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水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- 過干渉編 -
6/47

第5話 :染みついた洗脳術




……私なんでこんな所にいるんだっけ……




身体が暖かいく水の中にいるような感覚に段々と奥深くに落ちていき意識が薄くなる



体育座りをしながら狭山はゆっくりぐるぐると落ちていく。


まるで母体の中にいる胎児のように。




……今なんで寝ているんだっけ……





そうだ。


やっとの思いで水流士を紹介してもらって、その人がカッコいい人がいて可愛いらしい助手さんがいて



私寝不足で…… それから……それから……



ふと母親の声が聞こえる


「蘭、お金は?今月給料入ったでしょ?」



父親は隣でお金を数える


「お前のお金だけが大事なんだよ。働きなさい。今まで育ててあげた恩あるだろう」



…うるさいっ…もうっ…もうっ…生きるのが辛くて…




…全部っ…消えたくて…泣きたくて……




次の瞬間、かすかな光が目にすっと差し込む。



低い男性の声が聞こえる。


「狭山さん、狭山さん」



狭山はゆっくりと目を開けようとするが目が開かない。

ここがどこなのか自分が何をしようとしているのか声を聞いて瞬時に理解した。




「狭山さん、これから狭山さんの不調になりそうな原因を見ていきます。苦しかったら手を挙げてくださいね」




声がする方へ顔を向けた狭山は申し訳なさそうに「お願いします」と小さく呟いた。

次の瞬間、狭山の右目から涙が流れた。




藤宮は狭山に渡した同じ形の竜胆の組子細工を持ち手の平に置いて合掌する。

藤宮は目を瞑りながら心の中で祈る





…どうか狭山さんの内側で映し出してる原因を見つけ精神的に立ち上がれますように…




藤宮は祈った瞬間、頭の中で想像が出てきた。



すでに狭山が元気な状態で狭山が仕事を楽しくやり、やりたかったことや行きたかったことをやれている状態にいること。たくさんの人に囲まれ、多くの人々の人生に影響を受けている想像だった。



