表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水流士-因子を解く-  作者: 小野里
- ネグレクト編 -

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/68

第25話:自分の尊厳を簡単に他人に売り渡すな

 



「今俺を認識したな?」




 璻は背後から声がする方に耳を傾け様子を見る。



 …いきなり視界が覆われて辺りが真っ黒に見える。これじゃ身動きが取れない…



 璻は先の見えない状態に少し手が震え始める。自分の手をぎゅっと握り震えを必死に抑えた。

深呼吸を何度も繰り返すとまた声が聞こえる。


「今怖いと思ったな」


 渦見の声に似た声がまた璻の背後から聞こえる。

 璻は震えながら意を決して話しかけた。



「あなたはエゴですか?」




 とりあえず、話さないと次に進まないのは璻もよくわかっていた。



 …私、今怖いと思った。だからこそ行動しなきゃこの状況は何も解決しない。対話をして根本を理解しなけ渦見さんの記憶は癒されないから。だから…



 璻は強く決意をしゆっくりと後ろを振り向く。

 すると視界を覆っていた黒い物は少しずつ消えていった。




 次の瞬間



 ジャボーンッ!!



 水の中に入る音が聞こえた。



 …このパターンだとまた別の記憶に飛ばされるっ!…




 水の中に璻は深く落ちていく感覚になる

 目を開けて状況を確認する



 …先に…光が見えない…ただ落ちていく…感覚…




「くっっ‼︎」




 さっきより身体が重いことに気がつく。おかしいさっきも息がしづらかったけどそれよりも酸素がさらに薄く感じる。深く記憶に落ちているからだろうか。何回も何回も記憶に潜ることで呼吸がしづらいのは渦見さん自身が気づかない間に毎回毎日この状態を繰り返していたのかもしれない。



 …くっ苦しぃ…



 少しずつ少しずつ水が黒く侵食していく感覚になる

 璻は助けを求め周囲を見渡すが深い蒼色の海が広がっているだけだった。


 この状況下で藤宮を呼ぼうか考えた。


…確かに「何かあったら呼んでくださいすぐに行きます」とは藤宮さん言ってたけどまだ何も起こってはいない……


 璻は深呼吸すると冷静にこの状況と渦見のエゴを考える事にした。



 …大丈夫。まだ息は出来ている。この状態でもまだやれる…



 この場で焦って抗って闘ってもエゴの思うツボなのは何となく感じていた。酸素の薄い状態でどこまで自分の身体が保ってくれるかわからないが今話しかけてみたらこの状況は少しでも変わる可能性があると根拠のない自信が璻の中で溢れ出す。




「あなたはなぜここにいるのですか。」




 沈黙が30秒ほど続いた。渦見の声は聞こえなかったが璻は諦めずに話しかけた



「渦見さんは勘違いをしていることに気づきかけているからあなたはここで渦見さんが気づきかけていることに対して上手く知られないようにブレーキをかけていますね」



 また渦見が話しかける声が聞こえた。



「他人のお前には何もわからない。」



 声は聞こえるが姿は見えない。


 …ちゃんと話して答える気があるんだ。もしかしてちゃんと話し合えば解決するかもしれない…


 璻は少し安堵するとエゴとの話を続けた



「あなたは幼少期からお母さんが大好きだったんですね。それが今も形を変え立場を変えて同じようなことをあなたは他人を通して自分の欲を満たしていた。あなたの母親が亡くなってあなたの承認欲求は幼少期からずっと満たされなかった。だからメディアでお金を稼ぎ不特定多数から認知されことによってお金で解決しないものはないと高を括って傲慢になっていた。違いますか?」



 鼻でフッと笑いながら璻の問いかけに答える


「それの何が悪い?何が言いたい。法律や社会的には何も悪いことはしていないむしろ楽しんで人生を謳歌している」



 璻はその瞬間何かがわかった気がした。


 …そっかこの人はまだ自分とズレていることにすら認識してないのか…



 璻は質問の仕方を少し変えることにした。


 …説教のような正論を叩き出した話し方は逆に火に油を注いでるこれだと渦見さんに理解してもらえない…



(私はここに渦見さんに説教するために来たのではない)


