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オーク戦士っ! 10番勝負っ!!  作者: 大石次郎


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8/10

VSサハギンソーサラー

サングラスに首にタオルを掛けノースリーブTシャツと水着の短パン一丁の俺はビーチハウスの長椅子に座って、冷えた瓶サイダーを飲んでいた。

波打ち際では水着のヤヒコ、ロンカン、ウーンザがはしゃぎ回り、砂浜のパラソルの下のビーチチェアでマカウとサンラーが寝そべっている。


「海辺に来ると酒が美味い!」


テンガロンハットにビーチシャツにハーフパンツ姿のルービも、ビーチハウスの近くのテーブルで枝豆を摘まみながら冷えたビールを飲んでいた。


「あんたどこでも呑んでるじゃんか?」


水着の上にパーカーを羽織ったアヤメは近くの丸椅子に座って瓶コーラを飲んでいた。

俺達はベルシティからかなり南に行った海辺の街『ショナーンタウン』に観光に来ていた。

6月後半になるとベルシティ周辺は雨季に入って雨ばかりになってしまうのと、全員の予定がたまたま合ったのと、何よりウーンザが超高い『転送門(てんそうもん)』の無料往復チケットをユッフイン島の慰労会の福引きで当てたから、それに便乗した形だ。

出がけにラックバードに「会えば別れるっ。ケケケッ!」ともっともらしいことを言われたが、危険に対する忠告ではないと判断しておいた。

コイツを気にしてたらキリが無い。


「あのぅ」


ビーチハウスに、開襟半袖シャツにサマースラックスを穿き麦わら帽子を被った魚系亜人『ワーフィッシュ族』の男が現れた。


「お休み中申し訳無いのですが、ベルシティの冒険者方ですよね?」


「ああ、まぁそうだけどよ」


「わたくし、このショナーンタウンの冒険者ギルドの『ミズバタ』という者なのですが、宿の名簿を見させて頂きまして」


「ギルド系の宿はほんとどこもザルねっ!」


うんざり気味のアヤメ。


「これも神のお導きよっ」


テキトーなことを言ってまた呑むルービ。


「仕事か? 手ぶらで来てる他の管轄のギルドのもんに声掛けるくらい人手不足かよ」


「いえその、皆さんならわかって頂けると思うのですが・・」


気まずそうなミズバタ。


「今の時期は皆、バカンスであまり仕事してくれないんですよ」


「・・・」


だろうな。



夕方、さすがにルービ以外も水着はやめて簡単な私服に着替え、既に結構呑んでたルービにも仕事終わるまでは酒の『おかわり』を禁止し、地元ギルドから提供された虫除け剤を振って『海辺の洞窟・南部入り口』の周囲にいた。

この辺りはショナーンタウンの魔除けの障壁の中ではあったが障壁の効き目が鈍る海の直ぐ近くなので、武器等もそれぞれ1組程度タダで借りていた。


「ざっと見た感じはいないよねっ!」


「ここヤドカリ多くない?」


非戦闘員だが普通に付いてきているウーンザとマカウ。マカウはサポーター登録してたっけな??


