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水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- ネグレクト編 -

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第31話:幼少期に出来た心の傷

 


 藤宮は水を凝視し水分子の形がある程度正常な事を確認をする。


 ……俺が見て直したどの部位も不自然な水分子は見当たらないな。目覚め身体を起こした時や何かに強くぶつかった時も水分子はその都度形を変えて身体に適応するが…今回は本人の意識によっても水分子は大きく変わるだろう。とりあえず記憶に大きく関わる部分は問題がない……


 藤宮は安堵すると璻に声をかける。



「ふぅーなんとか大丈夫ですね。渦見さんの水分子を元に戻します」



 そういうと藤宮は鳥籠を地面に置き、ポッケから竜胆の組子細工を出し手に乗っけると手を合わせ合掌する。すると床に大きく組子細工の竜胆の形が描かれたマークが白く浮かび上がる。


 藤宮は静かに言葉を唱えた。



「水面よあるべき場所へ戻り給え」



 宙に浮いた水は丸く小さくなり渦見が握りしめている竜胆の中へ吸い寄せられていった。

 渦見は小さい唸り声を出した。


「うっ……」



 床の竜胆のマークは消え元の場所に水が戻ると渦見は少し眉間に皺を寄せながら目を開ける。藤宮は鳥籠を持ち部屋の端に寄せると渦見の元へ歩いた。渦見は不機嫌そうに駆け寄る藤宮を見つめた。



「んでっ……終わったんっすか」



 藤宮は静かに深く頷いた


「はい」


 渦見は両手を顔で覆うと少し恥ずかしそうに言葉をかけた



「俺、全部記憶があるんっすよ。」



 藤宮はその発言に驚きもしなかった。ただ淡々と答え始める。



「そりゃあるでしょうね。あなたは五色人(ごしきじん)の末裔なので。」


 聞いたことない言葉に渦見は困惑し声が漏れ出る。


「なんすか…それ…」


 藤宮はにこやかに渦見の質問に応えた。


「あなたはゲノム的に特別という事ですよ」


 藤宮の発言ははぐらかしているようにも聞こえる。満更でもない渦見は嬉しそうに話した。


「はぁ…そう言われて悪い気はしないですね」


 藤宮は鼻で笑うと渦見を嘲笑うように答える。



「でしょうね」



 璻も藤宮と渦見が談笑している姿を見て少しほっとする。来た時の渦見の表情とまるで違って健康そうに見える。


  …渦見さんの状態は少しマシになったのかもしれない…


 璻はゆっくりと歩き2人に近づいた。心配する様子で渦見に話しかける


「渦見さん、具合はどうですか?」


 璻はにこやかに話すと施術台から渦見は起き上がり急に調子のいい言葉をかける


「心配してくれるんすか?もしかして異性として…脈が……」


 璻はその言葉を聞いて呆れてしまった。なぜこんな依頼主を助けたんだろと後悔がよぎる。



「そんな元気があるなら具合大丈夫そうですね。かぶせてあるタオルこっちに頂けます?」


 璻の顔は決して笑っていない。少し醒めた目で渦見を見ていた。渦見はまるで小学生の男子のノリのように璻に話しかけた。


「嫌だなぁ〜そんな言い方酷くないすか!これっすね」


 渦見は自分にかぶさっていたタオルを璻に渡した。璻はまさかタオルを素直に渡してくれるなんて思いもしなかった。


「あっ…ありがとうございます。」


 渦見は機嫌良さげに返事をした。


「いえ」


 藤宮はいきなり両手を叩き話に割って入る。


「さて、渦見さん。説明をするのでさっきまで座っていたソファに案内しますよ。璻さんはタオルを洗濯機に入れてください。あと、隣の部屋から皇が送ってきた紙の書類があるので、それをとってきてください。あっ…お茶は俺が入れるんで」


