第27話:人間は善悪を繰り返し得心すると確固たる自分になれる
璻の様子を見て不安がっているのが瞬間的に藤宮には感じ取れた。
なんとか不安を払拭してほしいと思った藤宮は璻に笑顔を見せた。
「そんなに身構える必要はありませんよ。」
藤宮の顔を見ながらふと考える
…そんな笑みを浮かべられても私の重くのしかかる責任とやったことがない業務に対しての不安は1ミリもなくならないんだけど…
「いやだって水流士が長い藤宮さんとまだぺーぺーの私じゃ”簡単”の意味が違いますよ。料理初心者にいきなりフランス料理のフルコース作れって言ってるのと同じですよ」
璻の屁理屈に藤宮は頭を悩ませると藤宮からある提案をされる。
「そんな無理難題言ってないでしょう!璻さんが麻の葉を見ながら渦見さんが違う視点で物を見る時を想像するんですよ。まぁ実践すればわかりますよ。一回やって見ましょう。とりあえず、俺を信じて目を瞑って下さい。あっ。そうだ。人差し指はそのまま真っ直ぐ立ててください。麻の葉のマークが浮かなくなると意味がなくなるので」
璻は戸惑いながら藤宮に返事をする。
「はっ…はい。わかりました。」
璻は言われた通りに人差し指を立てながら目を瞑った。
続けて藤宮が指示を出した。
「渦見さんが母親を亡くした時にこれは父のせいで殺されたんだと思った渦見さんを想像してください。実は母親が精神を煩っていた事、そして…それを母親は淡々とできる事をやってた事、父親はそれを見守っていて母親がおかしくなったあたりから父親自身自分を攻めていた事を想像した場面を想像してください。渦見さんはどう思いますかね…」
璻は藤宮に言われた通りのシチュエーションを想像をする。
…渦見さんの母親も父親もその時できるベストな選択をした。父のせいにして生きてきた渦見さんは…
「渦見さん自身を攻めることになります。なんで気づかなかったんだろ。なんで早く子役を辞めなかったんだろう。なんで母親の苦悩に気づいてあげられなかったんだろと」
藤宮はニヤッとした瞬間、白色に光る麻の葉のマークがじわじわと赤に近い色に変わりはじめる。
璻は人差し指に浮かんでいる麻の葉のマークを見ながら色が変わっていることに驚いた
「赤色に変わっているっ…」
藤宮はニコッとしながらできた麻の葉のマークを見つめる
「赤色というか朱色ですね。麻の葉のマークは水流士が共鳴した想像と一致した色を使います。今回は朱色。ですから、意味は魔除けですね。これは蛇が嫌がりますね」
璻はなぜ朱色なのかについて意味があるのかを藤宮に聞いた。
「なんで朱色なんですか?」
藤宮は璻に簡単に説明をする。
「朱色は日本の神社によく使われる色です。鳥居の色は基本朱色が多いです。」
璻は頷きながら応えた。
「確かに鳥居は朱色が多く見かけますね」
藤宮は璻に朱色の説明をする。
「朱色は魔除けと同じく神聖な場所と言う意味があります。石屋の蛇に”ここは神聖な場所だお前らが住み着いていい場所ではない”と意思表示するという意味があります」
……そういう意味で朱色だったのか。色にも意味合いがやっぱりあるのか……
璻はまた藤宮に言葉をかける。
「意思表示ですか、確かにいつまでも嫌がらせされたまんまはたまったもんじゃないですしね。それに…」
璻は朱色に光る麻の葉のマークをじっと眺めた
この色はこの時代にとってとても貴重で重要な役割を持っている
藤宮に対して意味深な表情を浮かべながら言葉をかけた。
「今の2050年に”朱”は時代の要になる漢字ですしね。」
藤宮もこの言葉の意味がわかったのか深く頷きながら璻の言葉に応えた。
「そうですね。時代を象徴する漢字ですし。璻さんが込めた想像は願いに近い祈りです。渦見さん本人が気付きますようにという。祈りは素粒子を振動させます。水分子より素粒子は小さいので願う事で粒子が震え始め共鳴し本人が気づくような現象が起こりやすくなりますしね…さて。」
藤宮はふぅーと息を吐くと腕を伸ばしストレッチをする。
「さて実験も済んだ事ですから本番やりましょうか。あっ璻さん人差し指に浮いている麻の葉は指を折ると無くなるので人差しを刺しながら歩いて下さいね。もう一回作るのは璻さんの気力と体力が持たないので。そのまま一気に水分子を治します」
璻は藤宮に対して返事をする
「わかりました。」
