第19話:怒りは本当の感情を隠す
璻の中に怒りが沸々と込み上げてくる。
…なぜ仕事中に自分はそんな情けない事を考えてしまったんだろう記憶を見ると決めたのは自分なのに…
(この仕事を選び、やると決めたのは紛れもない自分なのに嫌なことがあるとすぐ不安が襲って身体が動かなくなる)
…クッソ、そんな自分に心底イラっとする…
璻の様子を見ながら何か様子がおかしいと感じ取った藤宮は璻をじっと見つめ優しく問いかけた。
「璻さん、渦見さんの記憶の何を見たんですか?」
藤宮の寄り添うような声に璻はハッと我に返った。
…自分のことだけ考えている場合ではない。とりあえず何か答えないと藤宮さんが心配する…
怒りを抑え璻は事実をありのまま言おうと決心をし顔をあげ立ち上がる。
藤宮をまじまじ顔を見つめながらに応え始める
「渦見さんの幼い頃芸能界に入る前から芸能界に入ったあとの出来事と渦見さんのお母さんが亡くなった所まで見ました」
璻は目を少しうるうるさせながら見た事実をありのまま藤宮に伝えた。
藤宮はそんな璻を見つめまるで落ち着かせるように話しかける。
「なるほど。俺が渦見さんの記憶に絡まってた時と同じ記憶ですね。璻さんはそれを見てどう思いましたか?」
璻は藤宮の顔を不思議そうに見つめる。
…どうして、藤宮さんは私の感情を聞くんだろか?今仕事中なのに私のこと聞いても仕事に…
璻は一瞬頭の中で不安がよぎる。
…今の自分の感情を言葉に藤宮さんに伝えたら、この仕事自体やる気がないのかなとか思わないのかな…
一瞬璻の心がざわつくような感覚が胸に残った。
不安に陥ってる璻は冷静に考える。
他人から見た自分の立場ばかり考え自分の気持ちに目が向いていなかったことに璻は不意に気がついた。
…不安に怯えているのは私の妄想かもしれない…
そのことも含めて今の自分が感じた感情を偽らず藤宮にそのままを伝えようと決心し意を決して璻は口を開いた。
「ううっ…渦見さんの記憶を見た時に記憶を見る仕事なのにこんな悲しい記憶みたくないと思ってる自分に怒りが湧きました」
藤宮は璻の話に真剣に耳を傾けてくれた。
「そうですか…」
そういうと呟いた藤宮は浮いている水の中の水分子に目を向け璻に話し始める。
「璻さんはどうして人間は怒りの感情が出るか?仕組みを知っていますか?」
璻は藤宮に聞き返す。
「怒りの感情ですか?」
頭の中で藤宮の質問について考えた。
…藤宮さんの質問はただ愚痴を聞くためのものではない。絶対に意味のない事をいう人ではないはず…何かに大事な事を気づかせようとしてくれる…
藤宮は見ている水分子から顔を背けまた璻に話かけた。
「はい。知っているかなんて問いはなんとなく…上から目線ですかね?すみません。言い方を変えて質問しますね。璻さんが怒りを感じる前に何か自分で出てくる感情はありませんでしたか?」
璻は冷静に渦見の記憶を見た時の自分を思い出し考えた。記憶を見て悲しみ怒りを感じる前、璻自身何個か別の感情が一気に押し寄せていた。感情が押し寄せた事も一瞬で忘れてしまった自分が確かにいた。
…なぜ感情があった事すらわからなかったんだろう。一瞬ふっと感情が出てきてたのに一瞬で忘れてしまっていた…
藤宮に指摘され改めて気づいた。璻は自分の中に起こっていた感情を冷静に確認する。渦見の記憶を見たあとに璻が認識できた4つの感情が心の中でぐるぐると渦巻いていた。
①渦見の記憶を見て後悔した感情
②渦見の記憶を見たくないという感情
③仕事中にそう思ってしまった自分に失望した感情
④自分に対して怒りの感情
それを頭の中で思い浮かべながら藤宮に説明をする
「確かに怒りの前に別の感情が4つ来ました。後悔した感情、記憶を見たくない感情、仕事中にそう思ってしまった自分に失望した感情、自分に対しての怒りの感情です。」
