第38話:バリキャリ女性
璻と喜三郎は土間に置いた靴を履き、部屋の玄関の引き戸を開け廊下に出ても足音がまだする。だんだんと近づいてくる音に無駄に恐怖心が増していた。もし幽霊だったらと璻は不吉なことを考えていた。
「喜三郎さん誰か来ますよ。」
喜三郎は璻が異様に怖がっているのがわかると少しニヤッとしながら気持ちを煽るように言葉をかける。
「幽霊かもな」
璻の顔が青ざめ始め言葉がおぼつかなくなる。
「ゆっ…ゆゆゆ幽霊???出るんですか?ここ」
「ああっ…向こうから長髪の気の強いおっかない女の霊がこっちに向かってくるんだっ……」
璻はサァーと血の気が引いた。すると廊下の奥から女性の声がした。
「はあ"あ"っ?誰がっおっかない女の霊だって?」
璻は喜三郎の後に隠れると腕に掴まり声をあげて驚く。
「ひぃぃぃぃいぃぃぃやぁぁぁぁぁっっ〜〜!!!!」
暗い廊下から女性が現れると璻はぷるぷると震えた
喜三郎は耐えられなくなったのかその場で豪快に笑い始めた。
「あははははははっ〜面白いねぇ」
璻は何の事かわからず呆気に取られると女性は艶がある髪の毛をかき上げながら喜三郎に近寄ると鬼の形相で睨みつけた。
「きっちゃん、おちょくるのもいい加減にして」
喜三郎は悪びれる様子もなくニヤニヤしながら女性に謝り始める
「ごめーーんって。獅子子さん」
女性は喜三郎の態度に呆れると問い詰めた。
「まずは、その子に謝るのが先だろうが。無駄に歳食ってるのにそういうわけわかんない事やる?普通?」
喜三郎はニヤッと笑って後ろにいる璻に振り返ると優しく「ごめんね。」そう言って誤った。
璻はどういう事かわからず困惑すると女性が説明に入る。
「この人、私を幽霊だとか言ったけど私生身の人間だからねっ!たまに意地悪するから間に受けないほうがいいよ」
璻はホッとすると喜三郎の腕から離れた。
「なんだっ…よかった」
女性は璻を見てホッとするとまた喜三郎を睨みつけた。
「んで?きっちゃん。アタシにきちんとした謝罪はないのかしら?」
喜三郎を睨みつけると喜三郎はあはははと苦笑いをしながら軽く頭を下げた。
「ごめんなさい」
「よろしい。この獅子子様を幽霊なんて失礼にも程がある‼︎もえぎ姐さんに言いつけるからね」
もえぎという名前を聞いて喜三郎は震え上がった。
「つっ…妻に言いつけるのは勘弁してくれ…」
……喜三郎さんに頭を下げさせる女性なんて初めてみた……
女性は璻を見ると近くに行き挨拶をした。
「さて、龍後璻さん、私の自己紹介がまだだったね。私は獅子澤愛美。今年で40歳の一児のママ。みんなから獅子子って呼ばれてるから気軽に獅子子でいいよ。よろしくね」
獅子子は手を伸ばして璻に握手を求めた。
…この人初めて会うのに私の名前知っているんだろうか…
まっすぐに璻を見る獅子子の目は黒く生き生きとしているように見える。メリハリのある体型にピタッとした品性が高い服装、バリキャリ女性の典型とも言える。
璻はゆっくり手を伸ばすと獅子子の手を握った。
「龍後璻です。26歳よろしくお願いします。」璻は獅子子に頭を軽く下げると獅子澤の手を離した。
喜三郎が横から話に割り込んで説明に入る
「実はね。璻さん最初に行政からの通知を受け入れたのは獅子子さんなんだよ。今璻さんがここにいるのは獅子子さんのおかげ」
…そっか私この人のおかげでここに入れたのか…
璻はじっと獅子子を見つめ頭を深々と下げた。
「そういう経緯だったんですね。ありがとうございます。」
璻は獅子子に満面の笑みを見せると獅子子もつられて笑顔を見せた。
「本当はねぇ。私の元で勤務させたかったんだけど、どぉ〜しても泉が大変だからって。女性同士だと気楽じゃない?」
……確かに。私も本来女性の方がありがたかった…
璻はうんうんと頷くとふと疑問が湧き上がった。
…うん?今藤宮さんの名前が出たけど同期なんだろうか……