藤宮はそういうとストレッチをやめて竜胆を置いた場所から5歩ほど歩いた。璻も藤宮の後ろをついて歩く。
「ではやりますか…俺がサンスクリット語を唱えてから空間が広がるので広がった空間の近くまで行き璻さんが”五蘊皆空”言ってその中に麻の葉を投げてください。あとは勝手に入ってくれます。魔法の呪文みたいですけどね」
璻は五蘊皆空という言葉を聞いたことがなかった。
「ちなみに”五蘊皆空”ってなんです?」
璻は藤宮に質問をする。
「”五蘊皆空”は全ての物は等しく変化すると言う意味です。固執や執着は本来の人間の在り方ではありません。今あるあなたの現実を受け入れましょう。全ては自分の思い込みが幻を生み出していますって言う意味です」
璻は意味を聞いてなんだか胸にグサっと刺さる感覚が全身を駆け巡る。
「なっ…なんだろその言葉少し耳が痛いですっ…」
藤宮はニヤッとしながら応えた
「思い当たる節があるんですか?もうそれはいいとしてもうやりますよ」
藤宮は手を叩きながら璻に指示を出す。
「はいはい。俺から少し離れて前に出てください。」
璻は気合いの入った返事をした。
「はい。」
璻は藤宮から数歩離れ藤宮より少し前に出ると藤宮は璻の位置確認した。
「その位置で大丈夫ですよ。では始めます」
藤宮は目を閉じて唱え始める
「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 」
藤宮がそう唱えた瞬間に真っ黒だった周りの風景に灰色が混ざり混沌と渦巻いているように見える。
藤宮は周りを見ずに目を瞑りながら続けて唱える
「定まれ……定まれ……定まりたまえ」
竜胆のあたりが少し光って見えた。竜胆を置いたあたりの地面の色が黒から灰色に灰色から白に段々と変わっていくのがわかる。璻は竜胆の置かれている場所に一歩づつ近づくいた。
「羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 」
竜胆が置かれている場所を璻が覗くと水分子がたくさん詰まっていた。壊れている水分子の方が多く見える。これが脳髄液の中の水分子。
「定まれ……定まれ……定まりたまえ」
藤宮は璻をパッと見ると急いで話かけた
「璻さんすぐに入れてくださいっ!短時間しか持たないのです閉じちゃいますよ!」
璻は返事をし走り出した。
「はいっ!…」
璻は人差しを不自然に広がった空間を見つけて大きく深呼吸をした次の瞬間。
「”五蘊皆空”」
そう叫ぶと麻の葉のマークを投げ入れた。ゆっくりと空間に入りすぐに空間が閉じるとあたりは真っ黒な世界に戻っていった。璻と藤宮は麻の葉のマークが入るのを見届けると藤宮が璻の元へ駆け寄った。
「璻さんありがとうございます。あとこれを3回続けますよ。」
璻は藤宮の発言に落ち込むと言葉をかける
「えっ…1回じゃないんですか?」
藤宮は璻の発言に呆れながら言葉を返す
「何言ってるんですか全く…1回だと変化にはまだ足りないです。」
がっかりした璻は疲れきったように言葉を吐き出した。
「えぇっ……」
璻は肩を落としまだこの作業が続くのかと思う根気がいる予感がしていた。
…まだやるの。体感覚が長いように感じるのは私だけだろうか……
藤宮はそんな璻にアドバイスをする。
「人間は小さな出来事をいくつも起こして、やっと本人の気付きに繋がります。あと同じ場所に空間を広げて入れているとココがバレます。蛇に気づかれて来られても厄介なので竜胆の位置を変えますよ。襲撃されて対処するのがめんどいんで」
そういうと地面に置いてある竜胆を拾い上げまた地面をキョロキョロしながら手でコンコンと地面を叩きながら藤宮は歩く。
また蛇が来ると思うと璻はゾッとする。
…あの空気が薄く冷たくなっていく感覚もうごめんだ…
「そうですね。もう首絞められたくないですし……」
その場で璻は深呼吸をする。首を絞められた時の感覚がまだ首に残っている気がする。喉を触りながら今ちゃんとここで呼吸ができている。まだ私は生きている。それを再認識すると璻の中で自分が出来る事をちゃんと全うしようと心に決めながら顔を見上げた。
…渦見さんどうか早く気づいてくれると嬉しいんだけど…
「璻さん何してるんですかーちゃっちゃと次やりますよ」
藤宮に気づき璻は返事をする。
「あっはい。すぐ行きます。」
