はそもそも態度が悪かった。その人たちに比べるとだいぶ璻には普通に見える。背は一般男性より低く、エラがよく張っているように見え、おでこには皺があり若干プロフィールに記載されている実年齢より老けているように見えた。
微笑んだ璻は山田に声をかける。
「はい。山田さんお待ちしていました。どうぞこちらへ。九鬼さん案内をよろしくお願いします」
九鬼は璻に頷きながら山田を案内する
「山田さんどうぞこちらにあるソファにおかけください。」
璻は急いでキッチンに戻りポットにカモミールを入れ事前に沸かしてあるお湯をポットに入れる。トレーにポットとカップを乗せて客間のリビングまで持っていく。
九鬼が璻をリビングまで来た事を確認すると挨拶を始めた。
「では、今日担当します。九鬼朔と申します。」
九鬼は頭を下げて山田に挨拶した。璻はテーブルに静かにハーブティーを置く。
九鬼は璻を山田に紹介する。
「こちらの女性は今回の助手です。」
九鬼の言葉に璻は慌てて挨拶をする。
「あっ、はい。今回助手の龍後璻です。よろしくお願いします。カモミールのハーブティーです。どうぞ」
璻は山田にハーブティーを差し出すと頭を下げてカップを受け取りハーブティーをゆっくり飲み干す。
山田は璻にゆっくり頭を下げながら、少し璻に向かって嫌な顔をする。ボソッと言葉をかける。
「そうですか……」
九鬼はカウンセリングの説明を山田にする。
「最初の15分は俺と一緒にカウンセリングしますが残りの時間は助手の女性と俺と3人でやりますのでゆっくり話をしましょう」
山田は頷きながら九鬼にお礼を言う。
「配慮頂きありがとうございます」
璻は九鬼にもハーブティーを差し出すと璻は2人に話しかける。
「では、私はこれで少し席を離れますね。九鬼さん庭にいるので必要であれば声をかけてください」
九鬼は頷きながら璻に返答を返す。
「わかりました」
頭を下げて璻はその場を静かに立ち去ると九鬼は静かに書類を見つめ山田と話を始める。
「では、始めさせて頂きます。山田さんはよくそしじぃとカウンセリングをしていたとの事なんですけど、そしじぃってどんな事聞いてました?」
まさかの九鬼の質問に山田陽翔がクスッと笑ってしまう。
「ははは九鬼さん、面白いですね。そんなカウンセラー初めて聞きましたよ。ただ日々のありきたりの話を聞いてもらっていただけですよ。」
九鬼は山田に対して説明をする
「山田さん。実は俺カウンセリングするの初めてで粗相もあるかもしれません。俺なりに色々考えた結果、話を聞いて今日は山田さんと色んな会話をしようという結論になりました。ただ山田さんが話すだけだとつまらないので俺も腹を割って話をします。それでカウンセリングを進めてもよろしいでしょうか?」
九鬼の熱意が伝わったのか山田はにこやかに話しかける
「そしじぃとはまた違う視点ですね。面白い。新しい人に話を聞いてもらうのはいいかもしれません。今回はそれで」
九鬼は嬉しそうに話を続ける。
「ありがとうございます。では、ちょっとだけ自己紹介をして頂いてよろしいですか?山田陽翔さんを深く知りたいので」
山田陽翔は九鬼の要望に応えて自己紹介をする
「はい。山田陽翔28歳、男性。仕事はフリーエネルギー関係をしていますね。2月10日の水瓶座になります。仕事は楽しいですが、女性に対して少しトラウマがあります。今日はよろしくお願いします。」
九鬼もつられて頭を下げる
「よろしくお願いします。ちなみに俺も女性に対してトラウマがあります」
山田は驚きながら九鬼に聞いた。
「えっ……九鬼さんも」
九鬼は淡々と山田の質問に応える。
「はい。俺の場合は母親が俺に対して冷たくあたっていた事ですかね。妹が生まれてからは俺にキツく当たるようになりました。元々、俺の母親は兄から意地悪されてて男兄弟が嫌だったってのは聞かされてました。俺を昔の兄と勘違いしたのかもしれないですね」
山田陽翔は九鬼を慰めるように話す
「それと九鬼さん関係ないじゃないですか…」
九鬼は少し悲しそうに話した。
「母親からしたら嫌だった記憶が蘇ったのかもしれないですね。俺からしたら母の兄じゃないのに」
山田はそんな九鬼を見て可哀想に感じたのかゆっくりと身の上話を始める。
「俺、そしじぃと出会った時に幼少期の事で深く傷ついたことのがわかったんです。その時人生どん底で何やっても上手くいかなくて、それが全てこの俺を産んだ母親のせいだと思っていた。こんなに痛い思いしたのも苦しいのも母親のせいにしないとその時の俺は生きていけなかったんです。そしじぃと出会って2〜3年後ぐらいだったと思います。母親の父が亡くなった時がありました。母親の親族からある話を聞いて母親も深いトラウマがあった事がわかったんです」
九鬼は山田に聞き返す。
「山田さんのお母様のトラウマですか?」
山田は頷き九鬼の質問に応える。
「はい。ウチの母親は九鬼さんが持っている書類に書かれているように母親の家系は男性のみを大事にする思想がありました。女性である母は家庭内で差別に遭い、変人扱いされ父親や母親に触る事喋る事すら許されない時期がありました。家族で集団的に母をいじめていたそうです。食事は出されていたようですが会話がないので虐待かどうか定かではないですがね」
九鬼はこの書類になにが書かれているのか山田は理解していることに少しばかり驚きつつ先ほどの山田の発言からなにか同じ話を聞いた事があるように感じた。
……この書類の内容知っているのか?いやまず、その事を考えている場合ではない。この話、山田さんが幼少期の時に皮膚に紫色の斑点が出た感染症にかかって山田さんに触れられない話と類似している……
九鬼は先ほどの発言に引っかかる所があったのか山田に対して質問をする
「お母様ご健在ですよね?その事について詳しく話はされたのですか?」
山田は首を横に振り九鬼の質問に応える。
「いえ、母と話すといつも些細な喧嘩になるので話す事を諦めています。人の事ばかり試したり煽ったりする母親なので話していて気分が悪くなるんです。今は業務的な事しか会話しないですね。昔よりはだいぶマシになりました」
その山田の発言に九鬼も思う事はあった。九鬼自身も璻の事を試したり、自分より少しできる女性が許せず人に当たってしまう。この人はやはり考え方に共通点があるように感じた。
……俺もこの人と同様に人の事試したり、煽ったり、本当に本気なのか試したりすることあったな……
九鬼は何かを思いついたようにテーブルに置いたプロフィールを手に取り黙読を始めた。
……確か山田さんは女性に強く当たりがちになっている事が悩みなら、この人も女性は変人で話が通じない相手だと思ってはいないか?いやこの人の場合押し付けると話を聞いてくれなくなりそうだ……
九鬼は浮かんだ問題点を今追求することをやめ一旦頭の片隅に置いた。九鬼は山田にまた質問をした。
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・人の事ばかり試したり煽ったりする母親なので話していて気分が悪くなる。
対人関係で人のことを試す人は自分からも人からも試されるようになります。急に予定をキャンセルしたり、これやったらどれだけこの人は許してくれるのか?どれだけこの人は怒らないのかなども試す行為にあたります。こういう人は幼少期に同じ体験を味わったことでトラウマになっていることが多くあります。九鬼も同じようなトラウマがあるため山田陽翔の気持ちは痛いほどわかります。九鬼は自覚したので幾分かマシですね。
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