第49話:避けてきたものの中から新しい視野を見出す
「人は則ち天下の神物なり」
そう唱えると穂積はぼぉーとしながら浮いている水を見つめる。
水には風景が浮かび上がっているのが見えた。まるで水彩画を見ているように水に色がつく。森林の風景や水が川に流れていく様子が見えた。
璻は思わず水に見惚れてしまう。
「すごいっ」
…これが超視覚なんだ……
璻も九鬼も反対側で見ていたため、反転してその映像が見えていた。
その光景を璻は食い入るように見つめていた。
穂積の隣で見ている諏訪も興味津々で水の中を覗き始める。
穂積は黙って何かに頷くとなぜか左側が気になり左に顔を向けた。
すると諏訪が近くにいてなぜか覗いている事にようやく穂積は気が付く。
目線を感じる諏訪は穂積の顔を数十秒見つめた。
諏訪に凝視され戸惑った穂積は思わず声が漏れ出る。
「あばっ……あばあばあばあばあばあばっっずれっ…」
その言葉でその場が凍りつく。水の映像は穂積が驚いたと同時になぜか止まって映像が消えてしまった。
穂積はしまったっ!という表情をすると諏訪は予想以上にニコッとする。
穂積は諏訪が聞こえてないことがわかり少しホッとするが、諏訪は一瞬で表情を変え穂積に詰め寄る。
「今一瞬聞こえてないと思っただろうが!誰がぁ!あばずれだ!!!」
諏訪は明らかに穂積に怒っているように見える。穂積は必死に言い訳をする。
「あああああのぅー間違ってしまったんです。」
弁解が全く通じず諏訪は穂積に激怒する
「人に向かってあばずれ言う奴があるかぁぁぁぁ!」
穂積は頭を下げ平謝りをする。
「ヒィィィィィィィィィィィすみませんでした。」
呆れながら九鬼と璻はその光景を見ていた。
…なんだろう。この光景見た事があるような…
九鬼は璻の方向に顔を向けると呆れるように話しかける。
「お前と穂積似てるよな。失言とか…」
璻は自分の行動をこれまで考えてみた。
藤宮との面接にて出会った時の失言、諏訪に対しても思わず失言をしてしまった事を考えると居た堪れない気持ちになる。璻は頭を抱え九鬼の話に素直に応える。
「はい…非常に否めないです」
九鬼は深くため息をつく。
「はぁっ――今年の新人女性は思ったことしか言わねぇなって諏訪さん思ってんぞきっと」
九鬼の言葉がグサグサと璻の胸に刺さる。
「なっ…何も言えない」
そんなことを話しているうちにそそくさと穂積が九鬼と璻の近くに座る。
九鬼は穂積に話しかける。
「穂積、お前の超視覚って水に映像が映ることか?」
さっきの失言についてイジらないあたり九鬼は大人だなと璻は思った。
穂積は九鬼の問いかけに深く頷く。
「そそそうです。」
九鬼は何か考えている様子で応える
「そうか……」
穂積はボソッと話す
「目に諸の不浄を見て心に諸の不浄を見ず」
璻は急に穂積が口に出した言葉に興味が湧くと穂積に意味を聞く。
「それなんの言葉?」
璻は笑顔で話しかけると穂積は説明をし始める。
「これ、私の一族がよく唱えている言葉なんですっ。意味は人間の目にたくさん映る汚れた物を見ても心の中で汚れた物は見てないって意味です。」
九鬼がまた話に割って入る。
「それ…祝詞だろ?それも伊勢の一族が集まって作った祝詞だ。お前が水分子見る時に一番最初に唱えていた物も祝詞だな」
穂積は頷きながら応える
「はい。よくご存知で…」
璻は九鬼に質問する。
「なぜ九鬼さん知ってるんですか?」
九鬼はだるそうに璻の疑問に応える。
「九鬼家は三重に栄えた一族だ。特に志摩の水軍。伊勢神道の話も一族の教育で学んだから知ってるんだ。」
璻は頷きながら話を聞く。
「博識なんですね…さすが九鬼家次期当主」
九鬼は璻が褒めているように聞こえたのか少し笑顔になる。