藤宮は璻に微笑むとその場で拍手をした。
「よく分析できましたね。ではなぜ人間は最後に怒りが湧いてくるのでしょうか?」
…怒りの感情…
そう考えると怒りについてこれまで深く璻は考えた事がなかった。人間は自分が期待していた結果でないと怒りが沸くし、自分を過信し挑戦して出来なかったと感じた時にも怒りが沸く。
璻はハッと何かに気づく。
…怒りは人間の期待や傲慢な思い込みからきてる…
璻は藤宮を見つめながら質問に対して回答をしていく。
「怒りは自分の期待した行動や結果が出来ていない状態の時に無意識に感じます。それはこうであらねばならぬと人間が深く思い込んでいるからですね?そして、自分の根本の問題点を認めたくない時にも出てくる」
璻の回答を聞きながら藤宮はニヤッとしつつ応えた。
「はい。大当たりです。怒っている最中は自分自身が怒りに気が付かないものです。今の自分の感情を冷静に感じ、認め、なぜ今自分はこの出来事で怒っているのかを認識しない場合、大概の人間は怒ってエネルギーを浪費しほとぼりがさめると忘れてしまいます。璻さんが仰るように怒りは本当の感情を認めたくないときに主に出てくることが多いです。怒りを繰り返すと本当の感情が消化出来ずにまた同じ事を何度も何度もやり続けます。これが感情を抑圧をする根本的な原因になりますね」
璻は藤宮の回答を聞きなぜか腑に陥る感覚になる。
璻は藤宮に聞き返す
「怒りは自分の認めたくない部分。これが感情に蓋をすることですか?」
藤宮は頷きながら璻に応える
「そうです。一瞬で忘れるということは、感情に蓋をすると変わりありません。前回いらっしゃった過干渉の狭山さんの時も今回のネグレクトの渦見さんの時も感情に蓋をする事が習慣になってこちらに来ているわけです」
璻は心の中で呟いた。
……私も無意識に感情に蓋をしていたのか。この考え方も私の心の癖なのかもしれない。これを気がつかせるために藤宮さんは質問をしていたのか……
璻の納得した表情を見た藤宮は少し嬉しそうにしていた。
璻は冷静に感情の動きを藤宮に伝える。
「確かにそう考えると感情に蓋をするっというのは一瞬で何があったか忘れることに繋がってたんですね。私が最初に感じた感情は後悔でしたが、その後にこんな悲しい記憶を感じ、悲しさが広がって自身の失望になって怒りになりました」
藤宮は璻の話を聞きながら何か疑問に思ったのか聞き返した。
「そのパターンだと同時に何か…そうですね。悲しみの後に恐怖はありませんでした?自分がその立場だったらとか一瞬考えませんでした?」
藤宮に言われた瞬間なんとなく思い当たる映像が頭の中に浮かび上がる。
渦見の過去を見た時、一瞬だったが璻の頭の中で渦見の母親が自分の母親の顔や父親の顔にすり替わるような想像を璻自身がしてしまったことに気がついた。
…そうだ。同じ立場だったら悲しすぎるし、こんな怖い思いはしたくない。頭の中で少し考えたんだ…
一瞬渦見の記憶に共感してしまい怖さを感じたこと、ほんの一瞬だった。
璻はそんな一瞬の自分の気持ちにも気づかなかったことに反省をしながら応える。
「そうですね…渦見さんの立場を想像したらと恐怖がありました。」
藤宮はやっぱりという顔をした。流石にこの手の仕事を何年もこなしていると人の感情に非常に敏感になるんだろうか?小さな感情でも気づくのが早く冷静に気持ちを分析することができる。そんな藤宮は頷きながら応えた。
「やはりそうですか。素直に答えてくれてありがとうございます。大事な人を失う悲しみと恐怖。それが璻さんが今感じている本音です。大事な人を失う怖さや死ぬ恐怖に執着していませんか?」
藤宮のさらなる問いに璻は言葉を返す。
「執着ですか…」
