第22話:生きる希望
渦見が目を開けると真っ黒の世界が広がっていた。
いつの間にか意識が遠のいている間に目を何かで覆われたのだろう布のような物が見える。
…俺…いつの間にか寝ていた…
車が左折しどこかに入るような音がした。
動きが止まるとガタイの男性が渦見に向かって声をかける
「ガキンチョ、トイレ休憩だ。」
メガネの男性は渦見の目隠しと手の縄を外した。渦見の顔を手で掴み無理やりメガネの男性に顔を向かせると
低い声で話し始める。
「おい。今すぐ逃げようなんて思うなよ。俺たちの大事な金なんだからな」
渦見は内心ドキドキしながら静かに頷いた。パクパクと口を動かし声を出そうするが声が出ないことに気が付く。
渦見は焦り始めた
「つっ……」
口の筋肉が痺れて上手く動かせない。
…何があったんだ……
メガネの男性はフッと嘲笑う
「口の筋肉が痙攣する薬を飲んだからな。30分しか効き目がないが…その様子じゃ逃げようとするのも無理だな」
ガタイのいい男性がシートベルトを外すと後ろを振り返りメガネの男性に話しかけた。
「とりあえず指定された場所についたけど、本当にくるのかよ。てか、見ろよ。俺のネイル剥げてるじゃんかよっ」
ガタイのいい男性はメガネの男性に徐に自身の指を見せた
ネイルは黒で構成され、人差し指の爪の先端見るとネイルが剥げかかっていた。メガネの男性はチッと舌打ちをするとイラついた様子でその場でドンと地団駄を踏む
「お前のネイルなんか正直どうでもいい。あと3時間後に引き渡しなんだよ。あと車が汚ねぇんだよ。俺の服汚れるだろ掃除くらいしろよっ。前からイライラしてんだよっ」
ガタイのいい男性は自分のネイルに夢中で話を聞いていないように見えた。その様子を見てさらにメガネの男性はイライラとしていた。ガタイのいい男性は車内のグローブボックスを開けて除光液を取り出した。除光液をティッシュにつけ人差し指のネイルを拭き取る。
メガネの男性はガタイのいい男性に話しかける。
「ライターをくれ。グローブボックスにある」
ガタイのいい男性は返事をした。
「ああ待ってな。ネイル剥がしているから3分待って」
ガタイのいい男性はメガネの男性に指を見せながら説明をした。それが気に食わなかったのか余計にメガネの男性はイラつきながら怒鳴り声を上げる。
「今っつてんだよ!!」
そんな様子は気にしなく綺麗にネイルを落とすとグローブボックスを開けてライターを手探りで探す。ガタイのいい男性はため息を出すとメガネの男性にライターを渡した。
「はぁっ…あったあった。これな。そんな小さなことでイライラするなよ。短命になるぞ」
渦見はその会話を聞いてふと閃いた。
…この状況は俺にとってプラスになる。以前人間心理の本を読んだ時に人間は積もり積もった問題が同時に起こる事によって一気にストレスを感じ冷静な判断ができずにパニックに陥る……
渦見はニヤッと笑った。メガネの男性は自身のシートベルトを外し、ついでに渦見のシートベルトを外すと車のドアを開けた。
「おい。俺の後に降りろ」
メガネの男性は先に渦見より降りるとライターでタバコに火をつけると一服し始めた。渦見は黙って降りるとメガネの男性はライターを取り車の座席に置き車のドアを閉めた。一服が終わると吸い殻を地面に捨て足でタバコの火を消すと渦見の方を向いて話す
「ほら、トイレまで歩け!早く」
渦見はキョロキョロすると周りはパーキングエリアに見える。
メガネの男性が急に渦見の手を握ると男性トイレの方向へ歩いた。トイレに入るとメガネの男性はなぜか男性トイレの個室に渦見を入れた。
「早く用を足せ」
メガネの男性はトイレのドアの外でご丁寧に待ってくれていた。渦見はまだ逃げどきではないと考えた。
…今逃げたら確実にまた捕まってしまう。まだだ……
トイレのドアを開けメガネの男性を見る。渦見は洗面台に行き手を洗うと手をズボンで拭きメガネの男性の顔を見つめた。
「よし車に戻るぞ」
メガネの男性はそう言うとまた渦見の手を握った。
トイレを出てパーキングエリアから車へ歩くと夕方なのか家族連れが渦見の目に入る。母親と手を繋ぐ男の子だろうか?楽しそうに歩いているのが気に食わず渦見はなぜかイラッとした
…まだ母さんが生きていたらきっと手を繋いでくれただろうな…
そんなことを思いながらスタスタと車へ向かい歩く。璻はその様子を渦見の頭の上から見ていた
…幼い時に母親を亡くし今まさに連れ去られ幸せそうな家族連れを見たら妬ましくもなるよね。渦見さん…
