第50話:聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥
「わっ…」
言葉が詰まりそうになるが、声を振り絞って話を続ける
「わっ、私たちがこの水から通して見えた物は森や川でした。九鬼さんはマイナスイオン特有の音、龍後さんは川の流れる感覚を水分子から読み取りこの水が諏訪湖ということまで突き止めました。」
そしじぃの顔を穂積はじっと見つめるとそしじぃはニコッと笑う。
「ありがとう。よく報告できたね。内容としては正解だよ。そう、これは諏訪湖の水」
穂積はほっとして九鬼と璻の顔を見た。
優しく見つめる璻とそっぽを向く九鬼は2人とも嬉しそうに見えた。
そしじぃはまた3人に問いかける。
「ではワシから質問。君たちは…この数時間で話してどれだけ相手の事がわかったかね?能力や得意な事以外見つけられた事はあったかな?」
璻はそしじぃの言葉を聞き耳を疑った。
まるで水の記憶を見ることは二の次のように聞こえる。璻はそしじぃに対して質問の意図を問いかける。
「それは…どういう意味ですか?」
そしじぃは問いかけた璻を見るととぼけた様子で応える。
「水を見るトレーニングだが、それだけではない。同時に仲間のトラウマにも気づけるかという裏テーマもあってね…穂積さんは気付けたけど…2人はまだみたいだねぇ。」
璻と九鬼は耐えらえず「えっ」と声を出してしまった。
3人はキョトンとした表情をする。それもそのはず、そんな事を一切聞かされてない上に初めて会う人間のトラウマに気づけなんてセンシティブかつ酷な話である。
そしじぃはなぜか少しがっかりしながら3人に話しかける。
「こりゃねぇっ…予定を変更して明日も引き続きこのチームで行動しようかね。」
璻はその発言から最初から裏テーマまで話せばこんな事にはならないのではと考えてしまう。そしじぃは3人に向かってアドバイスをする。
「人の話を聞くのは基本中の基本。その上で読み取る能力も必要になるからね。カウンセリング能力も高めてもらわないと困るよ。まずは仲間を見る練習からだよ。」
座っていた諏訪が徐に立ち上がるとそしじぃの発言に補足を入れる。
「よいしょっ。お前ら、互いに粗探しするとかじゃねーからな。粗探しした時点で水分子濁るからな」
…水分子が濁る?…
璻は諏訪の言葉の意味がよく理解できずに再度質問する。
「あの、水分子が濁るってどういう意味ですか?九鬼さんときょうちゃんはわかってな…」
璻はなぜか九鬼と穂積の顔を見たが2人とも頷きながら話を聞いていた。これはわかっている様子に見えた。冷静に考えて璻だけが理解していなかったことにようやく気がついた。
その様子を見て呆れた九鬼が璻に対して話しかける。
「お前、水流士になる時説明されなかったのかよ」
九鬼の問いになぜか穂積も黙って何度もうんうんと頷く。
九鬼に言われた瞬間、璻はなぜか藤宮の顔が浮かんだ。いつも大事な事は説明しない藤宮だ。絶対に説明をし忘れていたんだろうと悟る。
ふと頭の中で言葉が浮かんだ。
……聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥……
「詳しく教えて下さい。お願いします」
頭を下げる璻に諏訪は何を思ったのか璻の願いに耳を傾ける
「いいだろ。龍後は藤宮のせいにしなかった。お前の素直さに免じて説明してやろうじゃねぇか」
諏訪の言葉は璻を褒めているようだった。
一概に藤宮のせいではない。考えると藤宮はいつも忙しそうにしていた事は事実。それに璻自身にも落ち度はあると思っている。この水流士について水分子の構造以外深く聞かなかったからだ。なのでお相子な気がすると璻は判断した。
ただそれだけなのに。なぜ諏訪に感心されたか理解できず思わず声が漏れ出る。
「はぁ…」
呆れる璻に諏訪はなぜか念を押す。
「よく聞け。一回しか言わねぇからな。水流士自身、水分子を扱う職業だが自分にも他人にも愛情をもって見ないと文字通り自分の水分子が濁り、見ている依頼者の水分子が濁る。自分が持っている超感覚、超視覚、超聴覚などの能力が消え最悪、水分子自体見えなくなってしまう。」
