恋愛主義なんぞクソくらえ(前編)
ジャンル→恋愛、学生物(高校生)
「強制的な恋愛関係、それは本当に尊くて応援すべきものなのか?」をテーマに書きました。手慰めで書いたにしてはよく書きまとまってたストーリーが印象に残ってます。
恋愛義務法
近年、少子化が激しい日本政府が新たに発案された法律で、僕が生まれた年から始まったそうだ。内容をざっくり言うと、17歳になったら男女問わず恋人を作るというもの。作ると言っても、政府から指示された相手と付き合うんだけどね。ただし、17歳になる前、または17歳のときにすでに付き合ってる相手がいる場合は、書類を役所に提出すれば免除されるそうだ。はたから見れば、まるで「恋愛主義」のようなもの。いや、もうその通りだと言っても過言ではない。
夏休み、暑い日差しが空から照らされる中僕は、一人、公園で人を待っていた。
「あの・・・」
「はい?」
「錐山祥さん、ですか?」
「あぁ、はい。僕です。そういうあなたが秋雨未亜さんですよね?」
「えぇ、そうです」
秋雨未亜、僕の通う高校の同級生(1年)。互いに面識がなかったが、昨日SNSのDMに「相談したいことがあるので明日会えませんか?」と聴かれたので、自分家の近所の公園を待ち合わせ場所として指定した。
「それで、相談したいことって?」
「あの、『恋愛義務法』って知ってる?」
「あぁ、うん。知ってますよ」
「私、それが気に入らないの」
「気に入らないと」
「だって、政府のせいでどこぞの馬の骨と付き合わされて、別れることもできないなんて正気の沙汰じゃないでしょ?」
「まぁ理不尽極まりないわな」
「そこで提案なんだけど。・・・私と、『恋人ごっこ』・・・してくれる?」
「・・・その前に、なんで顔を赤らめながら言うんだよ」
「だってどう言えばいいのかわかんないんだもん・・・」
まぁ、確かに相手に「恋人ごっこしてくれ」なんてどう言えばいいのかわからないのが当たり前かもしれないな。・・・それはさておき。
「恋人ごっこ、だっけ?僕でいいなら引き受けるけど」
「いいの?ありがとう」
「ちなみに聞きたいんだけどさ」
「なに?」
「なんで恋人ごっこをするのに僕を?」
「そんなに簡単よ」
「というと?」
「同じ学年の男子に彼女無しの相手があなただけだったから」
「あー、なるほど。そういうことなんですね、納得したわ」
「納得してくれたなら良かった。てか気になったんだけど、彼女とか作らないの?」
「ただ単に興味ないってのが本音。あと趣味の関係であまり無駄な人間関係作りたくないってのがある」
「趣味って?」
「ドラム」
「えっ?ドラム叩けるの?」
「まぁ、多少は。というか、たまにバンドのヘルプでライブで叩いたりしてる」
「へぇ、すごいね」
趣味が趣味だから、練習量が多いし誰かと遊んで練習時間が減るのは嫌なんだよな。個人練習だけど。そんなことを考えてると、僕のスマホから着信音が鳴った。
「ごめん、ちょっと電話出るわ」
「わかった」
「はい、・・・あー、どうも。・・・今日ですか。大丈夫ですよ〜、・・・わかりましたー」
「なにかあったの?」
「ヘルプの連絡。このあとライブハウス行ってドラム叩かないと」
「えっ、なんの曲やるとかは?」
「ほぼほぼアドリブってか、ぶっつけ本番でやるよ」
「えぇ・・・、失敗しないの?」
「ずっとこのスタイルでやってるからな」
いつも急な連絡でヘルプが入ることが多いから、常日頃どんなときでも叩けるようにしている。これも日々の練習の成果的なやつだけど。
「ねぇ、よかったら行ってもいい?」
「あぁ、いいよ。ただ、バックヤードからでもいい?」
「え?そもそもいいの?バックヤードなんて行っても」
「一応許可は僕が取るし。まぁ、どっちみち問題ないよ」
「ならいいけど」
「じゃあ、行こっか」
「そうね」
そう言って僕達はライブハウスへと向かった。