「あの…つかぬことをお伺いしますが、獅子子さんは藤宮さんと同期なんですか?」
獅子子は璻の疑問に淡々と答える。
「いや、同期じゃないよ。勤務年数は私の方が上でたまたま研修担当が私だったから数年間面倒を見ていたんだけどね。泉はほんっと繊細で優しいから依頼主が勘違いしてね。ストーカーされたり、女性に言い寄られたり、髪の毛が大量に入ったクッキーとかもらったり私の対処が大変だったよ。」
一瞬、璻も喜三郎も獅子子の言葉を想像してしてしまい、2人とも気持ち悪くなる。
璻は思わず言葉をこぼす。
「うううっ…大量の髪の毛入りクッキーはきついですね。」
今思い返して見ると璻と藤宮の出会いは最初に女性にビンタされていた場面を目撃したことだった。藤宮は見た目も顔も申し分なくさらに人の気持ちを汲み取れる男性はなかなかいない。さぞかし女性から人気が出ることだろう。しかしながらそこまでするほど執着された藤宮側の気持ちを考えると非常に不憫に感じてしまう。
「昔も今も藤宮さんは勘違いされやすいんですね」
獅子子はその話を聞いてイキイキとすると璻に話しかける。
「今もそうなの泉?!あら〜そろそろ乗り越えたかなって思ったんだけどね。あとで来たら話聞きましょう」
璻は昔は喜三郎と一緒に依頼をこなしていたということを藤宮が話していたことを不意に思い出すと喜三郎に問いかけた。
「というか昔も喜三郎さんと一緒に業務やってましたよね?」
「昔は俺多方面で忙しくてさ。今の場所でオフィス構えてなかったんだよ。だから一旦獅子子さんに藤宮くん預けたってだけ」
璻は納得すると「そうだったんですね。」と返した。
何かに気づいた喜三郎は獅子子に問いかけた。
「そういえば、そしじぃに呼ばれてたんじゃないの?急がなくていのかい?」
獅子子は驚いた様子で言葉をかけた
「あっ!もうぉぉそうだった!きっちゃん、龍後ちゃんまたねっ!そしじぃは人使い荒いんだからっ」
そういうと獅子子は2人とすれ違いながら廊下を通ると喜三郎は獅子子に手を振って見送った。獅子子がそしじぃの部屋の中に入るまで喜三郎は見守るとなぜか璻に小言を話す
「獅子子さんは騒がしいですね。」
璻は喜三郎に少し呆れながら小声で反論する
「いや、喜三郎さんが騒がしくした原因作ったと思いますよ」
喜三郎は笑顔で璻を見ていた。笑っていても心は笑っていないように璻には見えた。
「璻さん、今なんて言いました?」
…上司の圧を感じる……
璻は即座に喜三郎に反論する
「いえ、何も申し上げておりません。」
「それならよろしい」
喜三郎と璻は廊下を歩いてロビーに出るとロビーのソファに喜三郎はゆっくりと腰をかけた。
「璻さん、こっちに座って。一応これからの流れを説明します。」
喜三郎の前に置いてあるソファに璻も腰をかける
「とりあえず前日にスケジュールを確認しましたよ。コンシェルジュで」
璻の言葉を聞くと喜三郎は何かを思い出したように話しかけた。
「あっ…コンシェルジュで思い出した。コンシェルジュ没収ね」
璻は一瞬驚いた表情を見せた。
「連絡とかはどうするんです?」
「うーん。一週間は出来ないね。というかここは磁場が強くて電波も通らないからコンシェルジュ使えないでしょ。それに石屋に場所知られたくないし。」
コンシェルジュは衛生を通して誰がどこにいるかすぐわかるシステムも搭載しているがこんな山奥だとそれもわからないんだろう。喜三郎の言うことも納得ができる。
「それに璻さんが本当に必要になった時は返すよ。」
…本当に必要な時ってあるんだろうか……
「わかりました」
璻は渋々コンシェルジュを喜三郎に渡すと喜三郎はポケットから透明な袋を取り出しコンシェルジュを袋に入れるとこれからの説明を始めた。
「では、ざっくり話をしましょうか。璻さんたち新人はこれから夕食になるんだが、その前に新人に集まってレクリエーションをしてもらう。もちろん水に関してね」
