第35話:起死回生
3日間の公休が明け朝の太陽が眩しく感じる。
気合いを入れて出勤までの道のりを璻は歩いていた。重いキャリーケースをゴロゴロと引きながら…
「新人研修が楽しみだな…」
そんな独り言を言いながらコンビニの前まで歩いていた。
3日間も公休がある水流士は休みの日に身体のメンテナンスが基本である。
璻はこの3日間、寝て起きてはボーッとしつつヨガや針治療などを受けて身体のメンテナンスをしていた。
そのおかげなのか、璻は先週の疲れもすっかり消え去り新人研修何するのかワクワクしていた。
周りを見渡しながら歩くとそこには口論をしている男性2人が璻の目に止まった。男性2人は後頭部に脳内器具がついているように見える。片方の男性が怒り狂ったのか奇声をあげながら、腰にしまってあった刃物を取り出し口論相手太ももに思いっきり刃物を突き刺さした。刺された男性は疼くまりその場で倒れると刺した男性は笑いながら、こちらを見ていた。
次の瞬間歩いてた璻と目が遭うと全力でこちらに走ってくるのがわかった。
…こんな清々しい日によりによってっ‼︎…
璻はこちらに近寄ってくるのがわかるとキャリーケースを引きながらその場から全力で離れ走り始める。
…キャリーケースが重く早く走ることが難しいかと言ってキャリーケースを捨てて走るのも盗難に遭いそうだしって緊急事態なのにこんなこと考えてる場合じゃない…
「やばいっ‼︎追いつかれる」
男性は璻に追いつきキャリーケースを引いていた腕を握り始めた。璻は必死に抵抗すると男性は笑いながら刃物を取り出した。さっき男性のことを刺した刃物なのか血痕がついているのが見える。
「誰かっ……」
璻はもうダメだと思い目を強く目をつぶった瞬間
「おい。ウチの従業員に何してるっ…」
知ってる男性の声が聞こえる。
刃物が落ち金属音が地面に響いた。恐る恐る目を開けると
「龍後さん、大丈夫ですか?」
璻は目の前に見知った顔が目に映った。
振りかざした相手の手を強く握っている。筋肉ムキムキで少し歳を重ねているおじさま。
…私が尊敬してる人に似てる……
「喜三郎さん?」
そう問いかけると喜三郎は男性を璻から離し床に抑えつけた。
「間に合ってよかったよ。走ってきた甲斐がある」
璻は涙目になりながら喜三郎の顔を見つめた。まるでヒーローが目の前に現れたようなそんな感覚になる。
「ありがとうございます」
璻はなぜここに喜三郎がいるのかわからなかった。そもそも集合はオフィスの下だったはずなのに。喜三郎はしゃがみながら襲ってきた男性を押さえ淡々と対処している。まるで何度もこういうことがあったかのように手慣れている様子に見える。
「警察に連絡したから、あとは受け渡すだけだな」
そう言い放った喜三郎は少しホッとしたで璻を見つめた。
「喜三郎さんはなんで私だとわかったんですか?」
「いや、だって。少し遅いなと」
璻は喜三郎は何を言っているのかわからなかった。
「えっ…」
思わず声が漏れた
…遅いな?どういうこと?…
璻は慌てて時間を確認をする。
「あと集合時間まで15分ありますよ…」
喜三郎は頷くと「そうだね。でもコイツにやられてたら、15分以上かかるでしょ?」
まさかの予想もしなかった言葉に璻は目を見開いてしまう
「⁈⁈⁈⁈⁈⁈」
「いや、この時間でオフィスの近くまで来ない場合はマズイと思っただけですよ」
…喜三郎さん藤宮さんと先週の藤宮さんと同じことを言ってる。渦見さんの時に「俺のハンカチ璻さん貸すのでポケットに持っといてもらえますか?多分今日使う人がいるので渡してあげてください」璻は藤宮が言っていることの意味がわからなかったが結局ハンカチを渦見さんに渡す羽目になった。あの時のハンカチの出来事といい水流士になると人の未来も読めるようになるんだろうか……
璻は疑問に思ったのか喜三郎に質問をする。
「あの〜それも水流士の特技ですか?」
喜三郎は丁寧に璻の疑問に答えた。
「あぁ。そうですね。人の感情を読むのが業務だとその人の思考パターンが見えるので直感的に未来が見える時があります。水流士は特に感情を読み取るのでそこの能力だけ特段に伸びるんですよ」
璻は理解できずに言葉を溢した。
「はぁ…」
喜三郎はそんな璻を見て優しく微笑んだ。
「龍後さんも見えるようになりますよ」
