第4話
「うん。ところでキミの名前は?私はセキネアカリ。」
「えっ名前?え~と、その~根倉です。」
「へぇ、根暗くんか~。で?下の名前は?」
やっぱり聞いてきたか~!下の名前まで言いたくないから名字で止めたのに!名字が分かれば呼ぶのに困らないだろ!しかもネクラのアクセントが間違っているんだよ!俺が心の中でいろいろ本音を叫んでいると「あっもしかしてあまり言いたくない?そっか、キラキラした名前だから言いたくないとか?大丈夫だよ。どんな名前でも笑ったりしないよ!私!」彼女、いやセキネさんが的外れなことを心配してきた。
いや違うんだよ!むしろ逆だよ!全然キラキラしてないんだよ!クロオって名前単体だったらまだしも、ネクラクロオという姓名揃っているから言いたくないんだ!でもこんなに気を遣ってもらっていて言わない方が悪い気がしてきた。
意を決して「クロオです。ネクラクロオ。」と言った。もうネクラクロオって変わった名前だねって笑えよ!こちとら小学生の時から「根暗」だの「陰キャ」だのって馬鹿にされて育ってきたんだ!今更どうってことない!と思っていると「クロオ…クロオ…」とセキネさんは何か考え込んでいるようだった。
「あの~どうかしました?」と尋ねると「ねぇ?クロオって、黒い男って書いて黒男?」と聞いてきた。
「はい。そうです。」と答えると、彼女は笑って言った。
「じゃあ、もしかしてブラッ〇ジャックから取って付けたのかな?黒男って」
確かに祖父も父も漫画のブラッ〇ジャックが好きだから付けたと言っていたが、俺の名前を聞いて第一声が「ブラッ〇ジャックから取って付けた?」だったことは初めてだった。俺は戸惑いながら「はい。そうだけど、よくブラッ〇ジャックを知ってたね。」と率直な気持ちを伝えた。
「わかるよ。中学の図書室で読んだもん!ブラッ〇ジャック!あれ?根暗くんの中学にはなかった?ブラッ〇ジャック?」
「あったよ。それどころか家にあったから全巻読んでるよ!」
「そうなんだ!私も面白くて一時期昼休みはずっと図書室に行って読んでたよ!もちろん全巻読んだよ!覚えやすくていい名前だね!」
セキネさんの発言に一瞬戸惑ったが、すぐに答えた。
「はい。だけど根倉という名字じゃなかったらもっと好きになれたかもしれませんね。」
俺の卑屈な意見を全く意に介さずセキネさんは「えっ⁈どうして根暗という名字だと黒男って名前が好きになれないの?」と聞いてきた。
「それだよ!それ!キミも間違っていたけど、根倉という名字だと根が暗いという意味の根暗のアクセントで呼ぶ人もいるし、普通に『キミって根暗なの?』って聞かれるし、根暗の上に黒という暗いイメージがする色が名前に入ってたら、余計にからかわれるよ!」
俺はセキネさんがからかったわけでもないのに、普段から、からかわれていることへの恨み辛みをセキネさんにぶつけてしまったことを後悔した。セキネさんが悪いわけじゃない!根暗という名字を一回聞いただけで、根倉と根暗を混同しないで言うのは簡単ではないかもしれない。悪いことをしたと思い、謝ろうとしたところ、セキネさんが「そうなんだ。ごめんね。間違って言っちゃって。すごく気にしていることだったんだよね?」と謝罪してきた。
「いえ、こっちこそ言い過ぎてしまってすみませんでした。」と慌てて俺も謝罪した。
「……。」「……。」
お互いばつが悪く黙ってしまった。
俺は誰かと一緒の時、話が途切れるととても気まずく感じるので、何か話しかけるきっかけを探していた。セキネさんも気まずいのか、俺から受け取った体操着を胸で抱きしめながら(おそらく下着のシルエットを俺に見られないようにするためだろう。) こっちをちらちらと見ていた。
それを見て俺は「早く着た方がいいですよ。」と言おうとしたら、「「あの!」」と二人の声が見事に重なった。「「どうぞ。」」これも重なった。
すると今度はセキネさんの方が早く「根倉くんの体操着を着たいから後ろ向いててくれる?」と頼んできた。俺はあれっと思い、「なぜですか?そのまま着れば後ろを向く必要はないんじゃない?」と質問した。