「レクリエーションですか?」
「水流士は基本指導役と補佐役と分かれて仕事をするのが基本だからコミュニケーションは密に取らないと業務は捗らない。どんな人が相手でもちゃんと自分の意見を言えるようにならないとね。璻さんは藤宮くんには意見言えるけど、他の人はわからないじゃない?」
「確かにそうですね」
「どんな立場でもどんな危機的状況でも自分の意見をエゴなく言える事は依頼主の記憶を見る上で齟齬がない判断に繋がるんだ。それにこの研修では自分の意見を言えない状況に陥った場合はなぜ言えないのか内省をするキッカケにもなるしね。」
璻は喜三郎の言葉を聞いて水流士に勤める前のことをふと思い出していた。
…この人にはわかってもらえないと思った瞬間に意見を言うのをやめたりする事が確かに私にもあった……
「私も思うところはありますね。」
喜三郎はニコッと笑うと「まぁそういう事だな。」と言うとロビーにかかっている壁掛けの時計に視線を向ける
「まだ、16時か…その前に1時間以上時間があるから、その辺を歩いてくるなり、部屋に荷物いれたり、片付けたりするといいよ。とりあえず、18時にここにまた集合してね」
「わかりました。18時ですね。」
「あっ…それから新人研修中は黒い白衣は来ていてね。」
「なんでですか?」
「そりゃ水分子を見ることが多いからさ。あと変な連中も絡まなくなるからさ」
璻は喜三郎が口にした言葉が妙に引っかかっていた
「その"変な連中"ってなんですか?」
喜三郎は神妙な面持ちで璻に注意喚起をする
「石屋でもなく、移民でもなく、この地についている奴らがいるんだ。夜中に外に出るなよ。それだけ守ってくれ。」
……それってまさか……
璻は一瞬頭をよぎった言葉があった。
「ゆゆゆっ……幽霊ですかっ?ガチのやつの」
喜三郎は璻の怖がる顔を見ながらニヤニヤした。
「さぁ〜正体は言わないでおくよ。」
そういうと喜三郎はソファから立ち上がる。
「あと、何か困った時に今から俺の部屋教えておくから、ついて来てくれるかい?」
璻もソファから立ち上がると返事をした。
「はい、わかりました。」
そういうと喜三郎は歩き始めると璻も後ろについてトコトコ歩き始める。
「俺の部屋一階だからね。基本的にはロビーと部屋とそしじぃの部屋しかいないからね。」
ロビーから玄関まで戻り、さっきとは逆方向に向かって歩くと一つの部屋が見えた。
指を刺しながら喜三郎は「俺、ここの部屋だから」と言った。喜三郎は少し心配している様子に見えると璻は自信満々に喜三郎に応えた。
「はい。わかりました。でも多分来ることないと思いますよ」
「そう願っているよ。ほんと。あと女性の部屋は基本的に2階だから男性の部屋に立ち入らないように」
璻は呆れた顔しながら喜三郎を見つめた。
「立ち入らないですよ。そんなに暇じゃないです。」
「一様ね。注意ね。じゃ18時にロビーでね」
「はい。」
璻は喜三郎に軽く頭を下げるとその場から離れた。
玄関前まで歩いて戻ると玄関の入り口で男性2人が靴を履き替えているのが見えた。
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今回は物語の前半に出ていた獅子子を紹介します。
《登場人物紹介》
名前:獅子澤愛美
誕生日:8月1日
星座:獅子座
既婚、40歳の一児のワーママ
ちなみに喜三郎の妻もえぎは獅子子の先輩に当たります。
獅子子はバリキャリ女性で意見も気も強い女性です。どんな困難も自分の言いたいこと言う強い女性で描いています。獅子子の旦那は家事育児を専門にしています。2050年この時代は働くのが主に女性が多く育児をするのが男性メインで書いてます。ちなみに私は強い女性が好きなので絶対この小説に出そうと決めていました。
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