第40話:不都合な真実を口外すると消されかける
杖をつきながら璻を追い越し歩く。
璻は不思議なことに気がついた。
そしじぃは地面を歩いてるのになぜか足音がしない。
…この人ゆっくりと歩いてるのに草や木々の踏む音が聞こえない…
そしじぃは畑に着くと杖をゆっくりと置きその場にしゃがみ込んだ。
畑のわさびの葉を一つ一つ愛でるように見ている。
璻はふと疑問が湧き上がった。
…そういえば、人が歩いてくる気配を一切感じなかった。このスッと現れる感覚どこかで…
璻の頭の中でふと皇の顔が浮かぶ。
「あっ!そうだ。神出鬼没の皇さんだぁっ!!
そしじぃは笑いながら璻に話しかけた。
「皇くんも知っているのかい?」
璻は頷きながらそしじぃの疑問に答えた。
「はい。こないだ石屋の案件を依頼してもらったので」
「彼はワシのはとこだからねぇ」
「ははははっはとこぉぉぉぉぉっ?!」
璻があまりに驚くのでそしじぃは少しショックを受けた表情をした
「ずーん。そんなに驚かなくてもいいじゃない。ワシだって彼ぐらいの歳には頭がキレるイケメンだったさ。」
「いや、容姿のこと言ってないですよっ!!」
…でも確かに何か読めないところや神出鬼没のところ言われてみればなんとなく顔立ちも少し皇さんに似ている…
そしじぃは少し戸惑っている璻に続けて話しかけた
「そんなことで驚いている場合じゃない。この農園の説明をしようか。さて問題、わさび農園は山でしか作らない理由があるんだよ。それは何かわかるかい?」
突然の問いに璻は困惑をしながらわさびの葉を見ているそしじぃの近くまで歩いた。
「山の水が綺麗だからですか?」
そしじいは首を横に振る
「不正解にもならない正解にもならないふわっとした一般的な回答だね。それっ……」
璻は唐突に小賢しい回答をされてさらに困惑する。
…じゃあ何を答えれば正解なんだ…
そしじぃは再びわさびの葉を見ながら璻の問いにヒントを加えて答える。
「冬の雪解け水の水分子の形が綺麗なんだよね。空気中には必ず水が含まれているが特に綺麗な水分子を作るにはマイナスイオンが必須なのはわかっているよね」
璻は頷きながらそしじぃの質問に答えた。
「はい。森林が多い地方は空気中のマイナスイオンが多く都会だとプラスイオンが多いのが現状です。しかも現代ではプラスイオンの環境で長期間過ごすと人間はストレスを感じやすいという事は大学で習いました。」
そしじぃは璻に向かって思わず拍手をした。
「ちゃんと勉強してたんだね。偉い偉い」
…このおじいちゃん、まさか私の事おちょくってる?…
そしじぃはしゃがんでる体勢から立ち上がると近くにいた璻を見つめ話の続きをし始めた。
「そう君の言うようにマイナスイオンを含んだ雪解け水には記憶も情報も持っていないんだよ。」
…水は常にその情報を記録している。私たちの空気中もそうなんだけど…
「その言い方だと普通の飲み水は情報を持っているって聞こえるんですけど。」
そしじぃは驚きもせず淡々と答え始める。
「ああ、そうだよ。水道水には煮沸しない限り必ず人間の思念が含まれているんだよ。水は記憶する物質だから…」
…思念?……
璻は思わずそしじぃに聞き返した。
「思念?って…あの思念ですか?」
「そうだよ。君が考えている事を当ててあげようかい?例えば、毎日死にたいと思っている人が摂取した水は死にたいと思う思念で水分子の形を構築するし自分だけが得をしたいと思うと水はその思念にふさわしい形の水分子へ構築する。それを飲んだ人は少なからず水分子から影響を受けるとしたら……」
璻は背筋がゾッとすると思わず口を手で軽く抑えた。
「それが本当なら水道水は人間の思念である私利私欲みたいなのが混じっている事になりますね……」
璻はそれを想像しただけで胸の中がモヤモヤした。
色んな思念を常に飲んでいると思うとなぜか吐き気が湧いてくる。
そしじぃは璻を心配する様子もなく煽り立てる。
「真実は常に残酷なものよのぅ。中東では一回水を沸騰させる文化あるがあれは水の中にある思念を浄化するためにやってる所も多い。大量に水道水に消毒液を入れた所で煮沸しないと記憶した思念の水分子の形状は無くならないよ。」
そしじぃはなぜか悲しそうな表情を見せた。
璻はそんなそしじぃの表情から読み解くは皆無に等しいことは自分でもわかっていた。
なので続けてそしじぃに質問をする
