表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーク戦士っ! 10番勝負っ!!  作者: 大石次郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/10

VSミストエイプ

霧の中、馬を進めていた俺達3人の前に郷の正面門の矢倉の上で焚かれた浄火が近く見えてきたぜ。

郷を囲む城壁は正直低かったが、魔除けの結界は田舎町としてはしっかりしてるな。


「日が傾く前に着けたな」


「霧で冷えたので早くお風呂に入りたいです」


「それより御飯だっ! 御飯が美味しい郷と聞いたからこのクエストを受けたっ!」


「わかったわかった、保安所で確認したらとっとと宿に行こうぜ」


俺達は霧の向こうの郷、『ペイルビレッジ』に向かった。


「・・はい、電信来てましたよぉ?『ミストエイプ討伐』の人達ね。オサム・ボンバ・イエさん、アヤメ・ヨッチ・コッチさん、ロンカン・ルル・ヤンさんですね」


改めて登録証を確認した狭い保安所に詰めてる保安官はエルフクォーターくらいの少しくたびれた感じの男だった。


「オサムだ」


「アヤメだよ」


「ロンカンです」


俺のメインジョブは戦士、レベル6。アヤメは格闘士、レベル6。ロンカンは火属性の魔術師、レベル3だ。ロンカンはルーキーだな。


「はーい。えーと・・まぁね! 役場でなくて金も出さない保安所にわざわざ来てもらったのは、まぁこの人達なんだよね」


保安官は白黒写真を4枚、テーブルに並べた。いずれも人間の貴婦人、若い婦人、貴族らしき男、メイド。


「この男は被害者の『ヴェル』さん。若いのは元は流しの踊子だったらしいが『スプライ』、遺体は残ってなかった。そのメイドは事件当日ミストエイプが封じられていた祠近くで重傷を負って倒れていた。今も診療所だ。で、この婦人が『ルピス・ネクタ・ユーシー』さん。ヴェルさんの奥さんだ」


「依頼人だな」


写真を見る限り、美人だが暗い印象だ。


「まぁ郷も代金は折半してるが・・ユーシー家は名家で、ちょいとウチじゃ扱い辛くてね」


保安官は、わかるだろ? という顔で俺達を見てきた。

小1時間後、俺達は霧はだいぶ晴れたがすっかり日が傾いたペイルビレッジを歩いていた。

荷物は武具とポーチ類と小さめの鞄以外は宿に預けてきた。風呂も飯もまだなのでアヤメとロンカンのテンションは低いぜ・・。いや、俺も風呂入りたいし、腹も減ってるけどな。