「足元、暗くなってなってきたから灯りを点けよう」


サンラーは星明かりの魔法で小さな光の玉を3つ、宙に出現させた。


「あんまり強く点けると誘われて、海からなんか、ガッ! と来ちゃうかもしれませんよぉ?」


『なんか』を表現したポーズを取るロンカン。


「えぇ? そうかなぁ。あんまり海に来ないからちょっとわからないよ」


サンラーは困惑して星明かりの玉の光量を少し下げた。


「というか、そんな都合よく見付かんのかな? ギャラも微妙だし・・」


不満気なヤヒコ。


「お? ここは結構派手に破損してるな」


海辺の洞窟は自然の波の侵食洞窟を『人魚族』達が加工した物だったが、入り口付近に破損が多い。

俺は、岩場で確認する。

・・つい2日前に、ここで人魚族と海の邪神を信奉するワーフィッシュ族『サハギン』達の小競り合いがあったらしい。

人魚達の中で『海の司祭』に選ばれた者がいて、その祝福の祭事を海辺の洞窟で執り行おうとしたところ、敵対しているサハギン達の妨害にあったそうだ。

この時、海の司祭候補がサハギンに『混乱の呪い』を掛けられてパニックになり、戦いの最中失踪している。

サハギン達の手に落ちてはいないようだが、人魚族とショナーンのギルドで動ける者達が総出で探していた。

しかしこの海の司祭候補は『迷彩化』と『探知耐性』の特性持ちであった為、捜索は難航。

とうとう観光に来ていた俺達にまで手伝いを頼んできた、というワケだ。


「程々でいいんじゃない? あたしら捜索専門でもないし」


基本的に、形のはっきりしないような仕事には気乗りしないタイプのアヤメ。


「神に仕える身としてはサハギンをのさばらせるワケにはいかんがのぉ」


酒を飲めないのでちょっとそわそわしているルービ。大丈夫かよ・・。


「あっ! そうですっ」


ロンカンは不意に、ポーチからビーチハウスの売店で売っていたグミの小袋を取り出し、口を開けた。


「失踪してから既に2日っ!『野生』に帰ってお魚を取ったりはしているかもしれませんが、『スィーツ』には飢えているはずですっ! これで釣りましょうっ」


断言するロンカンに俺達は他の代案も無かく、取り敢えず試してみることにした。


「じゃ、取り敢えずこの周囲にグミの匂いを運んでみるよ? 風よっ」


サンラーは微風を操る『花風(はなかぜ)』の魔法を発動し、ロンカンのグミの匂いを周囲に放った。

まぁさすがにそんなホイホイと、


「甘い匂いでつぅーーーっ!!」


突然、気配も無く何もいないように見えた岩場から人魚とヤドカリ型亜人『ワーヤドカリ』ハーフらしい、小柄なぬいぐるみのようにも見えないではない女の子が姿を表し飛び出してきたっ!

ボロボロのローブを着て、海藻まみれになっている。うん、ターゲットだ。


「うおおっ? 思ったよりチョロかったですよっ?!」


速攻でグミの小袋を奪われて仰け反るロンカン。ターゲット、海の司祭候補『ナナセ・イソラ・エメラルド』は夢中でグミをガッツいていた。

取り敢えずこれまで何を食ってたかわかったもんじゃないから、この後、嫌がったが毒消しは噛らせた。



クエストはあっさり達成できたが、速攻で別の問題が発生した。それは・・


「絶対嫌でつっ! お前達なんか知らないでつっ!!」


迎えに来た人魚達をナナセは全力拒否っ。さらにショナーンのギルドに保護されることも拒否っ!


「『グミの人達』と一緒にいるでつっ!!」


俺達と離れることも拒否っ! ミズバタと人魚達は協議した結果、


「まだ記憶に混乱があるようです。周辺の警戒は行いますが、ナナセさんを暫く皆さんのバカンスに同行させてもらえませんか?」


「絶対離れないでつっ!!」


既にウーンザとマカウにに風呂に入れてもらい、歯も磨かせ、サイズが近いアヤメの予備の服を少し改造して着て小ざっぱりしたナナセは、ロンカンと近くにいたヤヒコに飛び付いて抱え込み離しそうにない。