「お前なぁ…もういいわ。祝詞にも意味や種類があんだよ。それぐらい知っとけ」
璻は九鬼の発言が最初より優しく感じた。
…最初よりなんか…優しさを感じるけど……
「朔、お前〜ようやく優しくなったな。」
そう声をかけた諏訪は九鬼の隣に来ると胡座をかいてその場に座る
九鬼は諏訪に言われた一言が気に食わなかったのか思わず言い返した。
「諏訪さんは一言余計なんすよっ。」
諏訪はニヤッとすると次の指示を出す。
「んでっ……お前ら、水分子の見解を聞こうじゃないの?」
ざっくりとした質問の意図が見えず璻は諏訪に疑問をぶつける。
「それぞれが見えた水分子の話ですか?」
諏訪は一瞬呆れると璻に応える。
「それ以外何があんだよ。朔から1人ずつ見えた内容の共有。ほい」
九鬼は嫌そうな顔をしながら応える。
「俺かよ。えっ……まず、森の水だな、水分子の結合の細かさと特有の音からして山奥のマイナスイオン水だと判断する」
諏訪は次に璻を見ると璻も同じように意見をいう
「はい。水を通して見えたものは結合図から見てH3O2の山の水、川から諏訪湖に流れていて青い空が見えました。」
諏訪は次に穂積を見ると相変わらず、おどおどしながら応え始める。
「ききき、木々と水が流れて川が見えて…2人は詳しく見えてますけど、私は正直そこまでは…」
穂積はそこまで詳しく見えていない事実に落ち込むとなぜか諏訪がフォローに入る。
「穂積、落ち込むな。コイツらが化け物なだけだからな。気にすんな」
璻は諏訪の言葉を聞き心でツッコミを入れる。
…化け物っておいっ!あんたも人のこと言えないだろうが…
すると廊下から足音が聞こえる。
諏訪はなぜかそれが男性だとわかると3人に向かってアドバイスをする。
「あーじじぃどもが来たから、すり合わせした答え言うんだぞー」
気だるそうな諏訪に対し九鬼が諏訪に意見を言う。
「諏訪さん、それすり合わせっていわねぇーんじゃねぇの?」
「朔、あのな。雑でも意見まとめりゃ、すり合わせなんだよ。」
諏訪の発言を聞いて璻は呆れてしまう。
…今のは自分を通して見えた物の話しただけで果たしてそれはすり合わせというのか?…
諏訪の言葉を聞いて璻は普段からこういう思考ぐせなんだと感じる。
…そういう考え方でよく水流士が務まるものだな。雑でも構わないという気持ちは自分に返ってくるのに…
襖を開ける音がするとそこには本当にそしじぃが部屋から入ってきた。
「さて、じゃあ君たちチームはどういうのが見えたのか教えてくれるかい?」
そしじぃはなぜか目を瞑るとまた指示を出す
「ああーでもこのチームは頭が義景になってるからね。チームとして統率が取れてない。そうだね。こういうの苦手な子が一番発言できるといいかな…ねっ?穂積さん」
穂積は九鬼と璻を一旦見る。
九鬼が呆れて穂積に対してツッコミを入れる
「穂積って言われて俺らなわけねぇだろうが。」
穂積は自分の事を指を指しながらおどおどするとそしじぃに言葉を返す。
「わわわわわ私ですか…」
そしじぃは黙って頷くと穂積を諭すように話しかける。
「君は苦手な物を色々避けて生きてきたでしょうが。でもね君の場合、苦手な物から新しい視点を見出せると学びになる。現に今これが始まる前の穂積さんと今ここにいる穂積さんは全然違う。新しい視点を見出している証拠」
穂積は戸惑いながら応える。
「あああ新しい視点ですかっ…」
一瞬深く考え、自身が璻に言われた事を思い出す。
…新しい視点……私は人前で誰かに期待されるのが苦手でどう評価されているのか考えると怖かった…
そしじぃはまた諭すように穂積に話しかける。