俺達はクエストの資料片手に歩いてる。


「スプライはヴェルの愛人。ヴェルはミストエイプ達によって森の別宅付近で殺害。別宅の魔除けは何者かによって破壊されていた」


わざわざ森の中に逢い引き用の小屋建てなかてもな。まぁ田舎だと人目があるんだろうけどよ。


「スプライは失踪していますが、小屋付近にスプライと見られる致死量の血液が発見されています。郷の司祭が魂を探知しましたが、発見はできてません」


頭の上に蘭の花が咲いたワーオーキッド族のロンカンはゾッとした顔をしていた。単に寒くて風邪を引き掛けているだけかもしれねぇが。


「ユーシー家の先祖が大昔、ミストエイプ達を祠に封じていて、今も封印を管理してたんだよね?『短剣』かなんかで」


夕飯まで我慢できず、煎り豆をポリポリ食べだすアヤメ。種族は小柄なウェザーフット族。通常素早いが非力なこの種族で格闘士、というのも珍しい。


「めーちゃ怪しいな。ま、俺達は基本的にはミストエイプを退治するだけだ。保安官があれこれ言うから、一応確認には行くけどよ」


「オサム、そういやあんたん家の近くのラックバードによく絡まれてんだよね? なんか言ってなかったの?」


「ラックバードが街に出るんですかっ?」


「いやぁ、今朝は見掛けなかったなぁ」


「こんなややこしそうなクエストの時に限って? 使えないなぁっ」


「いや、別に契約してるとか、そんなんじゃねーからっ!」


「ラックバードが街にいるのですか??」


「ああっ、いるよっ!」


「へぇーっ」


そっからしばらくクエストの話そっちのけで、ロンカンにラックバードに自分も会ってみたい、と散々せがまれた。


「奥様は事件にショックを受けていられて、お会いになれません」


目の下のクマが濃い、これまた陰気な老いた執事は断固として面会を許さず、俺達はユーシー家の玄関から中にも入れず引き上げるハメになった。


「あー、来て損した。お腹空いたし。もうよくない? あたしら探偵じゃないよ? 明日、ミストエイプは倒すんだし、それでいいじゃん」


「そうですね。本格的に風邪を引きそうですし、一刻も早くお風呂に」


2人の『やる気』がプチっと完全に切れる音が聴こえたようだぜ。


「ん~。・・お?」


ふと気配と視線を感じ振り向くと、妙にまた霧の濃くなった館の2階の窓辺にルピスがいた。手に古めかしい短剣を持っている。俺と目が合うと、即座にカーテンを閉められた。


「変質者と思われたんじゃないの? へへっ」


「人間の女に興味ねーよっ! たくっ、・・よしっ、診療所のメイドも見に行くかっ!」


なんか尾を引きそうな予感がするぜっ。ギルドに詳細なレポートを出した方がよさげだ。


「えーっ?! 御飯はよっ?」


「お風呂もですっ」


「我慢しろ! 俺の奢りで薬草半分ずつやるっ」


俺は薬草を丸めて2つに割り、アヤメとロンカンの口に放り込んだ。


「っ?!」


モグモグする2人。


「・・マズい」


「・・苦いです」


1個7000ゼムちょっとするんだぜ? 俺、豪気っ!


「こちらですが、持って数日かと・・」


看護師に案内された病室で、患者衣を着せられたベッドメイドは痩せて土気色の顔をしていた。意識は無い。


「名家のメイドだろ? もっと手当てできなかったのか?」


これじゃ何もわからないぜっ。


「言い難いのですが・・この方はあまり素行がよろしくなくて、ユーシー家の方々は彼女の借金を清算した上で、臓物がまろびでる有り様だった彼女をここまで回復するまで費用を出して下すったのです」


看護師の女は、隠しきれない軽蔑の念を滲ませていた。よっぽどの人物だったんだろな。


「なんでそんな子が名家でメイドやってんの?」


「それは・・」


看護師はいよいよ困り果てた様子だった。


「メイドというのは形ばかりで、ユーシー家の、その、厄介ごとの類いを請け負う立場だったようです。失踪されたスプライさんを旦那様、ヴェル様に紹介したのも彼女で」


「名家の汚れ仕事担当か。バッカばかしいねっ!」


嫌悪感丸出しのアヤメ。まぁ、わからんでもないが。しかし、だ。


「アヤメ、ちょっと診てやってくれ」


「・・もうっ、気乗りしないねっ!」


それでもアヤメは死にゆく眠りに就いているメイドのベッドの近くまでゆき、掛け布団を剥いで、両手を発光させて『ハンドヒーリング』の技を使った。

痩せたままではあるが、見る間にメイドの顔色はよくなり、寝顔の表情も和らいだ。


「凄いっ!」


興奮するロンカン。看護師も目を丸くした。


「後遺症は残るだろうけど、明日には目が覚めるんじゃないの?」


「いい感じだ。アヤメ! ・・医者を呼んで、この状態に見合った治療をしてやってくれ。ユーシー家が払った治療費の範囲でいいからよっ」


「はいっ、先生を呼んできますっ!」


看護師は小走りに病室を出ていった。軽蔑していても治療はしてくれるらしい。


「順番があべこべになるが、朝、ミストエイプを始末してから昼辺り、話を聞こうぜ?」


「さっきの保安官か、ギルドの調査部に丸投げでいいじゃん。というか御飯っ! 余計お腹空いたっ」


「そうですねっ、まずお風呂とか、お風呂とか、お風呂とかっ!」


「はいはい、宿屋な!」


俺達は安らかに眠るようになったそれなりに人物だったというメイドを病室に残し、宿屋に戻った。



宿には温泉は無いが、薬草袋の浮く大浴場は有った。俺は男湯の薬湯に浸かって、クエストのことをグルグル考えていた。危険度が高くても、単純に魔物を倒すクエストの方がやっぱり楽だな。