璻はそれを聞いてゾッとした。諏訪の言葉を簡単に要約すると損得で判断するな、自分を自立させろ、エゴで水分子を見るな。見えるものが見えなくなってしまうと言っているように聞こえた。
…つまり、自分にも他人にもバランスを保ち、愛情を持つってことか。簡単に言うけれど、愛情って…
そう悩んでいると諏訪が璻に話しかける。
「龍後、お前の事だから愛情のことまで質問しそうだな。先に説明するな?」
まるで諏訪は次、璻が何の言葉を話すかわかっているような口振りに璻は驚きもせず言葉を返す
「まさに考えてましたね。ご教示下さい」
「あぁ。愛情は主に4つ。知る、尊重する、許す、相手を受け入れる。これらだ。真逆をやると濁り始める」
諏訪の言葉が足りなかったのかそしじぃはなぜか話に割って補足を入れる
「ちなみにワシが見てきて粗探しする人間は確実に幼少期にトラウマがあったのぅ?義景。」
昔の事を掘り返されて嫌だったのか一瞬で諏訪は不機嫌そうになる。
「いやだな。嫌味言ってんすか、そしじぃ。まぁ、俺もアンタがいなきゃ治らなかったからな」
お礼を言われるとそしじぃは嬉しそうな顔をした。
璻はその発言で確信した。諏訪は昔粗探ししていた側なんだということを。
興味深々で璻は諏訪に質問をする。
「ちなみに粗探しする人の特徴あるんですか?」
諏訪はなぜか嫌々そうに答えた。
「大体4つだな。1.人の欠点ばかりに注目する。2.自分正しい!スゴイでしょと周りに主張したい。3.自分が変わりたくない。4.人に常に完璧を求めている。この4つ。自尊心を深く傷つけられないとこういう考え方にはならない。ちなみに俺は4だった。依頼者の育った環境によっても違うけどな。」
璻は諏訪にさらに突っ込んで質問をする。
「粗探しの原因は基本的に母や父から自尊心を傷つけられていた事がほとんどですか?」
諏訪は少し考え込むと専門家のごとく詳しく話し始める。
「いや、親もそうだが…一般的に多い原因は保育園や幼稚園とか小学、中学、高校、大学の周りの人間。特に教師や友達からだからな。特に記憶に深く残りやすい年代は保育園や幼稚園から中学校くらいの出来事だ。家族以外の対人関係から受けた体験が記憶に深く残る」
璻はふと考える。
…そんな昔な事、覚えていない人が大半な話だ…
「昔すぎて、あんまり覚えてない人が多そうですよ。」
璻のいうことを諏訪も理解はしている様子に見えた。
「人間はすぐ忘れっからな。でも、無意識で覚えている事多いぞ。異性に何気なく言われた言葉に自尊心が傷ついたり、あとは学校生活で教師が評価する内容に自分が納得がいかなかったとか、もしくは学校のルールで色々認めてもらえなかったとか。親以外でトラウマになりやすいのは学校の教師だな。教師にも色々いるからな〜精神的に未熟な人間、気に入らない子供をえこひいきをする人間、承認欲求で教師やるやつだったり、月収が安定してるからとかで教師になる奴とかは大概、幼少期に深いトラウマがある。教師が全員偉いわけじゃねーしな。俺の時代はまだゲノム適合職種やパーソナルエネルギーの導入はまだだったからな。そういう未熟な大人が教師やってるやつが多かった。その教師らも学生時代深くトラウマを植え付けられたから仕返しで教師やってる人間も俺の依頼者でいたな…まぁー教師にもいい奴いたけど、その職業が好きで教師になる奴なんてほんの一握りだ。」
諏訪の発言に璻は思わず同情する。
今でこそ個人のパーソナルエネルギーが測れる時代、未熟で固執した考え方しかできない人間が教師という職業を選べるわけもない。
璻は驚き諏訪に対して同情する。
「諏訪さん、苦労されてたんですね…」
穂積も璻の意見と同じだったのか深く頷く。
諏訪はあまり深く考えずに質問に応える。
