第47話:分子共鳴
穂積の後ろ姿を心配そうに見つめる璻は見送るとふぅーと息を吐く。
…超感覚だっけ。仕事終わるとどっと疲れるのはそのせいだったのね…
諏訪は璻と九鬼を見ると次の指示を出す。
「あぁ〜龍後と朔はこの水分子の正体を話し合えよ。自分の能力を共有する事はこの職業では大事だからな。そのうち一緒に仕事する事あんだからな。あと龍後」
諏訪は急に璻を名指しすると璻は驚いて返事をする
「はい。」
「気力があれば朔の話を聞いてやれ。」
璻は思わず諏訪の発言に目が点になる。
…諏訪さん、私を休ませる気1ミリもないだろ……
それを聞いていた九鬼は反論を諏訪にする
「はぁっ?諏訪さん、俺頼んでねぇよっ!」
諏訪はため息を吐く
「お前なぁ。はっきり言うぞ。カウンセリング能力は龍後の方が上だ。それにお前のトラウマも癒せるかもしれないからな、ちょっとは龍後から学べ」
奥歯を噛み締め手を力強く握りしめる九鬼の様子を璻はじっと見ていた。
九鬼の様子からするに璻から学べと言われた瞬間に強い抵抗感があるように感じた。
…やっぱり女性に対してのトラウマがあるんだろうか…
そんな言葉が璻の頭の中でよぎる。しかしながらここで「はい」と返事をすると更に九鬼のプライドを折り話辛くなる事なんとなく想像がついていた。何より璻自身が疲れ切っており、若干休憩したいのであまりやりたくないのが本音である。
「諏訪さん、私結構限界なのであまりやりたくありませんね。話し合いはしますけど、個人の話まで聞く気力ないですよ」
諏訪は璻を察したのか返事をする
「おぉーそれもそうだな。余計な事頼んで悪かったわ。」
諏訪は璻に謝ると璻も返事をする
「いえ。」
璻は九鬼を見ると明らかに少しイラついていた。
そんな九鬼に璻は嫌々話しかける。
「九鬼さんは紙コップに入った水分子どう思います?」
璻がそう話しかけると九鬼は一瞬嫌な顔をしたがはぁっ―と深いため息をつき璻の疑問に答える。
「お前…もういいや。そうだな。空気中の水分子より結合が密度な音がする。若干マイナスイオンの匂いがしたから森の水なんじゃないかと思う。」
璻は九鬼の推測に興味をもつと九鬼に質問をする
「九鬼さん、嗅覚鋭いんですか?」
九鬼に対して何一つ気を使わずただ子供のように聞いてくる璻に驚きつつ璻の質問に返答をする。
「あぁ。人よりは敏感だな。俺の場合は音と同時に匂いがする。」
璻は驚きつつも身を乗り出し追撃するように質問をする
「それ諏訪さんが言ってた超聴覚ですよね?部類が同じなんですか?」
九鬼は思わず近づいてくる璻に引くと同時に考える。
…コイツ、なんで人に興味あるんだ。コミュ力お化けか?…
九鬼は冷静になるとまた璻の問いに答える
「いや、諏訪さんとは少し違うな。あの人は超聴覚が特化したタイプ。俺は複合タイプだよ。」
璻が思わず笑ってしまう。
「ふふふっ〜複合タイプってどこぞのゲームみたいですね。音がしたら匂いがするって面白いです。」
笑っている璻はまるで茶化しているように九鬼は見えた。
一瞬嫌そうな表情で璻に反論する
「お前なぁ…面白がるなよ。」
璻はなんとなく九鬼が勘違いしていると感じたのか手を左右に振ると言葉の意図を否定する
「勘違いですよ!私の感じている面白いと九鬼の面白いは受け取っている意味が違いますよ!九鬼さんは私と違う景色を見てるんだなと思うと何か私の中で気づくことないかなって思っちゃうんですよ!私とは違う才能だから、どういう感覚なのか知りたいんです。逆に褒めてますから!本当。」
九鬼はその言葉を聞いて悪い気はしていなかった。
むしろ璻が認めてくれた事に対して九鬼はなんだか嬉しく感じた。
「ところで諏訪さんとは違うって事は九鬼さんはいつも才能を出せるんですか?」
ああっと九鬼は声を出すと返答をする
「諏訪さんは必要な時だけだからな。俺の能力って水分子があると基本使える。基本的に感覚を研ぎ澄ませば、空気にも水は含まれているからそこからも聞こえるし匂いがする。」
璻はそれを聞くと思わず拍手をする。
「へぇーすごいですね。毎日感覚研ぎ澄ましているんですか?」
「お前、バカか?毎回、感覚研ぎ澄ましていたら俺が疲弊するだろうが。知らないのか」
璻は一瞬その言葉に腹が立ったが知らなかった事は事実なので嘘をつかず事実だけ話す。
「はい。知らなかったですね。ちなみにずっーと疲弊したまま使ったらどうなるんですか?」
素直に答える璻に九鬼は呆れた表情をする
「簡単だ。自分じゃなくなるだけだ。疲弊しそのまま仕事をすると体内の水分子は穢れ滞る。それに伴って悪意を持った連中が群がってくる。それも無意識にだな。サイアクなんだよ。お前が想像しやすいように言うとずっと自分の体内から黒板に爪を立て音が永遠になり続ける状態だ。そんな不協和音しか出さない人間に周りは寄ってこねーよ」