藤宮はそんな元気な狭山を見てみたくなった。

少し口角を上げ、息を静かに吸って静かに吐くと詠唱を始める



「払い給い清め給う」




藤宮がそう唱えた途端、狭山と藤宮が持ってる竜胆の組子細工が共鳴し光を放つと璻の襟についてる竜胆の模様が光始める。



100センチくらいの小さな光が徐々に広がり始め、部屋全体を包み込むくらい大きくなった。

璻はその光に入った瞬間、温かく柔らかな喜びに満ちる優しい光に璻は見惚れてしまう

狭山が握っていた竜胆の組子細工から透明な水が出てくるのが見える



水は藤宮の近くまで移動し浮きはじめるとゆっくり目を開け目の前に水が宙を浮いていた。



まるで水には意志があるようにぐるぐると周り

見て欲しそうな感じに見える。



水を手で撫でると手で水を広げ始める。

藤宮は胸の奥から不思議とワクワクするような高揚感に満ち溢れていた。

また少し口角を上げながら息を静かに吸って静かに吐くと静かに呟いた。




「水面よ記憶を開示せよ」



浮いていた水が多く拡張し水分子が見え始める。

璻はちらっと狭山の様子を確認するが眠っている様子で少しホッとする。


璻は拡張している水分子に目を向け一歩前に歩くと浮いている水の中を観察する。


…顕微鏡で見たものと一緒だけど、水分子が動いているように見える…


六角形や五角形などの水分子がちらほら見える。

璻は大学で写真や映像また水道水を顕微鏡で見ていたが人間の体内に流れている水は初めてだった。

六角形にくっついてる水分子が多くあるがその中でも少し形が歪な水分子が見えた。




藤宮は璻を見ながら恐怖を感じていないか恐る恐る様子を確認した。

璻は藤宮には目もくれず水分子を夢中に見ていた。

ワクワクしながら水分子を見ている姿に藤宮はなぜか嬉しいそうに笑った。




「璻さん一緒に水分子に触れてみますか?記憶は水分子を触れば一緒に見れますよ」




璻はその問いを聞くと少し不安な表情になった



…本当に新人の私が面接の時のように記憶を見れるのか?…


璻の中で不安が胸の中に広がっていく。


…狭山さんの記憶を見て間違った見方をしたらどうしよう。知見もない水流士の経験もない私に…



唐突に襲ってくる感情に璻は飲み込まれそうになる。




「藤宮さん…」



璻は一瞬藤宮を見るとまた水分子の方に顔を向けた。

藤宮はさっきと様子がおかしい事に気が付くが藤宮はそんな素振りは一才見せず真っ直ぐに璻を見る。



「はい。なんでしょうか?」




璻は自信がないような口ぶりで不安を溢す



「でもこれ一緒に見ても記憶や感情の違いありますか。新人の私が見て間違っていたら…」



藤宮はなんとなく璻の言いたいことを感じていた。



(きっと璻さんは新人の私が見ても狭山さんの救いになるのか。間違った見方をしたらどうしようと考えている感じがする)



察しがいい藤宮は言いたいことが手に取るようにわかると少しため息をした。

璻はそんな藤宮の様子を見てむしろ落ち込んだ。




(私そんなダルいこと言った?失望されたかな…どうしよう)



藤宮はそんな不安そうな璻の顔をしっかり見つめる



「前にも言いましたが、俺が人生で経験してきた感情と璻さんの人生で経験してきた感情の感じ方が違うので狭山さんの記憶を見る際は俺たち2人で認識をすり合わせないと原因が見えてこない。これは俺が見落とす可能性もあるので璻さんも一緒に見てくれると嬉しいです」



それを聞いた途端に璻はスッと我に返った。

ふと瞬間、璻は前の会社で起こった出来事を思い出していた。




会社に入り新人の頃、璻は業務を手伝った先輩にアドバイスを求められたことがあった。


だがその先輩が欲しい言葉やいいアドバイスはできずに少し勘違いをし間違った見方で意見を出したら、先輩は少しため息をついて困らせたことがあった。



…そういえばあれから、社内でめんどくさいやつってレッテル貼られたっけ…



意見を言った時の先輩の歪んだ顔はいまだに鮮明に覚えている。




…そっか、私前の会社で失敗したことが引き金になってまた間違った見方や藤宮さんを失望させたらどうしようと思ってたんだ。まだ挑戦していない出来事にできないって最初に決めつけたくない…





バチンッッ!!!!!!





