第56話:親の因果が子孫に報う
喜三郎は話を続ける。
「なお、ウィルスにかかり母親に育児放棄された山田陽翔はのちに父親に幼少期育てられるがその2、3年後に山田陽翔の下に妹が誕生し母は妹に溺愛し育てる。だが山田陽翔は相変わらずひいきしていた」
喜三郎の言葉に九鬼はなぜか全身震え始め、席を急に立ち上がると喜三郎に対して皮肉を言い放つ。
「き、喜三郎さん、俺がなんでこの人担当しなきゃいけないんすか?俺チェンジしたいんですけど。」
九鬼の手が少し震えていた。なぜか心底嫌そうな顔をし静かに喜三郎を見ていた。普段の九鬼と違い何かにひどく怯え怖がっておりその場から逃げたがっているように璻には感じた。
そんな九鬼に対して喜三郎は首を左右に振り九鬼に対して非常に耳が痛い話をする
「九鬼、それは出来ない。そしじぃがこの担当を当てたからな。なぜ山田陽翔を当てられているのかよく考えろ。九鬼が見たくないだけじゃないのか?それとも今の自分と重ねていて怖いのか?」
九鬼は少し苦笑いをしながら喜三郎に応える
「はっ…そんなっ……わけ」
喜三郎はすかさず話を続ける
「男はすぐ固定概念に縛られてしまう。誰より上を目指し、勝ち抜かない、稼いでないと何かに属さないと評価されない時代だった。自分の弱さにフォーカスする男なんて滅多にいなかったんだ。昔はそれが当たり前だった。だが時代は変わった。今は心にフォーカスを当てる時代だ。九鬼、お前は後先考えない事が多い。特に嫌な感情を感じるとすぐ行動に移す。なぜ、今この依頼主を担当が回ってきたか?自分と似た事がないか自分の過去と照らし合わせて考えろ。それが学びになるとそしじぃは考えて選んだ。」
九鬼は喜三郎がそしじぃという言葉が出るとなぜか深くため息をついた。諏訪はそんな九鬼をじっと静かに見つめていた。喜三郎の話に納得したのかその場で静かに席をつく。
「はぁっ……あああああ!そしじぃが決めたんならやるよ。やりゃいんだろ。確かに俺と若干似てる所あっからイラついただけだ。なんでわかんだよ。それも腹立つ」
隣に座っていた諏訪が思わず九鬼の背中を叩いた。
バシッといい音が部屋中に響き渡る。
「いってぇっ!」
諏訪は九鬼に嬉しそうに話しかけた。
「朔、お前前なら嫌な事あると逃げてたのに話聞く気になったんだな。少し見直した」
笑いながら話す諏訪に対して九鬼は諏訪の感情に理解出来ず戸惑いながら文句を言う
「すっ…諏訪さん、いてぇから。マジ意味わかんねよ」
喜三郎は話しかける
「もういいか?話続けるぞ。この場合、幼少期から子供が触れられない事に弊害が必ずあるが、この場合は山田陽翔以外に誰のトラウマの可能生を考える必要があると思う?はい。反抗期が終わった九鬼答えてみろ」
璻は容赦ない喜三郎のいじりに九鬼が可哀想に感じた。
九鬼は喜三郎のいじりに対して言い返す。
「反抗期じゃねぇし!えぇ、そうだな……」
九鬼はトラウマについて真剣に考えると自分の意見を喜三郎に伝える。
「長く育児に関わった父親っすかね。母は極悪人だからトラウマ考える必要ないと思いますよ」
喜三郎は九鬼の答えを頷きながら聞くとゆっくりと口を開く。
「はい。45点だ。父親は正解。だが母親を選択肢から外したから考え方的に不合格だな。この場合は母親の幼少期を重点的に考えるという選択肢がないとカウンセリングは進まない。どんなカウンセリング内容でも必ず依頼主の親族、育ての親の時代背景を考え、親の幼少期を考えるのが基本だ。親の考え方は無意識に子供が学んでいる事が多い。そこを想定して考えるべきだな」
九鬼は喜三郎に対して質問をする
「俺の考え方は偏っているからもっと広い範囲で考えろってことですか?」
喜三郎は頷きながら九鬼に話しかける。
「そうだな。考え方自体は悪くはない。だが善悪で人間は決めつけがちになるところは問題から目をつぶっているよな?本質はそこではない。正義の中にも悪はあり悪の中にも必ず正義はある。人間は判断を決めると偏った見方しか出来なくなる。九鬼は単純に善悪で決めるのではなくその中にある善悪も見てあげる癖をつけると考え方の幅が広がる。ではそれを踏まえて先輩である義景ならどう依頼主を見る?」
いきなり意見を聞かれ少し驚いた表情をすると諏訪は喜三郎に対して文句を言う。
「俺かよ。俺はこの件には介入しないんじゃねぇのかよ?」
喜三郎はいかにもダルそうに応える諏訪にやる気を出させるようと言葉をかける。
「一応、義景先輩だろ?どう考えてカウンセリングしてるかみんな知りたいと思うがね」
諏訪はなぜか璻と穂積の顔を確認する。璻も穂積も諏訪の顔を見ながら静かに深く頷いた。そんな後輩の姿を見た諏訪はだるそうに応えた。
「はぁっ……俺の場合は母親がなぜ育児放棄をしたのか?そこを考えますかね。ウィルス以外に何かその前に問題があったはずと仮定します。考えられるのはそうですね……」
