第18話:愛別離苦
幼い渦見は不安な表情を浮かべながら母親に問いかけた。
「お母さんどうして僕お仕事少なくなったの?あんなにお仕事頑張ったのに」
幼い渦見は少ししょげながら母親に寄り添っていた。この光景から察するに渦見が芸能界に無事に入り結構な時間がたったことが会話から想像ができる。
…そっか、この光景は渦見さんが芸能界に入って何年かした話かもしれない…
璻は渦見の母親を観察していた。母親は少し考え込むと渦見をじっと見つめ渦見の手を握り悲しそうに語った。
「事務所の社長さんからね。辰彌にたくさんお仕事をくるようにお願いしているけどね…」
そう話す母親の手元には何か書類を書いてあった。
書類を近くにあった時机の上に置くと渦見の母親は急に幼い渦見を強く抱きしめると渦見の耳元でボソッと呟いた。
「辰彌と辰彌のやりたい事絶対にお母さんとお父さんが守るからね」
璻は渦見の母親が机の上に置いた書類にサッと目を通した。
そこにはこう書いてあった。
「子役を売り込むために、ご家族には協力して頂かなくてはいけません。例え如何なる事があろうと大手メディア関係の上層部、プロデューサーや偉い立場の人には食事会や接待には逆らわず必ず会社に連絡した後現場に向かって下さい。もし断った場合は仕事がもらえなくなります。常に忖度を考え人あたりのいい行動を心がけて下さい。またメディア関連のインタビューを受けた際は諸外国や国内の政治批判や宗教や思想の話はしてはいけません。国から助成金をもらっているスポンサー、また諸外国が支援している外国企業があります。外国の批判や国内の政治批判はスポンサー企業から子役を仕事に採用しない可能性があります。今の時代やその企業の歴史背景を考え、軽い気持ちで行動せず細心の注意を払って発言をしてください。」
その内容を見た璻は身の毛がよだつ感覚に襲われた。大手メディアでお金を稼いでる方はこんなにも言論が統制されていたことにも驚いた。
…それもそうか、この時代よく大々的に結婚や不倫や芸能人の報告の裏で国が勝手に仕組み変えてたりしたから…
特に売れてる芸能関係の人間は認知度が高くファンも多いため政治的な報道を隠蔽するためうまく使われている事が多かった。プライベートを捧げて、お金を稼ぐために自分の社会的な意見や思想を言えない状態だった。
偉い人にこびりながら、自分を売り出す。
そのかわりに多くの人に認知して貰えメディアに出たりアニメの主人公に採用したり、広告に出してもらえて大量のお金を貰える。他人からの承認欲求を存分に満たせる職業でもある。
…この時代は世界政府ができる前だったから各国々で言論統制したけど、まとめるのに苦労したとかなんとか、今の思想チェックが入る前の出来事なんだろうな…
2050年の璻が今生きている現代と2025年以前のメディアについて考えた時に気づいた事があった。
…あれ確かこの記憶ってエンタメ、メディア業界が盛り上がっていた時だっけ。確かそれ以降に少しずつ衰退していったとか…
2027年あたりからエンタメは規制が入り、娯楽は少しずつ減っていた。あるテレビチャンネルは天気予報や自然災害や気圧の話ばかり、24時間放送するチャンネル。また占いばかり24時間放送するチャンネル。
昔懐かしいエンタメがたまらなく好きな人には地獄に感じる。
そんな信じられない光景になっていった。今の璻からするとテレビは有料で契約した人が24時間見れるものという感覚があった。
2050年を生きている璻からすると今の渦見の記憶は2025年前後くらいの過去の記憶だろうと推測する。想像絶するくらい古臭くトップダウンな世の中に何故か璻自身、息苦しさを感じた。
ふと渦見の母親に目を向けると璻は何か大事な気づいた。
…そっか、渦見の母親はあの書類を読んでメディアの業界がこういうトップダウンな業界で言論の自由がない業界だってきっと知らなかったんだ…
渦見の母親は幼い渦見を一旦身体から離し、立ち上がるとニコッと微笑む。幼い渦見の肩を軽く掴んだ。
「今日は演技レッスンよね。送っていくわ。今日はジュース何がいい?」
渦見の母親はキッチンに向かい冷蔵庫を開ける。幼い渦見はジュースと聞いて身体を動かしながら母親の後をついて行く。
「りんごジュースがのみたい!」
渦見の母親は冷蔵庫にある子供用のパックのりんごジュースを取り出した。