璻は渦見が段々かわいそうに思えてきた。すると渦見の心から声が聞こえてきた。
…俺もあんな風に仲良く家族で楽しく過ごしたかったな。母さん…
渦見はメガネの男性に手を引かれ車まで来るとメガネの男性は車のドアを開けた。するとガタイのいい男性が運転席に座っておらず姿が見えない。渦見は車に乗り込むと後部座席に座った。
メガネの男性が車の中を見渡すと舌打ちをした
「あのヤローなんでいなくなってんだぁぁぁぁぁ!」
メガネの男性は渦見に脅すよう言い放つ
「いいか。今から探しに出る。逃げようなんて思うなよ」
渦見は頷くとメガネの男性は車のドアをバンッッッッ!と強く閉めた。渦見はメガネの男性がパーキングエリアの店に走って行くのを確認すると渦見は座席に置いてあったライターを握りしめ運転席に向かう。グローブボックスを手で開けるとさっきガタイがいい男性が使っていた除光液とティッシュを取り出した。ティッシュを何枚か取り出し除光液を染み込ませグローブボックスに入れる。
もう一枚ティッシュを取り出すとライターでティッシュに火をつけ発火された。除光液が染み込んだグローブボックスの中に発火したティッシュを入れ燃えるのを確認するとグローブボックスを閉め後部座席に何事もなかったように渦見は座った。数分してやっとメガネの男性がガタイのいい男性を連れて戻ってきた。
何か言い争いをしているのが見えた。
ドアをあけ車に乗り込むとガタイのいい男性は運転席のドアを開けて席に座る。車の中は熱く何か少し焦げ臭い匂いがした。それに気がついたガタイのいい男性は思わず声を漏らす
「おい。これ…」
メガネの男性も車のドアを開け乗り込み、バッグから資料を確認しながらシートベルトをつけた。ガタイのいい男性は後部座席を振り向きメガネの男性に焦りながら話しかける
「なぁ…この車焦げ臭いと思わね?」
メガネの男性は渦見の隣に座りシートベルトを閉める
「はぁ?焦げ臭いわけっ…」
メガネの男性はグローブボックスを指を刺した。
「ああああああああっー!!!!」
メガネの男性とガタイのいい男性は急いで車のドアを開けた。メガネの男性は渦見を抱き寄せ車から飛び出した。
するとメガネの男性は何かが手元にない事に気づき大声を上げる。
「身元引き渡しの書類はグローブボックスの中だっ!」
そういうと渦見の手を離し燃えている車に戻った。ガタイのいい男性は車を飛び出すと建物の中に走って行った。
渦見はこれはチャンスだと思い一気に走り始めた。
必死になって走り続けた。
渦見が走った矢先に3人家族が仲良く歩いているのが見えた。まだ渦見より幼い男の子を連れている。渦見は走りながら口をパクパクさせた。
「あっ…あっーーー」
さっきよりも筋肉の痙攣が少なく薬が切れているのがわかった。
言葉が出せることを渦見は少し安心するとその家族に向かって大きな声で話しかけた
「ああ〜すみませんっ…あの」
3人家族が振り向くと見知らぬ母親が渦見に気づき少ししゃがみながら話しかけた。
「どうしたの?迷子」
その言葉なんでもない優しい言葉に渦見は思わず涙が溢れた。生きるか死ぬかの瀬戸際でずっと揺れ動いていた渦見にとって恐怖と緊張から解放されたということが自分でもわかった気がした。
……なんでもない言葉なのに……
泣きながら渦見はなんとか言葉を捻り出して状況を伝え困っているから助けて欲しいと伝えた。渦見自身が拐われた事、父に暴力を振るわれている事、母は亡くなった事を見知らぬ母親に必死に説明した。見ず知らずの子供の言うことを信じてくれるか渦見は不安で仕方なかった。この人たちも人身売買の仲間だったらと渦見の中で不安が頭をかすめたがその母親は渦見の話を落ち着いて話を聞いてくれた。途中渦見の母親が亡くなる話をし始めると見知らぬ母親は目から涙が溢れていた。
見ず知らず他人のことなのに自分以上に泣いていたことが渦見にとって不思議で仕方なかった。悲しんで泣いてくれる人なんて友達も周りの大人でさえ、その話題については一切何も触れなかった。腫れ物扱いするような感覚が常にあり、渦見にとってそれが当たり前だと思っていた。
泣いてくれる感情むき出しの大人は渦見にとって初めてで新鮮だった。全て話終わると優しくその母親は渦見のことを抱きしめた。
「辛かったねっ…」
その見知らぬ母親の言葉が余計に渦見の心に響いた。渦見はその時初めて自分が辛かった事に気づいた。そう感じると涙がボロボロと溢れてくる。今まで辛いと感じる事が日常茶飯事で感覚が麻痺していた。