俺はバカンスメンバー全員と顔を見合せてから答えた。


「連れが1人増えるくらいは、いいぜ?」


「でつぅーっ!!」


大喜びするナナセだった。



人魚達と地元ギルドの連中が帰ると、俺達は完全にバカンスモードに切り替えた。

まず夕飯は宿の食堂で鉄板焼きを食べると、


「甲殻類は無理でつっ! 共喰いでつっ!!」


近くの劇場でファイアーダンスショーを観にゆくと、


「ふぁーっ! ロンカンっ、どっちが強い? お前とどっちが強いでつっ?!」


専用の布服を着て入る薬草蒸し風呂というのを体験しにゆくと、


「あああ・・こういう料理の記憶がうっすらあるでつ・・」


スィーツ類も揃ってる観光客向けの酒場で飲み直すと、


「ナナセは何歳でつ? 成人だった気がするでつっ! 呑んでいい? 呑んでいい??」


夜は大部屋に男女仕切りを立てて雑魚寝した。


「むにゃむにゃ、もう食べれないでつ・・」



2日目はナナセが海に近付くのは嫌がったので、水族館と気球体験と馬に乗って熱帯の森のコースを一回りするツアーに参加する等をして飲み食いもし、引き続きバカンスを満喫し、夕方になった。


「ほい、これ。買い出しに行ったついでにもらってきた」


ウーンザがさりげなくショナーンのギルドの調査部の資料を差し出した。

ナナセの面倒はロンカンとヤヒコとマカウが宿屋の中庭で見ていた。4人で手持ち花火をしてはしゃいでいる。

俺達は中庭に面したウッドデッキの席にいた。虫除けの香が焚かれていた。

それぞれ資料に目を通す、ウーンザは軽い度数のトロピカルカクテルを飲みながら既に頭に入れた資料の内容をざっと話しだした。


「海の司祭は人魚達の海底の拠点の結界障壁を張る役目ね。昔はガッツリ、人柱だったみたいだけど、今は生存可能に改善されてる。任期は『20年前後』、時の流れの違う場所で海神に祈りを捧げるらしくて、当人の体感時間は『2年程度』。ま、楽な仕事じゃないよね?」


「・・サハギンとの争いが絶えないなら死活問題の、異なる種族の『仕組み』だ。口出しはできないが。生い立ちを含めると、ちょっとやるせないな」


資料にはナナセの生い立ちも詳細に記載されている。


「人魚は混血を嫌うから。父親が亡くなった後はワーヤドカリの母と共に海底の辺境で暮らしていたけど、母が亡くなった後、魔力の強さを見込まれて人魚達に引き取られて、かなり厳しく海の司祭候補として育てられたようだよ? 迷彩化と探知耐性も生い立ちから後転的に獲得してる」


「今回の騒動は1つの切っ掛けで、休暇が必要だったのかもね。僕、花火のおかわり持ってゆくよ」


サンラーはウーンザが買ってきた花火と瓶入り飲料を持って中庭に降りていった。ヤツもハーフで苦労している。


「ギルドや人魚達は、ナナセの記憶、どれくらい戻ってると見てんの? あたし達もあと数日くらいしかこっちに居られないけど?」


アヤメは水や炭酸で薄めるタイプの乳発酵飲料を濃い目に作った物を飲みながら言った。


「調査部で聞いた感じだと4割前後でまだらな感じ、かな? ただあんまり『グズる』ようだど、人魚達は記憶解放の秘術かなんかで強引にいくつもりみたい。どうも当代の海の司祭がだいぶガタがきてるみたいで」


「最後のバカンス、ってことだな」


ルービは珍しく酒は呑まず、しみじみとパイプで煙草を吹かしていた。


「・・どの道だ。あと数日、俺達はナナセの『骨休め』に付き合いつつ、警護もするっ! ミズバタのヤツ、持ち道具類の提供は妙に渋チンだからよ、少し買い足して揃えとこう。サハギンどもがこのまま何もせず引き下がるとは考え難い」


俺はナナセを振り返った。おかわりの花火で大いに遊び、瓶飲料を美味しそうに飲んで無邪気に笑っていた。


「会えば別れる、か。・・きっちり無事なまま見送って、別れてやろうぜ?」


俺は焼きトウモロコシを噛りながら呟いた。



異変はその夜に起こった。


「っ?! 来るでつっ!!」


雑魚寝しているとそうナナセが騒ぎだし、俺達はすぐに宿の警護役の地元ギルドの者達と人魚達に伝え、身支度を整え、周囲の地図を確認した。

程無くショナーンの街全体に生臭い濃い海霧が立ち込め、負の気配が辺りを覆いだしたっ。サイレンが鳴り響くっ!