「もう一つ質問しますが、煮沸すると水蒸気になり水分子の構造が変わるから思念の記憶も元に戻るって事ですか?」
璻の回答にそしじぃはなぜかニヤッとする。
「大当たり。山の水も蒸発して大気になり雲から雨や雪になると大地に広がり川から海に行きまた海面が蒸発をして雲になり山に帰る。これの繰り返しよ。特に水は高い所から低い所に湾曲を描きながら流れている。これは水分子の構造が活性化する自然の摂理。」
…自然の摂理で水分子が成り立っているでも…
「確かに言われて見ればそうですが。それが何にも情報を持たない水になるんですか?」
そしじぃは少し偉そうに話をする
「いやいやまだあるぞ。人と接しない動植物は思念を持たず未来を見ながら冬眠をしまた目覚め自分の子孫を残す。その動植物は少なからず水を補給し排出すると水蒸気になるが、氷点下の中生き続けた動植物は特殊な夢を見るんだよ。そこはまだワシらが今まさに研究している最中でね。まだ解明できてないんだよ。その冬眠中の動植物から排出された水が雪になり溶けると何も記憶や情報を含んでいない綺麗な水分子の形になる」
…特殊な夢…
璻はその話を聞きながらニヤニヤしていた。
そしじぃはそんな璻に意見を求めた。
「動植物のおかげで何も情報を持たない綺麗な水になる。君は今の話を聞いて面白いと思うかい?」
「はい。とっても興味深いです。ですが…」
璻はうーんと悩みそしじぃに質問をした。
どうにも先ほどの話が腑に落ちない。
「さっきの話を簡単に要約すると水を沸騰させ蒸発すると思念である私利私欲がなくなりその水を冷凍すると思念がない水になるよー。だけど沸騰させない水を飲んじゃうと他の人の思念が体内に入り少なからず影響があるよー。でも山の水は雪解け水が多いから思念とかないよ。綺麗な水分子だよって事ですか?」
そしじぃは璻に向かってまた拍手をした。
「君は要約するのが上手だね」
璻は少しため息を出すとそしじぃに反論した
「そしじぃの話が長いんですよ。もっと簡単にお願いしますよ」
それを聞いたそしじぃは拗ねながら応える
「君は効率重視だね。すぐに結果を求めても楽しみはないよ。あと高齢者を煽らないの」
…都合の悪い時だけ高齢者を使うんかい。そして私は煽ってない、事実を言っただけ……
璻は何かに気づいたようにそしじぃに質問をする。
「あっ。そういえば、そしじぃは本当は足悪くないのになぜ杖を使っているんですか?」
そしじぃは驚いた顔をした。
「ありゃーばれちまったねぇ。いつから気づいてたんだい?」
「そしじぃに出会った際に座布団に座っていたじゃないですか。歳の割に背骨が丸くなっていなかったのと立った時重心がズレておらず、足がまっすぐしていたので、足悪い演技をしているのかなって」
璻の冷静な推理にそしじぃは声をあげて豪快に笑った。
「いや〜あっぱれ。面白いね。恐れ入った」
璻は思わずそしじぃに理由を聞いた
「何かあったんですか?」
こんなに頭がいいタイプがそんなアホなことは普通はしない。
絶対に何か事情があるはずと璻は思った。
そんなことが垣間見えたのかそしじぃは真剣に璻を見つめた。
「ちょっと昔話に付き合ってもらうけどいいかい?」
璻は深く頷くと「はい。」と返事をした。
そしじぃは目をゆっくり目を瞑るとその頃のことを思い出しているように璻には見えた。
ゆっくりとそしじぃは目を開き当時の出来事を話し始めた。
「20年前だったかなワシは水分子研究をしていた。水分子の記憶の性質を周りに伝えたが周りは誰も信じてもらえなかった。大学にも論文を出したが急に研究費用が打ち切られ、一緒に研究していた仲間たちは次々と不自然な自殺が続いたんだ。それでもワシは諦めず世の中が良くなると確信し論文を書き続けた。だか、ある時を栄に陰謀だと言われ挙げ句にワシは何度も殺されかけた。空港や街中で追ってくる人とか階段から突き落としてくる人、あと電車の線路に突き落とされたりそういうのがだんだん増えてね。不自然だったんだよ。殺されていたらワシは今ここにいないかもね」
…いやっ。内容が思ったより重い。そして暗殺されかけてたのこのおじいさん…
璻は話に割って質問をした。
「どうして。そしじぃは正しいことをしたのに狙われたんですか?」
