第5話
するとセキネさんは優しく微笑みながら「根倉くんは優しいね。でも私はせっかく借りた体操着を濡らしたくないから、濡れた体操着を脱いでから着たいんだよね。あと正直に話すと、濡れた体操着を着たままの方が風邪引いちゃうかなと思って。」と答えてくれた。
それを聞いて、俺はそんなことも思い至らないのかと自分が情けなくなった。だけどこのまま自分を責めていても時間が無駄に過ぎるだけなので、早く答えなくちゃと思い「そうだったんですね。考えつかなくてすみません!すぐ後ろを向きます!あっそれだけじゃなくてもっと離れたところに行ってこようか?」と慌てて聞いた。
するとセキネさんは「ううん。そこまでしてくれなくても大丈夫!それにこんな暗い中離れたら危ないでしょ!今は私が光っているから少し明るいけど。」と笑いながら心配までしてくれた。
「ははっ。そうですよね。今はセキネさんが光っているから明るいんですよね。それじゃあ、もっと明るく光ることはできますか?なんて。」と言って俺はすぐ後悔した。
セキネさんが光っているのはおそらく病気によるものだ。光るメカニズムはわからないが、病気で光っているということはいいことではないのだろう。つまり俺は風邪の人に「もっとせき込むことできます?」と言うぐらい失礼なことを言ったのではないか?そう思うともう一つ体があったら自分を思いっきり殴ってやりたいと思うぐらい後悔した。
そんな失礼な発言をしたにもかかわらず、彼女は笑いながら「あはは!ごめん!これ好きに光ったり消したりすることはできないんだ。いつも勝手に光って、勝手に消えるの。ごめんね。宇宙人にもできないことはあるんだ。」と弁明した。
「あっそうなんだ。好きに光ったり消したりすることはできないんだ?宇宙人でもできないことはあるんだね。ははは、じゃあ僕は後ろ向いてるね。」
そう言って俺は後ろを向きながら、違うだろ!そうじゃないだろ!セキネさんは悪くない!すぐに謝ろう!と思ったが、セキネさんがここまで気を遣ってくれたにもかかわらず俺が謝罪したら、彼女が宇宙人という設定を作ってまで隠そうとしている病気のことを掘り返すことになるとも考えた。そうなるとまた二人とも黙ってしまう気まずい状況になってしまう!ここは彼女に甘えて、謝らないことにした。そんなことを考えていると「もうこっち向いて大丈夫だよ!」とセキネさんが言ったので振り向いた。そこには当たり前だが、俺の体操着を着たセキネさんがいた。
それを見て心臓の鼓動がドキドキとなるのを感じた。
それはセキネさんが着ている俺の体操着が臭くないだろうかと不安に思ったからだった。
しかし、それを口に出して聞くか迷ってしまった。もしセキネさんに「少し臭いかも。」とか言われたら、もうこの場に平常心でいることはできないし、「大丈夫だよ。」とか言われても、大丈夫ってどういう意味だ?「心配しなくて大丈夫。臭くないよ。」という意味だろうか?それとも「我慢できないことはないから大丈夫。」という意味だろうか?と考えを巡らせて結局平常心ではいられなくなる。
そんなことを考えて逡巡してしまい、結局何も言えずにいた。
「どうしたの、大丈夫?」とそんな俺を見ていたセキネさんが心配して聞いてきた。セキネさんに心配されるのは何度目だろう?セキネさんにこれ以上心配かけちゃ駄目だ!何か言わなくちゃ!と思い「いや、その~、体操着きつくないかな~と思って。」慌てていたため、俺とセキネさんの体格差を考えれば全く無駄な質問をしてしまった。俺の不思議な質問を気にする素振りも見せず「ううん。大丈夫。むしろブカブカだね。」セキネさんは笑って裾や袖をまくりながら答えた。