藤宮は驚き音する方向に顔を向ける。

そこには両手で思いっきり自分の顔を叩いてる璻がそこにいた。

藤宮は目を見開き不思議な行動をする璻を見ると急に笑い出した。




「ふっ…はははっ‼︎なんでいきなり叩いたんですか?」



璻は頬を叩いて肝が据わったのか藤宮を見ながらボソボソ話す。



「気合いを入れました。すみません。少し気落ちしてて…あのっ、頬って叩くと痛いんですねっ…」


璻の頬を見ると少し腫れていて痛そうに見える。

藤宮は少し呆れながら璻を見る



「何当たり前のこと言ってるんですか。ひと昔前の気合いの入れ方しなくて大丈夫です。璻さんの顔腫れちゃうからもうやめましょうね。」



「はいっ…」



璻はなんとなく気遣ってくれる藤宮の気持ちが嬉しかった。

しっかり目の前の水分子を見ながら藤宮に声をかける。




「あのっ!藤宮さん今度こそよろしくお願いします」




藤宮は腹を決めた璻の表情にホッとする



「ではこちらの水分子が少し歪な形なのでこちらに触れますか?」



藤宮は浮いてる水を璻が見やすいように指で広げると一つ歪んでる水分子が出てきた。

六角形なのに一辺の長さが違う形が水分子があった。

藤宮が右手を出して人差し指で歪んだ六角形を示す




「狭山さんの感情をもらってしまうので。しっかりお腹の下の丹田に力を入れて触りましょう」




璻はゆっくり深呼吸し丹田に力を入れ「はい。」と答える。

右手を出し人差し指をゆっくり水分子に近づける



「せーので触りましょうか」



藤宮も璻もギリギリ触れるか触れないあたりで指を近づけ「はい。」と答える璻も恐る恐る手が震えそうになっている




二人は声を合わせると



「せっーの‼︎」



歪んでる水分子に指が触れた瞬間

ジャボーンと音がする。



璻はゆっくり目を開く




誰か女性の声が聞こえる。

部屋には成人した女性と目の前には小さな女の子が立っていた。

テーブルの上には幼稚園連絡ノートと書かれているノートが置いてある。




すると徐に連絡ノートを手に取り女性は連絡ノートを目読し始めるとノートを持ったまま小さい女の子の目線に合わせてしゃがんだ。



小さい女の子は一歩後ろに下がり母に尋ねた。




「ねぇ蘭。お母さん。こんな子に育てた覚えはないのよ。3歳になっても先生にもお友達にも挨拶出来ないって書いてあるわ。あと先生からコメントで自分で遊びを決めれないしご飯残すし食べるのが非常に食べるのが遅いって書いてあるけど、なんでできないの?」




璻は気が付く




…これは小さい頃の狭山さんの記憶だ。こんなこと小さい頃から言われてたんだ。ってことはこの人は母親か…





小さい狭山はもじもじし始め顔を下に向けると少し自信ない声で答える



「ごっ、ごめんなさい」



それを聞いた母親は表情を変えチッと舌打ちし始める。



「やりたい事とかないの?なんであなたはいつもそうなの?」



小さい狭山が顔を上げと母親を見るが黙り込んで何も言わない。

母親は自分の目元に手を当てながら10秒天を仰ぎまた小さい狭山を見る



「あなたは何も自分じゃ決めれない子なんだから私が全て決めてあげる。そうじゃないといい人生歩めないわ」



小さい狭山は「うん」といい母親は小さい狭山を抱き上げ立ち上がると髪の毛が数束落ちるののが見えた。

少しふらつくと椅子に手をかけ小さい狭山を抱き上げ直した。



母親の顔には目の隈があり、常にフラフラで睡眠不足のようにも見える。

きっと小さい狭山の夜泣きや育児のストレスだろうか。



母親自身もいっぱいいっぱいになっていた。




小さい狭山からの声が聞こえる



…私は何も決められない子供でいることをお母さんは望んでるんだ…



それは今にも泣きそうに聞こえた。

母親の理想通りの子供になろうと必死になっているのがわかる。



…お母さんの望む何も決めれない子供でいる事がお母さんが笑ってもらえる事なんだ。私はお母さんに全て決めてもらいたい子供をずっとやろう…




璻はそれを聞くと酸素が薄くなり喉が閉まる感覚がする。



…息が少し吸えない…



璻は目を強く瞑るとハッと目が覚めた。

記憶が終わったことに気が付く。



隣にいた藤宮は璻を待っていた様子だった。


藤宮は目が覚めた璻に話しかける



「狭山さんの記憶どうでした?俺は狭山さんが幼少期に母親といる場面で連絡ノートに書かれてる内容について怒っている内容でしたね」


璻は藤宮と同じ記憶の場面を見たのに感じ方が全然違うことに驚く。


「同じ場面でしたけど、狭山さんの母親は目の下のクマがひどく立った時の抜け毛量や立ちくらみをしてたので貧血と育児ストレスをすごく感じましたね。」




藤宮は納得した顔をした。



「なるほど。そこまで俺は感じ取れませんでしたね。見落としていました」



璻は顔を横に振りながら答える



「いえ、これはあくまで狭山さんの母親の状況を私が憶測しただけですよ。まだ関係があるかわかりませんが、女性は妊娠や出産するとホルモンの変化で体調が優れないことがめちゃありますね。出産は命がけで休む暇もなく育児に入るので。日々命懸けです。症状も人それぞれですが…」



藤宮は興味深そうに璻の話を聞く



「それでも俺一人だとその視点に気づけませんでしたね。ありがとうございます」



藤宮は璻に軽く頭を下げまた前を見きながら水分子を観察する



「だとすると狭山さんの記憶は俺の予想通り過度な母親や父親の過干渉ですが、これは狭山さん自身が幼少期に勘違いをしたパターンがあるかもしれないですね」




璻は藤宮が言ってることがなんとなくわかった




「狭山さんは小さい頃に自分では決められない記憶が強く残って、いまだに自分の人生の決定権は自分ではなく親にあると勘違いしていると…」




藤宮は首を傾げながら答えた。




「まだ憶測だと思うので。それは狭山さんの記憶を見てから判断しましょう。俺の個人的な意見ですけどね…この場合の思考癖をやる人は仙骨のあたりに病気が発生しやすいので仙骨の水分子を次見ましょうか」




