第14話:寂しさを何かで埋めても根本的に解決しない
藤宮は渦見を見つめながら静かに話す。
「ではカウンセリングを始めます。渦見さん最近不調に感じられる箇所などありますでしょうか」
渦見はいまだに横柄な態度で藤宮の話を聞くと身体を前のめりにしながら藤宮の話に応える
「俺、至って健康なんだけどな。不調って言われてもマネージャーに行けって言われてきたし。逆に俺見て不調に見えます?どう思いますか藤宮さん」
そんな挑発的な渦見の態度に璻は呆れながら話を聞きていた。
…じゃあ、なぜわざわざ来たんだ…
璻は藤宮の顔をチラッと覗くと藤宮は右目をピクピクさせていた。藤宮がイラッとしているのがわかる。
…いくら温厚な藤宮さんでもその質問はまずいんじゃ…
藤宮は口角を上げさらに渦見に質問をした。
「いえ、俺は渦見さんではないのでわりかねます。では気になっている箇所はありますか?例えば疲れやすいとか…」
渦見は少し顔を上に向けると考え始める。
2分ほど悩み終わったのか藤宮に返答をする
「あーそういえば確かに仕事の後にどっと疲れやすいとか浮き沈みが激しいとかありますね。そういえば…マネージャーからは軽い鬱や燃え尽き症候群じゃないかとかなんとか」
璻はそれを聞いて胸を撫で下ろした
…よかった。自覚はあるんだ渦見さん……
藤宮は渦見の話を聞きながら少し安心した。
「なるほど、ご自身で症状がわかっていてよかったです。ではこれからご自身の幼少期について質問させて頂きます。センシティブな内容もあるのでもしご自身で答えたくなかったら仰って下さい」
渦見は興味なさそうに返事をした
「はあ〜い」
藤宮は渦見の幼少期に関して詳しく聞く。
「まず幼少期の頃の記憶はありますか?」
渦見は淡々に応える。
「ありますよ。俺子役やってたんですけど、子役時代しか記憶ないっすね。」
藤宮は次の質問をする。
「子役より前の記憶はありますか?」
藤宮の言葉に渦見は厳しい表情を浮かべる黙り始める。
「……」
なぜか機嫌が悪そうになる渦見を観察しながら藤宮に話かける。
「何が言いたいんすかね……俺の母の事っすか…」
藤宮は笑顔を向けながら渦見に話しかけた。
「はい。是非覚えてる限りでいいのでお聞きしたいです。」
藤宮からその言葉を聞いた途端、渦見の頭の中では幼少期の記憶が再生されていた
━━━毎回毎回あの同じシーンが頭から離れない━━━━
母が床で倒れこんでいた。
母の手を触るとだんだん冷たくなっているのがわかる。
どんなに揺すっても起きる様子がない。
どんなに声をかけても母の声がしない。
嫌な記憶がフラッシュバックする思い出したくないのに
…またこんな記憶を思い出して落ち込みながら俺は話すのか…
渦見は思わず奥歯に力が入る。藤宮に対して本当は話したくない気持ちが渦見の中で溢れてくる。少し落ち込みながら渦見はトボトボと言葉をこぼす。
渦見自身が声優なのに、喋るプロなのに、言葉が拙く出てくることに腹が立ってくる。
「おっ…俺の母は5歳の時に自殺をしました。にっ…2025年の芸能界の暴露で…はっ母は精神が衰弱し引きこもるようになって」
璻は渦見を見ながら狭山の時とは違い自分の現実を深く受け止めている事に驚いた。
ただなんとなくそんな渦見に少しだけ違和感を感じた。
…母親が原因になっていることは確かなんだけど、こんなに話すことに躊躇するのか?…
藤宮はすかさず渦見に質問をする
「そうですか…もう一点質問してよろしいでしょうか?」
渦見はゆっくりと返事をする。
「はい」
藤宮は核心をついた質問をする。
「渦見さんにとってお母様とはどんな方ですか?思い出などありましたら教えてください」
渦見は聞かれたくなかった質問なのか藤宮をじっと睨みつける。