 璻は返事をするとタオルを持ってその場を去った。


「はい。承知しました。」


 藤宮は渦見に対して案内を始めた。


「では渦見さん一緒に移動しましょうか?」



 渦見は施術台から降りると藤宮に返事をした


「わかりました」


 藤宮は歩き出すと渦見も後からついていく。

 なぜか藤宮はいきなり止まり振り向くと渦見に話しかけた


「あっ。いい忘れていました。渦見さん」


 不思議そうに渦見は言葉を返した。


「なんすか?いきなり」


 渦見は少し驚いた表情で藤宮の問いに答える


「女遊びしていますよね?しかも結構な人数」


 渦見は悪気も見せず驚きもせず答える


「はい。そうですね。3桁超えた人数やってました。」


 藤宮は呆れた表情を渦見に見せた。


「はぁっ…そうですか。今すぐにやめろとは言いませんけど、歳を取った時に女遊びに明け暮れていた男性は尿漏れに悩まされる事が多いそうです。性交渉した感覚が忘れず歳を取り尿漏れに繋がるんですよ。渦見さんはそうなりたくなさそうに見えたので一応釘を刺しました」


 渦見はその話を聞きながら片目をピクピクさせ青ざめた顔で藤宮の話を聞いていた。渦見自身の承認欲求を満たすために女遊びを繰り返していた事は藤宮にもわかっていた。


「将来尿漏れはいやですね…やめます」


 反省した様子に見えた渦見は途端におとなしくなった。

 そんな様子に藤宮は渦見にアドバイスをする。


「はい。その方が賢明ですよ。写真撮られてハニートラップにかかり弱み握られたら自分の意見ももっと言えなくなりますから、ではそちらにお掛けください」


 藤宮はソファに案内をすると気まずそうに返事をする。


「きっ…肝に銘じます」



 青ざめた表情で渦見はソファに座ると藤宮は渦見に質問をする


「美味しい水と温かいハーブティーどっちがいいですか?」


 渦見は藤宮に飲み物の注文をする。


「美味しい水ください。アルカリ性の水でお願いします」


 藤宮は渦見の注文をまるでわかっていたかのように応える。


「はぁっ…そういうと思いましたよ。アルカリ性の水をお出ししますね。少しお待ちください」


 藤宮はそういうとキッチンに向かった。渦見は大きく息を吐いた。


 …疲れた……



 渦見は少しだけ目をつぶって休んだ。藤宮はポットに水を入れ水分子を形を竜胆の組子細工を通して見つめていた。



「よし。これで水分子は大丈夫だ」



 カップとポットをトレーに乗せるとガチャッとドアを開ける音がした。

 璻が隣の部屋から紙の資料を持って出て来た。



「藤宮さん資料ってこれです?」



 キッチンにいる藤宮に駆け寄ると璻はファイルに入った紙の資料を見せた。


「これです。ありがとうございます。ではこのポットに入った水を渦見さんが座っている場所まで運んでもらえますか?」



 藤宮は璻にポットとカップが乗ったトレーを渡した。璻は首を傾げ藤宮に問いかける。


「はい。この水は…藤宮さんが調整済みですか?」


 藤宮は璻の質問に応えた。


「はい。彼はトリプトファンが生成されにくい体質なのでトリプトファンの元になるマグネシウムを入れました。

 マグネシウムの量を多く配合したアルカリイオン水で調整済みです」


 璻は納得しながら藤宮の話を聞いていた。


「渦見さんそういう体質なんですね。承知しました」


 そういうと璻は渦見の所まで歩き飲み物を運ぶ。藤宮は璻からもらったファイルを取り出し書類をペラペラとめくり出す。ふぅーと息を出すと少し気持ちが重くなる自分がいる。



 …これを説明するのか。渦見さん本人も聞きたくないだろうな…



「でも、伝えないと仕事にならないな…」



 そう呟くと璻と渦見の元へ向かった。璻がカップとポットをテーブルに並べ水をカップに注ぎ終わっていた。渦見は目を覚まし藤宮を見た。


「璻さんありがとうございます。では説明しましょう」



 藤宮はソファに座ると璻も藤宮の隣に座った。



「こちら渦見さんように調整した水です。アルカリイオン水です。どうぞ」


 渦見はお礼を藤宮に言った。


「ありがとうございます。」


 渦見はカップに手をかけてゆっくりと飲み始め味の感想を2人に話す


「硬水よりな水ですね。」



 藤宮は渦見の疑問に答える。



「はい。渦見さんはトリプファンが足りないのでトリプファンの元になるマグネシウムを配合しました。あと渦見さんはビタミンも足りていないのでお帰りになった際に食事表をお送りします。その中で食事改善をされてください。食事で8割は改善されると思います。」