「まぁ、お前たちよりは人生ハードだったけど、おかげでこの仕事の役には立ってるな。どれも子供の頃の自分の考えに固執し驕り高ぶっている事に自分自身が気づかねぇ事が多い。特に子供の頃は純粋で周りに言われたことが正しいと信じるんだよな。それを水流士が紐解いてやらねぇと」
諏訪の話を聞いてなぜか九鬼が話に割って入る。
「てか、それって誰もがそうじゃねーの?気づくことで変わるのか?諏訪さん。」
珍しく九鬼が質問することに諏訪は驚く。
…人の心に一ミリも興味なかった朔が質問するのは珍しいな。それも龍後と穂積の影響なのかもしれない…
九鬼が少しでも育っているそう思うと諏訪は嬉しくなりニヤッとし九鬼の質問に答える。
「朔、義務教育の間はそうだろうな。これに早く気づく事でだいぶ人生変わるんだよ。要はトラウマ時に自分で植え付けた思考ぐせを早く気づくことだ。気づかない内に原因をほったらかしにすると同じ現状を引き起こす。原因を見つけた方がいいだろ?原因を引き延ばすのは誰でもできんだよ。いかに人の悩みを解決するか考えるのが水流士の仕事だからな。」
やる気のない発言が多い割にちゃんと水流士として仕事をしている事に璻は驚く。諏訪の言い草は何人もそういう方々を見てきている発言に聞こえた。
…この人そうやって人を見ているのか…
璻は少し諏訪を尊敬した。
そしじぃは4人の話に割って入ると徐に時計を指差す。
「もう時間だからおしまい。お腹空いてるでしょう?」
4人とも掛け時計を見るともう7時半を過ぎていた。諏訪はため息を吐くとそしじぃに文句を言う
「わぁーかったよ。終わりだ終わりっ!」
諏訪は手を叩き3人に指示を出す。
「ほら、3人とも飯だ飯。折り畳みテーブルは外に出しとけ、それは朔よろしく。穂積は水を持って俺の所へ、手が余ったら食事用のテーブルを入れる事。龍後はそしじぃと一緒に食事配膳係。女将の所に行って食事もらってくること、全員、返事」
璻、九鬼、穂積はその場で返事をする
「はいっ」
各々指示が出ると動き始めた。
そしじぃは璻を見ると話しかける。
「じゃあ、取りに行こうか」
璻はそしじぃを見て返事をする。
「はい」
そしじぃは襖を開け靴を履き部屋を出ると璻も後を追うように部屋へを後にした。
。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。
・諏訪の粗探し
諏訪は昔、自分と同じように振る舞えない他人のことが許せませんでした。それをそしじぃはゆっくり時間をかけて治してくれましたね。その話は番外編で書こうと思います。マウント取る人間の特徴は幼少期に対人関係のトラウマが深く関係しています。
・精神的に未熟な人間
この小説ではパーソナルエネルギーを測ることで精神的に未熟な人間が数値化され区別されるようになっています。諏訪の話は璻が生まれる前の話です。まだ公務員という制度があり義務教育があった時の時代。ちなみに2050年の時代ではパーソナルエネルギーが低い人間は教師という職業はできません。
・教師らも学生時代は深くトラウマを植え付けられた人間もいる。
教師も学生時代に嫌な思いをしたこと自体忘れて生徒に同じように嫌がらせやエコひいきをする人間も一定数います。これはどの職業でもそうですが…芸能人、会社にいるお局、長年の教師などキャリアを長期で重ねた人間が自分の能力に驕り高ぶり始めるとやりがちです。そういう時に幼少期のトラウマが再発します。真摯に自分の心に向き合うと治りますが…そういう方は稀です。もし嫌な人がいる場合、作者の私からのアドバイスは極力その方と関わらないことをオススメします。その人の何が嫌か自分の心をよく観察することです。学生の方は登校拒否やご両親に相談しましょう。そのまま放置するとトラウマになり確実にその後の人生に大きく影響が出ます。ちなみに教師の話は作者の実話が少し入っています。どこの部分か想像してみると面白いと思いますよ✨
50話までいきました!まさかこんなに続けられるなんて思いませんでした。
読んでいただいている皆さん本当にありがとうございます!
。:*:★。:*:★━━━━━━━━━★:*:。★:*:。