……しっかりしろ渦見辰彌。俺は芸能界にいるんだろが……
渦見は自分を奮い立たせながら受け答えする。
「生前の母親は明るくて優しい母でした。よく俺の演技を褒めてくれて嬉しかった記憶があります。精神が衰弱しきってた頃の母は痩せていて髪の毛が抜け以前の母とは別人でした。母に寄り添って話を聞いても大丈夫だからと言うだけだったんすよね…その後くらいに亡くなりました。そのくらいの思い出ですよ。こんな話しても面白くないっすね。もうそのくらいでいいっすか?」
その様子を察して藤宮はそれ以外聞く事は追い詰めているのと変わらないと感じ母親に関しての質問を終了することを決める。
「はい。大丈夫です。これ以上お母様について質問はしませんのでありがとうございます」
藤宮は気を取り直し次の質問に移った
「先程の話で子役と仰っていましたがなぜ引退されたんでしょうか?その時の思い出がありましたら教えてください」
渦見は顎に手を当てながらさっきとは打って変わって流暢に話し始めた。
「芸能界全体で子役の禁止された時あったじゃないすか?それ以来仕事は激減、母が亡くなったのも重なり結局芸能界を辞めました。思い出ですか…本当は俺演技好きだったんすよね。自分ではない誰かになれるのは現実逃避が出来て大人にチヤホヤされて嬉しかったのは心に残っています」
璻はそう応える渦見をじっと見ていた。先ほどより答えやすいのか嬉しそうに話していた。本当に芸能の仕事が好きなことは表情で伝わる。
渦見を観察していていくつかわかったことがあった。
……渦見さんは言いたくないことに関しては態度でわかりやすいし言いたい事に関してスラスラ言葉が出てくる。この人子供みたいに感情が表に出やすいので非常にわかりやすい……
藤宮は次の質問に移る。
「お答え頂きありがとうございます。では次にお父様について質問があります。渦見さんのお父様の接し方や育て方はどうでした?」
先ほどまで流暢に話していた渦見とは違った表情をする
「親父ですか……」
渦見は眉をひそめて話し始めた。
「親父は母が亡くなった後人が変わったようになりました。喪失感で半年は喋れなくなりましたし、株暴落時に親父の大手会社も倒産しました。その頃の親父は怒ると手がつけられず俺を見ては罵り機嫌が悪いと俺を躾けと称して殴っていました。でもメンタルクリニックに行き始めてから暴力はなくなり親父のおかげで生活ができました。」
母親の時とは違って落ち着いて話しているように璻には見えた。
藤宮は深刻そうに返事をする。
「そうだったんですね。」
渦見はボソッと小さい声でつぶやいた。
「というか…本当は殴られたくなかったのが本音っすね」
藤宮は渦見の言葉を聞き逃さなかった。
母親が亡くなったことと父親に殴られたことが渦見の中で強く心に残っているのはなんとなくわかった藤宮はなぜか深く追求することをやめた。
この本人の様子だとまた母親の時のように嫌がってしまうのが目に見えていた。
…渦見さんは警戒心が強くすぐに勘付いてしまう。なにかあるとすぐ演技が無意識に出るのは癖なのか…
そんなことが藤宮の頭の中で考えがよぎり始めるが次々質問を聞き始めないとカウンセリングが終わらないので淡々と次の質問に移る。
「では次に女性についてお伺いします。女性をどう思っていますか?またどう扱っていますか?」
吹き出すように渦見は笑った。
「急に女性の話の話かよ。ウケる」
藤宮も璻も渦見が答えるのを真剣に待っていた。渦見は璻をまっすぐ見るとまるで口説くように話し始めた。
「そうですね…女性は柔らかいですね。男より筋肉質じゃなくて全部を包み込んでくれる包容力とか肌を重ねるとわかるじゃないですか、母親のよう温かさで強く握ったら壊れそうで認めて欲しくて俺の性欲を全部ぶちまけたくなる存在ですかね。俺の母親みたいな女性がたくさんいてくれるのが理想です。俺を受け入れて欲しいとも思います」
