VSフォレストスペクター
最近、クエストを続けて受けているし、わりとよく知った顔とばかり仕事していたから、今日は1人でのんびりモノクロ映画でも見にゆこうかとアパートの階段を降りてゆくと、
「6倍っ! 6倍っ!! ケケケッ!! オサムっ! 6倍だぁーっ!! ケケケーッ!!!」
アパート前の楠木の上からラックバードが叫んできた。
「俺、今日、休むつもりなんだが・・」
「6ばぁーーーーいっ!!!!」
「・・・」
俺は、諦めてどん亀亭に向かった。まぁプライベートで謎の『6倍』に対処する、ってのも面倒そうだしな・・。
で、その日の午後。
「あらよっとっ!」
俺は舟刀で『ポーンシード』を2体纏めて切断して仕止めた。
ポーンシードは種類は様々だが、堅果類をベースにしたモンスターで大きさは人の幼児程度で手足は短い。
放置された堅果の成る森でしばしば発生するが、わりと硬い以外は大して強くなく、他のモンスターに『餌』と認識され易いので、通常わざわざ討伐対象にはならないのだが・・
「多くないっ?!」
アヤメはいつものストライクガントレットとストライクレガースで次々ポーンシードを撃破しながら戸惑っていた。
そう、大量発生していた。ベルシティを北に行った先にある『静まりの森』の南西部の端の辺りのエリアだった。
近くにエルフ族の郷があって、このエリアを通れないと不便な上に他の強いモンスター『餌場』になってしまうと目も当てられないので、ポーンシードの討伐が発注されていた。
範囲が広いので俺達以外にも10組程度、初級冒険者達が参戦している。
「双剣止めといて正解だったよっ、なんか硬いしっ! 腕捥げちゃうとこだった!」
ヤヒコも連れて来ていた。負荷の大きい双剣ではなく『業物のロングソード』を一振り借りていた。
「想定より多いな? なんだ??」
ポーンシードはワラワラ涌いてくる。あまり『意思』は感じられないが・・
「これがラックバードの言ってたっていう6倍?」
「いや、さすがに調査部の想定の6倍って程じゃないが」
俺達は集められた初級者の中では手練れな方だったので、出現範囲の最奥を担当はしていた。微妙なところだ。占いはあったから『玉系』のアイテムは多めに持ってきてはいる。
連戦用に護拳があって取り落とし難いカトラスをレンタルし、甲羅の盾も借りた。装備は手堅い。
「うーん、・・あっ。ヤヒコ! 離れ過ぎだよっ」
「はいっ! さーせんっ」
いつになく素直かつ素早く言われた通り位置取りを改めるヤヒコ。ん?
「ヤヒコ、普段二刀流だから慣れないんだろうけど、そんな力任せに振り回したら疲れちゃうよ? 剣の重さと長さに逆らわない方がいいっ」
「はいっ! 気を付けますっ」
「あたしもだけど、あんたも小柄なんだから、体格意識して立ち回りなっ」
「はいっ! 自分がクソ小柄であると受け入れて立ち回りますっ!!」
「・・・」
そのまま暫く戦っていると、たまたまヤヒコと距離が近くなったので小声で話し掛けた。
「まぁアヤメはチビではあるが、『姉感』はあるかもな」
「っ!」
「お前、『身長』は関係無いんだな・・」
「・・っっ、いいじゃないッスかぁーーっ!! どふっ?!」
動揺して隙ができてポーンシードに体当たりを喰らうヤヒコ。未熟者っ!
「ヤヒコっ、何やってんのぉ?!」
「ううっ、さーせん・・」
敵が『なんとなく多い』ことに手こずりつつ、俺達は気長にポーンシードを狩り続けた。
戦闘開始から40分過ぎると、汗だくのヤヒコの動きが明らかに落ちてきた。俺とアヤメは目配せをしてヤヒコのカバーに入った。
「ヤヒコ、ポーション飲めっ! あと30分交戦してキリが無いなら一旦引くっ」
「了解ッス・・」
ヤヒコはポーションをゴクゴク飲みだした。俺はポーションより冷たいビールを飲みたいぜっ。と、
ズズズズズズ・・・・・ッッッ!!!
森の地面から通常のポーンシードの『6倍』はある『巨大ポーンシード』が4体現れ、更にその背後の木陰の闇に負の力が渦巻いて実体化し、樹木のごとき死霊『フォレストスペクター』が現れたっ!!