そういうと藤宮の元へ急いで駆け寄った。
その頃のエゴの渦見はというと…なぜか蹲り頭を抱えていた。
…クソッっっ…あの場で躊躇なく殺しておけばよかった…
蛇は頭にへばりついて強く締め付けている。だか本人は蛇が見えず原因にも気づいていない。
「どうして俺ばかりこんな思いをしなきゃいけないんだ。他の人も同じ思いをすればこんな事にならないのに。俺が…」
…あれもこれも母さんが死んだのも父さんのせいだ…
「そういえば、母さんが亡くなる前に、俺のせいかもしれないと思った事があったな。なんで今頃思い出したんだろ…」
そういうとあたりは真っ黒な空間だったのに少しずつ灰色が混ざり混沌に広がっているように見える。渦見にとってどうでもいい過去を少しずつ思い出しはじめた事は、璻が入れた麻の葉のマークである水分子が少なからず影響しているように思える。本人はそのことにすら気づいていない様子だった。急に頭を抱える渦見は怒鳴り散らかすように言葉を吐き出す
「あああああああっ…また頭がっ…締め付けられる」
蛇は塒を巻きながら、着実にゆっくりと渦見を蝕んでいく。頭を抱えながら、蹲るエゴの渦見は自分が真っ黒な世界に今いる事もそれが変化している事も気づいていない様子だった。
一方で藤宮と璻はまだ作業を続けていた。
「璻さん、やっと2回目終わりましたね。次で最後です」
疲れ切った璻は藤宮の言葉に返事をする
「藤宮さんもう私ヘロヘロですけど、まだやるんですか?」
藤宮はぐるりとあたりを見渡しながら璻に言葉をかける
「はい。あたりを見てください。」
そんな藤宮を見つつ璻は周りをキョロキョロ見渡すと真っ黒な空間ではなく明らかにまだら模様に変化しているのがわかった。
「これは渦見さんの心の中なので自分自身に疑問が湧いたんでしょうね。空間が混沌としてきています。色が均一じゃなくなってきたので。気づくにはもう少しですかね。大きな進歩ですよ」
璻は自分がやっていることに自信がなかったがこんなにも変化しているのがわかると少しやる気を取り戻してきた。
「と…とりあえず私たちがやってることは無駄ではないことはわかりましたよ。次はどこですか?」
藤宮は指を刺すと璻に話しかけた。
「もう竜胆を置きましたよ。さて、これが一番重要かもしれません」
璻は首を傾げながら藤宮の話す”重要”の意味を考えていた
…重要ってどの記憶を想像して麻の葉に入れるのだろうか?…
璻は戸惑いながら藤宮に質問をした。
。:*:★。:*:★━━━━━━補足ポイント━━━━━━━━━━━★:*:。★:*:。
・朱色
朱色は神社の鳥居によく使われている色です
古代の言い方で「丹」というそうで丹を作るには水銀と硫黄を加工する必要があるんですがこの水銀も硫黄も毒性の高い物質らしく その毒をもって魔を除ける、という意味合いがあったと言われています。
”朱”は2050年の時代には大事な漢字になっています。それはもう少しするとわかると思います。
・”五蘊皆空”
五蘊皆空は仏教の言葉です。漢検に出てくる言葉です。
五蘊とは、色(物質的な形態)、受(感覚)、想(表象)、行(意志)、識(認識)の五つの要素を持っています。
皆空とは、すべてのものは実体を持たず、空であるという考え方。
藤宮曰く、「お前の中にある妄想から出るのはお前にしかできない。目の前から目を背けるな」という意味も込めています。妄想や想像は大事ですが、それに飲み込まれて行動できないのは違うぞという藤宮なりの愛情が感じれます。
・羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦
般若心経の一文です。意味はそれぞれ解釈する人によって違います。私は定まれと書いていますが、他に訳している方はいっぱいいます。今現在も除霊でも一部使われますが基本的に迷っている幽霊をあの世へ導いたり、霊障で困っている人に向けて唱える文言です。特にサンスクリット語は伸ばす発音が多いのです。素粒子に共鳴を起こしやすいため藤宮は使用しています。ある程度藤宮は除霊の経験もあります。その話は番外編とかで書こうかなっと考えています。
。:*:★。:*:★━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★:*:。★:*:。




