第44話:緊張の正体
璻は真剣に穂積を見るとゆっくりと口を開く
「それって……」
九鬼と諏訪は璻の方を見る。
真剣な璻の表情に九鬼と諏訪は息を呑む
穂積は璻に何を言われるのかと思うと心臓がバクバクし内心ヒヤヒヤしていた。
自分の呼吸が浅くなるのを感じた穂積は昔のことが頭にチラついていた。
黒い人型やモザイクがかかった人が浮かぶと穂積の耳元で呪いをかけるように囁く。
「そんな立派な家柄なのにお前勉強も才能もないのかよ。一族の恥知らず」
「生まれてくるとこからやり直せば?」
「あなた八咫烏の一族なのよっ‼︎奉仕するのが当たり前でしょ?」
…ああっ…そんな言葉ばっかり、うんざりよ。もう…
璻は穂積を見るとなぜかニヤッとした。
「あははっ!全然わかんないや〜わかりやすく教えて」
璻の言葉に諏訪と九鬼は座ってる場所からずっこけてしまう。
穂積は璻の言葉に拍子抜けするとなぜかクスッと笑う。
「ふふふっ…あっ……すいません。つい笑ってしまって。」
笑ったら少しスッとしたのか緊張しきった穂積の顔はリラックスしていた
固くなっていた穂積の表情がほぐれ柔らかく感じる。
少し嬉しく思ったのか璻も思わずニコッと笑ってしまう。
「よかった。ようやく笑ってくれたね」
穂積は動揺し思わず声が出てしまう。
「?!?!えっ?」
予想もしなかった言葉に穂積は焦っていた。
璻は穂積の心の中を覗くように核心についた言葉を言い放つ
「だって、きょうちゃん。ずっと他人からどう見られているか不安だったんじゃないかなって?」
穂積は人と喋ることに対して抵抗感がありその正体がなんなのか本人もわからなかった。
喉から手が出るほど欲しかった答えを璻が当ててきたことに驚く
「どうしてそれを…」
璻は穂積の絡まっているトラウマを解くように説明を始める。
「なんとなくなんだけどね。緊張してると人間は他人にどう見られているのか無意識に考えてしまって意識が自分に向かなくなるんだよ。他人の立場や気持ち、他人の希望に沿った利益が得られるかとかまた他人から受ける自分の評価を考えすぎな人ほど緊張しやすい傾向があるんだよ。そうなった時に呼吸が浅くなり自分の意志が萎縮する。それが積み重なると大きなトラウマに発展しやすい。って藤宮さんがそんな感じで言ってたなって〜さっき思い出しまして。」
璻の言葉にハッとしたのか穂積はたどたどしく答える。
「そっ…そうですか。私無意識で緊張していたんですね。」
璻は穂積の表情を見ながら真剣に答えた。
「少なくても私にはそう見えたよ」
穂積は璻の言葉に感銘を受けた。
ここまで人の心に共感するのはある意味とんでもない才能だなと感じた穂積は同時に璻には嘘がつけないことが瞬間的にわかった。観念してトラウマの経緯を説明することにした。
「そっ…そうですか、昔八咫烏を信仰していた方に酷くつけ回されていて…そのっ…つまり、言いづらいんですが、少しその方と九鬼さんの言い方が似ていまして思い出してしまいました。それで私萎縮してしまってっ…」
九鬼はそれを聞いてなぜか穂積に向かって土下座をし謝った。
「すまなかった。そういうつもりじゃなかったんだよ。」
穂積は両手を振り、九鬼に頭を上げるようお願いをする。
「いっ…いや、いいんです。九鬼さん頭を上げてください。私も怖がってごめんなさいっ…九鬼さんのっ…人のせいにするつもりはないです。私の心の中の問題がただ現実になって反映されただけなんで…だから九鬼さんは悪くないんです。むむむっ…むしろ不快な思いをさせてしまってすみません。」
九鬼は頭を上げて穂積を見ていた。
璻はその光景を見てなんだかいいことをした気分に浸っていた。
諏訪はその様子を見て璻のぐわっと頭を掴んだ。
「おいっ!!龍後」
何事かと思った璻はビクビクしながら諏訪の方向をゆっくり振り返る
「はっ…はい」
諏訪は少し怒っていた。
「お前ここは施術場じゃねぇーんだぞぉ。勝手にカウンセリングして穂積のトラウマを癒すなっ!!」
そう言うと諏訪は璻の頭を掴んでいた手を離す
璻は悪びれる様子もなく諏訪に聞いた。
「えっ…それってダメなんですか?」
諏訪ははぁっ…とため息を出し説明し始める。
「お前なぁ…マジで何も知らねぇのかよ。いいか、この地球にはルールがあんだよ。勝手に人の記憶を覗かないこと、本人の意思表示まで待つこと。自分は良かれと思ってもアドバイスしても相手は良かれと思ってねぇ時あんだろうがっ‼︎」
諏訪の指摘に璻はハッとさせられる。
…そうだった。それ前にも言われたことがあった…
「今回は水流士同士だからいいが、誰でもやるなよ。それ続けると藤宮の二の舞になるぞ。あと言い忘れたが次からちゃんと相手に確認とれよ。」