「なんか、6倍にオマケまで付いてきたよっ?!」
「あの鳥っ、素直にゃ占わねーからなっ」
「えっ? ヤバくないッスかっ?!」
準備無しに俺達のレベルでどうこうできる相手ではないなっ!
「ジィンネっ! ジィンネっ!! なぜ裏切ったぁああーーっっ!!!」
フォレストスペクターが叫ぶとそれに呼応して、巨大ポーンシードと周囲のポーンシード達まで吠えだしたっ。
このタイミングで、ドンッ! ドンッ!! 上空に信号弾が放たれ、光を放ったっ。他の配置でも異変があったかっ。
「撤退信号だっ! ズラかるぞっ?!」
ありったけの閃光球とカンシャク玉を放って炸裂させ、俺達はその場から離脱していった。
俺達や他のパーティーは、静まりの森の南西部に比較的近い『駅所』まで引き上げきていた。
駅所は魔除けで囲われた、馬借や宿屋や酒場や武具道具屋等がある冒険者や旅人達の野外拠点だ。
そこの広場に集まっていた。中央には木箱の上に乗って、ギルド調査部の燕型獣人ワースワロウ族の『ミヨコ』がいた。
「ポーンシードには事前調査に無かった首魁がいたようですっ! この戦力での全面的な討伐は困難な為、続けて参加する方々は6人1組程度のパーティーに組み直して頂いて」
「聞いてないぞぉーっ?!」
「ここで抜けてもそこまでの経費は落とせるのっ?!」
「俺、ソロで来てんだけど・・」
「調査部何やってんだーっ?!」
参加者の怒号が響く中、ミヨコは必死で説明していた。
修正されたギルドの方針は、各パーティーを多めの人数に組み直した上で、ポーンシードの活動範囲内であっても首魁の活動範囲外と見られるエリアを潰して閉じ込めている結界の範囲を狭め、後はレベル8以上の冒険者にクエストを再発注して引き継がせる、といった物だった。
「オサム、どうすんの? 抜けても一応ギャラ出るみたいだし、こういうなし崩しのクエストはあんまりよくないよ? 降りて近くの温泉でもいかない? なんか、シラけちゃったわ」
確かに、仕切りの甘い感じはする。ただまぁ、駅所でしっかり準備していけばあのフォレストスペクター達も含め、倒せないでもない。
「温泉ですかっ??」
色めき立つヤヒコ。普通なら空騒ぎだが、明け透けなアヤメの場合、この間のミストエイプ戦の時みたいな『事故』も起こりかねないっ。う~む。・・ここは、クエスト継続で
「ちょっとよろしいですか?」
翼をはためかせてミヨコが近くに舞い降りてきた。
「オサムさん。サンラー・マジ・マジカさんとよくパーティー組まれますよね?」
「よく、って程じゃないぜ?」
せいぜい月に1~2回。組まない月も普通にある。
「サンラーさんは『ほぼ数名』の限られた方としか組まないのでっ」
「え? そうなのか?」
そこまで『選り好み』してたかっ。知らなかった・・
「あの方、今ちょうどこの駅所近くの『レインフロッグビレッジ』に来てらっしゃいます。今は釣りをされているはずです」
「釣り?」
わざわざこんな僻地で?