…俺そっか辛かったのか……
母親は少し笑い渦見にハッキリと話した。
「とりあえず警察に相談しよう」
見知らぬ母親は旦那と息子を説得させ渦見を車で乗せパーキングエリアから少し離れた近くの交番まで親切に連れて行ってくれることになった。移動中の車の中で助手席座っていると見知らぬ母親は振り向き渦見に話しかける。
「そういえばお名前は渦見辰彌くんだっけ?」
隣に運転している旦那さんが驚いた表情で渦見が座っている後部座席を見た。
「えっ…君、渦見っていうの?」
渦見はなぜ驚いてるのかわからずとりあえず返事をする。
「はい…それが何か…」
見知らぬ母親はうーんと悩むと朧げに渦見に質問をする。
「どこかで聞いた事ある名前なんだけど、数年前のドラマで『雨の涙』ってドラマの子役さんにそっくりな名前で」
渦見はそのドラマのタイトルを聞いて目を丸くする。
…知っていてくれた人がいたんだっ……
その時渦見は自分の存在価値を強く感じた。
初めて生きていてよかったと思えた。
「あっ…はい。俺昔子役の仕事してて主人公の子供やってました。」
運転している旦那が思わず聞き返す
「そうだったの。あの病気がちの主人公葵役?」
渦見は少し恥ずかしそうに話した。
「はい。『雨の涙』が俺の初主演だったので」
見知らぬ母親は驚くと嬉しそうに話しかける。
「そうだったのね。演技が純粋で印象に残っているわ。心に刺さるドラマで毎週楽しみにしていたの」
渦見は嬉しくなったが同時に芸能活動を引退していること事実を伝えないといけないことに悲しくも感じた。
「ありがとうございます。でも今は引退してて……」
見知らぬ母親は一瞬少し落ち込んだ。
「そうだったのね。でもあなたの演技で救われた人たくさんいるわ。私も隣で運転しているこの旦那も『雨の涙』がきっかけになって知り合ったの」
渦見はその言葉を聞いて胸が熱くなった。
…まだ覚えてくれる人がいた。しかもこんな出会いがあるんだ。俺の演技で感動する人がいたんだっ…
渦見は思わず表情が明るくなりニコニコとした。車を止めて警察の駐車場に停めると見知らぬ母親が渦見と一緒に行くと言うと車のドアを開けて外へ出ると渦見もシートベルトを外し外へ出た。警察に着くと受付にいた警察官に見知らぬ母親が説明をする
説明が終わると渦見を警察に渦見を引き渡した。見知らぬ母親が渦見の顔を見ながら少し寂しそうに話しかけた。
「辰彌くんっ…また会おうね。今度は知らない大人が来てもドアを開けたらダメだから」
渦見は心配かけないように必死に笑顔を向けると頭を下げてお礼を言った。
「はい。気をつけます。ありがとうございました」
見知らぬ母親は渦見に手を振ってその場を去っていった。璻はそれを見ながら少し安心した。警察は渦見の父親に連絡すると言い40分くらい待っていてと言われた。
40分後、待合室の廊下をバタバタ誰かが走ってくる音が聞こえる。
「遅くなりました。うちの渦見辰彌の父親です。」
パッと顔をみると渦見の父親だった。まるで何に対して焦っているような様子だった。いつものように殴られるかと思い渦見の身体は一瞬硬直する。渦見の父親は渦見を発見すると駆け寄り、顔を触りながら泣いてた。
「生きていた。よかったっ……」
渦見はずっと自分を認めてくれない父親しか知らなかった。母親が亡くなってからすぐに株価の暴落で父親は仕事を退職し引きこもりがちだった。父は機嫌が悪い時にはよく殴られ挙げ句の果てに子供相談所に渦見が連れていかれたとき数ヶ月も放って迎えにもこないような父親だった。
そんな父親に対して1ミリも何かを期待することなんてなかった。
こんなに育児放棄をしてきた父親がなぜか泣きながら渦見を強く引き寄せ抱きしめている。
いつもとは違う父親の行動にどうしていいかわからずその場に固まった。少し冷静になった父親は警察官に事情を聞かされ書類にサインをした。渦見は父親と歩きながら駐車場まで行く。
父親とどう話しかけていいかわからない渦見は黙っていた。
勝手に知らない人に連れていかれた事を怒っているかもしれない。
そんな心配が頭をよぎった。
父親の車の前に着くと父親は渦見に話しかける
「父さんが悪かった。今まで蔑ろにしたり殴ったりしてすまなかった」
父親は深々と渦見に対して謝罪をする。渦見は今まで見た事がない父親の態度に戸惑いながら言葉をかけ。
「なんでっ……謝るの?俺がっ」