藤宮は水分子を下にスクロールさせ動かし次に水分子が多く歪んでる場所を見つける



「次はこちらですかね。今水分子を拡大しますね」




藤宮が右手を出して人差し指で歪んだ六角形を示す




「さっきと同じで。しっかりお腹の下の丹田に力を入れて触りましょう」




璻はゆっくり深呼吸し丹田に力を入れ「はい。」と答える。

そしてさっきと同じように右手を出し人差し指をゆっくり水分子に近づけ藤宮が璻に話しかける



「せーので触りましょうか」



触れるか触れないあたりで二人とも指を近づける

二人は声を合わせて




「せっーの‼︎」




歪んでる水分子に指が触れた瞬間、璻は目を強く瞑るとジャボーンと音がした。




…なんでだろう先ほどよりは体が温かく感じる…




森が見える川もある。



狭山の母と似た顔が見える。



歳を重ねている感じがした。



小さい狭山は走って木に駆け寄るのが見えた




「おばあちゃん。柿なってるよ!」





狭山の母と似た顔の女性はゆっくり歩きながら




「庭の柿取ってきてもええわぁ」




狭山の母と似た顔は祖母どうやら祖母らしい。

小さい狭山は三脚を登り木になってある柿を取ると三脚を降りて祖母に駆け寄る。

小さい狭山は柿が自分で取れたことが嬉しかったのかニコニコしながら自慢をした。



「柿取れたよ!」と柿を祖母に見せた。



祖母は小さい狭山の頭をわしゃわちゃ撫でた。




「ようできたなぁ。こっちに座りぃ柿剥くさかい柿食べ」




雑に頭を撫でる祖母に母にはない暖かさを感じて少し誇らしげに感じた。




小さい狭山はボソッと呟く。



「おばあちゃんいつも森の中に住んでて楽しいそうだね」



狭山の心の声が聞こえる



(お父さんとお母さんいつも遅くまで仕事でひとりぼっちだけどたまにおばあちゃんの家に泊まりに来るといろんなことできて楽しいな…)




璻は周りをキョロキョロし始める。





…寺だろうか?ここは京都の鞍馬山によく似ている…




祖母は柿をむいて小さい狭山に渡す。

祖母の隣には竹ざるが置いてあり、山で採れた山菜やきのこが竹ざるに上がってあった。




バタバタバタバタバタバタ。




玄関からすごい勢いで歩いて来てる音が聞こえる。



パッと見ると狭山の母親だろうか?縁側に座ってる祖母と小さい狭山を見つける。



「なんで消毒もしてない柿を食べようとするのばっちい!」




急に小さい狭山を見て怒鳴りつける。明らかにイライラしてる。

祖母はそれに驚くが怒る気持ちを抑えながら狭山の母親に話しかける



「あんた、ただいまくらい言われへんの?」



母親はさらにイラッとしながら




「ほんま、おかんイケズやわ。皮肉しか言えへんの?」




祖母は言い返す。


「なんで蘭をおこるん?あんた最近おかしいで」


母親はまたイライラしながら強い口調で言い返す。



「そないな物食べんでもええし。自然に触れなくてもええ。この社会はヒエラルキー社会や勉強だけしたったらええ人生送れる。おかんでもこれは譲れん。ほんまじゃかあしいわ」



祖母は呆れながら狭山の母親に反論する



「あんたまぁだ根にもっとんのやな柿や栗送って妹にわけてやってゆうたのに……」

 



狭山の母親は顔を真っ赤にしながら頭に血が昇ってるのが見える。




「食えるわけないやろ。消毒してない食べ物。それに育児もしてる時に栗贈るやつ誰がおんねん‼︎頼んでない‼︎仕事やって子供必死に育てて忙しい言うてるやろが‼︎もう蘭連れて帰るわ。ほなな。」




祖母のそばにいた小さい狭山の手をひっぱり歩く。

またバタバタと向こうから足音が聞こえる。



成人した大きな男性が見えた。



父親だろうか?