ライブハウスに着いたあと、顔見知りのスタッフにこの子バックヤードからライブ見ていいかの許可をもらい、特別に専用のカードを未亜に渡し、吊り下げストラップの中に入れてもらった。
「こういうとこ、初めてきたからちょっとワクワクする」
「あんまこういう事自体滅多に無いもんね」
「普段ライブするとき、ここからドラムのとこへ行くの?」
「そうだね。正直行き慣れてるし」
「だからあんなにもスタッフと話せたりするんだ」
「まぁね。とは言っても、『この子、バックヤードから観させてもいい?』とかって聞いたのは今日が初めてだけどね」
「そうなの?あ、友達・・・」
「まぁ、そういうことよ」
基本的に学校で一人ぼっちの僕にとって、あまり自分の親しい仲の人をバックヤードに連れてったりすることがなかったので断られるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、なんかあっさりと入れてもらった。ある意味ラッキーかもしれない。
「じゃあ、そろっとリハーサル行くわ」
「わかった。あ、リハーサルの様子とかもみられる感じ?」
「そうだね。まぁ、そこはお好きにどうぞって感じ」
「へぇ、いい機会だしリハーサルも見てこ。そういえば、演奏するバンドって、なんてバンド?」
「結構知ってる人多いと思うけど、『鯖落ち介錯大獄会』ってロックバンド」
「あ、うちのお姉ちゃんが好きなバンドだ」
「あ、そうなんだ。てか、姉がいるの?」
「うん、お姉ちゃんと私の二人姉妹。3歳差でね、お姉ちゃんの彼氏がこのバンドのファンでいつの間にかお姉ちゃんもファンになってたみたい」
「彼氏さんの影響なんだ」
「うん。てか今思い出したけど、確かドラムの人が骨折かなんかで入院してるって聞いた」
「うん、本当は別のサポートメンバーがいるんだけど、今日のライブに間に合わないから急遽僕がサポートに入る感じ」
「ふーん。あれ?もしかして祥って結構すごい?」
「たまたまサポートするバンドが大物なだけだよ。普段は無名のインディーズのバンドのサポートしてる」
「ふーん、そうなんだ」
ふと時間が気になり、時計を見るとメンバーがそろそろリハーサルに入る時間10分前だった。時間に余裕を持ちたいため、僕たちは早速ステージの方へと向かった。
8曲のライブを終えて、僕たちは帰路へとついていた。
(未亜はというと、お姉ちゃんにライブ映像見せたいというわけでライブの一部の映像を撮ったり、メンバーからサインをもらったりとかなりの姉孝行していた)
「ありがと、今日お姉ちゃんすごい喜びそう」
「だといいね。僕も久々に楽しめたよ」
普段インディーズのバンドだと、無駄に体力使う叩き方だけでそんなに複雑でもない。ただ疲れるってだけの不完全燃焼感がすることが多い。だからああいうちょっとした大物のバンドと演奏できて楽しかった自分がいる。
「なんか、嬉しそうだね」
「あー、わかる?久々に叩きがいのある曲とか楽しかったんだよね」
「よかったじゃん。あ、そうそう」
「ん?」
「恋人ごっこさ、他の人に怪しまれないように何かしら対策しとこ」
「そうだね、と言ってもどうする?」
「私休みの日とか、基本外出しないからね。・・・あっ」
「どうかしたの?」
「週1でおうちデートは?」
「お、そうする?」
「うん、ただし」
「ん?」
「毎週、祥の家でね、デートは」
「あー、うん。確かにその方が助かる。休みの日でもずっとドラムの練習してるし」
「せっかくだからその様子とか見てるのもいいかも」
僕は彼女の配慮にありがたみを感じ、その日は解散となった。
彼女の提案で、『恋人ごっこ』おうちデートをして数週間、夏休みも終盤へと差し掛かっている頃だった。今日も今日とて未亜は家に遊びに来ていた。
「あのさ、祥」
「ん?どした?」
ドラムを叩く手を止め、未亜の方に視線を向ける。
