第45話:創造せよ。命は謳う
諏訪は3人の表情から察したのかアドバイスをする
「お前ら、今のやるべきこと忘れたって顔やめろよ。仕事じゃそれ通じないからな」
諏訪は璻の方を見ると話しかける。
「朔は獅子子ねぇさんの言いつけで水は使えねーし、穂積は水に触れてもいいが俺が穂積の補佐できねーし、おい、そこの藤宮の新人お前が先でいいか?」
璻はなんとなく水分子を見る順番をみんなが決めないから諏訪は面倒になり璻自身を一番最初に指名したのがよくわかった。
…でもなんだろう、藤宮の新人って言われると藤宮の所有物って言われてるみたいでなんとなく腹が立つ…
璻は諏訪に思わず言い返す
「諏訪さん、龍後璻です。いい加減名前覚えてください。このやりとりかれこれ3回目ですよ」
諏訪は璻の説教にだるくなったのか雑に謝る
「わっーかったよ。わりぃな。龍後」
璻は九鬼と穂積に視線を向けると水分子を見る順番は自分が先でいいかと確認を取る
「きょうちゃんと九鬼さんそれでいいです?」
穂積は頷き、九鬼は「あぁっ」っと言うと璻は諏訪に仕事の質問をする。
「では、私から先にやりますが…組子細工を使うんですか?」
諏訪に疑問を投げると素直に答える
「いや、組子細工は使わない。俺、物持つの好きじゃねーんだよ」
「じゃぁ、どうするんですか?」
璻の問いかけに諏訪は黙って右手の甲に彫られたタトゥーを璻に見せた。
璻はそのマークに見覚えがあった
「これっ!」
諏訪の手の甲には彫られた六角形の竜胆が書かれていた。
璻は諏訪の手の甲をじっと見つめてから諏訪に話しかける。
「組子細工はみんな使うもんだと思っていました」
諏訪は何言ってんだコイツと言わんばかりの顔をし璻に説明をした。
「組子細工使うのは喜三郎のじじいと藤宮くらいだわ。」
…そうなんだ…
続けて諏訪は璻に話しかける
「つか、いいよなぁー人に寄り添って見える感性俺も欲しかったわ。ついでに藤宮みたいにモテたかったわ。羨ましい」
璻は諏訪の発言から藤宮をふと思い出す、ある時は血が出るほど女性にビンタされ、またある時は髪の毛が大量に入ったクッキーを渡され、変に誤解するメンヘラたちが群がってくるのに。
…諏訪さんは藤宮さんの何に対して羨ましいと思ってるんだろうか……
璻は諏訪の軽口にお灸を添えるように言い返す
「藤宮さん、メンヘラ女に好かれてますよ。ついでに髪の毛が大量に入ったクッキーとかもらって困ってましたよ。依存した女性や束縛される女性が群がってきてもそれでも諏訪さんモテたいですか?」
璻は諏訪に詰め寄ると諏訪は瞬時に嫌な顔をした。
「いや…それ聞いてモテたい欲が格段に減りました。」
穂積は黙って璻を見つめながら話を聞いていた。
穂積の目の前にいた九鬼も諏訪に対して思うところがあったのか頷きながら璻と諏訪の話に聞き耳を立てていた。
しゅんとした諏訪に畳み掛けるように璻は追い討ちをかける。
「そんな諏訪さんのためになんでもよしよししてくれる都合の良い女性は世の中にいません。大体見合った努力もしないでいい女性来るわけないでしょ。自分の妄想の中で暮らさないで現実にちゃんと足つけて生きて下さいよ。あとやる事ちゃんとやってから寝言言って下さい」
諏訪に対してズバズバ言う璻が面白くなったのか九鬼は吹き出すと笑い転げ始めた。
「あはははははっつ〜〜〜‼︎」
穂積は目をキラキラさせながら璻の話を一挙一動見守っていた。
諏訪の心に璻の言葉がグサグサ槍のように刺さると急に肩身が狭くなったのか部屋の端に小さくなり体育座りを始める。
「クソっっ!ごもっともで言い返せねーよ。龍後は獅子子ねぇさんよりズバズバと厳しい事言うんだな。」
璻は厳しい目で諏訪を見ていた。
藤宮もそうだが諏訪も藤宮と同様都合の悪い事を言われるとすぐ拗ねるタイプなんだと感じた。
…前途多難…
そう思うと不思議とため息が口から溢れ出る。
「はぁっ…当たり前の事しか言ってないんですけど。」
明らかに拗ねている諏訪に対し璻はめんどくさくなる。