渦見は2〜3歩下がる。父親は目に涙を溜めて渦見に話し始める
「今までお前にやった事は絶対に許されない。お前の母さんが亡くなったのは辰彌のせいだと都合のいいように思い込んでいた」
渦見は薄々そうじゃないかとなんとなく気づいていた。
自分の予想は外れて欲しかった。
父親のその言葉を聞いて予想は事実になってしまったことにひどく落胆する
息子である渦見の存在を無視したり、睨みつけたり、殴ったりまるで常に敵のように見立ていた。もちろん必要最低限の食事は出してくれていたが何よりも信頼していた家族に精神的な虐待を繰り返していた。そして父親の機嫌が悪いと殴られるこの繰り返し。
父親に対して信用はないに等しい。渦見は奥歯を噛み声を震わせた
「それでっ…父さんは俺に、俺に謝ってこれまでの事許されると思うのかよっ…」
渦見の目には涙が溢れていた。
父親は下を向きながら申し訳なさそうにしていた。
「父さん少し病気だったんだ。それをずっと辰彌に隠していた。ごめん。」
渦見は思わず言葉を失った
…病気だった、殴るのが病気だっていうのかよっ……
渦見はゆっくり口を開く
「なんで黙ってたんだっ……」
渦見の父親は渦見をしっかり見る
「ゲノムの病気でね。おじいさんと同じ病気なんだよ。でも最近やっとよくなったんだ。だからこれから謝ってお前と、辰彌と一緒にやり直そうと…」
渦見は胸の中が熱くなった。父親がやっと息子である渦見にきちんと向き合ってくれる事が嬉しかった。
璻はその様子を見ながら心を撫で下ろした。
…虐待をやったことは許されないし最低だったけどそれに気づいて子供に謝ったのか…
渦見は父親の顔を見つめた心の中で呟く
…今までの父さんのこと許したわけではないけど、少しぐらいわがまま言ってもいいかもしれない…
渦見は涙を服で拭うと笑いながら父親に話しかける。
「お腹すいた。父さんハンバーグが食べたい」
渦見の父親は目に涙を溜めながら頷く
「おう。すぐ準備するから車に乗りなさい」
目を強く瞑って目を開けるとそこで記憶は終わっていた。
璻は目をパチパチさせた。
藤宮が璻が帰ってきた事に気づくと璻に話しかける
「おかえりなさい。記憶はどうでした?」
思わず藤宮の顔見ると少し疑問が浮かんだ。
…渦見さんの父親はゲノムの病気って言ってた。それってなんだろう。引っかかる…
璻は思わず藤宮にこの疑問を聞いた。
「藤宮さん渦見さんの父親ってゲノムの病気持ってましたっけ?」
藤宮は少し考えると璻に応えた。
「病気ですか?確か今皇に連絡して調べてもらっています。」
璻は藤宮に頭を下げてお礼を言う。
「そうですか。ありがとうございます」
…藤宮さん行動が相変わらず早い……
藤宮は璻に質問をする。
「んで、記憶は何かわかりました?」
藤宮は遠回しに内容を報告してくれと言っているように璻には聞こえた。
璻ははぁっ…とため息を出す
「思ったよりヘビーな記憶です。渦見さんは昔、人身売買にあった記憶でした。それも計画的な犯罪に見えました。渦見さんの母親が亡くなって父親がおかしくなった時に一度だけ子供相談所に連れていかされていたことがわかりましたね。その後どのくらい経ったかわかりませんが…子供相談所から個人情報が売買され渦見さんが連れていかれたという記憶でした」
藤宮は話を聞きながら疑問にふと思ったことを璻に伝えた。
「ん?なんだかその話、やり口が石屋のやり口にそっくりですね。人身売買と子供相談所…そうなるとやっぱり…」
璻は初めて聞く単語に思わず、藤宮に聞き返した。
「石屋ってなんですか?渦見さんと関係あります?」
藤宮はあぁっというと思い出したかのように話し始めた。
「璻さんに説明してなかったですね。石屋は以前地球を裏で牛耳っていた組織の名前ですよ」
藤宮の言葉を聞いた璻はあまりに突拍子もない藤宮の発言に一瞬頭の中で宇宙空間が見えるような感覚がした。
なぜか璻はその場で数十秒静止し立ち尽くすと腑抜けた返事を藤宮に返した。
「へっ?」
藤宮は璻の様子から困った表情を浮かべていた。
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・石屋
石屋は水流士の中でも重要なキーポイントとなる集団です。彼らは特殊なゲノムを持っていることがわかっています。水流士は訳あって彼らを追っています
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