そういうと諏訪は資料を1枚めくり資料に書いてある箇所を読み上げた。
「山田陽翔の母親の家族構成には1回父親と母親は離婚し母親が親権を持つことが決まった。だがその後3年で再婚し弟を妊娠し溺愛していたと書いてあるだろう?この場合、山田陽翔の母親が弟だけに愛情を向けていたことが許せずに息子にも無意識に同じ事をやっていたと山田陽翔自身が自覚する必要があります。これは家系のトラウマかと思いますね。」
璻は家系のトラウマという言葉は聞いたことがなかったので思わず話に入って諏訪に質問をする
「あの諏訪さん家系のトラウマってなんですか?私聞いた事ないですけど」
諏訪は璻の顔をじっと見ると全員にわかりやすいように説明を始める
「ああ、基本的に代々心のトラウマは繋がれていくものなんだよ。それは主に日本が戦争を始めたあたりくらいだろうな?代々家系のカルマやトラウマが引き継いで俺らは生きている。これは目には見えねーけどな。例えばそうだな。高度経済成長で働きに出たおかげでネグレクトになる子供は増えたり、親が仕事で成功したから子供にも同じ道に歩んで欲しい一心で子供を管理し結果過干渉になったり、またある家系では男性だけなぜか自殺する家系があったり、その家系のトラウマを子供が本質的に理解しない限りそれがずっーと末代まで続くんだよ。地球ってそういうシステムだから」
璻はその話を聞いてなんとなく意味がわかった。心の傷は親から代々形を変えて紡がれていく。それを依頼主を通して璻はずっと見てきた。璻はまた諏訪に話しかける。
「山田陽翔の母親もそのタイプかもしれないって事ですね。諏訪さんそれって生きている人間全員に全部当てはまるんじゃないですかね?」
「ああ、今生きている人間は全てこの"家系のトラウマ"に当てはまる。トラウマを気づかせるために自分が嫌だと思う物を無意識で配置し、違う立場で経験させて消化させる。基本的に生きてる人間は地球のシステムに抗う事は出来ない。この人生辞めたいなら自死するしか方法はないがまた同じ事をやるためにまた転生するかもしれないだろ?まあイラつくのが転生したら優雅に暮らせてスーパーヒーローになれるなんざくだらねぇー妄想している連中を殴ってやりてぇぐらいだ。妄想も大概にしろ。と俺は言いたくなるがな」
諏訪の言い方だと過去にそういう頭の中お花畑で妄想癖激しい依頼主がいたと思うと璻は諏訪を不備に感じてしまった。諏訪は話を続ける。
「それに自死してもまた似たような人生繰り返すのって俺は無駄だと思う。だったら今必死に生きろとも思うがな。一時期、転生ものアニメや漫画や小説が流行ったがあれは1回亡くなったら終わりじゃない。亡くなっても素晴らしい世界があるって思想を世の中に伝えたい石屋の連中が始めた事とかな。それも俺はクッソ腹立つがな。まあ話は脱線したがトラウマは自分で気づく事が基本だ。特に家族のトラウマは根深い、まず父親や母親のトラウマを想定しそこから考える事がすり合わせの第一歩だ。この依頼主の場合トラウマはある程度自分で気づいているはずだから、気づけない箇所を重点的に想定するためにも女性関係のトラウマに注目して観点出しするといいかもな」
喜三郎は頷きながら、拍手した。
「義景お前も成長したな。95点だ。男性視点の見方だな。さあ、穂積さんと璻さんはそれを聞いて女性の視点で何かあと5点分プラスすることはあるかい?」
急に指名され璻と穂積は思わず考える。璻は他に何か想定するトラウマがないか考えていた。
……もう大概は諏訪さんが言ってくれたが、女性目線で他に案があるかというと……
璻は頭の中で山田陽翔の母親のトラウマを考えていた。言葉を思い浮かべる。
……母親、弟、トラウマ、触れられる恐怖、男性……
璻は何かを思い出したように声を上げる
「あっ!」
全員璻を見つめると喜三郎は璻に話しかけた。
「何か思いついた?」
璻は頷きながら喜三郎に答えた。
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・家系のトラウマ
何かトラウマがあった時は必ず母や父が関係していることが大半だったりします。その時の社会背景とかにも原因になってきますが、基本は母や父のトラウマを受け継いでる可能性があります。
・転生したら優雅に暮らせてスーパーヒーローになれる
諏訪はこの手の依頼の成人男性を何度も見てきました。石屋の都合がいい妄想を鵜呑みにした人間は自分が亡くなったら楽になれると勘違いした人間が世の中に多く増えていた時期がありました。ちなみに残念ながら亡くなっても家系のトラウマを解消できなかった人はもう一回似たような人生をたどります。諏訪はこのことも理解しているため言葉がキツくなったりします。
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