璻は諏訪に対して謝った。
「すっ…すいませんでした」
諏訪は不服そうな顔して璻に詰め寄る
「いや、俺より穂積に最初謝るんじゃねぇのかよ」
諏訪の言葉にハッとする。
…確かに無意識にカウンセリングしたのは私だし藤宮さんといるおかげで相手のトラウマがなんとなくわかるようになってきたけど、勝手に人の中にズカズカ入り込むなんて失礼だよね…
「確かにそうですね」
璻は穂積を見て頭を下げる。
「きょうちゃんごめんね」
謝る璻に穂積はフォローをする。
「いいんです。むしろ私のトラウマに気づいて指摘しなければ私自身わからなかったから。それにトラウマを治すのはこの仕事にもつながるし今後の私の人生にもよくなると思う、逆に私がお礼を言いたいです。あっあああっ…ありがとございます」
諏訪は話に割って入る。
「んで、穂積の話はなんだったけ?」
諏訪の問いに穂積は先ほどよりも少し落ち着いて話始める。
「対したことないんですが…たっ…確かに璻さんは八咫烏とか元々知らない人だったなって」
諏訪は座り直すと深くため息をついた。
九鬼も頭を抱え座り直し璻に説教をする
「そうだよ。その話だっ‼︎お前マジいい加減にしろよっっっ!」
璻は急にとってつけたような九鬼に腹が立ちながらも九鬼に対して言い訳をする
「だって、八咫烏の話知らないと話についていけないじゃんっ!」
九鬼は悩みうーんと腕を組むと璻に向かって話しかける
「どっから知らねぇーんだよ。」
璻は九鬼のその質問になぜか優しさを感じた。
…聞いてくれたって事は教えてくれるのかな?優しい所あんじゃん…
「八咫烏あたりから知らないかも…」
九鬼はさらにため息をついた。
璻に説明をし始める。
「八咫烏は元々日本の秘密結社と言われている。賀茂の末裔っ!賀茂わかるか?」
璻は九鬼に対して聞き返す。
「賀茂って陰陽道の賀茂?京都に神社がある所です?合ってます?」
「おぉっ…知識が薄いお前でも賀茂はわかんだな。」
璻は九鬼の発言を聞いてイラっとしたと同時にコイツを一瞬でも優しいなんて思った自分にガッカリした。
…おーおーもうその発言で前言撤回だわ…
九鬼は穂積を指差し「コイツ、賀茂の末裔。わかる?」
璻はおどろいた表情をして穂積を見ると思わず穂積に聞いた。
「賀茂?」
穂積は笑顔でうんうん頷くと璻に説明する
「間違ってはいないけど大きな括りで賀茂ですね」
璻はおおぉ―と言うと思わず拍手をした。
九鬼は明らかに理解が遅い璻に目頭を抑え疲れ切った表情をする
「反応がワンテンポおせぇーよっ。んで八咫烏の一族でもある八咫鏡の管理がなんでこんな所にいんだよ」
さっきまでの聞き方を反省したのか九鬼は穂積に優しく聞くと穂積は答える。
「八咫鏡の管理はさささ…さっきみたいに自分の中のエゴとトラウマがあると扱えないんですっ…」
九鬼はなんとなく察するようにボソッと呟く
「ようは自分の認識度が狭く理解度が低いと扱えないのか…」
璻は九鬼のその言葉になぜか違和感を覚えたが諏訪が急にめんどくさそうに話し始める。
「んでやっと話終わったな。水分子誰から見るんだ?って話はどうなったんだよ」
3人はハッ…という顔をした。
3人ともすっかり話に夢中になり今レク中だということを忘れていた。
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・緊張のトラウマ
緊張は他人にどう見られているのかを考えると緊張をし始めます。
なので緊張しないやり方は大勢の場で自分がどう立ち振る舞ったらいいのかイメージトレーニングすると大半は解決します。ただトラウマがある場合はそのトラウマがどこの記憶なのか自分できちんと認識しないと解決しません。
穂積は以前ネグレクト編で依頼主にいた渦見と逆なパターンです。承認欲求のトラウマですが特にこの場合は幼少期に親や周りの友達、地域の人から自分の尊厳や自分の存在を深く傷つけられないと穂積みたいにはなりません。
・地球のルール。勝手に相手の記憶を覗かないこと、本人の意思表示まで待つこと。本人の自由意志が尊重することがルール。
このルールは前にも説明しましたが、霊視や超感覚や超聴覚や超視覚を持つ人間は依頼主が見ていいよと言うまで見てはいけないルールになっています。地球は自由意志の世界なので。話の流れで見てもいいとなった場合はいいですが勝手に見て勝手に判断すると地球?宇宙のことわりから反しているので自分に嫌な思いをすることになります。
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