「多分時代が原因だったんだよ。その時代では出されちゃいけない事だったんだろうね。社会にとって不都合な真実だった。そのうちワシが研究していた技術は研究仲間だった移民が全て持ち去り研究の内容は企業に買収され、大陸の国の発展のためにワシの研究していた技術が使われた。ワシは悲しくなってね。大学を辞めて社会から隠れるように別で研究を始めたんだ。また都会にいて命を狙われても困るから足が悪い爺さんのフリを続けたんだよ。この世に足の悪い爺さんごまんといるだろ?世界が変わるのをいまかいまかと待ちながら日本が未来で発展するように静かに研究を続けたんだ」
そんなことをしていたのかと思わず旧日本政府にも諸外国にも璻は呆れて言葉が出ない。しかしながらこの人は未来を見通して動ける人なんだと確信した。
…そしじぃは殺されないようにひっそりと動いていたんだ…
璻はもう一つ質問をした。
「誰もそしじぃを助けてくれなかったんですか?」
「一族だけは助けてくれたさ。ただし、家業はやる条件でね。家業は土地の浄化でね。水分子を理解しなければ成り立たない事に気づいてから、山にこもり研究を続けた。そして水流士という組織をワシを含め3人で作った。」
…待ってそしじぃの他にも頭がキレる水流士がいるの?…
「そしじぃの他にあと2人もいるんですか?」
そしじぃは少し気怠くなりながら璻の疑問に答えた。
「そうだよ。あーアイツらは滅多に出てこないよ。変わっているからね。」
「そう…ですか」
「さて、話すぎたね。わさび1本収穫しようかのぅ。女将がわさびいるからとってこいって高齢のジジイを使うな…」
そしじぃの小言を璻は黙って聞いていた。
そしじぃはすごい人なのに女将は一切特別扱いせず、ここに住むならやることやれという意志をなんとなく感じた。
女性はいくつになっても強いなと感じた。
それと同時に女将に気弱なそしじぃの姿を想像すると少し笑えてくる。
…そしじぃは女将には頭が上がらないのね……
そしじぃは唐突に璻に話しかけた。
「わさび収穫してみるかい?」
「いいんですか?」
璻は思わず前のめりになりながら応えた
「ああ、手前に生えているわさびをゆっくり引っ張るといいよ。」
「あれでいいですか?」
璻は畑の手前にあるわさびを指を挿すとそしじぃは黙って頷き心配した表情で璻を見た。
「ああ、泥だられは嫌だろう?転ばないようにするんだよ。」
璻は畑まで行き手前のわさびを確認すると根本から引き抜いた。
璻はわさびがこんなに簡単に抜けるとは思っておらず、収穫したわさびをじろじろと見つめた。
「少し小さかったのね。」
そしじぃはその姿を見ると笑いながら璻に話しかけた。
「大きいと思ったのかい?そんな事ないよ。手前の湧水でわさびを洗ってこっちに戻っておいで」
「はい。」
そう返事を返すと璻は近くにあった湧水でわさびを綺麗に洗いそしじぃの近くまで歩いた。
「では、戻るかのぅ…」
そういうとそしじぃは階段に向かって歩き始めた。
璻は思わず、収穫したわさびを高々くあげると声をかける
「あのっ〜〜〜〜わさびいらないんですかっ!」
そしじぃは呆れた表情で璻を見つめると大きな声で呼びかけた。
「何寝ぼけた事言ってるんだい?君も来るんだよ。あっ…忘れてた地面に置いた杖持ってきて」
「えっ……」
璻はそしじぃが置いた杖を発見し片手に持つ。
…片方にわさび片方に杖ってこれ傍から見たらおかしい人じゃない…
そんなことを思いながら璻は急いでそしじぃの後を追った。
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・不都合な真実
社会的にその技術を今出しては研究者や論文などはすぐに削除されることが多い時代がありました。それは石屋がほぼ社会構造を仕切っていたためそれを出したら売れなくなることを恐れた人たちが一定数いたからです。この小説では旧政府もグルでやっていたため他殺も自殺にしたりすることが多くありました。そしじぃはそういう時代を生き延びています。なのでコソコソとやるしか方法はありませんでした。
ちなみにそしじぃは大企業に就職することも考えましたが、バレたら即殺されるような特許を持っていたため家業を継ぐしか方法しかありませんでした。
日本にもそういう頭がいい方々がいらっしゃるのは非常に興味深くある程度参考にさせて頂きました。
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