璻は頭の中で想像をした。確かに死ぬ恐怖はあるし目の前で大事な人が亡くなる事が怖いし、悲しい。何より死ぬのが怖い。痛いのは嫌。そんな言葉が璻の頭の中をうるさくする。生死に執着している。これは藤宮が問いただしている事だろうと璻は納得がいった。
…そっか、これを藤宮さんが教えるために質問してくれたのか。今この感情をありのまま認めた方がきっと私は楽になる気がする…
璻は藤宮に問いかける。
「大切な人を失う恐怖と悲しさや死ぬ恐怖。確かに私の中にあります。きっと藤宮さんが突っ込んで言いたいのはそれも私自身が作り上げている妄想っていうことですか?」
藤宮はうーんと悩み、穏やかな表情で璻の質問に対して答え始める。
「妄想って言うとなんだかネガティブに感じますね。思い込みですかね。これは自分が作り上げている思い込みなんだって考えるとなんだか悲しみや恐怖は小さく感じますよね。これまた不思議なんですが」
璻は頷きながら納得をする。
確かに感情を言葉にして話を聞いてもらった今先ほどの恐怖や怒りの感情が湧かなくなっていた。璻はなぜか藤宮の言葉が無性に心に刺さる。
「あの藤宮さんは的確に相手の感情を読めますね。すごい才能ですよ」
藤宮は褒めれれたことが嬉しいのかニヤニヤしながら話を進める
「ありがとうございます。ええ。まぁ。常日頃から自分の感情のトレーニングはしてるので怒りはなんとなく構造は把握しています。怒りをある程度把握すると自分の中で本質が見抜けやすくなりますし、プロパガンダや大衆コントロールに巻き込まれにくくなります。怒りを常日頃から持っている方は周りに巻き込まれやすいですね」
璻は藤宮に質問をする。
「簡単に怒りが湧きやすいからですか?」
藤宮は腕を組みながら応える。
「そうです。怒りはすぐ感情に出やすいんです、自分の弱い本質が出るので」
怒りは正義か悪か人間の中で判断がつきやすい感情であることは言わずもがなだ。うまく怒りに乗せられて行動した人間の末路を考えると末恐ろしいことは璻にもわかっていた。
「確かに感情を分析せずに生きていたら周りに振り回されて人生めちゃくちゃになりますね」
藤宮は璻に説明を始めた。
「怒りは長期に感じ続けると病気に発展しやすくなります。例えばですけど、結構前に認知症という脳にあるタンパク質が溜まる病気でお年寄りが急速にボケる病気がありましたがこの病気になりやすい人は常に怒りを溜めている人がなりやすいと言われていました」
璻の心の中でポツリと言葉が浮かぶ
…怒りは病気を発展しやすくさせる…
璻は藤宮に質問をした。
「どうして怒りを感じている人がなりやすいんでしょうか?」
藤宮は璻の疑問に応える
「怒りを感じると神経細胞からノルアドレナリンとアドレナリンという2つのホルモンが出ます。怒りを感じる事で脳の中にある記憶を司る海馬があります。この部分に日常のストレスが長期的に続き蓄積されるとある物質を出して灰白質と言われる人間の精神的な部分を司るところを白く濁らせていき認知症が発病します。また怒りは脳にとってダメージを受けやすい感情です」
脳の仕組みについてそんなに詳しくない璻は藤宮の話を真剣に聞くとボソッと藤宮に呟く
「怒りっていい事ありませんね…」
藤宮は璻に優しい口調で言葉を返す。
「はい。短期的な怒りならまだやる気などに活用できますが長期的な怒りは脳をいじめているのと一緒です。それに今の時代は怒りが長期間にわたってある方は早死にする方が多いです。まぁ脳内器具をつけている方は別ですがね」
2050年だと脳内器具をつけている人のみ怒りを管理できる。
脳内器具取り付けによって、ネガティブな感情が管理されているのだから怒りも当然脳内器具で調整ができる。