喜三郎の言葉を聞き璻はなんとなく自分が未来を想像したが…未来が想像できずモヤがかかるような感覚になっている。まだ未来が見えないことにがっかりした璻はふーっとため息をついた。
…そのうちできるって言われてもねぇ…
そんなことが頭をよぎるがなぜか目の前にいた璻を襲ってきた男性をが気になりマジマジと見つめた。
男性は顔にクマができ、やつれているように見えた。そして喜三郎に捕まったあたりから手が震え痙攣していた。璻は思わず喜三郎に話しかけた。
「この人どうしたんでしょうかね。一言も喋らないですけど」
そう璻が話すと喜三郎は悲しそうな顔を見せていた。するとパトカーが近づく音があたりに鳴り響く。パトカーは璻の目の前で止まるとパトカーから警察官が降り喜三郎に頭を下げた。
「ご協力ありがとうございます。こちらの男性連れて行きます。」
そう言い放つと警察官は男性をパトカーの中に連れこんでそのまま行ってしまった。
喜三郎は璻を見るとこう話しかけた。
「彼はどうしてああなったと思いますか?」
突然の問いに璻は困惑する。
「えっ…脳内器具をつけていましたよね」
「そう。つけてましたよ。」
「普通の人ならそうなりませんよね。うーん」
璻は悩んで頭を抱え上を向いたり下を向いて考えるが1ミリもそれらしい答えが出てこない。痺れを切らし喜三郎に頼み込んだ。
「わかりませんっ…教えてください!」
あははと豪快に笑うと喜三郎は璻に答えを教えてくれた。
「では正解です。脳内器具を入れて精神が安定している場合考えられるのはこの人の脳内器具が ハッキングにあった可能性が高いですね。正解はハッキングよるウィルスですね。」
璻はハッキングよるウィルスの可能性自体考えていなかった。
…脳内器具を入れている人は月に一回メンテナンスをするのが義務になっている。だが、ハッキングよるウィルスなら数ヶ月前から精神障害を起こしメンテナンスに行けない状況を作るだからこんなに顔色が悪いのか…
「確かに。目にクマがあって健康そうじゃなかった。」
喜三郎はまたどこか悲しい顔をしていた。
「可能性ですが3ヶ月前からハッキングされ脳内器具に潜り込んで調整する電磁波を止めていた。ならあの状態になるんですよ」
璻は驚きながら喜三郎の問いに答えた。
「初めて見ました。あんな状態になるんですね。」
璻はパトカーが向かった先を見つめた。
…あの人はあれからベーシックインカムを減らされ、メンテナンスセンターに向かうんだろうか…
これから起きることを思うと少し悲しくなった。璻が悲しそうにしているのがわかったのか喜三郎は穏やかな声で璻に話しかけた。
「ところで龍後さん少し落ち着きましたか?」
璻は静かに返事をした。
「はい。」
喜三郎ははぁっとため息を出すと申し訳なさそうに話し始める。
「何回も龍後さんは死にそうになりながら経験していますよね。なんかすいません。」
まるで喜三郎自身に責任があるような物言いになぜだか違和感を感じる。璻はすかさず喜三郎に対してお礼を言った。
…むしろあの時点で喜三郎さんがこなかったら私は重症だったかもしれない…
「いや、謝らないでください。喜三郎さんが助けてくれて感謝しています。ありがとうございます。」
璻は頭を深く下げ頭を上げると話を続ける
「経験って…まぁ。経験というか勉強になりましたけど死にかけながらもう結構ですよ」
喜三郎は申し訳なくなったのかこんなことを璻に聞いた。
「新人研修どうしますか。こんなことがあったから休みにします?」
璻は顔を右左に振ると強い気持ちで喜三郎の質問に応えた
「いや、行きます。ここまで来て休むって、選択肢はありませんよ。」
喜三郎はニヤッと笑いながらこう言い放つ
「龍後さんってガッツありますよね。ものすごい尊敬します」
「ありがとうございます。でも一気に疲れたので早く連れて行ってもらっていいですか。」
喜三郎は璻に向かって手を伸ばす
「それもそうだ。とりあえず、龍後さんのキャリーケースは俺が持ちますよ。」
璻は持つのが重いのか喜三郎にキャリーケースを渡した。
「ではお願いします。」
そういうと喜三郎に頭を下げキャリーケースを喜三郎に任せながらオフィスがあるビルまで歩く。ここから歩くと大体5分くらいの距離だった。
たわいもない話を喜三郎と璻は交わす。まるでさっきの事件がなかったかのように。
「龍後さんが長野や新潟に行った事があったら”量子ゲート”使えたんだけど、しょうがないですね。」