璻はまるで渦見の発言が璻自身にその思いが寄せられているような感覚を感じる。胸のあたりに胸焼けのような重たい違和感を感じた。女性をただの性欲の捌け口としか考えていないその無神経な感覚に虫唾が走る。璻はなぜか皇が言っていた言葉が脳裏によぎっていた。
「渦見辰彌はネグレクト育ちでね。理想の母親を探してるらしいですよ」
この言葉が異様に腑に落ちた。
母親を探してることはそういうことかと思った。母親に長く愛されなかったので大人になって受け入れてくれる女性を探し幼い頃の寂しさを埋めようとしている。
…この人ずっと自分の母親の変わりを探してるんだ。女性の人に対しての承認欲求しか持ってない…
心の穴を女性で埋めて欲しいのがなんとなく伝わる。
そんな璻の様子を隣に座っている藤宮は観察していた。
…璻さん無理もないか…渦見さんはご自身で気づいていらっしゃらないんだ。自身の寂しさに気づけず女性で埋め合わせをしようとするところが垣間見える。母の死が相当ショックだったんだろう。生きる事にものすごい執着している。性欲という言葉が出てきたことで生存本能が強く働いているんだ。母が亡くなった事が大きい要因だろう…
性欲に執着しているのは基本的に生存本能に繋がっている。
渦見の場合いつ母のように自分も死ぬかわからない恐怖がずっと頭の中でよぎっていたんだろうと思うと少し藤宮は切なくなった同時に生きることに執着してることも原因かもしれないと原因の仮説を立てる。
藤宮はもう一度隣の璻を見ながら考えていた。
…さっきの気色悪い言葉で璻さんの気分悪くなっている。流石に依頼主だろうとあれはどうかと思う。それにまた退職されたらそっちの方が大変だ…
藤宮はやんわりと渦見に注意する。
「渦見さん、うちには女性もいるので直接的な表現をされるとセクハラになりますよ。これ以上言葉を話したら通報しますよ」
渦見は璻をチラッと見ると藤宮に対して誤った。
「藤宮さん上司だろうが過保護すぎやしませんか?でもそうでしたね。すみません。こちらが気軽率でした。でも男はタイプだと思った女性に対してそういう感情で見ていますよ。」
渦見はニコッとしながら璻を見る
璻は明らかに渦見に向かって睨みつけるような表情をした。
…売れてる声優はみんなこんな感じなのか女性を何かの掃き溜めだと思っているのか…
璻は頭を抱えると大きくため息が出た。
「はぁ…何を考えようが自由ですが発言する時は時と場所を選んでください。とりあえず藤宮さん次の質問にいってください。私に話を振った所で非常に答え辛いです」
藤宮はまた質問を始めた。
「そうですね。では次にご両親の質問は終わりまして次は私生活の質問にうつります。普段食生活はどういう物を食べていますか?食事の内容を教えてください」
渦見は淡々と答え始める。
「内容そうっすね。あーでも外食が多いですね。最近しょっぱいものが多いです。野菜も外食とか食べているをすけどね。」
「きのこ類は食べる事ありますか?」
「俺きのこの食感が苦手で……」
藤宮何か手応えを感じた。
「そうですか。ありがとうございます。では次に過度に周りの人に世話を焼いたりする事が好きですか?また構って欲しくてだる絡みしてません?」
渦見は少し考えながら藤宮の質問に応える。
「あーでも必要以上に世話焼くの好きですね。役に立ってるって感じがして。だる絡みはしてないっすよ。俺はしてないって認識ですけど」
璻はその言葉を聞き藤宮が言ったように放置型ネグレクトに近い症状だということに気が付く。藤宮がまた渦見に対して質問をする。
「ありがとうございます。では次に異様に物や生き物に執着してませんか?」
「執着ですか……」