 渦見は少し馬鹿にしながら藤宮の提案に答えた



「ほんとっすか〜信じられないなぁ」



 そのちょろけた態度は水分子を変えたくらいでは絶対に直らないことは璻も藤宮もなんとなくわかっていた。



「やりたくなきゃやらなくていいですよ。ただ俺らの元にもう2度と来ないでくださいね。これから一切出禁にしますから」


 藤宮は睨みつけながら渦見に話をする。


「またまた嫌だなぁ〜冗談だって。」



 渦見はまたふざけながら藤宮に応える。藤宮ははぁっとため息を吐くと渦見を真剣に見つめる



「では、本題にうつりますよ。渦見は幼少期からネグレクトで育ってきましたね。それに気づかず感情をうまくあなたが隠してきたのが原因です。ネグレクトは人にうまく頼れずに生きていってしまうので。自分が強いと錯覚するんですよ」



 渦見は藤宮の言葉に内心ドキッとする。



「ネグレクトすか…褒められた育ち方はしてないっすね。都合よく父に殴られた事が多かった」


 藤宮は詰め寄るように渦見に問いかけた。


「はい。そうですね。でも父が躁鬱を煩っていた事は覚えていますね。」


 渦見は少し不安になりながら応える。


「覚えてますよ。それならそうと父も言ってくれたらよかったんすけどね」


 水分子をいじった記憶が渦見に残っているのか流暢に藤宮の質問を返した。藤宮は渦見の原因に対して話の内容を詰め始める。


「簡単に話すと大きな原因は先程言ったネグレクトですが、小さな原因となった箇所がいくつもあります。1つ目は母親の自死、2つ目は子供相談所と人身売買での事件の主に2つです」


 渦見の顔から冷や汗が急に出始めた。言われたくない内容でもあるのかと璻は黙って渦見を観察する。渦見は戸惑いながら藤宮の問いに応えた。


「はぁ…続きをとりあえず藤宮さんの意見を聞きましょう」


 藤宮はお礼を言うと細かく説明を始める。


「ありがとうございます。まず1つ目の母親が自死ですが、幼い頃に母親という一番最初に出会う異性をなくす事で亡くなるという恐怖を体感します。まだ気持ちの整理もついてない状態で父親に泣く事を止められ育った場合何度も感情を表に出せない状態を大人になり無意識に感情は出してはいけないと認識します。それと渦見さんの場合は母親の死体を目の前で見ていますから亡くなる事に極度に恐怖を感じいつの間にかトラウマになっていました。この場合ですが亡くなってしまう、いなくなってしまう、自分は生きなきゃいけないと防衛本能が働き恐怖から自分の子孫を残したいと思うようになります。これを感じると男女ともに女遊びや男遊びが酷くなりがちの傾向があります」




 璻は藤宮の話を聞いて疑問が湧くと藤宮と渦見の話に割って入り質問をする


「藤宮さん、それって女遊びや男遊びに関係あるんですか?」


 藤宮は2人に丁寧に説明をする。


「はい。もちろんあります。ストレートに言いますが性交渉は生きている事をダイレクトに実感しやすいです。子孫を残す=必死に生きているんだと感じる人間の生存本能でもありますし、生と死は表裏一体なので。必死になっていると言う事は亡くなることに酷く怯えている自分に気づいていないんですよ。」



 渦見は顔を下に向けて藤宮の話を聞いていた。璻は続けて質問をする



「それで2つ目は?」


 藤宮は渦見の様子を見ながら淡々と応える


「はい。渦見さんは子供相談所に連れて行かれた事がありましたね。」


 渦見は顔を上げると少し血色が悪いように見えた。まるでこれ以上入り込んで聞いて欲しくないように見えた。渦見は元気のない返事を藤宮に返した。


「はい…」


 そう返事をすると渦見はまた顔を背けてしまった。よほど都合が悪く知られたくない話ということだけはわかった。藤宮は淡々と渦見に対し質問をする。


「連れて行かれた時に泣き喚いたら、男性の職員から無理矢理口に薬を入れられましたね?それも睡眠薬を」


 璻は驚いた表情をした。


「えっ…」


 そんな事はずあるわけない、子供相談所は大人の暴力や育児放棄から子供を確保する信頼できる専門機関だ。渦見の手が震えはじめ足もブルブルと震え始めた。震えながら渦見は応えた。


