第53話:2日目開始
喜三郎がゆっくりと歩き璻の元から離れる。
足音で喜三郎が離れる事がわかった璻はゆっくりと背筋を伸ばした。
璻は耳から聞こえる自然の音に集中する。
静かな森の中で風で木々が揺れる音、鳥のさえずりや近くに流れる川の音が聞こえる。何回も璻は深呼吸するうちに何も考えや思考が出てこない状況になっていた。
…頭の中が静かになる……
シーンとした状況の中で璻の頭の中である映像が見えた。
一滴の水が水溜まりに落ち、波紋のように広がって行く光景が見える。そこには何もいないように見えた。映像が見えた途端に急に低い声が頭の中に響く。
「…全ての物事は水のように流れ循環する…」
…循環……
その声は優しく温かい声に聞こえる。恐怖や不安などは一切感じられない。
璻はなぜかその声にどこか知っているような感覚に陥る。
再度璻はその声に耳を傾ける。
「…水に善悪はない、水に執着はない、水に感情はない…あるのは水がもつ記憶だけ、トラウマは骨に…」
…記憶……骨?……
璻は言われた言葉の意味を考える
……水に善悪はないのは理解できるし、水自体人間のような執着はない、水には感情もないのはわかる。水の記憶は仕事で実際に見ているしそのことについては理解できるが…骨って何?ゲノムのこと?……
言葉が理解出来ず困惑しながら璻は目を開け周りを見渡す。
「さっきのは声は誰っ??そして骨って何???」
璻が叫ぶと後ろから誰かが歩いてくる音が聞こえる。振り返りよく見ると喜三郎が手を振っていた。
「璻さぁーん、瞑想終了だ!朝ごはん出来たから戻るぞ」
…朝ごはん…
そんなことを思うとグゥーと自分のお腹が鳴りはじめた。
…もういいや、とりあえず朝ごはん食べよう…
座り込んでいた璻は立ち上がり喜三郎に手をふると声をかける。
「今行きます!」
…結局さっきの声なんだったんだろか?…骨…記憶……
急いで璻は地面に引いてあるヨガマットを片付け喜三郎の所へ向かった。
宿舎に戻る途中で喜三郎は璻に話しかける。
「瞑想いいでしょ。頭の中落ち着くから」
璻は頷き喜三郎に返事をする。
「はい。落ち着くのはよくわかりましたよ。何か声が聞こえるんですよね。あれなんだろうって」
何を思ったのか喜三郎は璻に質問をする。
「ほう…興味深いねぇ…ちなみになんて言ってたの?」
璻はさっきの言葉を思い出しながら話す。
「トラウマは骨にとかどうのこうの…」
喜三郎はそれを聞いてハッとすると歩くのをやめなぜかその場に立ち止まった。
璻は立ち止まり考え込む喜三郎を見て不思議に思ったのか声をかける。
「喜三郎さん?どうしたんで…」
喜三郎はニヤッと鼻で笑うと急に歩き出した。
「それはヒントかもしれないね。」
璻は喜三郎の言葉を聞き返す
「ヒント?」
そうこうしている間に宿舎に着くと喜三郎は璻が持っているヨガマットを見つめる。
「璻さんそのヨガマットは俺が回収するから」
璻は喜三郎にヨガマットを渡すと頭を下げた。
「ありがとうございます」
喜三郎は璻に向かって次の指示を出す。
「昨日の食堂に行ける?朝食はいつもそこだから」
璻は昨日の場所が不安だったのか食堂の場所を喜三郎に聞いた。
「昨日の会議室を進んだ奧ですよね?」
喜三郎は頷きながら璻の疑問に応える。
「そうそう。俺も後で行くから。また後で」
璻は返事をして応えた
「わかりました。」
喜三郎は手を振ってその場をすぐ立ち去っていく。
璻は食堂へ歩いて向かうと見知らぬ人がこちらに歩いているのが見えた。ショートカットのメガネの女性とポニーテールの男性が話している人たちとすれ違った。ポニーテールの男性が楽しそうにショートカットのメガネの女性に話しかける。
「だからさ〜今日はグループ活動なんだって明々後日から…」
璻は足を止めて思わず振り返りすれ違った2人をよく見ていた。
…個性が強い見たことない人だな。…
璻はまた歩き始めると食堂と書いてある場所に着いた。
部屋に入ると女将が璻に声をかける。
「おはようございます。本日はおかゆになります。こちらのトレーを取っていただき、お召し上がりになってください」
璻は頭を下げて挨拶をする。
「おはようございます。ありがとうございます。」
璻は女将からトレーをうけとり、並んであるおかゆと小鉢に盛り付けてある大根ときゅうりとにんじんの糠漬けと梅干しをとった。
飲み物に水と麦茶と梅醤番茶と書いてある。梅醤番茶に惹かれると手に取りトレーにのせる。キョロキョロと周りを見渡した璻は席を探す。1人食べている人がいたが知っている人ではない。空いている席が手前にあるとわかると席に着くと朝ごはんを見つめていた。