「人前が苦手な君は進歩して人とまともに話せるようになっている。じゃあ実際、少しレベルアップして人前で発言することを体験すると何か学ぶ事があるとは思わないかい?」
璻はそしじぃの言葉を考える。
…そしじぃの言葉はいつも考えさせられる…
大人になると嫌な物や嫌いな人を避けがちになる。ましてやそこから新しい視点や学びなんて、考える事自体やめたがるだろう。日々の生活に満足するとそこから出たがらない。安定思考を求めるのは人間の癖でもある。
そしじぃは穂積に話しかける。
「じゃあ、穂積さん報告を」
そう言われて穂積はガタガタと震え始めた。
自分がこんな簡単な事も出来ない事に腹立たしく感じると同時に仕方ないと自分に対して失望をする。するとなぜか幻聴だろうか?頭の中で声が聞こえてくる。
「君が発言してもまた上手く人に伝わらないよ?喋らない方がいいんじゃない?」
「あなたは上手く喋らない報告できないのがお似合いよ」
そんな声が聞こえ穂積の手が震え始める。そんな声に耐えられず穂積は顔を下に向ける。
…一族の事でもない事に報告なんて出来なっ…
そんな事を思った瞬間、璻の声が聞こえた。
心配した璻が話しかける。
「きょうちゃん、1人じゃ怖いよね。大丈夫。私が隣にいるから助けてほしい時、手を握ってくれたら報告に補足するよ」
九鬼も見兼ねて話しかける。
「お前さ、そんな奴らの話聞いてんのかよ。嫉妬と執着そいつら全部お前に呪いかけた一族の連中じゃんか。」
穂積は思わず顔を上げて九鬼の方向を見る。
「くっ…九鬼さん、まさか聞こえて……」
九鬼はなぜかニヤッとしながら応え始めた。
「そりゃ超聴覚だからな、少し聞こえた。そいつら、低級霊じゃんか。そいつらの事信じるより自分を信じろ。何かあったら璻と俺でフォローすっから」
璻も九鬼の言葉に静かに頷く。
穂積はその言葉を聞いて嬉しく感じた。九鬼の言葉や璻の言葉が穂積の背中を押すように感じた。
まるで温かい手が背中に触れているそんな感覚がする。
穂積は九鬼と璻に深々と頭を下げる。
「はい。やってみます」
穂積はゆっくり口を開いた。
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・人は則ち天下の神物なり
意味:人はみな、この世の特別な、神聖な存在である
これは穂積が水分子を見るときに見る祝詞です。六根清浄大祓の祝詞の一種です。どんなに世の中が荒れようとも心の中には不浄を留め置かず、常に清らかな状態であなたは保てますよとの意味があります。
ちなみに作者の私はこの祝詞が一番好きです。
・苦手な物から新しい視点を見出せる
嫌い、苦手、で避けてきたものの中から新しい視野(価値観)をもたらす。この考え方は星読みからきています。
もちろん苦手なものをずっと続けていくのは苦痛です。しかし、避けてきた中でも改善点や学びや新しい考え方が生まれています。自分の限界はどこなのか?なにが足りなかったのか?どこに焦点を置いて考えていたのか?穂積はトラウマからずっと避けて生きてきました。堕落と罵られることもあったかもしれません。諏訪と同じく穂積も自分に呪いをかけていますが、九鬼と璻の支えでトラウマを乗り越えようと決心したところですね。
・低級霊
この小説には低級霊というものが存在します。
亡くなる瞬間に絶望や後悔や末代まで呪ってやるなどの気持ちが残ると基本、浮遊霊になります。
穂積の場合はずっとその低級霊にいじめられてきただけだと九鬼はアドバイスしています。
九鬼は超聴覚なのでたまに幽霊の声とかも少し聞こえます。
ちなみにパリピの幽霊ほどすぐ成仏するか背後霊になってくれたりします。
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