…水は穢れ滞る。音…
璻は九鬼の言葉を想像してしまうとその場で姿勢を悪くし口に手を当てる
「うっ……」
璻の様子がおかしいのに九鬼は気が付く。
九鬼はその場に立ち上がると璻の近くに行き様子を見る。
「ほら、いわんこっちゃねーよ。お前、疲れ切ってるから余計に言葉通りに想像したな。」
璻は頷くと九鬼はゆっくりと話す
「お前、確か超感覚だったな。水分子に触れたりカウンセリングすると人の気持ちを入り込んで共感するだろ。それが超感覚のデメリットなんだよ。人の気持ちに飲み込まれると次の瞬間自分じゃなくなるんだ。切り替えが下手くそだとお前が詰むぞ」
九鬼の言葉は璻には痛いほど胸に突き刺さる。
璻はボソッと呟く。
「そんな事言ったって…」
璻は次の瞬間、目が回るような感覚に襲われる。
…あれっ……おかしいな、頭がグラグラする…
璻の様子がおかしく感じた九鬼はその場から立ち上がり諏訪に話しかける
「諏訪さん。璻のやつ、ヤバそうなんで音叉使っていいっすか」
諏訪は九鬼を見ると特に興味無さそうに答える
「いいぞー早く治してやれ」
穂積は璻の様子に駆け寄りそうになるが諏訪に肩を掴まれる。
「おい、穂積。お前まだ終わってねぇーだろ?どこ行くんだよ。」
慌てだす穂積はパニックになる。
「だだだだってあああれ、なんとかしな…」
諏訪は穂積に説教するように言い聞かせる
「お前、自分の事終わってねぇのに助けるなんてまだ早いんだよ!それにあれは朔の専門だ。朔にまかしておけばなんとかなるから。お前はこっちだ。つうことで朔あとよろしく。」
諏訪から許可が出ると少し嬉しそうにして九鬼が答える。
「うっす」
そう言うと九鬼は璻に話しかける。
「お前、仰向けになれるか?」
璻は九鬼に頷くとゆっくり返事をする
「はい。」
璻がその場で仰向けになると九鬼は璻の頭の前で正座をし璻の頭頂部を見る。
「少し頭と額触るぞ」
璻は九鬼にうっすら返事をする。
「はっ…い」
九鬼の冷たい手が璻の額に触れると璻はゆっくり目を閉じる。
「やっぱり額が熱い、こりゃ開き切ってるな。今からお前の体内の水分子変えるからそのまま動くなよ。」
九鬼は右手をズボンのポケットに突っ込むとYの字型の銀製の金属を取り出し右手に握る。
同時に小さい組子細工のような物がポケットから落ちる音がした。
璻は音に気付きゆっくり目を開けると組子細工を見る
竜胆とよく似た形に見えるけど違うことがわかった。
…これは音叉と組子細工?なんで……
「お前のデコに組子細工乗っけるけど気にすんなよ。目を瞑っておけ。目開いてたら調整できねぇぞ。5分あれば今の状態から変わるから少し待て」
璻は何をするのかわからないままただ返事をする
「はい」
九鬼は組子細工を璻の額に置く。両手を合わせて呼吸を整えると何か唱え始める。
「祓へ給い清め給う」
そう唱えると音叉を持った九鬼がまたなにか唱え始める。
「分子共鳴528Hz」
九鬼の目の瞳孔が大きく開くと同時に音叉が鳴り始めた。
心地いい独特の高い音に璻はゆっくり目を閉じながら何回も深い呼吸をする。
そう何回も何回も呼吸をする。気が付くと音が鳴り止んだ。
九鬼は璻の顔を覗きこむと話しかける。
「もう目開けていいぞ。」
璻は目を開けるとすっかり眩暈は収まっていた。
ゆっくり身体を起こすとへんな感覚はなく、目の前がはっきりと映っていた。
…なんだ。これ?何が起こってるんだ……
びっくりするくらい璻の体調が良くなっていた。
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・「祓へ給い清め給う」
水流士は必ず水分子を治す際には祝詞を唱えます。施術する依頼者に対して敬意や感謝を祝詞に込めています。
「穢れを綺麗に流しましょう。あなたも私もかけがえのない存在です。本来のあなたに戻りましょう。」という意味があります。
・分子共鳴528Hz
地球に存在する全てのものには固有振動数があります。
九鬼の一族は音と匂いに特化した一族です。人間にも固有振動数があるのですが九鬼はバランスが崩れている水分子を特定し音で変えることができます。特に528Hzはどんな時でも体の分子構造をバランスよく保てるので九鬼は音叉の528Hzはいつも持ち歩いています。2050年には波動医療や音波医療などが一般的になりますが音叉が先駆けて治療になるため、九鬼はそこでも経験を積みました。
※九鬼自身が本人も音叉が好きなのもあります。本人曰く、かっこいいからという理由です。なぜかっこいいかは…作者の私でもちょっとわかりません。九鬼は音で水分子を治すこと自体は得意分野でもあります
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