…微量の電気で怒りを一瞬で怒りをなかったことにする人はこんな苦しみもわからず幸せに生きている…
そんな人間より感情を感じ生きていることをより実感できる体験ができている。
心底入れなくてよかったとも璻は思ってしまう。藤宮がこのことに助言をしていなかったらこんなに深く怒りについて考えなかっただろう。
璻は今までの自分が傲慢な考え方をしていたことに少し反省をした。
「侮っていました。怒り…でもあんまりお年寄りで怒りって想像つきませんね。穏やかな方が多い印象ですが」
藤宮は手を左右に振りながら璻の問いに答える。
「そんな方ばかりではありませんよ。例えば長年連れ添った夫婦関係がいらっしゃる場合、我慢しなきゃとか許さなきゃがある事が多いですね。旦那さんが浮気ばかり、お金ばかり使って奥様を困らせていたり、奥様は許した気持ちでいたけど心の底では許してなかったり…旦那を生きている内に死ぬほど困らせてやると長年思うとその感情が積み重なると脳の中が白く濁りなその人が願った通りに認知症になる」
話を聞いた瞬間に璻にはその我慢をする感情について理解出来なかった。
…えっ…何それ、まったくわからない感覚ですけど…
璻は驚きながら質問をする。
「それが怒りが溜まる原因ですか…なんか結婚してそれって悲しすぎません?自分のために早く離婚すればいいのに…」
藤宮は少し悲しそうな表情をすると璻の質問を返す。
「昔の人はすぐに離婚とかすぐ出来ない方が多かったんですよ。世間体や子供やお金の事を考えてたんだと思います。あと自分1人じゃ稼げないと思い込んでる人が多かった時代だったからですかね」
今の時代はすぐ離婚できすぐに結婚できるシステムになっている30回以上離婚している人なんてこの世の中ザラにいるような時代だ。
「藤宮さん、それ今じゃ考えつかない概念ですよ。重すぎます」
この概念には共感できないのであろう藤宮も苦い顔をしながら璻の意見に同調する。
「まぁ。そうですよね。俺もよくわからない感覚です。若い方だと躁鬱のなどある方は怒りにすぐ感じやすいゲノムを持っている事が多いです。その場合脳にダメージが他の人よりも多かったりしますね」
…そうか、そういうゲノムがある場合は怒りを毎日消化させないと病気に繋がるのか…
璻は頷きながら藤宮に応える
「その日の感情はその日のうちに処理しないと大変になるんですね」
「はい。璻さんのおっしゃる通りですね。身を持って知ってもらってよかったです。」
…常に感情を瞬時に認識する癖をつける事が現実的な視点で物事を判断できる。怒りに関してそれは普段からやっていなかった…
璻は藤宮に頭を下げ一礼をした。
「とりあえずトラウマにならずに済みました…ありがとうございます」
藤宮は少しホッとすると璻を気遣うように問いかける。
「いえ気づいてもらえてよかったです。あっ…それと璻さん一応確認ですが業務再開できますか?嫌なら俺が見ますが…」
璻は藤宮の気遣いに暖かい気持ちに包まれていた。
璻は藤宮に問いかける。
「藤宮さん。それについて一つ聞いてもいいですか?」
璻の真剣な表情に対して冷静な藤宮は「はい。どうぞ」と応えた。
璻は続けて話をする。
「例え今私が業務が嫌だと言って仕事を放り出しても結局未来に同じような体験が起こりますよね?また同じような出来事が起きて失望して怒って忘れてまた同じ現実がくるサイクルになりますよね?」
璻の冷静な分析に驚きつつ頷きながら応える。
「仰る通り。よくご存知ですね。この地球にはそういうルールがありますからね。この現実は嫌だと思った瞬間に今までと違った行動をしないと同じ現実が来ます。それを今この時点で辞めたいか?まだ続けて失望して怒る自分を見たいか?によりますけど、璻さんは逃げたいですか?立ち向かいたいですか?」