渦見は一瞬母の記憶が頭から浮かんだ。アイドルや声優を一生懸命応援してるそんな姿が唐突に浮かんだ。
ただなぜそれが頭に浮かんだのか自分でもわからなかった。
「そうですね。昔犬買ってて辛かった時の癒しでしたね。今も犬は好きで飼っていますよ。可愛いんすよね〜
見ます?」
「いえ、見せなくて大丈夫です。では次の質問です。今の仕事について渦見さんご自身でどう思っていらっしゃいますか?」
渦見は悩みながら応える
「うーん。仕事ですか…そうですね……思う事はたくさんあります。脳内器具つけている声優に腹を立ててたり、感情を抑制しながら演技やるって声優やってる意味あるのかと思ったりとか」
藤宮はなんとなく渦見の中にある苛立ちや葛藤がわかった気がした。
さらに突っ込んで質問をする。
「脳内器具に対して反対派ですか?」
渦見は自分の意見を藤宮にぶつける。
「反対とかではないっすけど。病気で苦しんでる人や病気の末期で動けない人にとってはいい道具だと思いますが一般人の健康な人たちにもつけようとしてる。俺はそれがどうも不自然で仕方ないっ…」
藤宮は渦見の目を見ながら本心で語っていることがわかった。続けて渦見がどんどん話始める。まるで初めて自分の意見を聞かれて嬉しそうに話す子供のように。
「メディアやネットでネガティブな感情は古い!健康になれないとか言われてるじゃないですか?あれに踊らされて簡単に脳内器具を入れる人が多すぎだと思いません?脳内器具入れたら一生取り出せないしハッカーに脳内器具にサイバー攻撃されたら終わりなのわかってない人多いですよね」
自分の両手を強く握りながら渦見は藤宮に訴え始めた。熱量を持って話している渦見に藤宮も優しく答え始める。
「渦見さんが言ってる事も一理あります。ですがネガティブな感情をコントロール出来ず人生悩んでる人はたくさんいらっしゃいますよ。簡単に安楽死を選べないけど生きたいと思う人もいますよね。そういう人は手軽に問題解決したいと思うのですが」
藤宮をまっすぐ見る渦見は少し嬉そうにしながら話していた。
「俺はその考え方は嫌っすね。器具で抑制されたら機械に依存するじゃないっすか。自力でなんとかして健康になりたいっすよ。ネガティブな感情もポジティブな感情も両方体験して中立でいたらどんな演技も俺はできると思うんっす。前の2025年みたいにお金に執着してもお金は手段でしかない。死んだらお金は持っていけない。なら苦しい体験や嫌な体験、楽しかった体験嬉しかった体験を通して得たことはどんな職業についても死んでからも転生しても一生財産になるって俺は信じてます」
藤宮は渦見と初めてその考えに賛同できると感じた。
「それが渦見さんの本音ですね。素晴らしいです」
少し照れながら渦見は藤宮にお礼を言った。
「あっありがとうございます。」
璻は渦見が声優の間でも脳内器具を入れる人が増えていることに驚いた
…きっと渦見さんはそういう方も気にしながら仕事をしているんだ…
世の中の人間の感情が全て管理されていることは近いことを璻は悟ってしまった。
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・脳内器具のウイルス
脳内器具は凄腕のハッカーにウイルスを送り込まれると自分で操作できなくなります。ウイルスは様々で自分以外の人を殴り殺したり、お金を全部使い込んだり、自殺に陥ったり様々です。ただこれが怖くて脳内器具をつけない人たちもたくさんいます。現代の飛行機や電車や銀行のハッキング行為は脳内器具の防御システムの練習だったとのちに世界政府から通達されることになります。
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