「はい、はい、これ飲んだらレッスン行くからね」
りんごジュースを飲み口にストローを刺すと幼い渦見に手渡した。幼い渦見はるんるんと嬉しそうにりんごジュースのストローにかぶりつき飲み始める。その笑顔を見ながら母親は嬉しそうな幼い渦見の顔を見ていた。
「美味しかったぁ」
満足そうに渦見は母親に話すと飲み終えたりんごジュースを渦見の母親に手渡した。ジュースのパックをゴミ箱に捨てると渦見の母親はテーブルに置いてあるテレビのリモコンを取り、徐にテレビをつけた。
するとたまたまニュース番組が放送されていた。
渦見の母親はテレビに目を向けるとアナウンサーの手が震えるが見えた。
そのアナウンサーは声を震わせながらニュースを読み上げた
「速報です。国債と株価が一気に暴落し金融市場が荒れています」
渦見の母親はそれを聞いて血の気が引きいた。膝に力が入らず、その場に崩れ落ちた。幼い渦見はそれを見て突然のことでびっくりし母親に急いで近寄った。
「お母さん大丈夫?」
幼い渦見は母親の服を掴んだ。渦見の母親はボソッと呟いた。
「辰彌が稼いだお金は今後の学費のために株に突っ込んで、貯金用の資金も株に費やしていたのに…財産が数千万飛んだ…」
数分、渦見の母親は動けなくなった。渦見の母親はふと時計を見るとレッスンの送り迎えの時間になっていたことに気づく。
「あっ……とととりあえず…レッスンまで送り迎えしなきゃね。」
渦見の母親は幼い渦見を見て、表情を無理やり変えて作り笑顔で答えた。そんな幼い渦見は母親を心配そうに見つめた。
璻はその様子を見ながら渦見の母親の気持ちを考えた。
…きっと渦見の母親は精一杯笑う事で渦見さんに心配かけたくなかったのが伝わる…
「辰彌、レッスン行こっか。」
渦見の母親が手を出して幼い渦見の手を握った。
「うん。」
玄関まで行き靴を履いてドアを開け外へ出て行った。璻はそこでいつも通りこの記憶がこれで終わるもんだと思っていた。
璻が目を閉じた瞬間になぜかまた水の音が耳元で聞こえる。
ジャボーンッ‼︎
璻の身体は深く水の中に落ちて行く感覚になった。
身体全身が冷たく凍える
…なんで?別の水分子は触っていないのに?別の記憶に飛ばされっ…
璻はまた目を開けて周りをキョロキョロと見渡した。
どうやらさっきの記憶を見た渦見の実家と景色が変わっていないことに気がついた。
…これはいつの記憶なんだろうか。というか記憶を飛ばされて、さっきの記憶と繋がらない記憶だったらどうしよう…
璻の中で急に不安が襲いかかってくるが、一瞬冷静に考えた。
…さっきと景色かわっていないということはまだ幼い頃の記憶かもしれない。よかった…
ふと目線の下に向けるとソファに男女が座って話していた。ソファに渦見の母親ともう一人は…渦見の顔に似ているが多分渦見の父親だろうか?渦見の母親はさっき見た記憶よりも痩せこけており、机の上には薬が置いてあった。
明らかに母親の様子がおかしい。
部屋のドアからガチャッと静かに開ける音がした。
ドアの隙間から顔を覗かせ両親がいる部屋をじぃーと眺めている幼い渦見の姿を璻はじっと見ていた。服装からするにパジャマに見える。璻はその光景を見ながら夜の記憶なんだと断定した。
…これ夜の記憶だろうか?でもなぜ夜なんだろうか…
パジャマの袖で眠たい目を擦りながら神妙な面持ちで両親が話している姿を動かずに見ていた。幼い渦見は今出て行くのは得策ではないと考えたのかその場を動かなかった。きっと幼い渦見は空気を読んだんだろうと璻は気がつく。
渦見の父親らしき人が難しい顔を渦見の母親に話しかける。
「ごめん。辰彌を寝かしつけていたのに話あるって言って。」
渦見の父親は首を左右に振ると話し始めた。
「いいよ。気にしてない。辰彌は寝てるから大丈夫。当分起きないし。話って何?」
渦見の母親は頷きながら応える。
「うん。」
渦見の父親は神妙な面持ちで渦見の母親を見ていた。
「実は…今日会社をレイオフっ……解雇された…」
渦見の母親はそれを聞いて一瞬呆然とした。渦見の母親は次の言葉が出てこなく、思わずつ渦見の父親に問い詰めた。
「どうして?昇進するって言ってたじゃない」
渦見の父親は声を震わせながら応えた。
「数ヶ月前の国債暴落と株の暴落で経営が困難になり突如、ウチの部署を解散すると…」