「なんでその事を知っているんすかっ…」



 藤宮は渦見の問いかけに真剣に答える


「璻さんが起きる前に実は深い記憶の水分子を見せてもらいましたので」


 藤宮は少し言いずらそうにすると渦見の顔を見た



「渦見さんの水分子の記憶では公園で遊んでた渦見さんが子供相談所の職員に無理矢理車に乗せられる所から記憶が始まっていました。なぜかその車には見知らぬ男の子が乗っており一緒に子供相談所に連れて行かれました。男の子と渦見さんは職員に無理矢理手を引かれ施設に入るとある部屋に閉じ込められていました」



 そのやり方はまるで渦見が人身売買の時の記憶と同じ手口な事に璻は心底驚いた。そんなことが実際にあるのか半信半疑になりながら藤宮に質問をする



「ちょっ…藤宮さん、行政ですよ?そんな子供相談所が無理矢理車に乗せることなんてあるんですか?」



 藤宮は悲しい目をしながら璻の疑問に答える。



「この頃の行政は本当に虐待をした子供を保護せず、ただその辺に遊んでいる健康な子供を確保しては2ヶ月間親元に連絡しないなんてザラです。確保金が国から支給してもらえますからね。施設の運用には困らないですし確保した人数が多ければその場所の子供相談所の評判が良くなります。」


 璻はがっかりした様子で声を溢した。


「そんなっ…」



 今まで信じていたものはなんなんだと疑いたくなった。あまりに自分達の利益しか考えておらず、子供を道具にしか考えていない物質社会に璻の怒りが沸々と湧く。藤宮はそんな璻の様子と震える渦見の様子を確認しながら淡々と話を続けた。



「話続けますね。ある部屋に入るとあたりは真っ黒で灯りもありませんでした。男の子が怖くなって泣き出すと急いで男性の職員が部屋をこじ開け、男の子の口を無理矢理開け薬を飲ませられた所を見ました。恐怖で震える渦見さんにもこの男性職員は躊躇せず同じように口に薬を入れられた。これは渦見さんにとって根深いトラウマの1つですよね…」



 藤宮から出た衝撃的な事実に璻は声が出なかった。



。:*:★。:*:★━━━補足ポイント━━━━━★:*:。★:*:。


・幼少期に出来た心の傷


当たり前ですが人間は生まれてからは純粋ですが歳や経験を重ねるたびいろんな出来事から学ぶことが多くなります。幼少期に出来た傷は大人になっても今もなお治っていないことが多くあります。例えば、親に殴られたことや他の大人からお金をせびられたこと、また尊厳を傷つけられたことなど。そのことを思い出し感情を出し切ることによって自分の作り出す現実が変わってくる。私が水流士をなぜ書いているかと言うと幼少期に出来た傷に気づいていない人が多くいるそのことで病気になったり自分が本当にやりたいことに気づいていない人にどうやって伝えたらいいのか考えた時にこの小説を描くことを思いつきました。定期的に辛かったこと諦めたことを思い出すことによってあなたの世界はすでに変わり始めるんですということを今回強く伝えたかったのでこの話になりました。





・生と死は表裏一体


肉体関係をやめられず繰り返している人は生きることに執着をしている人が多い傾向があります。それは亡くなるという恐怖に目を背けたい現れでもあります。渦見の場合それが顕著に表れています。そういう方はこの世にもたくさんいらっしゃいますが、大概は両親が亡くなってタガが外れることによって顕著に出ます。ちなみに肉体関係以外だと武装組織に入ったり、喧嘩に明け暮れたりも多い傾向があります。その場合も生死を直に感じられるので本人がやめられない場合も多いです。


。:*:★。:*:★━━━━━━━━━━━━━━★:*:。★:*:。

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