「聞きたいことがあるんだけどさ」
「聞きたいことって?」
「祥ってさ、泳げる?」
「人並みには泳げるけど」
「ふ、ふーん。そうなんだ・・・」
「・・・未亜ってさ、もしかして泳げないの?」
「あ、えっと・・・うん。はい、泳げないです」
泳げるか聞いてくるぐらいだからもしかして。そう考えてると、未亜は再び口を開いた。
「あ、あのさ。お願いがあるんだけど」
「・・・なんとなく想像はつくけど」
「あの・・・泳ぎ、教えてくれない?」
「へぇ・・・」
「なにその反応?」
「いや、なんか意外だなって。」
「スポーツが得意って話は前にしたけど、どうしても水泳だけは苦手なのよ」
「なるほどねぇ。てか思ったんだけど、女友達にでも教えてもらうとかは?」
「無理。誰かに教えてもらうのがそもそも嫌だし、しかも友達に教えてもらうこと自体嫌なの」
「プライド的な問題か?」
「うん。だからお願い」
「いやまぁ、教えるのは別にいいんだけどさ。なんで泳げるようになりたいの?」
「え?お姉ちゃんに煽られたから」
「理由もプライド関連かよ・・・」
未亜と数週間、恋人ごっこをして気づいたことはたくさんあった。そのうちの1つに、「異様なプライドの高さ」というのがあった。まるでお嬢様・・・いや、下手したらどこぞの上流階級の娘何じゃないのかってレベルだ。いや、もしかしたら「家の名誉のために!」なんてことを言ってもおかしくはないぐらいだ。
「まぁ、事情が事情だし。ちゃんと教えるよ」
「ありがと!・・・あ、でも」
「ん?」
「誰にもみられたくない、練習してるとこ」
「うーん?」
「他人なら百歩譲って我慢すればいいんだけど、学校の同学年の人にもみられたくない!」
「随分注文の多い・・・、まぁそれなら1つ方法あったな」
「え?あるの?私結構無茶振りしちゃったんだけど」
「無茶振り自覚してるだけ偉いわ」
「そ、そう?あ、ありが・・・と?」
別に褒めたつもりはないが、まぁ一応そういうことにしとくか、言ったら言ったで面倒くさいことになりそうだし。
「で、方法なんだけど。未亜って石牧海水浴場って知ってる?」
「どこそこ?初めて聞いた」
「うちの最寄りの駅から電車で片道45分ぐらいで駅に着いて。そこから歩いてすぐのところにあ?海水浴場なんだけどさ、そこ夜でも泳げるんだよね」
「えっ、そうなの?でも、夜でも人いたら・・・」
「そこでなんだけど、夏休みの夜とかによくあそこ行っててさ、前に人っ子1人いない絶好の穴場があるんだよね。そこで練習しよう」
「私が言うのもなんだけどさ、そんな都合よく私の希望通りになっててびっくりしてる」
「うん、ごめん僕も自分で言っときながら正直めちゃくちゃびっくりしてる」
だって、相手の要望全部通るほどの用意周到さなんて普通ありえないだろ?しかも今日いきなり、ある意味びっくりするのも無理ないわな・・・。そう思いながら時計を見ると、時刻は午前10時半を指していた。
「・・・よし、準備するか」
「えっ、もう?まだ10時半だよ?」
「いくら夜に泳ぎに行くとはいえ、ただ泳ぎに行くのもつまんないだろ?」
「まぁ、うん」
「せっかくだし、夕食の弁当とか持ってって向こうで食べようかなって思って。結構景色いいとこもあるし」
「へぇ、いいね。練習は嫌だけど、夜の海ってなんだか楽しみになってくるね」
「そりゃ良かった」
そんなことを話したあと、早速準備に取り掛かった。
いかがでしたでしょうか?
前編ということは後編もある。後編もお楽しみにしていただけると嬉しいです。
さて、少しお知らせですが、この「【連載式短編集】世界線の中の『僕』」は、毎週水曜と日曜の19時に投稿する予定です。投稿できない場合は、活動報告などでお知らせしますので悪しからず。これからも投稿していきますので、応援していただけると幸いです。
では、7/17(水)19時にお会いしましょう。