すると電信や無線やラジオが繋がり難くなり、街の結界内であるにも関わらず、霧の中から低級な海の魔物が『霧を泳いで』、宿を遅い始め、周囲が騒然としだしたっ!


「皆さんっ! ここは危険ですっ。高台の海神教会に向かいましょうっ」


ミズバタが馬並みの大きさの地表を浮遊するタツノオトシゴ型の乗用獣『竜馬(ウェイブランナー)』を多数連れて宿に現れた。


「確かにここじゃジリ貧で、他の一般客を巻き込んじまうなっ! ナナセッ、行けるかっ?!」


「でつぅぅ・・」


しゃがみ込んだナナセはウーンザとマカウとロンカンに支えられて震えていた。

また迷彩化と探知耐性を発揮して姿と気配が消え掛かっていた。

俺はナナセを引き受けてから奮発して自腹で買った、水の触媒『ブルーストーン』を持ってナナセに歩み寄り、しゃがんで、震えるナナセの小さな少し甲殻類の性質も持つ右手を取って握らせた。


「土壇場になったらよ、これまでだって自分で決めて今日まで生きてきたんだろ? 腹括ろうぜ? ナナセ」


「うぅ~っっ・・でつっ!!!」


ナナセは震えるのをやめ姿をはっきり表し、立ち上がった!


「よしっ! 先導はアヤメとミズバタっ。ルービはナナセとっ、ヤヒコは2人を守れっ! 俺とサンラーは殿やるっ。後は各自上手くやれっ、だ!」


「了解っ!!」


俺達はそれぞれウェイブランナーに乗り、宿の警護役の7割を引き連れて高台へ向け出発したっ!

夜の闇と海霧の中、警護役やサンラーの出した星明かりの光の玉を頼りに進む、海の魔物達の大半はやはり俺達を追ってきていた。


「街の結界の中だからっ、ヤツらはも相当無理をしてる! 短期決戦を狙ってるはずだよ?」


「でも大型や中型は早々結界に入れないし、相手の手立て少なくない?」


俺のウェイブランナーの隣にいるサンラーは、ウーンザが駆るウェイブランナーに乗っていた。

マカウもロンカンを乗せている。ルービはナナセを庇いながらウェイブランナーも操らなくてはならず、苦労している様子だった。

俺は警護役の守りをすり抜けてきた、骨だらけの怪魚『ボーンフィッシュ』を細身の槍(スレンダースピア)で貫いて仕止めた。他に武器は小さな『投擲斧(トマホーク)』だけだ。

防具は無い。なんかよくわからん、こっちでノリで買ったパイナップルのキャラクターのTシャツを着てるっ。


「出たとこ勝負しかねぇよっ! ただ『玉の扱い』は手筈通りなっ」


「ミズバタにも伝えておいた方がよくない?」


「・・いや、俺達だけでいこう」


普段と別の土地で、把握できていないことも多い。


「ふうん? まぁ僕はいいけどっ」


「もう参道っ! 近いよ? 君の雲の魔法でビューンっ! って運んじゃったら?」


折り返しの多い、軽く装飾された教会への坂道に差し掛かった。教会は明かりで照らしても、まだ霧で見えない。


「いやっ、行けるなら最初からそうしてるっ! 霧を媒介にされてるから位置自体は常にバレバレなんだっ、的にされるよっ?」


高台への坂道は側面に遮蔽物も無いしな。・・ん?