それを聞いて渦見の母親は感情が我慢できなくなり捲し立てながら渦見の父親に強い口調で話をする
「ウチにある貯金3分の2の財産を株を変えて数千万損失してるのよ!それで会社解雇ってこのマンションも引っ越ししないといけないじゃない‼︎生活どうするのよ!」
激怒した渦見の母親は息が上がっているように見えた。渦見の父親は思わず反論する。
「俺も好きで解雇されたわけじゃない。俺の気持ちも少しは考えろよっ!お前は働いてなかった身分だろが!」
それを言われて渦見の母親はぐうの音も出ない様子に見えた。
「大体あなたが株に入れたら増えるって言うから」
渦見の父親はまた反論する。
「お前だって反対しなかったじゃないか!」
その言葉に頭に血が上ったように渦見の母親は反論をする。
「それはあなたが意見を押し切ったからでしょ!」
渦見の父親は感情が抑えられなくなり強い言い方で真剣に詰め寄る
「あともう一つ話がある。辰彌の事務所の事だ。お前この前の芸能の偉い人と会食行って夜遅くまで来なかったじゃないか?辰彌の役獲得のために枕営業か?そこまでやる必要あるのかよっ!」
渦見の母親は唖然とした。
「なんでそれを…」
渦見の父親は渦見の母親の表情を見て確信した。渦見の父親は手で顔を覆い、ショックを受けている様子に見える
「やっぱりそうなんだな…こないだのレッスンのお迎え時に子役仲間のお母さんから聞いた。辰彌くんのお母さんはよく偉い人に呼ばれてはいい役を獲得してるけど、辰彌くんのお母さんどんどん痩せて食べれなくなって困っているって。あれからどうなりましたかって聞かれて。俺何も知らなかったからなんの事でしょうかと聞いたら、そのお母さんが実は辰彌ちゃんのお母さんが会食呼ばれてホテルに連れて行かれたってやっぱり警察官に行った方が…って聞かされたんだ……」
璻はその話を聞いて身の毛がよだった。
…たしか芸能関係の子役が基本仕事がダメになったのは性的搾取と金銭問題。子役の保護者を使った性的接待は本当にあったんだ。こんなの都市伝説とかでしか聞いてなかったけど女性の性接待は芸能界では当たり前だったのか…
璻は思わず気持ちわるくなり口に手を当てて吐きそうになる。渦見の母親は思わず渦見の父親に弁論をした。
「たった1回よ。それ以外何もないわ。それに解雇と今の話関係ないじゃない!」
渦見の父親はその言葉を聞くとソファから立ち上がった。
「関係あるだろ?俺ら夫婦だろ?そんなに信用ないのか?それにそれはレイプだ。警察に相談する内容だ。本当は嫌なんだろお前、そんなにやつれて、辰彌を芸能界に入れてから体調も崩している、もう辞めたらどうだ!」
その言葉を聞いた途端、渦見の母親は目に涙を溜めていた。
「小さい頃から私はアニメやエンタメやアイドルが大好きだった。今でもアイドルの達也を応援している。そんな私を見て息子である辰彌は芸能界に行きたいって言い出してる。私はどんなに私がやつれようと心が壊れようと辰彌の夢を応援したいの」
渦見の母親は真剣な目をしていた。それを見た渦見の父親はため息を吐いた。
「それは俺が嫌だと言おうとしてもやる事なのか?」
渦見の母親は渦見の父親の袖を引っ張りながら話す。
「あなたの事は愛してるし、離婚もしたくない。けど事務所に入ったら辰彌が仕事をするためにどうしてもやらなきゃいけない事なの!わかってよ。それに相談してもどうせ揉み消されるの知ってるでしょ。」
渦見の父親はその言葉を聞いた途端目を合わさず言葉をこぼした。
「それは……」
渦見の父親は何か言おうとしたが言葉が見つからなかった。黙りながら頭を抱えるとソファに座った。渦見の母親が説得するように話す。
「それにあなたが解雇された今の収入源は辰彌だけ。それに本人もやりたいって言ってる」
渦見の父親は首を横に振り渦見の母親に目を合わせないように話した。
「仕事はこれから死ぬ気になって探す。俺はお前を心配しているし、正直もう関わって欲しくない。お前が嫌な思いされて仕事もらっても辰彌は喜ぶのか?」
渦見の母親は奥歯を強く噛むと大きく息を吐いた。渦見の父親を真っ直ぐ見つめながら話しかける。
「この事実を知ったら絶対に喜ばないのはわかってるせめてあなたの仕事が見つかるまでもう少し、もう少しだけでいいの。辰彌に芸能の仕事をやらせてあげて」