母親と話する男性は小さい狭山を見つめる




「お父さん…おばあちゃんの柿」っと蘭が言うとそれを見てやれやれと言う顔する


父親は真剣に小さい狭山を見つめる



「蘭、お母さんとお父さんの言うことだけ聞こうな。疑問持ったら人生の負けだぞ」と小さい狭山に言った。



さらに父親は何かを母親と喋っていた。

父親は母親に手を引いた小さい狭山を抱き上げる。



「蘭、勉強をしてお金稼いだら人生豊かになれるからな。わざわざやらなくていい事しなくていいんだぞ」




小さい狭山は少しシュンとしながら父親の肩に顔を埋める



「まだやりたかった」と呟く。



(泣き喚くとお母さんまた怒るだろうから静かにすすり泣こう)


父親はそれに気づいたのか小さい狭山の頭をゆっくり撫でる。

父親は小さい狭山に囁くように呪いの言葉を言い続ける。




「母さんと父さんが決めた通りに行くんだ遊んでる時間はないぞ。自分の意見とか時間の無駄だから言わなくていいんだ。みんなに合わせろ。」




小さい狭山は父親の肩に埋めたまま「うん」と小さく頷いた。

ハッと目が醒めると記憶はそこまでで終わっていた。



水分子から手を離すと璻は背筋がゾッとした。




「これが強く記憶に残っているのはキツイですね」



璻は落ち込みながら藤宮に話すと藤宮は頷きながら




「2025年以前の話だと思いますが、ヒエラルキー社会だったのはわかりますが、なんというか労働環境と同じですね。親の都合で生きさせられてたんですね。まるで両親に取って都合のいい小さな奴隷。呆れて物が言えないです。それが彼らのなりの愛情だったんでしょうが...ね」




璻も狭山の気持ちを考えると胸がキュッと締め付けられる思いがした。

藤宮は璻に話しかける。



「さて次の水分子を見ましょうか……拡大しますよ。次はこちらですね」



また右手を出し人差し指をゆっくり水分子に近づける




「せーので触りましょうか」



藤宮は人差し指で歪んだ水分子を指す。



二人とも指を近づけ二人は声を合わせて




「せっーの‼︎」




歪んでる水分子に指が触れた瞬間


璻はまた目を強く瞑るとジャボーンと音の振動が耳の中まで伝わる。




…全身がゾワジワする…



凍るような寒さ。冷たくて足が重い。




急に記憶が始まる。ここは部屋に見えるが誰か制服を着て立ちすくんでる女性がいる。




…あれは狭山さんだ。今度は高校生なのかな?…




先程よりだいぶ成長している感じ。高校生くらいに見えた



…テーブルに座ってる人がいる?あれは狭山さんの母親かな…




狭山は徐に母親に進路相談の紙を渡す。



…何かをモゴモゴ言ってるのかよく聞こえない。何か進路だろうか?相談する姿が見える…



母は大きな声話し始めた




「自分の意見を言う必要なんてないわ。大学を受けなさい。一流大学なら一流企業に勤められるわ。まず大学を卒業して企業結果を出す事が母の希望よ。一流企業に勤めなければいなくたって同じだもの。お母さんが進路書いておくわね。お父さんはどう思います?」




近くのテーブルで座っている父親は頷きながら話す。




「母さんの言う通りに書きなさい蘭。勉強だけやっとおけばいい企業に入れる。いつだったかスラム街を巡る旅をしただろうあれらになりたくなければ、勉強してお金をしっかり稼ぐ事だな」と父は言い放った。




狭山は父の差別に値する発言に拳を振り上げたくなったが子供のころから反抗してきていなかったのか反抗のやり方すらわからなかった。



顔を下に向けると狭山は「はい」と頷いた。

…またこの記憶だ…


狭山がそう思うと次の瞬間なぜ記憶が飛び、別の記憶が映る。

璻は思わず辺りを見渡す。


…別の場面になっている。ここは…


狭山の記憶がフラッシュバックしていることに璻は気が付く。

急に狭山の声が聞こえる。



…私、1年前くらいかな。日本にあった治安が悪く世帯年収が低いスラム街を父親と一緒に巡ったことがあった。海外で戦争が始まり、移民政策で日本が移民を多く受け入れることになって関西の一部は犯罪や万引きが増えた…