諏訪は小言を何度も何度も言い始める。
「非常に耳が痛いよぉ……ボク、シゴトヤリタクナイ」
…いや、なぜカタコト。というか、諏訪さんを正論で殴りすぎてしまった…
反省する璻に九鬼はその場から立ち上がりなぜかこそこそと璻の近くに行くと璻にボソっとアドバイスをする
「ああぁっ〜あーなった諏訪さんめんどくせぇからな。さっきのやり取り見てたけど煽って種撒いたのお前だろ。責任持って回収しろ。諏訪さんは気持ちを一様わかった気で共感してから今やること突きつけると何事もなかったようにケロッと復活するから」
…そんなことで諏訪さんの機嫌はなんとかなるのか?…
璻はとりあえず優しくしてくれた?九鬼にお礼を言った。
「…はいっ。なんとかします。ありがとうございます」
九鬼はその場から離れると九鬼のアドバイス通り璻は立ち上がった。部屋の隅に座っている諏訪の横にしゃがむと肩にポンと手を置いた。
…うわぁぁ、正直めんどくさい……
璻は必死に共感するフリをしながらにこやかに諏訪に話しかける。
「諏訪さん、少し私が言いすぎました。現実を見たくない気持ちはツライほどわかります。ですが落ち込む前に仕事残ってますよね?一緒に仕事終わらせませんか?諏訪さんがいないと始まらないので……」
璻は諏訪の肩から手を離すと諏訪はゆっくり頷く
「うっ……はい。」
諏訪は立ち上がると九鬼と穂積を見る。
さっきの表情と打って変わって冷静に指示を出す。
「いいかーー!お前ら紙コップ何個かあるから、味とか匂いとか観察しとけよ。穂積、朔は一応水に触るなよ。」
九鬼と穂積は一斉に返事をする
「はい」
諏訪は何事もなかったように振る舞いケロッとしていた。
…さっきまでの言動はなんだったのか…
諏訪は歩いて折り畳みテーブルの前に行くと璻を手招きした。
「ほら、龍後やるんだろ?俺の隣に来ないとできねぇだろうが」
璻は諏訪に返事をする
「はい。」
そういうと璻は立ち上がり諏訪の隣へ向かった。
諏訪は璻を見ると話しかける。
「よし、じゃあ。始めるぞ」
そういうと諏訪はワイシャツを腕まで捲ると紙コップに入っている水を見つめ手を合わせ数十秒間合掌を始めた。目を開いて、テーブルに置いてある紙コップの縁を軽く人差し指で叩く。
「払い給い清め給う」
紙コップに入っていた水が璻の目の前にゆっくりと浮かび上がる。
諏訪は浮いている水を隈なく見渡すと諏訪はまた言葉を唱える。
「水面よ記憶を開示せよ」
宙に浮いた水はクルクルと一回転すると璻の目の前で止まった。
「おい、龍後。終わったぞ。俺の仕事はこれで終わり」
藤宮より工程が少ないことに璻は驚くと諏訪に質問をする。
「えっ、あの…藤宮さんは水を広げて水分子を見やすくするんですが…諏訪さんはしないんですか?」
諏訪はあぁーと少し悩みつつ璻に説明した。
「そりゃ…藤宮は仕事がしやすいように龍後を気遣ってるだけだ。水分子を広げ見るのは藤宮のスタイル、ありゃな。人に気遣える優男だからできるんだよ。俺はそこまで気遣う必要はないと思っている」
…気遣う必要?あれは正式な手順じゃないの?…
「そうなんですね。ちなみに諏訪さんはこの状態からどうやって水分子を見るんですか?」
諏訪は顔を左上に向けると少し悩む。
「そうだな…ああっ…まぁいいか。わかった。」
諏訪はまるで誰かと話しているように璻には見えた。
下がってきた腕のシャツを諏訪は捲り上げ璻に話しかける。
「どうせなら、龍後一回やってみっか。」
諏訪の言葉を読み取ると諏訪のやり方で水分子を見る方向に向かっているのはさすがの璻でも読み取れる。
…いやいや、誰が諏訪さんのやり方で見るって言ったんだ?私の補佐する方向の話だったじゃん…
「えっ?いやっ…あのっ…ちょっとっ…聞いているだけなんでっ…」
諏訪はニヤッとすると指パッチンをしなにかを唱え始める
「創造せよ。命は謳う。創造せよ。生命は振動する。創造せよ。命は行動する。」
諏訪がそう唱えた瞬間に水の中が光始めた。それは優しく美しい揺らぎの光に璻は見えた。
