第3話
目の前の少女は俺と同じ学校が指定している女子用の白い半袖のシャツと赤い長袖のズボンの体操着を着ていたため、おそらくUMAではなく、俺を捜しに来てれたんだろうと思ったので、「ねぇ、大丈夫?」とさっきから聞いてくる彼女の問いかけに答えようとした。
その時、俺は気付いた。彼女の全身が濡れていることに。なぜ濡れているかは分からないが、まだ光っている体も相まって、俺は彼女を直視してはいけないことにも気付いた。
それで視線を逸らしながら、「はい。大丈夫です。」と答えた。続けて、一番気になるなぜ体が光っているのかという疑問をぶつけたかったが、今解決しなくてはいけない問題を解決するため、「あなたこそ大丈夫ですか?そんなに体を濡らして?」と聞いた。
彼女はうっすら笑いながら、「ああ、これ?これはさっき足を滑らせて斜面を下っちゃって、沢?みたいな所に突っ込んじゃったからなんだ。同じ班の友達に遅れそうだったから焦っちゃって。私っていつもこうなんだ。焦って失敗ばかりしちゃうの。」と答えてくれた。
それを聞いて謎は一つ解けたが、一番大事なことが解決しない可能性が出てきた。「じゃあ、もしかしてあなたも道がわからないんですか?」と可能性が可能性で終わってくれることを願いつつ質問すると、「うん。分からない。あなたもって事はキミもわからないんだ?」と薄い笑顔のまま聞き返してきた。
その答えに絶望したことを隠せないまま、「はい。そうなんです。」と暗いトーンで答える。
すると彼女が、「ぷっ。」と小さく吹き出した。さっきよりも笑顔になって、「ひどい冗談だね。」と言った。
「冗談⁈冗談なんて言ってませんよ!あなた、事の重大性が分からないんですか!?このままいくと僕たち遭難するかもしれないんですよ!」
「それだよ!それ!」「えっ!?」
彼女の発言の意味が理解できずに聞き返す。
「さっき遭難です。と、そうなんです。がかかっていたよね。」
彼女は俺の発言の意味よりも、意図しない言葉遊びに気付いて笑っていたのだ。
それが分かると、彼女に事の重大性を理解させようと熱くなっていた俺は、恥ずかしさから顔が熱くなるのを感じた。
「いやいや、別にかけたわけじゃないです!違いますからね!」
必死に否定する俺。
「本当に~?怪しいな~?」
目を細め疑うような顔をする彼女。
「本当に違うんです!」「あはははっ!分かってるよ!ちょっとからかっただけ!」
「本当ですか?」「ほんと。ほんと。」
一応、彼女の発言を信じ少しホッとすると、いつのまにか逸らしていた視線を彼女に向けていた。
そこでまだすぐに解決しなくてはいけない問題があることを思い出した。俺がどうしようかと考えていると、彼女が不思議そうにこう言った。
「どうしたの?急に固まっちゃって?」「あっ…いや…その…。」
一瞬迷ったが、これしかないだろうと思い、自分が着ていた長袖の上着の体操着を脱いだ。
「あの~?良かったら、これ着てください!」
体操着を渡そうとする俺。
「えっ!?いや大丈夫だよ!悪いよ、そんな!」
「男が着ていた物だし、汗臭いかもしれないですけど、良かったら!」「いや、ほんと大丈夫だよ!」
「いやいや、良かったら。」
「いやいや。」「いやいや。」
「いやいや、本当に大丈夫だから!なんでそんなに食い下がるの?」
俺は逡巡したが、このまま黙っていて、後で変な疑いをかけられるよりはましだと考え、はっきり言うことにした。
「実は、その、見えてるんです。」「えっ!?なにが?」
「見えてるんです!あなたの体が光っているから濡れた体操着越しに!あなたの…あなたの下着のシルエットが!」
俺は視線を逸らしながら顔を真っ赤にして(見えていたわけではないが、たぶんそうだったと思う)言った。
しばらく沈黙が続いた。逸らしていた視線を彼女に向けると、彼女は顔を赤くして、「あははは」と笑いながら、俺の手から体操着を受け取った。
「そうだったんだ?自分では気づかなかったよ。恥ずかしいな~。」
「すみません!もっと早く言えば良かったですよね?すみません!他にも気になることがあったので、言うのが遅れました!」
「えっ!?他に気になることって?」
俺が言い訳で言った一言に彼女が食いついてきた。
「え~っと。なぜ体が濡れているのか?とか、あなたも帰り道が分からないんですか?とか。」
「うんうん。それだけ?」
なおも彼女が食いついてくるので、仕方なく俺が一番気になることを質問してみた。
「えっと…その…答えづらければ答えなくてもいいのですが、なぜあなたの体は光っているんですか?」
「ああ、そっか。この体についてね。そっか君は知らないんだ?そうだよね。日本だけじゃなくて世界の症例を合わせても数百人ぐらいしか確認されていないわけだし。」
「えっ⁈症例って何かの病気なんですか⁈」
彼女の発言に症例という気になる単語が入っていたので、更に質問した。
彼女は病気かもしれないと思っている俺を気遣ってか、一瞬暗くなった顔を笑顔にしてこう答えた。
「ううん。病気じゃないよ!実は私ね、宇宙人なんだ!だから光るの!」「……。」
「どうしたの?驚いて声も出ない?」
俺が何も言わなかったのは何て言えばいいのか戸惑っていたからだ。
確かに体が光るなんて普通の地球人は出来ないだろう。多分彼女にかけられた第一声が「大丈夫?」という気遣いの言葉じゃなければ、一発で信じてしまっただろう。それにここまで会話がスムーズに出来て、その上「そうなんです。」と「遭難です。」をかけたでしょと聞いてくるほど日本語が堪能な所も知っていると「私、宇宙人なんです。」と言われても、にわかには信じがたい。
「へぇ~そうなんですか。宇宙人なんですか。いや、驚いたなぁ。ところで宇宙人のあなたはなぜ地球にやってきたんですか?」
だけど、ここは彼女に気を遣わせないように彼女の話に乗っかることにした。
彼女の宇宙人発言の前に言った症例という言葉から察するに、彼女の体が光るのは何か重い病気の症状であり、それを隠すため宇宙人ということにしたのだろうと思ったからだ。
「う~んとね。それは…」
まさか宇宙人発言を深掘りされるとは思っていなかっただろう自称宇宙人は言いよどんでいた。
まあ、ここで宇宙人トークをそんなに広げるのもかわいそうなので、何を言われてもこれ以上聞かないでおこう。などと考えていると「う~んとね。それは言えないんだ。トップシークレットだから、ごめんね。」彼女は申し訳なさそうに答えた。
それを聞いて、いやいやトップシークレットは自分が宇宙人であることにしとかなくていいのかな?自分が宇宙人ってばれなければ、地球に来た目的も聞かれないでしょ。と思ったが、グッと堪えて「へぇ、そうなんですか。こちらこそすみません。そんな大事なことを軽々しく聞いて。」と返した。
「ううん。わかってくれれば大丈夫。っていうかそんなかしこまった言い方しなくていいよ!私も普通に話すから、キミも普通に話して!」
「はい。わかりました。」
彼女は少し不機嫌そうに「だから、普通でいいって!」と言った。
「はい。すみま…いや、ごめん。これからは普通に話すよ。」