電車内の切り付け事件や各地でテロが発生、正直スラム街に近づきたくなかったことは私の記憶に強く残ってる。



父親は嫌がる私の手を引っ張り社会見学と称して連れて行った。父親の顔はなぜかニヤニヤと笑っていた。

そんな父親を私は理解できなかった。



…なぜ同じ人間を見るのにこんなに笑っているんだろう…



そんな疑問が狭山の中に残った。

スラム街に一歩踏み入れた瞬間、独特な匂いが街全体を包んでいた。まるで違う国に来たみたいな感覚。

大きな声が聞こえた



「ナンデクレナインダ!!」



背丈も細く生活に困っている男性が叫んでいた。

父親は思わず「物乞いだ」と言い他の人に絡んでいたのを見て指さした。



「いいか。勉強せずに職につかないと物乞いになるんだ。ああなりたくなければお金をしっかり稼ぐこと。お前も家から追い出せたくなけば勉強する事だな。恋愛はまだいらないしする必要もない。オシャレをする。友達と遊びに行くのはいい点取った時だけだ」



その物乞いの人は歩いていた人に近づく



「オカネヨコセヨっつ!!」



ボソッと呟くと急にポケットに手を突っ込み刃物を取り出した。



一瞬父親と私に気がつき目があった。ものすごい勢いで睨みつけていた。

一歩でも動いたらこの人に殺されると感じた。



次の瞬間巡回していた警察が私たちに気づきその場はなんとかなった。

その日は父親も肝を冷やしたのか私の手を引いて帰ることにした。




…なぜ今それを思い出したのだろ…



俯きながら狭山は自分の部屋に帰った。

自分の部屋に着くとドアを開けて座り込む



…その頃から父親は人間にはお金で全てが決まり上下があることを私に刷り込んで来たんだ…



狭山の心の声が聞こえる。



「父親は私に対してお前は立場が下だからと言って私に接していた。私は次第に父を恐怖の対象として見ていたし父は私をいつも脅していたな。とにかく家に居づらく管理されているみたいでずーっとモヤモヤしてた。誰か助けてほしかった」



記憶はそこで終わり水分子から手を離す。

璻は黙り込んでいた。





それを察した藤宮は璻に話しかける



「進路が自分で決めれない親の管理のもとで育つとそれが普通になってしまって抗うことすらわからなくなる…それが常識だと勘違いをするんですね。俺はこういう育ち方じゃなかったですけどこれはちょっと…」




璻は思わずため息を出した。



「これは一般的な家庭じゃないにしろ日常的に両親が差別を刷り込んでいき自分たちの都合のいいように育てていくのは普通の教育じゃないと思います」




藤宮は璻の話に頷く



「あと一つ見たら今日はこれで終わります。拡大してっと、次の歪な形はこれですね」




璻は深呼吸をする。



(あぶない。気を抜くと狭山さんの感情が私の中に入ってきて私ごと食い殺されそうになる)




藤宮を見ながら「はい。次お願いします。」というと璻はまた右手を出し人差し指をゆっくり水分子に近づける




「せーので触りましょうか。」




藤宮は人差し指で歪んだ水分子を指す。


二人とも指を近づけ声を合わせて



「せっーの‼︎」




歪んでる水分子に指が触れた瞬間




璻は目を強く瞑った。




ジャボーンと水の音が耳から伝わる



足から冷え凍るような感覚がまた璻の身体を襲う。




これはさっき見た部屋と似てる。

狭山が着物を着て成人式に出たような写真が飾ってあった。

高校を卒業したのだろうか?何年か経ったたのだろう。



母と父が椅子に座りテレビをつけて見ていた

なぜか二人とも絶望している。



テレビのアナウンサーは大声でニュースを伝える



「大きな株暴落で資金が底についた人もいました。街のインタビューです」



それを見ながら父親は頭を抱えた。


「株が泡の用に全て消え飛んだ。今まで払ってたものはなんだったんだ……」



母親は怒り狂いながらバンバンと机を何度も何度も叩き手が真っ赤になっていた。




「私は信じない、株の暴落でこのままの生活ができなくなる。政府はベーシックインカムを検討しますとか言ってるけどきっと幻だわ」




父親と母親は狭山を見るとすぐ駆け寄る。昔見たスラム街の物乞いのように擦り寄る。

父親は私を救世主のごとく懇願し始めた。




「お前だけが頼りだ。年老いた俺や母さんをほっとくような非道な人間じゃあるまい。財産は全て株に注ぎ込み飛んだ。ベーシックインカムなど受け取らずともお前には事業があるだろう。売り上げもあるし、両親を支える事くらい簡単に出来るだろ」