「なんか、警護役少なくないか??」


倒されてはいないはずだが、霧に撒かれながら坂道を駆け上がる内に、警護役がどんどん減り、しまいに俺達だけになってしまった。


「どっちが対象かわからないけどっ、迷いの術を掛けられたねっ! これは霧を払った方がいいか・・」


サンラーが考えだすとほぼ同時に、霧の先の壁に俺達は行き当たってしまった。いつの間にか脇道に入り込んでいたらしい。


「・・取り敢えず霊木の灰で陣を張るっ! 周囲を」


「うわっ?!」


俺が指示を始めると、アヤメがミズバタの片腕から噴出した様々な水棲生物の混じった触手でウェイブランナーから吹っ飛ばされた! 驚いて逃げてゆくアヤメのウェイブランナーっ。


「ロンカンっ、アヤメ回収っ! ミズバタは敵だっ」


「はいぃっ」


マカウはウェイブランナーを倒れ付した毒を受けた様子のアヤメに急行させ、ロンカンは蔓を出してアヤメを回収したっ。


「・・この為にぃぃ、この為にぃっ、今日まで耐え難い地上の無価値で気色悪い暮らしに潜んできたぁああっっっ」


ミズバタは身体を変質させ、乗っていたウェイブランナーを取り込み、『生肉のローブ』を羽織り『臓物の杖』を手に本性を表し、『サハギンソーサラー』の姿となったっ。

周囲の霧の中から歪んだ身体を持つサハギン達が次々現れる!


「次の海の司祭ぃぃっ!! 今度こそっっ、お前を殺しす運命(さだめ)ぇええっっっっ!!!!」


仰け反って『絶対殺すポーズ』を取ってくるサハギンソーサラーっ!


「でつううっ」


「光よっ!」


困惑するナナセを庇い、ルービは光鎖の陣で周囲を覆った。

俺は1発しか装填しかできない榴弾銃に信号弾を装填し、頭上に撃った。伝わってくれよっ。


「サンラーっ! 霊木の灰で雑魚対策っ。残りは閃光球をあのおかしなテンションの殺し屋にカマすぞっ」


サンラーは花風を強く吹かせて、霧を押し退けつつ霊木の灰を撒いて簡易な魔除けの陣を張って侵入を妨げ、俺を含めた動けるメンバーは一斉に『玉』をサハギンソーサラーに投げ付けたっ!

目の前で宣言されたことと、嗤って目を庇ってやり過ごしに掛かるサハギンソーサラーだったが、


ドドドドドドドッッッッ!!!!!


炸裂したのは閃光球ではなく、カンシャク玉で、サハギンソーサラーは肉で覆われた下半身を吹き飛ばされ、再生に手間取ったっ。

俺は既にウェイブランナーで近くまで突進しているっ!


「謀ったなぁっ?!」


「コレか?」


俺は既にスイッチを入れていた閃光球をサハギンソーサラーの目の前に放った。カッ! 激しく発光する閃光球っ!!


「オギャーっ?! 眩しすっっっ!!!」


「キャラ変ついてけねぇわっ!!!」


俺は放り捨てたスレンダースピアの変わりに構えたトマホークを使って間近でミンチブロウを発動させて、投げ付け、サハギンソーサラーの頭部を吹き飛ばしたっ!!


「ふぅっ、後は雑魚を、おおぅっ?!!!」


サハギンソーサラーの身体全体から混ざり合った水棲生物の肉塊が吹き出し、俺は慌ててウェイブランナーから飛び降りたっ。飲み込まれるウェイブランナー!

俺自身もロンカンの火雀とサンラーの風刃が迫った肉塊の触手を弾いてくれなかったら飲まれていたっ。ヤベェっ!

残りの玉系持ち道具を投げ付けつつ、距離を取るっ。巨大肉塊化したサハギンソーサラーは触手で霊木の灰の障壁を抜いて周囲のサハギン達まで取り込み出した。


「真実のぉっ! 神のぉっ!! 超摂理に基づく合理的かつ合法的んなぁああっっ!! しゅ・く・ふ・く、与え死すぅっっっ!!!!!」


「ナナセを守れっ!!」


俺は叫び、肉塊の巨人は特大触手をルービが張った光鎖の陣に放った。

サンラーの風刃も、ロンカンの火雀も、弱ったアヤメが投げたカンシャク玉も、ヤヒコが借り物の細いサーベル2本で放ったクロスエッジも、特大触手を止められないっ!!!