それを聞いた瞬間に璻はふと頭の中で映像が出てきた。
このまま物事から逃げ続ける自分、嫌な感情から目を背けている自分を想像した時に璻の心の中でぽつりと声が浮かび全身に響いていくのを感じる。
…クソッ…つまんな人生じゃん。そんなん…
永遠にウジウジして自分が本当にやりたい事をせず、物事の本質から目を背け逃げる。そんな一生はごめんだ。今どんな出来事もどんな自分の感情も目を逸らさず受け入れ生きていく方が自分が亡くなった時に絶対に後悔しない。
…それに渦見さんの不調と感情がどう紐付いているのか単純に知りたいし、興味がある。私は後悔しない選択を選びたい…
璻は藤宮の目を見ながら真剣に自分の気持ちを伝える。
「もう一回渦見さんの記憶に向き合ってもいいですか?この人がどういう人生歩んでなぜ今の不調に繋がって悩んでいるのか私は知りたいと思ってしまいました。それに…」
藤宮は首を傾げながら聞き返した。
「それに?」
璻は少し笑い藤宮に言葉を返す。
「あははいや、藤宮さんに言われて気づいた事があって、私思ったより感受性高いんだなって」
璻は自分で言って恥ずかしくなったのか手で顔を覆った。
藤宮はフッと笑い話しかける。
「いや、璻さん普通に感受性高いですよ。むしろ感受性が高くないと人の記憶に入り込んで感情を感じられませんからね」
藤宮から誉めていると璻は感じた。
嬉しくなった璻は藤宮から目を背けながら応えた。
「藤宮さんもそう思います?…もしかしたら私この仕事適任かもしれないです」
藤宮は顔を背ける璻にさらっと説明をする。
「採用した時から言ってますよ。心配せずとも適任です。それに璻さんみたいな人は実は多くいらっしゃるんですよ。日本人は特に脳内中にある松果体と言われている内部分泌器官が発達し柔らかくぴちぴちのライチのようになると感受性が特に強くなり、精神的に強くなり安定します。」
璻は松果体をあまりよく知らなかったのか藤宮の顔をまじまじ見ながら質問をする
「松果体ってそんな役割あるんですか?結構大事な脳の役割なんですね」
藤宮は璻の興味ある話題だと判断したのか松果体について説明をはじめる。
「はい。重要ですよ。日本人の血族の方は海外の人よりも松果体が大きい傾向にあります。誰もが感受性が高いはずなんです。でもある事が原因で飲み水に有機化合物が含まれている水を長期飲むと松果体が硬くなります。」
璻は藤宮に問いかける。
「その松果体が硬くなるとどうなるんですか」
藤宮は淡々と璻の質問に応える
「そうですねぇ…メラトニンと言われる幸せホルモンが減り精神的な病気になりやすくなります。蓄積されると完全に取り切るのに30年前後かかります」
…30年????…
璻は藤宮を問いただすように言葉を放つ
「そんなに時間かかるんですか⁈」
そんな璻に驚いたのか藤宮は頷きながら応えた。
「はい。すぐにライチのようにするには難しいです。今の時代やっと松果体を柔らかくする投薬が研究されていますが…あっ…というか、もしかすると渦見さんも松果体が硬い可能性がありますね」
璻はそこでハッと何かに気づいた。
…そうか、その視点で考えたことなかった…
璻は藤宮の新しい考え方に関心しながら話を続ける。
「確か脳の幸せホルモンのセロトニンが少ないって書いてありましたね。藤宮さんが言った通り松果体が出すメラトニンが少ない場合セロトニンが作られない構造ですよね。もしかしたら精神的な不調につながりますよね」
「はい。璻さんのいうようにそういう視点も考えられますよね。では、その視点を考えつつ次の渦見さんの記憶をお願いできますか?」
藤宮はまた渦見の水分子に顔を向けて探し始めようとすると璻は藤宮に返事を返す。
「はい。承知しました。自分の感情は分析する事を藤宮さんに教えてもらいましたし。大丈夫です!」
