第21話:あの時の人身売買
水の温度が肌を通して直に伝わる
…また水が冷たいっ…
手が寒さで痺れ芯から凍えるような冷たさが全身を襲う。
璻はハッと目を開けた。
どこかの家だろうか?玄関の上から覗いているような視点になっていることに気が付く
見覚えのある玄関に璻はホッとした。
……さっき同じ見たことのある部屋、ここは渦見さんの家…
ガチャッ
玄関のドアを開ける音がした。
「ただいま」
成長した渦見がランドセルを背負い帰宅ように見えた。小学生の高学年くらいに璻には見える。渦見は重そうなランドセルを玄関に下ろすとスニーカーを脱ぎ始めた。
ピンポーン
突然インターフォンの音が鳴った。まるで渦見の帰宅を狙ったかのように何回も何回もインターフォンを鳴らしていた。渦見はため息を吐き脱いだスニーカーをスリッパのようにしながら足を引きづりだるそうに玄関のドアを開けた。
目の前には渦見より背の高い男が2人組で立っていた。
1人はガタイのいい男性ともう1人はメガネをかけ、いかにも目立たない男性がそこには立っていた。大人に驚いた渦見は一歩後ろに下がった。ズカズカと遠慮なく渦見の家の中に入ってくると突然ドアを閉めた。
なぜか2人とも不気味で優しい笑顔を渦見に向けた。メガネをかけた男性がしゃがみゆっくり渦見に話しかけてくる。
「子供相談所の職員のものですけど、渦見辰彌くんかな?」
渦見は警戒しながら答える。
「はい。そうですけど」
メガネをかけた男性が書類を取り出すと書類を見ながら話し始める。
「君は3年前に子供相談所に一時保護されているね」
渦見は一瞬顔を背ける。メガネの男の顔は渦見をじっと見ていた。まるで蛇に睨まれた蛙がごとく獲物をじっと見つめているようなそんな感覚に陥っていた。しかしここで無理に質問に答えないのも不自然に感じると考えた渦見は思わず一言だけ返事をした。
「はい」
メガネをかけた男性は渦見の頭を撫でると渦見を説得する
「そっか、今回もお父さんから連絡頂いてまた子供相談所で君を預かる事になったんだよ。君が必要なんだ。みんなが君を褒めてくれるところに一緒に行こう。一緒に来てくれるよね?」
渦見はその話を聞いて表情を曇らせた。絶望的な感情が渦見の心を呑み込む。
…また俺父さんに捨てられたんだ……
璻は渦見の心の言葉を聞いて疑問を抱いた。
…渦見さん今父さんに捨てられた?って言った?どういう事?…
渦見はなぜかこの大人たちに警戒心が出てきた。知らない人に連れて行かれるのは良くない。眉間にシワを寄せ必死に考えていた。同時に渦見自身の中でこの人たちに連れて行かれることに対して、ポジティブに考える自分が出てきた。
…こんなっ…家出て行きたい。俺を必要としてくれて褒めてくれる。父さんにも認めてもらえなかったこの俺をこの人たちは認めてくれるかもしれない。助けてくれるかもしれない…
渦見にとって母親が亡くなってからのこの家はなぜか非常に居心地が悪かった。心底父親に絶望した自分とこの家を出たい気持ちがだんだんと強くなる。
むしろこの状況は渦見にとって願ったり叶ったりな状況であることは変わらない。
渦見は決心が決まると頷き返事をする
「はい……」
メガネをかけた男性は渦見に手を伸ばし声をかける。
「では辰彌くん一緒にいこう。」
渦見はメガネの男性の手を取り言われるがまま玄関のドアを開けた。渦見は静かにメガネの男性に手を握り歩き出した。玄関を出ると白い軽バンの車が止まっていた。渦見は大きい車に少し威圧感を感じながら渋々車まで歩き始める
車の前に来るとメガネの男性が車のドアを開ける。渦見は車の中に入り座るとメガネの男性も隣に座り込んだ。車のドアを閉めるといきなりメガネの男性が襲いかかる。
渦見の口を布で塞がれた。
一瞬甘い香が鼻の奥まで広がるのがわかる。何が起こっているのか渦見は検討もつかなかった。空気を吸うたびに意識が薄れているのが渦見本人にもわかっていた。
