発端
「逃げろ、逃げろ!」
誰かの声が響く。
そんな大声をあげれば標的にされるというのに。
だが、それも必要な事だった。
頭が混乱して何をすればいいのか分からなくなってる者もいる。
最善の行動がなんなのか判断出来なくなってる者もいる。
そうした者達には指示や命令を出すしか無い。
今はこれをやれと声を張り上げるしかない。
それによって自分を危険にさらしても。
それが分かってるから、叫んでるのだろう。
それが誰かを率いる職務上の使命感なのか。
人として他の誰かを救いたいという義務感なのか。
それは分からない。
分からないが、その勇気に敬意を抱く。
共に逃げてる男は。
事の起こりは侵略。
国境沿いに集結していたロシー連邦軍が侵攻を開始した。
もとよりきな臭くなってる国境からは避難が行われていた。
だが、全員が安全地帯に移動出来るわけではない。
日々の生活がある。
逃げたいのはやまやまだが、そのしたら日々の稼ぎはどうなるのか?
そう考えると避難もなかなか決断できない。
命あっての物種とはいってもだ。
そうして残らざるえなかった者達が、侵略者達に追いかけられている。
だが、避難しなかった者達が悪いわけではない。
侵略がなければ逃げだす必要もないのだ。
それが生まれ育った場所から追い立てられている。
全ては攻め込んできたロシー連邦に問題がある。
逃げだす男は、必死になって足を動かす。
車やバイクは使えない。
攻め込んできたロシー連邦の戦車や装甲車によって狙われる。
空を飛ぶロシー連邦の攻撃ヘリが追ってくる。
足を使って木々や草むらに姿を隠す方が、まだ安全だった。
それも、比べれば安全という程度でしかない。
見つかれば殺されるのは変わらない。
ロシー連邦軍は誰彼かまわず殺しにかかってくる。
軍人と民間人の区別もない。
通常、戦争は軍人だけでやるものだ。
軍人では無い民間人を攻撃する事は禁止されている。
戦闘に参加してればこの限りではないにしてもだ。
現時点で民間人は戦闘に参加してない。
ただただ逃げてるだけである。
そんな民間人に、ロシー連邦軍は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
戦闘ヘリによる機銃掃射が、ロケット弾の発射が。
戦車の大口径砲、装甲車の機関砲が。
兵隊の持つ歩兵銃と機関銃、手榴弾と迫撃砲が。
あらゆる手段でロシー連邦軍は殺しにかかってくる。
それから必死になって逃げる。
生き延びるために。
ここで死にたくはなかった。
少なくとも、侵略者に殺されたくなかった。
そうして男は逃亡に成功する。
比較的安全な場所まで逃げる事に成功した。
食うや食わずで何十キロも歩いた。
ようやく見えてきた町に入り、男は泣いた。
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