ズドォオオオッッッ!!!!


打ち抜かれる光鎖の陣っ! その瞬間っ、蒼い、ブルーストーンの光が瞬いたっ!!!


「ゲェェッッッ??!!!」


特大触手を半ばまで消滅させられる肉塊巨人っ!!!

立ち昇る蒼い光の柱っ! 驚愕するルービと昏倒したウェイブランナーの頭上に、ナナセが浮き上がっていた。


「・・召喚っ!『海母神獣(スアデラ)』っ!!!」


ナナセの呼び掛けに応じ、ショナーンを覆う全ての霧を打ち祓い、黄金の外骨格を持つ城のごとき大きさの海月の海霊が上空に出現したっ!!!


「スアデラっ!『 甘露豪雨(アムリタスコール)』っ!!」


使役に応え、夜空に輝く雨雲を発生させて、光の雨をショナーンとその近海に降らせるスアデラっ!

街と、海に控えていた低級の魔物達を滅ぼし、中位以上の魔物を退け、アヤメ等、弱っていてもまだ生きてる者の身体を癒した。

肉塊の巨人はその肉の巨体を引き剥がされ、元のサハギンソーサラーに戻された。


「ぐわぁーーっっ?!! サイズが戻りしすっ?!!!」


「スアデラっ! ・・『海神矛(トライデント)』っ!!!」


スアデラは輝く海水の三叉槍を造り出し、サハギンソーサラーを撃ち抜いたっ!


「がぽぉっ?! これにて、終わり、死す・・」


サハギンソーサラーは消滅した。

上空のスアデラも消え、力が抜けて落下してきたナナセはルービとヤヒコが受け止めた。

俺は月が見えるようになった夜空の下、歩み寄って、疲れ切った様子のナナセに取り敢えずポーションの瓶を差し出した。桃味のやつ。


「大したもんだ、海の司祭さん」


「オサム、お前達、20年後もナナセと遊んでくれるでつか?」


瓶を受け取って泣く、ナナセ。他のメンバーも集まっていた。


「その時、現役かは知らねーが、なんとか生き残って、また集まろうぜ?」


「ううっ、約束でつぅーっ!!!」


大泣きするナナセを、ロンカンとアヤメとウーンザとマカウが抱き締めて、慰めた。



俺達は朝陽のショナーンの浜辺に座っていた。先程、ナナセを見送った。


「20年後はどん亀の店長だね」


「ユッフインで市長やってるかも?」


「壺、買ったり売ったりするの?」


「しないよっ! ヤヒコは『姉貴カフェ』でも経営しときなよっ?」


「酷ぇこと言われてるけど、否定しきれない自分がいるよ・・」


「あたしは道場開きたい。現役はもういいかな? 20年、長いよ」


「オイラは肝臓の数値次第だな」


「あんた、冗談になってないから」


「へへへっ」


「私はお母さんになってたいですね。意外と」


「へぇ~、サンラーは?」


「僕はハーフエルフだからなぁ。あまり変わらず緑化公園の管理人やってるよ。オサムは?」


「・・ギルドの教練所の教官、とか?」


「あ~っ」


全員同じ反応。なんだよっ! そのまんま過ぎたのかよっ。


「ま、会えば別れるなら、別れるなら会うっ! だ。帰ろうぜっ」


まだ予定より数日早いが、もうすっかり遊び尽くした気分だ。何しろ20年分の休暇に付き合っちまったからさ?



うむっ!『VSサハギンソーサラー』、俺達の、勝ちだぁーーっっっ!!!

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