第57話:外発的動機付けと反芻思考
「山田陽翔の母親は幼少期、父親になにかされたんじゃないかなって思いまして。そうじゃないと、きっと自分の息子に対し嫌な事しないんじゃないかなって」
璻の発言を聞いた瞬間、喜三郎は個人情報を記載してある紙をペラペラとめくり母親のプロフィールと経歴を確認した。喜三郎は内容を読み上げた。
「確かにそれに付随して該当箇所を読み上げるぞ。山田陽翔の母親は幼少期、父親に対して苦手意識があった。女性を物のように扱う父親だった。母親は物静な性格で父親に意見することはなく、父親は会社の社長で金銭的に困ることはなかった。弟が出来てから父親は弟を溺愛し山田陽翔の母親に対してひどく差別していた。男性が苦手になった山田陽翔の母親は山田陽翔の父親と出会い女性のような感受性と物腰の柔らかさを持っていたため結婚に至った。これは璻さんの考察が当たっているな。」
璻は頷きながら喜三郎に応える
「それずっとその家系は似たような事をやってませんか?母方の父親はまたその母親に差別され、ひいきされたりしてませんかね?なんかどことなくそんな気がするんですよ。」
喜三郎は頷きながら応える。
「その可能性は高い。母方の両親は昭和の高度経済成長期あたりで生まれていたりすると仕事が忙しくなり放置され子供は大概ネグレクトになる。社会の都合のいいように動くからそら、自分の子供も手がかからないように管理したくなるよな。親の言った通り奴隷のような教育をしたら親も苦労しないしな……あとは外発的動機付けくらいか?」
聞いた事ない言葉に璻と九鬼は声を合わせて喜三郎に聞いた。
「外発的動機付け?」
喜三郎は説明を始める。
「ああ、外発的動機付けは外部からもたらされる要因によって、行動への意欲が高まる心理状態のことだな。簡単に言うといい子にしてたら物あげるという親の子育て方法の事だ。静かにしてたらおやつあげるとかテストの点数がよかったらゲーム買ってあげるとかな。今フリースクールが主軸になっているがこの教育はほとんどしないし、実質禁止になっている。メンタル崩すルーティンになりやすくなるからな。基本2030年くらいから逆の考えでもある内発的動機付けが社会に馴染むようになったからあんまり見ない育ち方だ。知らないのも無理はない。」
喜三郎のその言葉を聞いて思い当たる節があった。
……なんか、それって誰か聞いた事があるよな……
璻の頭の中で狭山の顔を思い出した。狭山は確か過干渉で育ち、親に支配されて育った。その時の育ち方に似ている。
「それって狭山さんの親の育て方に似ている……」
璻はその場でボソッと呟くと喜三郎は頷きながら璻に話しかける。
「そうだな。狭山さんもこの手の報酬系の育て方だったな。この時代の親はこういう育て方を平気でやってた時代だ。ムチと飴を使って自分の都合のいいように子供を使う。奴隷のような育て方をな。この場合は紙に書いてるあたりムチしか使わなかったパターンだな。この母方の父親、山田陽翔の母はそれを受けてきた。家族内のトラウマの連鎖だな。」
九鬼は疑問に思ったのか璻に問いかける。
「つか、お前はなんでわかったんだ?母方の父親が原因って」
璻は思い出したように話をする
「最初に入社した時、過干渉で育った依頼主を見たんです。その時に同じような育て方をされて大人になって悩んでいらっしゃった。その方の両親も依頼主の方を物のように扱い育てられていました。その方は自分で考えられず自分の意見とか言えなかったんです。自分の好きなことすらわからないとか…そういうケースがあったので判断がついたんですよ」
九鬼は唐突に璻に質問する。
「じゃあ、お前だったら息子より妹を溺愛していた母親の場合はどう解釈するんだ?」
九鬼はじっと璻を見る。
「そうですね。母親しかおらず父親がいない状況の場合とかなら話は別になりますね。両親がどちらともがいた場合はその父親から嫌がらせしていたか?それかお兄さんや弟さんがいた場合は男性側の親族にいじめられたり、煽られたり兄弟や姉妹で比べられたりした記憶があったか…とかですかねぇ……男性に対してその母親が心がえぐられるような幼少期の経験をしないと基本的にはその時の腹いせのような嫌がらせの育て方にはならないと思います」
そう思った九鬼は考え込む素振りを見せた。何か思うことがあるような。
……なんで九鬼さん今聞いたんだろうか?……
璻は少し考えるとなぜか今朝の喜三郎の言葉を思い出した。
「朔の母は男性が少し苦手でね。自分の子供でもえこひいきしてきたんだよ。多分昔、母方の兄か弟か父に嫌な事をされ続けた結果だろうけどね。あっ…喋りすぎてしまったかな?」
璻はそれで納得した。
……あっ、九鬼さん自分の事を聞いていたのかもしれない……
九鬼は何か納得したかのように璻に話しかける。
「もしかしたら……いや、なんでもない。」
喜三郎が九鬼に提案する。
「自分の経験を相手に伝えるのもカウンセリングする上で大事だ。そんでもって育ち方を考え依頼主と共感するのもこの仕事では必要だ。相手を無碍に扱う事は自分も無碍に扱っている。悩んでいる相手にどう声をかけるのが適正なのかを考えるといいな。九鬼」
九鬼は黙ると喜三郎に返事をする。
「そうっすね……」
喜三郎は次の話に移る。
「じゃあ、母親についてはわかったな。次は父親だな。山田陽翔の父親はただ母親のいう事を聞いていた。育児放棄した母親は正論で詰め寄るため父親はいつも口をつぐんでいた。息子である山田陽翔を放っておけず面倒を見ていた。と書いてあるが、父親にはどういう幼少期のトラウマがあったか。何が考えられる?義景」