璻は手を合わせると「いただきます」と軽く頭を下げ一口おかゆを口に運ぶ。
それまでおかゆなんてどれも同じだと思って馬鹿にしていた璻だがこのおかゆは口に入れた瞬間米の甘みが広がり飲み込むこと自体惜しいと感じる。
ゆっくり噛みながら飲み込むと一瞬でこのおかゆに使われている水が普通の水ではないことに気がついた。
「おっ…美味しいっ…」
…これすぐに食事終わっちゃうな……
璻は最後に梅醤番茶を飲みホッとするとすぐに席を立ち食器を洗い場に持っていった。食器を片付けている中の人に挨拶をする。
「ご馳走様でした。」
璻は食堂から出て廊下を歩くと喜三郎が璻に向かって歩いてくるのがわかった。
「璻さん、ご飯食べ終わったか?」
「はい。喜三郎さんのおっしゃる通りおかゆでしたよ。」
「そう、じゃあこれからグループ活動始めるから、外に出て待ってくれる?みんな揃った段階で始めるから」
璻は喜三郎の指示に返事をする。
「はい。わかりました。」
璻はすぐ玄関へ向かい、靴を履き替えた。
外に出ると九鬼と穂積が待っていた。
相変わらずだるそうにしている諏訪もそこに待っていた。
九鬼が璻を見つけると璻に話しかける。
「お前、何してんだ。おせぇよ」
九鬼の言葉を璻は無視し璻は3人に軽く会釈をし挨拶をする
「おはようございます。皆さん。」
九鬼は呆れながら璻に向かって話をする。
「重役出勤か?呑気だなお前」
昨日今日で相変わらず嫌味ったらしい九鬼の言葉使いに璻はため息を出し九鬼に反論する。
「はぁぁぁ…時間通りですよ。朝から難癖つけるの良くないと思います。それに呑気も何も私まだ何やるか聞かされてないですし…きょうちゃんは聞かされてる?」
璻は穂積に話をふると穂積はソワソワしながら璻の質問に答える。
「わわわ私?聞かされてないよまだ…」
璻は頷きながら穂積に返事をする
「そうだよね。」
九鬼が何かに気づき声をかける。
「喜三郎さぁーん、俺ら何やるんすかっ?」
璻は後ろを振り返ると喜三郎が立っていた。
「さすが超感覚の朔ちゃ〜ん、これからカウンセリングするよ?カ・ウ・ン・セ・リ・ン・グ」
九鬼は喜三郎の言葉を返す。
「カウンセリング?」
「そう、君たち3人はトラウマで苦しんでいる依頼主のカウンセリングつまり話を聞く実践研修」
璻は喜三郎に質問をする。
「喜三郎さん、カウンセリングはわかりますが体内の水分子を見るんですか?」
喜三郎が歩き4人が集まっている場所まで近づくと顔を左右に振りながら璻の話に応える
「このカウンセリングでは水分子は見ないし、水分子は変えないよ」
九鬼と穂積と璻は3人とも驚いた表情をする。
…ということは今日は実践研修か…
璻はなんとなく今日の研修内容がわかると喜三郎に向かって手を挙げさらに質問する
「水分子は変えないでカウンセリングするんですか?」
喜三郎はすぐに返事をする。
「うーん。と、いうか…もう変えてあると言った方が正しいな。水分子は元々そしじぃが変えた依頼者を再度カウンセリングする。それが2日目の研修さ。依頼内容の資料は事前にもらってある。事前のすり合わせの時に使ってくれ。あと義景は補佐だがカウンセリング時にはいない、お前たちで協力するように」
諏訪は静かに頷くとダルそうに喜三郎の話を聞いていた。
喜三郎はさらに次の指示を出す。
「まず、カウンセリング専門の場所に移動するから4人とも俺の後について移動するぞ。ちゃんとついてこいよ。あとちなみに義景は依頼主自体誰か知らないからな。基本は頼るなよ。」
喜三郎の指示に九鬼と穂積と璻は3人とも返事をした。
「はい。」
宿舎を出て駐車場を出ると登りの方向に向かって歩き始める。喜三郎、諏訪、九鬼、穂積、璻の順番で歩いていくと何やら砂利の道が見えその敷地内に入ると森の中にログハウスが見えてきた。
周りには桜が満開に咲いている。
璻は咲いている桜に見惚れていた。
花壇にはハーブがあり手入れがされている。
璻は周りをキョロキョロしながらどこか似ているような感覚を思い出した。
…この空間なんだかオフィスに似ている…
喜三郎はログハウスのドアの前まで歩くとポケットからドアの鍵を探し鍵を使ってドアを開けた。
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・朝ごはん
この宿舎では朝ごはんはおかゆが出ます。ちなみにおかゆに使われている水分子は女将が調整しています。
糠漬けも女将が作っています。
・個性が強い2人
この2人は新キャラですね。後々璻と関わることになります。
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