「調査部って、誰がどこで釣りしてる、とかまで調べてんの?」
顔をしかめるアヤメ。
「いえっ、違います。別件で数日前までレインフロッグビレッジでのクエストに参加されていて、そのままギルド系の宿に逗留されて釣りをされてると」
つまり、ギルド系の宿に泊まると調査部に現地で何やってるか『チクられる』んだな・・。
「へぇ」
面白くはなさそうなアヤメ。
「ともかくっ! サンラーさんにはこのクエストの『別ルート攻略』に協力して頂きたいのですっ」
「別ルート攻略???」
俺達は思わず身を乗り出してしまった。大抵の冒険者がそそられるワードだっ。
日が暮れる頃、俺達は馬でレインフロッグビレッジに着いた。
ここは蛙型亜人族『ワーフロッグ』主体の郷だ。人工的な水路だの池だのがやたら多く、住居は高床式だった。のんびりした所だが、耐性の無い種族は虫除け剤を使わないと蚊に血を吸われまくる環境だな・・
すぐに駅所に戻るので、郷の馬借に仮に馬を預け、サンラーのいるはずの郷の一角の溜め池に向かった。
溜め池といっても小川の水を引いて、水路と繋がっているのでいい釣り場らしい。
釣り場近くで瓜畑の手入れをしていたワーフロッグを見掛けたので話し掛けてみた。
背の低い男と思って近付いたらどうも女らしくて内心ギョッとしたりもした。虫眼鏡のような大きな眼鏡をしている。
「この先の溜め池によ、ハーフエルフが通ってないか?」
「ゲッコォ? ハーフエルフぅ??」
「こう、野暮ったい感じの日除け帽子を被った」
「ああっ! 変な帽子のっ。今日も来てるよ?」
「それそれっ! ありがとよっ」
「ゲッコォっ!」
どうも、ワーフロッグにはハーフエルフの見分けは難しいらしいが、服装はよくわかるようだ。
思ったより大きく、溜め池というよりちょっとした『湖』に行くと、そこの管理用? の桟橋でサンラーが風景に溶け込むように小さな折り畳み椅子に座って釣りをしていた。
「馴染み過ぎだろ?」
「久し振りね」
「どもッス」
サンラーは面食らった様子だった。
「何??」
「静まりの森にフォレストスペクターが出ちまってよ。どうもそいつはエルフ郷にあるリュートで撃退できるらしいんだってよ」
「・・・」
うんざり顔をするサンラー。
「そのリュート、あんたの先祖が遺した物なんでしょ? 血族しか使えない、って言うし」
「血族なら郷にいくらでもいるよ。ちゃんと『純血』の人達がさ」
こりゃ根深いな・・。
「それが渋ってんだと! 時間掛かりそうだからお前を呼ぼう、ってなったワケさ」
「引き受けてよ? モタモタしてると被害出ちゃうよ?」
「『姐さん』もこう言ってらっしゃるんでっ」
お前は姐さんって、言いたいだけだろ?
「・・わかったよ。ただ僕はエルフ郷には入らないよ?」
サンラーはあくまで頑なに言った。
4人で駅所に着く頃にはすっかり夜になっていたので買い出しだけ済まして一泊し、翌朝、俺達はエルフ郷へ向かった。
昨日、俺達が駅所を出た後の攻略でポーンシードの出没エリアは4割方狭まってはいたが、未だ魔除けのある林道はいくつか使えないので、俺達は遠回りでエルフ郷の前まで来た。
生きた木でできた城壁に囲まれた郷で、城門も矢倉も生きた木でできていた。
「じゃ、僕はここで」
サンラーは天舟の魔法で雲に乗って、城門近くの大木の枝まで上がると、『ふて寝』を決め込んだ。
「めんどくさいヤツっ!」
「そッスねっ! 姐さんっ」
「・・悪いヤツじゃねーんだがな」
エルフ郷には既にギルドが電信で報せてある。俺達はサンラーをこの場に残し、特に構えずに城門に向かった。
「これが『ジィンネのリュート』だ」
サンラーの血族だというエルフの男が促し、妻か妹か? ちょっとわからないが似た雰囲気のエルフの女性が古風な陶器のようにも見える材質のリュート(指で引く小さな琵琶のような楽器)を持って部屋の奥から現れた。
「そのリュートにはお前達が遭遇したフォレストスペクターを滅ぼす力が秘められている。サンラーにならば弾けるはずだ」
「あんた達は自分でやらないの?」
「そッスよっ」
男は溜め息をついた。
「あの亡霊は我々の祖父の兄に当たる人物だ。文明の後退していた当時、この地域で人間と争いがあってな。ヤツは同族を多数生け贄にして魔物と契約して人間に対抗した」
「『静まりの森の魔道師』かっ!」
この辺りじゃ有名な話だ。確か、弟子でもあった妹によって倒されたとか・・
「我々エルフは人間の3倍近い寿命がある。悪名はそう簡単には消えない」
「だからってサンラーに丸投げしなくても」
「・・アイツは腹違いの弟だ。郷の近くにいたのも森の異変の話を聞いたからだろう。それでいて他人に言われなければここまで来ない。内心では役立てることを郷に証明したいはずだ。回りくどいと思うかもしれないが、その意思は汲んでやりたい」
「・・別に、そういう感じなら」
「姐さんがいいならオレもっ」
「『家』の事情は知らねーが、やらせてもらうぜっ!」
俺達はジィンネのリュートを手に入れた。
「これが・・」
城門の外で待っていたサンラーにリュートを渡すと、感慨深げだった。
「いけそうかよ?」
「うん。子供の頃、母さんに習ったから」
「なら、一旦駅所に戻って、ギルドの」
アヤメが言いかけると、
「その必要は無い」
城門から武装したエルフ達が出てきた。サンラーの腹違いの兄の姿な無かった。
「リュートがサンラーに渡ったのであれば、我らマジカ氏以外のエルフも協力しよう」
「おたくらは『段取り』が面倒だな」
俺が呆れて言うと、
「お前達程気楽ではないことは確かだ」
とリーダー格らしい女が几帳面に応えてきた。
ポーンシードの群れは俺達を囲んで走るエルフ達が蹴散らしてくれたっ。
「いたいたっ!」
日差しを嫌って、枯れた歪な草木を樹上に張り巡らせて屋根を造った下にフォレストスペクターはいたっ。
護衛に巨大ポーンシードを7体も付けている。
「『玉』は使うっ! デカブツは何体引き受けられるっ?」
「5体だっ!」
エルフのリーダー格は応える。
「頼もしいねっ」
俺とアヤメとヤヒコはありったけの閃光球とカンシャク玉を巨大ポーンシードに投げ付けたっ。
ドドドドドッッッ!!!!