母親は泣きながら狭山にしがみつく




「あなたは私たちの言う事を25年間聞いて来たわ。死ぬまで面倒みてくれるわね?あなたはベーシックインカムなんて受け取らずに生きていけるわよね。きっと自立してるもの」




狭山は幼少期から黙り続けていたので自分の意見が分からず。

ただゆっくり口を開く。

吐く言葉は真っ黒に黒ずんで汚れているのが狭山でもわかった。




「わかったよ。お父さんとお母さんのためだもん。」




記憶はそこで終わっていた。が水分子から手を離そうとした瞬間だった。




璻だけ記憶から出れなくなぜか戻れない。



水の中深くに鎮められた感覚がした。

どす黒くモヤモヤした手が璻の両足に絡みつき少しずつ力を込める。



後ろから狭山の声がした。



「許さない。許さない。許さないぃぃ。許さないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。なぜこの記憶を気がつかせる。なぜこのまま病気になるように差し向けない。綺麗で自立してる女に私の気持ちがわかるものか。」



璻は後ろを振り向けない、全身が重く感じる。

両足が重く誰かに引っ張れているように感じる

まるでここにまだいてくれ、私の悲しみや苦しみ気持ちをわかってくれと言わんばかりに引きずり込もうとするように見えた。



身勝手な依存メンヘラに璻の中で沸々と怒りが込み上げる。


…なんで私だけ、両足を引っ張られなきゃならないだ!!……



 

どす黒い手をが見え璻は足から剥がそうと足で手を払おうとするがびくともしない。

また狭山の声が頭の上から聞こえた



「私は母も父も亡くなって命令してくれる人がいないから早く消えたいのに……」

 


それを聞いて璻はキレそうになり思わず片足を上下や横に振り続ける



璻は大声で足に捕まっている手に話しかけた。



「真っ黒で見えないけどそこでよく聞け。狭山さんは45歳にもなって亡くなった両親にまだ依存するのか。どんだけ自分のこと自分で舐めてんだ。いいか最初の幼少期から自分の意見が言えないって勘違いしたのはあなたの方だ。」



また狭山の声がする。



「そんな事ない。私は父母を察しただけで」




璻はまた大声で足に捕まっている手に話しかけた。




「全部親のせいでしょ?親のせいで自分の人生こんなにされて悔しくないんですか?ちゃんと自分の感情をちゃんと認めて見つめてあげてくださいよ。いつまで自分に自信がない演技してるんですか!自分で会社もやって事業もしてるのに。自分でなんでも決めていけるのに出来ないやれないってずーっと頭の中で暗示かけてヒステリックになってるだけでしょ。そんな依存的な考え方で人生なんて簡単に変わるわけありません!」




璻は足の運動を止めてると黒い手が怯え始め力が弱まった。




「でも父は母は完璧で判断も適正で……」



璻はまた大声で怒鳴りつけるように意見を言う



「なんでいつも親が完璧な人間だなんて思うんですか?親も人間なんだから常に未熟なんですよ‼︎」




狭山の声が震え始める



「未熟?親が?」




璻の両足を握ってる手がなぜか璻の右足部分だけ離した。

思い切って足を振り解くが左足がまだ手がくっついている。

璻はなぜか直感がスッと降りてきた



…これはきっと狭山さんが本当に理解してもらわないと離れてくれないかもしれない…




璻は落ち着きながら諭すように話しかける



「あなたは両親の価値観で育てられ、親にとって1番都合のいい娘を演じてた事に気づいてください」



狭山の声がボソっと聞こえる。


「都合がいい娘……」




璻はさらに落ち着きながら言葉をかける



「なんでもハイハイと聞いてくれる人がいたら都合がよくて離したくない。本当はそれってただの共依存です」




黒い手はゆっくりと力を抜き左足も離した

璻の顔に近づいてくる。



また狭山の声が聞こえてきた。黒い手は上下に揺れて暴れ回った。



「あああああたしいいい認めたくないいい認められない!!!!!!!!苦しい!!!」



璻はなんとなくこれが本当の狭山なんだろうなと感じた。



「今自分の感情を認めないと一生苦しいままです。どんなに否定してもあなた自身が感情を無視した結果です。狭山さんあなたの感情を一緒に見つめていきましょう。認めていきましょう」