璻は申し訳なさそうに喜三郎に謝った。
「すっ…すいません。」
喜三郎は謝る璻にフォローをする。
「いや、しょうがないよ。新幹線より車の方が早いので俺の車で行きますから、車酔いは大丈夫ですか?」
璻は頷きながら応えた。
「車酔いは大丈夫ですよ。何時間くらいですか?」
喜三郎は璻の質問に応える
「3時間くらいですかね。山奥なんで。あっ一応泉くんは後から来ますよ。依頼が元々ありましてね」
…本当に山奥なのか大丈夫なんだろうか…
璻は不安になりながら喜三郎に返事をした。
「そう、なんですね…」
落ち着きながら喜三郎と璻は話していた。そうこうしている内にオフィスについていた。
中に入る前に駐車場に赤い車が置いてあるのが見えた。そこに見知った顔が立っていた。黒い白衣を着て腕を組み人差しを腕に当てている。
…あっ…藤宮さんだ。なんだろう。イライラしているように見える…
藤宮が喜三郎と璻を見つけるとものすごい勢いでこっちに向かって来る。
「あぁやばいね。泉くん怒っているねぇ〜」
そう喜三郎がぼやくと藤宮は眉間に皺を寄せながら喜三郎に詰め寄る
「喜三郎さんなんで早く言わないんですかっ‼︎俺を置いて行かないでくださいよ。璻さんに何かあったらどうするんですか」
頭を掻きながらあはは〜と呑気に喜三郎は笑っている。
「いや、1人で大丈夫だからって言ったじゃん。ちゃんと連れてきたし」
藤宮は璻を見つめると心配そうに見つめた。璻はそんな藤宮を見るととりあえず挨拶しとこうと思い軽く頭を下げる。
「藤宮さんおはようございます」
心配性な藤宮は璻に話しかけた。
「おはようございます。いや、そうじゃないんですよ。全く大丈夫ですか?」
璻に藤宮の質問に応えた。
「死にそうになりましたが大丈夫です。今生きてますし」
璻の表情が変わらず淡々としているのを見るとなぜか藤宮の顔色が悪くなっているのがわかる。
「死にそうになったって…」
璻は淡々冷静に説明をした。
「ハッキングされた脳内器具の方とたまたま私が遭遇してやられそうになっただけですよ。」
淡々と起きた出来事を説明したがその璻のメンタルにも藤宮は驚きを通して呆れていた。
「いや、淡々と喋ってますけど、おおごとですよそれ…」
何故か璻は普段通りと変わらずに淡々と話していた。
「喜三郎さんが駆けつけてなんとかなりました。それにいい勉強になりましたし」
藤宮は心配性なのか母親のような物言いに璻は若干嫌がるように応えた。
「いい勉強って…璻さんがいいならいいんですけど」
喜三郎は藤宮の肩に手を添え藤宮に指摘をする。
「依頼主の予約はあと2時間ですよ。藤宮くぅ〜ん。そんな人の心配してる暇ありますか?君はあの場所に行った事あるんだから終わったら量子ゲートで移動できるでしょうが」
藤宮は痛いところを指摘されたのか小声で喜三郎に対して言い返した。
「うっ…確かに…おっしゃる通りです。返す言葉もありません。」
喜三郎はそんな藤宮に悟すように話しかける。
「心配なのはいい事だけど、自分のやるべき事はきっちりやろうね」
藤宮は頷きながら喜三郎に応えた。
「はい」
璻はその二人のやり取りを見て、藤宮は喜三郎の話になるとやけにおとなしく話を聞くように見えた。藤宮は璻に近寄るとなぜか必死に訴えてきた。
「璻さん、依頼終わったらすぐ合流するので」
…この人はまた…
璻は藤宮の対応がめんどくさく感じたのか淡々とただ目の前の事実だけを伝えた。
「あっ…はい。何心配しているかわからないですけど、別に気にしなくていいですよ。藤宮さんは藤宮さんの今出来る事に夢中になって下さい。」
そう言われた言葉が胸に刺さったのかガーンと藤宮は悲しそうな表情を見せた。ここで藤宮に対して行かないでぇ。悲しいから私も残るわ!…なぁーんて藤宮の表情を読みながら悲劇コントに付き合ってられるほど璻の時間は無駄じゃない。
そんな藤宮の表情を確認した喜三郎はちょっとふざけながら藤宮に指摘をする
「藤宮くーん。龍後さんにまで言われているよ」
藤宮は少しいじけながら喜三郎に対して言い返した。
「ふんっ。わかりましたよ。見送りだけは‼︎させて下さい。」
喜三郎は呆れながら藤宮に話しかける。
「わかったよ。心配性だな。」
そういうと喜三郎は赤い車の方へ向かうと鍵でトランクを開けた。喜三郎は璻に向かって話しかける
「龍後さんその赤い車俺の車なので乗ってください。このキャリーケースはトランクに乗せますね」