まともに喰らって動きが鈍った所にエルフ達が突撃していった。
「2、1で行くっ! サンラーも頼むぜっ?」
「了解っ!」
俺は単騎で、アヤメとヤヒコは組んでエルフ達が抑えられてない残る2体の巨大ポーンシードに突進した。
サンラーも間合いを取ってリュートを構える。
「うらあっ!」
ハンドアクスでミンチブロウを放って牽制し、駅所で借り直していた。大斧を手に詰めるっ!
「ジィンネ! ジィンネ! なぜだぁーっ!!!」
フォレストスペクターは呻いて、負の力を高め、攻撃しようとしたが、これに合わせてサンラーがリュートを掻き鳴らした。
「っ?!」
動きを止めるフォレストスペクターっ。
サンラーは奏でながら囁くように唄いだした。
ケープがはためいて 振り返ると街が見える もう日記の中 今は秋桜の先
明日、何処へゆこう 想われるまま
足音も無く
真夏の 国境を 走ってる 鬣
野薔薇を見て 笑った
朝日を カーテンで 遮って 面影
いつかの夢 数えて
ケープがはためいて 振り返ると街が見え る もう日記の中 今は秋桜の先
明日、何処へゆこう 想われるまま
足音も無く 約束だけ 覚えてる
周囲が淡く発光し、うっすらと、光る一人のケープを羽織った若いエルフ娘が現れ、フォレストスペクターを抱擁した。
「おおっ、ジィンネ・・戻ったか・・」
フォレストスペクターは砕け散り、光の玉のみを残した。
合わせてポーンシード達は一斉にその場に倒れ、並みのポーンシードは木の苗に、巨大ポーンシードは若木に姿を変えた。
「・・・」
光の娘はサンラーを振り返って微笑み、抱えた光の玉と共に光の柱となり昇天していった。リュートも輝きながら砕け散った。
「・・歌、上手いじゃんかっ! 魔法使いより吟遊詩人になった方がいいんじゃない?」
アヤメが明るく言うと、
「これしか唄えないから」
サンラーははにかんだ。
その日の夕方、私服に着替えた俺達はまたレインフロッグビレッジの溜め池の桟橋に来ていた。全員並んで釣りをする。なぜか昨日の瓜畑のワーフロッグの女も一緒に釣りをしていた。
「・・なんか、ほろ苦系でしたね、姐さん」
「黙っときな」
「さーせんっ」
「・・アレだな」
「郷には帰らないよ? 仕事しただけ」
「違う違う。あの、ジィンネとかいう、魔道師の妹っ!」
「何?」
「ありゃあ、アレだな、兄と」
「うん」
「アレだろな」
「かもね」
「・・そりゃ刺されるわ」
「ぷはっ」
ワーフロッグ以外は吹き出した。
「いやっ、皆、敢えて言わねーからここまで黙ってたけどなっ」
「死因って刺殺だっけ??」
「イメージだ」
「オサム」
「オサム先輩っ」
と、ここで、
「ゲッコォっ!!! きたぁーっっ」
ワーフロッグの女が、すんごい大物の鯉を釣り上げた。
うむっ、『VSフォレストスペクター』っ! 俺達の勝ちだぁーーーっっ!!!!