「確かに社会ではまだ何も問題になっていませんが、あなたは日々辛くないですか?」


渦見の声は璻の質問に応えた。


「辛い?何が?」



 璻は悲しい顔をしながら渦見を優しく包むように話しかける


「あなたは幼少期からトラウマになっている承認欲求を満たすため言いたいことを言わなくなっていませんか?」


渦見の声は小さくつぶやいた。


「自分の言いたい事…」


 その瞬間、周りの深い海だった色が段々と明るく変化していくように見えた

 璻は気にせず話し続ける



「スポンサーや政治や今の仕事の現象に渦見さん自身の意見はありますか?お金や自分の存在価を天秤にかけずに自分が本当にやりたい事言いたい事を強く抑えすぎていませんか?」


渦見の声はまた小さくつぶやいた。


「本当にやりたい事…」



 渦見の声がボソッと呟いた瞬間

 璻は辺りをキョロキョロと見渡すと六角形の形が足元から浮き出て空間に広がり始める。六角形の形をよく見ると映像が再生されているのが見える。璻は足元に映ったその六角形の形をよく見ると渦見と誰かが話しているのが見えた


 …これはきっと渦見さんの過去の記憶…



 渦見に対してスタッフが話している場面や企画の方々の打ち合わせの場面やスポンサーとのやり取りが万華鏡のようにコロコロ場面が移り変わっている



 誰かと渦見が話している声も今度は一斉に聞こえてきた


 璻は辺りをキョロキョロ見渡すとなぜか直後に目頭を押さえる


 …あたまがぁ…少し痛くなってきた。もう限界が近いかも…



 そんなことはお構い無しに六角形の形はまだ映像を流し続けている。

 渦見とは違う渋くて野太い声の男性の声が聞こえる



「渦見くんはさぁ、メディアの仕事好きだよね?じゃあそのことについては喋らないでよ。やりたくない役でも黙って仕事をこなすのが声優でしょ?選んでたら仕事なくなるからね」



 渦見の心の声も同時に聞こえてくる


 …俺が周りから認知され認めるられれば金が入る。そのための仕事がもらえるなら黙って受け入れる…



 別の女性の声がまた聞こえる



「渦見くん政府の人を紹介するわ。今度、脳内器具のCMに出てほしいって。あなたがCMの声優やってくれるなら莫大な賃金を払うわ。自分の感情を管理できる世界的なスポンサーに参加できる機会なんてそうそうないじゃない。あなたが適任よ断らないわよね?」



 …もう…休みたい…もうやりたくない…



 渦見の心の声もまた聞こえる


 さっきとは違う低く品のある男性が見える。そしてその男性と話している声が聞こえた。



「この取材さ、渦見くんに出てもらいたいんだよね。あの企業のスポンサーもやって一躍脳内器具も流行らせたじゃん。断った場合は国の官僚が君のお金の事でご家族に連絡する手筈になっているんだけど君のお父様は確かまだ働いていらっしゃったよね。話聞きたいんだよね。」



 渦見は一瞬嫌な顔をしたがなぜか笑顔で答える



「俺には何してもいいっす。けどウチの家族だけは巻き込まないでください」



 品のある男性はニヤッとする。その笑顔は不気味に見えた。

 男性はまだ渦見と話し続けていた


「こっちとしても助かるよ。君は何か大事なものを守るときすぐ自分の尊厳を簡単に僕らに渡してくれるね。理解がある声優は長生きするよ」



 頭を抱えながら璻はその場面が何を意味しているのかわかってしまった。


 …渦見さんはこうやって抑えて抑えて自分の承認欲求を満たしてきたんだ…


 次の瞬間大きく何かが割れる音が響く



 パリンッ!




 六角形の形に映った映像にヒビが入りガラスのように次々と割れ始めた


 後ろに後退りしながら頭を抱えしゃがみこむと足元に何か這いつくばるような違和感を感じた。

 次の瞬間璻の立っていた足場がスッと消えた。





 ジャボーンッ‼︎





 また水の中に入る音が聞こえた。


 深くゆらゆらと青く深い水の中へただ落ちていく


 璻は両足を動かそうとしても重く全く動かない。動かそうとしても何か紐のようなヌメヌメしたものが絡みついていることはわかった。あまりに暗く視界が悪いためこれがなんだか璻には全くわからない