先ほどより元気そうに見えたのか藤宮も璻に言葉を返した。
「切り替え早いですね。さすが璻さん。とりあえず、もう目星はつけてます。こちらをお願いします」
水分子を大きく藤宮が広げると歪んだ水分子が繋がっているように璻には見えていた。
藤宮は歪んだ水分子見つけ人差し指を差し説明をする。
「これですね。多分この先も辛い記憶になると思いますが危ないと思ってたら水分子の指を離すか、俺を呼んでもらえると…」
璻はキョトンとしながら思わず聞き返した。
「えっ…普通に藤宮さんのこと呼べるんですか?水分子で記憶見ているのに?」
不思議そうな璻に対して藤宮はまた淡々と応える。
「はい。2人で見ている場合は水分子の記憶を見ていない方が管理役なので記憶を見ている時に大声で呼ぶと水分子が振動するのですぐ伝わります。まぁ記憶を2人で見てる場合はある程度認識や概念を共有しないと2人で一緒に見れないんですがね…」
璻は藤宮の話を聞きながら思った。
…それもっと早く教えてくれてもよかったよね?なんで藤宮さんは大事な補足をいつもいい忘れるんだろうか…
一番最初に説明しとくやつじゃないのかとも思ったが璻はもう諦めた表情を見せ藤宮に対して文句をこぼす
「それ、早く言ってくれたら藤宮さん記憶に囚われずに済んだんじゃないですか?」
藤宮は右手を左、右に振る。
なんだか理由がありそうな雰囲気で話し始めた。
「あの、それには訳がありまして…実は水分子を調整する俺が記憶に入ると水分子全体を見ていないので呼ばれても気づかないんです」
璻は呆れながら藤宮の顔を見つめる。
…それ、もう最初から管理する人間と記憶を見る人間と分けた方がいいのでは…
そんな事を璻は思ってしまったが今言ったら藤宮は混乱するだろう。あとで業務改善案を提案して話そうと璻は決意を固める。もしかしたらそんな効率のいい改善提案を考えられないまま業務に追われていたのかもしれないと考えると段々藤宮が可哀想に見えてくる。
「藤宮さんよく1人で業務こなしてましたね…忍耐力すごいですよ」
皮肉に聞こえたのか藤宮は璻に対してお礼を言った。
「ありがとうございます。ということなので…今回も璻さんに頼る形になります。俺の分までよろしくお願いします」
璻を真剣に見ながら藤宮に頭を下げた。頼られて少し嬉しい気持ちが璻の中で沸き起こる
「事情はわかりました。」
璻は右手を出し人差し指をゆっくり水分子に近づけた。
藤宮の顔を見ながらやさしく穏やか声で璻は言葉をかける。
「行ってきます」
璻は水分子を見て目を閉じ歪んだ水分子に指を近づける指が触れた瞬間、水の中に入る音が聞こえた。
ジャボーンッ‼︎
冷たい感覚が全身に伝わる。
何か誰かが泣いている声がする…
璻が目を開けるとそこは渦見の家に見えた。床に座りながら幼い渦見が必死に泣くのを堪えて我慢しているのが見える。
ふと横に誰かがいるのが見えた。
視線を向けると父親が鬼のような形相で幼い渦見を見ていた。
。:*:★。:*:★━━補足ポイント━━★:*:。★:*:。
・有機化合物が含まれている水を長期飲む
ここではPEFS(有機フッ素化合物)の水に関して書いています。
有機フッ素化合物の比率が濃い水を飲むことによって脳のホルモンが減少し病気になりやすくなることも書いています。この時代ではPEFSは世界政府で使用が禁止されているようになります。
・今の時代やっと松果体を柔らかくする投薬が研究
PEFS(有機フッ素化合物)によって硬くなった松果体を柔らかくする薬が出てきます。
2050年でもまだ薬は承認されていません。
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