諏訪は璻に話しかける。
「龍後、じゃあ触ってみろ」
「いっ…いきなりですか?」
諏訪は明らかに璻が怖がっているように感じたのでフォローをする
「藤宮とは見方は変わるがあんまり大差ないから大丈夫だ」
…簡単に言ってるんだけど…
璻は恐る恐る人差し指を浮いている水に近づけ、目をつぶった。
人差し指が水触れると冷たい感覚が璻の脳まで伝わる。
次の瞬間、全身が水の中に入るような体感が一気に感じる。
目を開けると水の中にぷかぷかと浅瀬で浮くような感覚に璻は驚いていた。
…いつも記憶を見る時は水に入る音がして深く沈んでいくのに、諏訪さんはそれがないのが不思議…
璻はつい心地よくなっていき目をゆっくりと瞑る
……諏訪さんは創造せよ…命は謳う…って言ってたな。いい詠唱だったな…
ゆらゆらと流されながら大事な事に璻は今更気づいた。
「あっ、そういえば、潜らないとどうやって水分子の記憶を見るんだろ?」
璻がそう声を発した瞬間、水の中に浮かんでるのになぜか目の前に六角形や丸のような形が見える
璻はうっ?と違和感を感じ、目をぱちぱちするとさらにその六角形や丸の形が繋がって見えてきた。
…まるで水分子のような配列に似ている…
璻は目を擦りもう一回目を見開きあたりを確認する。
段々と目が肥えてきたのか見覚えがある水分子の配列が広がっているように見えてきた。
「いやいや、まさかぁ〜そんな事ないでしょ〜」
璻はまた目を擦り開くと先程より数が多く水分子が見えるようになっている。無数に見える数が広がると絶望感が増す璻は思わず声が漏れる。
「いやぁ…まじですか……」
これだけ水分子の数がある場合記憶を一つ一つ見るのは時間がかかる。
途方に暮れる璻はふと藤宮のやり方を思い出していた。
…藤宮さんならどうしてたっけ?というか今まで記憶を見る水分子を藤宮さんが選別してたけどあれ藤宮さんの気遣いと優しさだったのかもしれない…
璻はむしろ今まで藤宮に決めてもらってきた事自体、ありがたかったかもしれないと思った。
藤宮に対して感謝が身に染みて感じるが同時に何も説明しなく丸投げの諏訪に対して怒りを感じる
「全然言ってたことと違うじゃん!アドバイスすらないって丸投げ状態じゃんっっつ!!」
一方の諏訪は隣で目を瞑っている璻に対して意地悪そうに笑う
「さて、龍後は仕組みに気がつくのか…見ものだな」
諏訪は壁に飾ってある置き時計を確認する。
すると璻が目を閉じて1分ほど経過していた。
:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。
・諏訪の藤宮に対しての僻み
諏訪は少し藤宮がモテているように見えている。
相手に深く共感する超感覚の大変は諏訪は知らないです。藤宮のことをモテてると勘違いしています。
自分の妄想に拍車がかかることは獅子子にも指摘されてるためまさか璻にも指摘されるとは思っていませんでした。
諏訪の態度を見ると拗ねてしまっているのでトラウマを癒す段階ではなく自分の理想の妄想の中にまだ居たいのが強く感じられます。
・創造せよ。命は謳う。創造せよ。生命は振動する。創造せよ。命は行動する。
諏訪独特の詠唱です。
これは全ては”創造することから物事は始まる”という意味があります。人間は創造することから全てが始まり、行動し初めて自分の求めていた答えに辿り着きます。この地球は自ら振動を起こす(意識、行動を決める)ことで自分の見ている世界は変わるんだという意味も持っています。諏訪の一族が関わっている詠唱ですがこれに触れるのはもう少し先になります。
・丸投げ
「丸投げ」とは、本来の責任者が自身の業務を、責任や関与なく他者に全て任せること。説明も無しに急にやれって言われることを丸投げと言います。社会人になると丸投げされることが多々あるのでそれをいかに柔軟に対応し華麗にこなせるのかが試されます。
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