璻はこの状況を見ながら不自然な点に気が付く。
…本当子供相談所の職員だろうか?こんなことで眠らせることはするわけ…
渦見は突然声を上げて暴れようとする
「うっ……うううっ……」
メガネの男性は渦見の手を紐で縛り身動きが取れないようにした。ほんの数秒の出来事だった。非常に手際がよく手慣れているような様子だった。
ガタイのいい男性が渦見が動かないのを外から確認すると車の運転席のドアを開きすぐさま乗り込んだ。思わず口を抑え笑いながらシートベルトを閉めるとエンジンをかけた。
ガタイのいい男性がメガネの男性に話しかける。
「子供相談所って言えばどの家でもドアを開けてくれる素晴らしい文化だ。日本は!」
ガタイのいい男性は笑いが止まらない様子に見えた。メガネの男性はそれに答えるようにガタイのいい男性に話しかける。
「そうだな。連れ去るには子供相談所って言えば市の職員だと勘違いして信じる人間が多い。効率が良く素晴らしいビジネスだ」
メガネの男性は書類をガタイのいい男性に見せた。
「ああ〜それとこれ今回の子供の個人情報だ。これは子供相談所の職員から内密に個人情報買ったものだ」
ガタイのいい男性は笑いながらメガネの男性に質問する。
「この情報いくらだったんだ?」
メガネの男性は顔にかかっているメガネを外し答える
「この単価は1人300万だ。各臓器見積もって1臓器30万ってところだな。支払いはもうすでに終わってる」
ガタイのいい男性は書類を読むとなぜか渦見の方を見つめた。
「コイツは驚いた。渦見辰彌かよ。俺でも知ってる大物だ。昔芸能界で子役やってた日本人なんて貴重だ。海外で売買したら高値がつくぞ。これで金がまた入る!」
メガネの男性は手元にあったカバンから売買の手順が書いてある書類を読む。
身動きが取れない渦見をなぜか抱き寄せる。
渦見は恐怖で体が震え始める。
メガネの男性は渦見の耳元で吐息多めで話しかける。
「安心しろ悪いようにはしないさ。お前はまず日本にいる臓器売買提供の病院に行き調べてもらう。部位をとってもらったら売り捌く!あとは薬の材料になることだな。俺たちは売れて幸せ!ありがたいと思えこのガキンチョ」
メガネの男性は渦見の頭を優しく撫でると渦見はようやく気がついた。
自分が大人によって騙されたことに。何も身動きが取れない渦見は意識が薄れながらも歯を食いしばり男たちの話を聞いていた。
…クソ、ハメやがった。なぜ大人の男は全員俺を苦しませるのか……
璻はその言葉を聞いてゾッと身の毛がよだった。
そしてこの話を聞いて大体推測ができた。
…コイツらは子供相談所を名乗った人身売買の連中だろう。しかも多分仲介役…
こんな人間がまだこの時代でも日本にいた事に璻は心底驚いた。ガタイのいい男性はメガネの男性に顔を向け話しかけた。
「でも、俺どっちかというと赤子の方が価値高いからどうせならこんなガキより赤子の方が仕事やりたかった」
メガネの男性は笑いながらシートベルトを閉めた。
「バカだな。俺らが連れて行けるわけねぇーだろうがら。赤子は海外組の養子縁組部隊がいるからそいつらに任せておいた方が確実だろ?」
ガタイのいい男性はさらにニヤニヤしながら話していた。
「それもそうだ。今は日本が高く売れる時代だ。日本国籍は売買し放題。この国の全ては商品だ。日本人も日本国籍も土地も海外の人間に買われ放題。俺たちの母国ではこんな事できないぜ。金に目が眩んだヤツらにいいように扱われた末路だな。それに気づいてない一般庶民はさぞかし脳内お花畑。着実に侵略されているのに気づきもしない愚かな民族だ」
ガタイのいい男性が腹を抱えながら爆笑した。璻はその話を聴きながら少し悲しくなった。
この人たちはまだ未来を知らないのであろう。
日本は2032年以前にこういう輩がいなくなり土地も返還されることにもこの人たちは気づいていない様子だった
大きな太平洋地震が起こった時に大半の人間が犠牲になった。なぜか犯罪履歴が多くあったり、またパーソナルエネルギーが低い人間が多く亡くなっていた。