 璻は動くこと自体を諦めた。



 …この状態で抗ってはダメだ。この状況に抗わず気の向くまま渦見さんが見せたい記憶の方向へ行こう…



 そう悟った瞬間、目の前にまた真っ黒な人型がスッと近づいてきた。目や髪の毛がないただ黒いマネキンに口がついているように見える。



 璻を見て不気味に笑っていた。



 その真っ黒な人型は少しずつ距離を詰めながら笑っていた。璻の首に手を伸ばす。

 璻はそれをただ見つめていた。首を掴むとゆっくりとジワジワ首を絞め上げていく。

 真っ黒な人型はニヤニヤしながら渦見の声で璻に話しかける。 



「苦しいだろう。さぁ俺を見ろ。助けを求めろよ」




 璻はこの瞬間何がしたいのかすぐ気づいた。


 …この人は自分が助けを求めるように手を回して自分の承認欲求を満たしたいのか。今助けを求めてもきっとこの状況は変わらないだろう。むしろ笑って楽しんで笑顔でこの状況をやり続ける……



 璻は思いっきり目の前の人型を睨みつけながら話しはじめる。


「首っから手を離してっ…あっ…あなたはっ…そうやって何人もっ…自分の欲求のために…」


 人型は口角を上げてニヤニヤと笑う


「苦しいだろう?辛いだろ?悲鳴を上げろ。脳の中の恐怖を聴かせろ」


 また璻の首をまた強く絞め続ける

 だんだん気が遠くなるのは璻自身も感じていた。

 頭は痛いしうまく目が重く開かない。



 …あぁもうダメかもしれない。……



 璻の頭の中でぼんやりと藤宮の顔が浮かんだ。



 …そういえば藤宮さん来るって言ってどれぐらい経ったんだろうか…



 なぜか髪をかき上げている藤宮が頭の中で浮かんだ。璻は自分が首を絞め上げられている状況なのにノロノロしているのだろ。そう思った瞬間



 ブチッッ‼︎



 何かがキレる音が全身に響いた。



 璻は息を止め首に力を込めて大きな声で叫ぶ



「ふっ…藤宮さんなんで早く来ないんですか‼︎いい加減にしろっ‼︎」



 今できる限りの声を出して力尽きたのか目を閉じ気を失う寸前に首に力を込めていた手がスッと消えた感触を感じた。璻はゴホッゴホッゴホッと咳をした。何か人に肩をガシッと掴まれている感触がする。