諏訪は嫌々ながらに受け答えをする。
「また俺かよ……」
喜三郎はなぜか煽るようにニヤニヤしながら応えた。
「義景は1回結婚経験があるし、男の気持ちわかんだろう?」
喜三郎の悪ノリに諏訪は舌打ちをしながら話出す。
「チッ……その話を持ち出すなよ。答えりゃいいんだろ。答えりゃ。」
そういうと諏訪は嫌々カウンセリング視点で応えはじめた。
「この場合、考えられるのは山田陽翔の父親は過干渉で育ったという可能性が出てくる。過干渉の親に育てられると自分の意見を言っても無駄だという固定概念が脳の中に埋め込まれるからだ。父方の親族は……ええと」
そういうと諏訪は紙をめくり山田陽翔の父親に関する個人情報を確認する。
「ほら、2ページ目に父親の両親はどちらとも重度の過干渉だったと書いてある。話し合う家族じゃなかった可能性があるな。周りの目やご近所さんからの目、評価が怖いと思った両親に育てられると子供は自分自身の意見を飲み込んで育ってしまう。親が地域のお偉いさんだとそうなる可能性はある。現に山田陽翔の父方の祖父は市長って書いてあるな。尚更その可能性は高いと考えるのが妥当だろう」
璻は諏訪の考察の話に夢中になって聞いていた。根本的にそういう考え方を璻は今まで知らなかった。そこまで人間関係について視点もそれぞれ違うことに璻は内心驚いていた。
……確かに両親が有名な人や偉い人だと子供に対して過干渉になりがちになる。それは男性も変わらないんだ。特に男性だと自分の事を極力話そうとしないのは過干渉に多いのかもしれない……
諏訪はまた紙をペラペラめくるとまた話を続ける。
「あとはそうだな。事前に言うぞ!今から話すのは女性差別じゃないからな。これに限らずなんだが、男は女に正論で詰め寄ると内心うぜぇな〜早くこの会話終わらねぇかなって思っている節あんだよ。特に女は過去掘り起こしてあれもそうだったこれもそうだった。んで自分の気がおさまるまで話続く。これで女側は男が成長すると思ってるだろ?すぐ変わるわけねぇだろうが。この山田陽翔の場合は母親が正論語るタイプなら余計に父親は喋れなくなるわな。んで、どっかで父親は自分の幼い頃と重ねて見てたんだと俺は考えるな。」
諏訪自身もまさにそうされましたと言わんばかりの熱量で語っていた。感情的に話す諏訪に対してなぜかその場にいる全員同じことを心で思ってしまう。
……それで離婚したのか……
誰かがだから離婚したんでしょ???と悪ふざけでいってしまうと諏訪のプライドが折れるような気がしたのか、全員反応に困ってしまい黙り込んでいた。見かねた、喜三郎は諏訪の意見に深く頷くとまるで共感したように意見をいう
「この意見は義景は感情的になるな。女性は正論で過去詰めよりがちになるが本心は『私の苦しさをわかってほしいっ!こんなに話しているのになんでわかってくれないの』が本心だ。この場合はストレスによる反芻思考があったかもしれないな。」
穂積は静かに手を上げた。それに気づいた喜三郎は穂積に質問をする
「穂積さん、質問かい?」
おどおどしながら穂積は応える。
「はっ…はい。反芻思考って言葉聞いたことなくて…」
喜三郎は説明をする。
「反芻思考は過去の出来事や自分の失敗について繰り返し考え込んでしまう状態だ。主にストレスが常にある人や自分の自尊心の低さ、また完璧主義の思考を持っている人がなりやすいな。これが進むとうつ病や不安障害にもなりやすい。その可能性を考えると山田陽翔の母親も重度のストレスがあり反芻思考が働いて育児放棄した可能性もあるな。では、ここまである程度の生い立ちまで理解しすり合わせ出来たわけだが、過干渉の育ちで自分の意見が言えない父親と男性にトラウマがある母親、この環境で育った山田陽翔の具体的なトラウマの対策とケアについて話し合うぞ」
喜三郎の話から、璻は頭の中で依頼主の育った状況を整理しながら問題点を考えることにした。
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・外発的動機付け
外部からもたらされる要因によって行動への意欲が高まる心理状態のこと。要因には評価や賞罰などを与えて子供を育ててしまうと大人になった時に精神を壊しやすく乖離する。2050年では依存を作りやすいこの構図は全面的に教育現場の中で禁止になっている。
・内発的動機付け
内面に湧き起こった興味や関心、意欲によって動機付けられている状態のことです。
自発的に楽しいことや社会の発展を考え行動する考え方です。利益とか基本的に考えない考え方です。経済崩壊したあとの日本は日本政府は機能しなくなるので、内発的動機付けの方々が主軸となって5〜6年かけて日本を建て直します。2050年ではそれが一般的になります。
・反芻思考
過去のネガティブな出来事や問題について、解決につながらない形で繰り返し考え込んでしまう思考パターンのことを言います。この場合、解決策は今に集中することです。ちなみに作者の私も暇になると不安に襲われるのでそういうときは本読んで小説のプロット書いたり、筋トレしたり、料理したりすると基本、反芻思考はなくなります。ネガティブなこと考えるほど暇なんだな私と考えて行動すると逆に楽しくなります。
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