黒い手の動きがなぜか止まった。

狭山の声が聞こえた。


「私、気づきたくなかったし認めたくなかった。」



璻も一歩一歩どす黒い手にゆっくりと近づく



「常に親に見張られて自由がなくて自分で選択もできなくてとっても苦しかったんですね。」



どす黒い手が璻の顔の前で浮いていた。



なぜか璻は怖くなかった。



…ここで引き下がったら一生狭山さんは両親の呪いを被りながら生きていくことになる。その呪いを狭山さん自身の手で剥ぎとらなきゃ意味がない…



璻は少し笑いながら



「あなたの気持ち痛いほど感じます。私も同じような経験をしたから。今から自分で立ち上がることは遅くないです。一緒に狭山さん自身の声に気づいていきましょう」



璻は自分の手を差し出し黒い手を優しく握る。



手は凍えるように冷え切っていた

まるで氷を触った感覚に似ていた。



…こんなに狭山さんは自分を痛めつけながら生きてきたんだ…



璻の目には涙が溢れ今にも泣きそうになりながら話す



「ずっと誰かに聞いて欲しかったんですね。あなたは一人じゃないです。あなたと同じ親に縛られて辛い経験をしてる人がたくさんいらっしゃいます。どうか自分を卑下に扱わないでほしい。この人生は一度きりしかないのだから自分の感情を感じながら自分の足で立ち上がって楽しく生きてほしい」




なぜか水の中なのに一寸の光が差し込む



黒い手は頷くと少し透明度が薄くなった


狭山の声が聞こえた



「これ書き残します。気づいてくれてありが…」



黒い手は璻の目の前で泡になって消えてしまった。



璻は気がつくと藤宮にもたれかかっていた。



「璻さん!璻さん!」と藤宮が必死に声をかける

 璻はハッと目が醒める



「ふっ……藤宮さん」




璻はあたりの状況を確認する。


…施術中って事はまだ終わってない…




「藤宮さんありがとうございます。とりあえず状況を話すので一旦離してもらえますか。」




藤宮は慌てながら璻を抱き抱えていた手を離す。


「ああ、ごめん。気がついたならいいんですけど」




璻は少しその場でしゃがみ込んだ。


藤宮を見つめながら




「状況説明なんですけど、狭山さんの父母がいた記憶が終わった時に黒い手が出て来て、本人に気がつかせるな‼︎と言われ足引っ張られたのでちゃんと話し合ったらいなくなりました。」


藤宮はそれを聞いて吹き出した。




「ぐっ……ふふ、笑うのは後にするとして。ぐっふふふふ。いやごめん。わかりました。ご説明ありがとうございます。」



璻は手を出して藤宮に見せ始める。


「それで気がついたら手に六角形の水分子が何個も繋がって書かれてて」



 藤宮は見たことある形で驚いた様子だった



「これは今回変える分子の形ですよ。わざわざ璻さんの手に描かなくてもいいのに意地悪ですね」



璻は手の模様について全然理解ができなかった。




「藤宮さんこれどうしたらいいですか?というかこれ落ちるんですか?」



藤宮は落ち着きながら璻の疑問に答える




「施術が終われば消えますよ。タトゥーじゃないので」




(璻さんがやってくれたことを無駄にしたくないし早く仕事を切りあげた方が良さそう)



藤宮は水分子を見ながら気合が入った。



「さぁて、今から水分子を2箇所だけ変えます‼︎」



藤宮の本領が発揮されるところでしゃがみ込んでた璻もようやく立ち上がって水分子を見つめた。




。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。


・日本にある治安が悪いスラム街


一時期日本にもスラム街ができ治安が悪化。電車内のテロや犯罪が多くなりました。

これは株が暴落した後も治安の悪化は続きます。関西の一部や首都圏が受け入れ先になり日本ではこのころから犯罪が多くなりました。世界政府誕生後にスラム街は無くなりました。


。:*:★。:*:★━━━━━━━━━★:*:。★:*:。

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