「暗いですね。灯りをつけましょうか。全く…探すのに苦労しましたよ」



 …聞き覚えのある声……



そう言うとボソッと何かを呟く声が聞こえた



「キラナっ‼︎」


璻は目を開けると肩を支えている藤宮がそこには立っていた


「ふっ…藤宮さん」



「とりあえず、水流士同士が見えるように明かりは灯しました。ところで璻さんいい加減にしろはレディとしてどうなんでしょうか?」



 璻は藤宮に体重をかけ寄りかかると少し安心をした。


「璻さんとりあえずこの状態でいいので深呼吸しましょうか。俺がいるから息が上手く吸えると思いますよ」


 璻は藤宮の言われた通り息を長く吸うと長く吐いた。

 少し頭痛は治って目もよく開くようになってきた


 璻は藤宮の顔を見ながら


「はぁっ……死ぬかと思いました」


 藤宮は思わずニヤニヤした。


「だから早く言ってくださいって言ったのに」



 …なぜいつにも増してニヤニヤしているのだろうか?まさか…



「藤宮さんもしかして出てくる様子伺ってましたね。」


 藤宮は左右に手を振る


「いやいや、そんな事はありませんよ。言いがかりはやめてください。」



 璻はハッとしてあたりを見渡したが真っ黒人型はその場から消えていた。


「そんな事はどうでもいいんですよ。早く肩離してください。セクハラですよ」


 藤宮は璻に対して謝った。


「すっ…すみません」


 藤宮は璻の肩からパッと手を離すと璻は藤宮に話しかける。


「藤宮さんまだあの人型いますよね」


藤宮は頷きながら璻の質問に応えた。


「はい。あれはエゴでしょうね。」


見たらわかるような状態に対して璻は藤宮にツッコミを入れる。


「いや、さっきの状況見たら誰だってわかりますよね」


藤宮はなんの迷いもなく淡々と説明をはじめた。


「璻さんが首絞めらてた時に蛇みたいなのがついてましたよ。璻さんが離してって叫んだあたりの所から」


 璻はその瞬間藤宮がだいぶ前から様子を伺っていた事がはっきりとわかった。


「やっぱり少し様子を伺ってて見てましたね…」


 藤宮の目が泳ぎはじめる。これは当たりの反応だ。少し焦って申し訳なさそうしながら


「いやぁ…あの〜」


 璻は藤宮の顔を睨みつけるがそんな事で怒っている場合ではないのは百も承知。


「藤宮を怒るのは後にします。今はどうやって人型をここに連れてこれるか考えなくては」


 藤宮はその璻の言葉を聞いてもあまり深刻に考えていないように見えた。


「はい。それなら策はありますよ」


璻は淡々と応える藤宮に対し言葉を疑った。


 …えっ?はい?今なんて言ったこの人?…



 璻は目が一瞬点になると「どどど…どうするんですか?」と思わず藤宮に聞き返す



「さっき蛇が絡みついていたって俺言いましたよね」


璻は頷きながら藤宮に返事をする。


「はい。聞きましたが…」


藤宮は分析しながら璻に説明をはじめた。


「蛇は石屋の管轄ですからね。おそらくエゴに蛇がくっついているんじゃないですか?くっついている蛇ごと取らない限りあれは無理です。彼らは他人から尊厳を奪うのを生き甲斐にしてます。例えば…そうですね。お子さんがいるお母さんから子供を取り子供を殴ろうとした場合母親は子供を殴らないでっ…私はどんな事をされたっていいこの子だけはやめてください。と懇願した場合主導権は殴る方に移り母親を容赦なく殴れますよね?」





 …なんか聞いたことがある。これさっき似たようなセリフを渦見さんも言っていたっけ…


璻は藤宮に質問をした。


「渦見さんも似たような言ってました。というか藤宮さんの例えが最低ですけど、要は主導権を簡単に他人に握らせるとそいつらの支配が始まるんですか?」


藤宮は頷きながら応える。


「はい。彼らはそれを聞いた途端の脳から出る独特な周波数がたまらなく好きなので陰湿な感情を常日頃から感じていたいのですよ」


璻はもう一回藤宮に確認をする。


「あのっ…つまり一回尊厳を握らせないとヤツらは出てこないんですか?」


藤宮はニヤニヤしながら応え始めた。


「はい。でもそれは奴らのやり方ですね。俺らはもう一つ手法があるんですよ」


 藤宮は自信がありそうな言い草に璻には聞こえた。


 …もう一つの手法??…



 璻は一瞬嫌な予感がした


「私、また首絞めらるとか嫌ですからね!」


 藤宮は璻の突拍子もない発言に思わずその場で笑ってしまった。



「あはははは。そんな事するわけないじゃないですか‼︎」



 笑っている藤宮に呆れた顔を向ける


 …どの口がいうのだろうか。さっきまで部下が首を絞めらるのを黙って見ていたサイコパス上司が……


 璻はため息を吐くと呆れながら質問をする



「で。どうするんですか?」


藤宮は自信ありげに応える。



「渦見さんの今紐付いている記憶と感情をこじ開けて視野を広げさせる作業をします」



 …???…



 璻は藤宮の言っているに対して理解が追いつかない。



「どういう事でしょうか?藤宮が言っている事これっぽっちもわかりませんが…」



藤宮の曖昧な業務手順に璻は困惑していた。藤宮は璻を見つめると言葉をかける


「まぁ…これから説明しますから見ててください」




 藤宮はなぜかポケットに入っている竜胆を取り出した。



。:*:★。:*:★━━━━━━補足ポイント━━━━━━━━━★:*:。★:*:。


尊厳を簡単に他人に売り渡す


この場合、尊厳を簡単に他人に売り渡すと主導権が自分以外に移ります。自分には決める価値はないので他人がどう扱っても構いません。煮るなり焼くなり痛めつけるなり加害者になる被害者になるなり好きに自分を使ってくださいになるので自分の人生を放棄していることに繋がります。


。:*:★。:*:★━━━━━━━━━★:*:。★:*:。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