幼い渦見はその話を聞いて、音を立てずに少しづつ扉を閉めるととぼとぼ歩きながら自分のベッドに戻り横になった。その時、幼い渦見の中で声が聞こえた。
…お母さんがあんなにやつれて、痩せたのは僕のせいなのか…
悲しい気持ちが胸いっぱいに広がる。気がつくと幼い渦見は眠ってしまっていた。
幼い渦見がふと気づきベッドから起き上がると外が明るく朝になっていた。周りを見渡すと父親が寝ているのを確認するがいつもいる母親が見当たらない事に気がつく。
「お母さん?」
幼い渦見は部屋のドアを開けて思い当たるキッチンに向かう
…きっとお母さんはご飯を作っているのかもしれない…
キッチンにつくとなぜか母親が床で横たわっていた。
幼い渦見は母親の身体を揺らす。なぜか母親の身体は温かく感じなかった。
「お母さん、お母さん、風邪ひくよ。起きて」
揺らしても揺らしても渦見の母親は起きない。
ふと、渦見の母親の首元を見ると紐が巻かれてあった。
さすがに様子がおかしいと思ったのか幼い渦見は足早に寝室に戻り寝ている父親を叩き起こした。
「お父さん、お父さん、お母さんがぁっ……お母さんが……」
渦見の父親は寝ぼけた声で幼い渦見に応える。
「なんだ、お母さんが、どうしたって」
渦見の父親が目を擦りながら幼い渦見を見ると目にいっぱいの涙を溜めていた。その様子から異変に気づき、周りを見渡すといつもいる妻がいないことに気づく。
寝室を急いで出てキッチンに向かった。
渦見の母親が床で倒れていた。
首元に紐の跡が目に入ると父親は一瞬で状況を把握した。
父親の顔から血の気が引いていく。
「おい、返事しろって。おい‼︎」
渦見の母親をいくら揺すっても反応がない。手首を握り脈を確認するが脈が感じられない。口元や鼻を触るが呼吸している様子がなかった。
父親は心臓マッサージをしながら急いで救急に連絡をいれた。
幼い渦見は泣きながらキッチンに向かった父親を追いかけると父親は母親に話しかけていた。
「死なないでっ……くれよ。勝手に逝くなよぉっ…」
幼い渦見はその光景を見ながらふと思った。その瞬間渦見の考えが璻の頭の中に流れ込んでくる
…こんなの嘘だ。こんなにも優しいお母さんを追い詰めたのはきっとお父さんだ…
そう幼い渦見は強く歪んだ認識でその場の光景を見ていた。
璻は思わず、ぎゅっと両目を強く閉じた。
…そっか、幼い渦見さんが最初に発見したのか。母親の亡くなった場面で渦見さんは強く思い違いをしていた。でもこれは幼い子供からしたらショックなのは痛いほど伝わる…
記憶はそこで終わっていた。
璻は目を開け左側を見ると藤宮がずっと璻の様子を見守っていた。
「おかえりなさい。無事に戻ってきてよかったです。」
藤宮は璻に微笑む
「藤宮さん…」
璻は思わず目に涙を溜めながら、うっ……うっ……と
その場にしゃがみこんだ。藤宮はその様子を見て慌ててしゃがんだ璻に話しかける
「どうしたんですかっ…」
5歳の小さな子供が母親を亡くす。
今までいた母親を亡くし寂しさや苦しみを考えると虚無感が璻の中で湧き起こる。
……これを渦見さんは幼い頃から体験したらそれは強いトラウマにもなる。初めてだった。こんな痛ましい記憶を見て後悔した気持ちになったのは…
この瞬間の璻自身の感情に嘘偽りはない。
仕事なのにやらなきゃいけない気持ちとこんな記憶みたくないと思ってしまった自分の気持ちが空回ってしまっていた。
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・思想チェックが入る前の出来事
思想チェックが入る前の時代は結構荒れていました。そもそもこの世界は表現の自由や言論の自由もおよそ350年くらいに前に作られて今まで過ごしてきたが2025年以降にそれが限界になり、世界政府になった時にすでに不必要になりました。思想チェックが組み込んだおかげである程度治安が保たれるようになって安定はするようになった。
・2027年あたりからエンタメの娯楽
エンタメの娯楽はだんだんと失速するようになります。これは思想チェックが普及し、争いや依存心を駆り立てるような作品は思想チェックによって監視され排除されるようになります。
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