璻は喜三郎にお礼をいった。
「はい。ありがとうございます」
この赤い車は喜三郎さんのだろうか?立派なスポーツカー見える。トランクをスマートに開けて璻のキャリーケースを詰め込む。
「龍後さん、助手席に乗って下さい」
「はい」
璻は藤宮が不憫だと思ったのかつい藤宮に話しかけた。
「あっ。藤宮さん。」
璻は珍しく藤宮を呼び止めた。
「なんです?」
淡々と璻は業務に関して藤宮が忘れないように念押する。
「ちゃんと掃除して植物に水あげて下さいね。特に掃除、依頼主来るんですから部屋を綺麗にして下さい」
身も蓋もない言われようで藤宮は傷つきながら渋々返事をする。
「…っ……はい。」
璻は藤宮にもう言うことがなくなったのか旅立ちの挨拶をした。
「じゃぁ。行ってきます。」
そういうと璻は助手席のドアを開けて車に乗り込んだ。助手席のドアを閉めようとすると藤宮に話しかけられる。
「璻さん」
璻は藤宮に呼び止められて嫌そうに返事を返した。
「もうなんですか藤宮さん。」
璻は呆れながら藤宮の話に耳を傾ける
「あの、そしじぃという人に会うと思うんですが……」
…誰その人新手のじいさんかな?…
璻は言葉を藤宮に返した。
「そしじぃ?」
藤宮は頷くと璻にアドバイスをする。
「はい。無茶は言いますけど、筋が通っている方です。そしじぃが言う事に意味があるので意味を考えて下さい。それがアドバイスです」
璻は藤宮の話に興味なさそうに言葉を返した。
「ふーん。そうですか。ありがとうございます。」
璻の興味なさそうな発言に藤宮はおせっかいを発動する。
「あと、ちゃんと食べて下さいね。環境が変わってもしっかり寝てください。身体が資本ですから、あと…」
…うっ…うぜぇっ…私は幼稚園児かっ‼︎…
璻は思わず藤宮の過度な心配に思わずツッコミを入れる。
「オカン!オカンですか!今日の午後また会うんですよね?どんだけ心配なんですか!」
喜三郎は呆れながら、運転席のドアを開けると藤宮に話しかけた。
「あーまた始まったよ。藤宮くん。車出すから離れなさい。龍後さん藤宮くんほっといていいからドア閉めて。」
二人は同時に返事をした。
「はい」
藤宮は1人でいるのが寂しいのかシュンとしていた。璻は助手席のドアを閉めようとした際に
「あっ藤宮さん、向こうで藤宮さんが来るの待っていますよ」
藤宮はそれを聞いてなぜか笑顔になった。璻が助手席のドアを閉めると喜三郎も運転席に乗り込みドアを閉めてエンジンをかけた。
窓越しに璻は藤宮に対して手を振った。藤宮も応えるように笑顔で手を振っていた。車を出し目的地に向かう。
璻は思わず藤宮は大型犬か何かなんだろうか考えたが姿が見えなくなるまで手を振っていた藤宮を見るとなんだかんだ優しいなと感じてた。
運転している喜三郎に璻は問いかける
「最初はどこに向かうんですか?」
「最初の新人研修は長野の諏訪なので一旦そちらに向かいます」
「わかりました」
車の窓から璻はドライブ気分で景色を見て楽しんでいた。
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・脳内器具からのハッキング
脳内器具を埋め込むとこういうハッキングが多くなり刃物を持って暴れ出します。違うウイルスだと自殺をしたりしますが、今回は人を襲うウイルスにしました。脳内器具を入れて月に何回かメンテをしてもハッカーはランダムに脳内器具が入っている人を選ぶので当たったらしょうがないという感覚に未来でなっています。喜三郎はそういう場面を何度も何度も遭遇しているので対処が早いです。過去に悲しい出来事があったのですがそれはまたの機会に書きます。
・量子ゲート
これは、一回行ったことがある場所は量子ゲートが使えるようになります。いわゆる瞬間テレポートができる機械です。私たちの脳内は常に量子もつれが起きてそれに似合った現実を引き起こしていますが、量子もつれを利用して開発されました。すでに随分昔から軍事用になっている設定で私の小説は書いています。新幹線や電車もありますがあまり使われていません。行ったことない場所に関しては自力で行かないと脳内で想像ができないので機械が反応しない仕組みになっています。
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