地震で生き残ったとしても管理社会の今この人たちの寿命は短いだろう。社会的に淘汰される人種だからだ。太平洋地震で生き残ったとしても数年後には思想チェックの導入、パーソナルエネルギーの波動測定が始まる。これまでの犯罪履歴が明るみになるとベーシックインカムがもらえず自国に返されることになったからだ。
璻はこの事実をすでにわかっていた。
このことは今後、様々な人の脳に取り付ける脳内器具導入の入り口となる。
…こういうことがあったから世界政府は脳内器具を全世界の人間に入れ人身売買が起こらないように管理したいのか…
璻はそんなことを思いつつふとメガネの男性をチラッと見た。
メガネの男性はため息をつくとガタイのいい男性にイラッとしながら文句を言った。
「御託はいいから早く車出せよ。約束の時間まであと少しなんだぞ。遅れたら金貰えないだろうが!」
ガタイのいい男性はメガネの男性の言葉を軽く流す。
「へぇへぇ。わかった。出せばいいんだろう。出せば。そんなに怒るなって」
璻はこの記憶を見ていてなんとなく渦見のトラウマが見えてきた。
…ネグレクトに人身売買、これは心を閉じざるえない記憶だ……
突然渦見が考えた言葉がそのまま璻自身に伝わって流れ込んできた。渦見は意識が薄くなりながらその男たちの話だけは聞こえていた。車に揺られながらこのまま乗っていたらどうなるのかを考えた。
…俺はこのまま身体を売られるのか?もう生きていて散々な思い出しかない。いつ死んでも後悔なんて……
渦見の頭の中でふと子役だった頃の過去の思い出がよぎる。色んな人から喜ばれ必要とされていた。どんな演技をしても褒められ評価され嬉しかった記憶、演技レッスンでよく母親の笑顔と褒めてくれた声を思い出した。
「辰彌、よくできたよ。素晴らしかった。あなたにしかできない演技だわ」
優しくて暖かい手が渦見の頭を優しく撫で抱きしめてくれた。
…あの母さんが褒めてくれた演技をもう一回やりたい…
家に戻っても居場所がない自分に腹が立っていた。父親に無視され常に存在すらいない事にされる。
時折殴られ続けて我慢しても褒めてくれない。父親が精神が不安定な時にいつも殴られる。
…ほんと母さんが亡くなってからクソみたいな人生だった……
こんなクソみたいな大人に使われて精神を痛めつけられて、ボロボロになるより今生きる選択を変えて這い上がったらどうなるんだろうか?
きっとこの先少し変わるかもしれない。
渦見の中に希望が溢れてきた。
…生きて脱出できたら芸能界にまた戻りたい……
でもコイツらに連れ去られたら芸能界には二度と戻れないし最悪は殺されるかもしれないとふと考えが浮かんだ。
車に揺られながら脱出できるタイミングを見計らっていた。
……よく考えろ絶対にこいつらが気を抜く瞬間が出てくる。その時に逃げ出してやるっ‼︎…
渦見はその時を静かに待っていた。
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・人身売買
日本でも1年間で何千人と子供がいなくなっていることが問題視されます。海外のバイヤーなどに売られて帰ってこないことがほとんどです。この頃の日本は生活保護をもらっている方や貧困層をターゲットに大きい車で人を連れ去りお金になると言って海外に臓器売る人たちが増え始めます。高価なビジネスなので、子供だけではなく大人やお年寄りもターゲットになり各地で混乱が起こります。ちなみに臓器を売った場合は短命になりやすく病気にもかかりやすくなります。ほとんどの人は3年〜10年の間に亡くなります。
世界政府が発足すると脳内器具を導入されます。子供がいなくなっても位置がわかったりしますが、渦見の場合は世界政府が発足する前の話しになります。
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