「お~いっ! オサムっ! そっち何湯だぁ? こっちラベンダーベースだぞ? あと、酒美味いっ」


「美味しいで~す!」


壁代わりの岩越しにアヤメ達が話し掛けてきた。アイツら酒呑んでんのか。つーか、ロンカン未成年だった気が・・??


「ああ? 何ベースって、・・ローズヒップだな」


「ぶっはははっ!! オサムがローズヒップの湯に浸かってやがるっ」


「ゴージャスですねっ、ふふふっ」


「・・・」


酔っ払いどもめっ。俺が無視してると、


「オイっ、シカトかよっ! オサムのクセに生意気っ」


「先輩、私も魔術師ですがっ、登攀(とうはん)できますっ!! 越えてみせるっ、この上昇負荷っっ」


「っ!」


嫌な予感と気配を感じて振り返ると、酔って赤ら顔のアヤメとロンカンが壁代わりの岩をよじ登って顔を出してきやがったっ!!

騒然とする男湯っ! 客は俺だけじゃないっ。


「ぶっはははっ!! きったねぇ葡萄畑だっ!」


アヤメは大ウケして仰け反るからうっすい、貧乳が丸見えだっ。


「巧みな比喩表現っ! 負けませんよっ、先輩っ! 私は『視覚』で表現しますっ。炎よっ!!」


ロンカンは持続的な小火球を造りだす『鬼灯(ほうずき)』の魔法を発動させて、いくつも小さな火を男湯の中空に灯し、何やらムーディーな空間にしたっ。


「余計な演出をするなっ。キモいっ! それから2人とも乳をしまえっ、出てるっ! というか女湯に戻れっ!! この酔っ払いっ!」


「のほほっ! バカめっ、しまう程の乳がこのアヤメ様にあるとでも思ってるのかぁーっ!!!」


「先輩っ! なんという蛮勇っ!! お供しますっ」


「どこにだっ?! 帰れっ、帰れっ!!」


アヤメとロンカンは暫く岩壁で騒ぎ、しまいに宿屋の従業員が来て、風呂場から強制退場させられた。なぜか俺までっ!

風呂騒動後、アヤメお待ちかねの宿屋メシを3人で『9人前』は爆食し、明日の朝、ミストエイプを討伐する打ち合わせを改めてして、さっさと眠ることになった。

同じ部屋に仕切りを立てて俺達が眠っていると、深夜に宿の従業員に起こされた。


「冒険者ギルドの調査部の方がいらっしゃってますっ」


「調査部だ??」


俺達は宿屋の浴衣のまま宿屋のロビーの応接間に向かった。背広を着たミミズク型獣人ワーホーンアウルの男が蕎麦饅頭を摘まみながら緑茶を飲んでいた。


「やぁ、こんばんは」


「ノビか」


手練れの調査部員のノビだった。


「まぁ、大した情報じゃないんだが、他の件で移動する動線にこの郷があってね。電信だと君達が知るのが討伐後になってしまうかもしれないし、ちょっと喉も渇いていたし」


と言いつつ、美味そうに茶を啜るノビ。

俺達も応接間のソファに座った。


「もったいぶった話し方、やめなっ!」


寝起きで若干機嫌が悪いアヤメ。


「おお、怖い。・・私が仕入れた情報は2つ、1つ目はユーシー家に伝わるかつてミストエイプを封じたという短剣です。アレはどうも気体系の魔物を封じる性質ではなく『使役』する性質であったようです」


「使役だ?」


「やはり、モンスターと遭遇した事故ではなく、殺人事件?!」


「とういかさ、ユーシー家の先祖の逸話って自作自演になるんじゃね?」


うっ・・ややこしいなっ!


「まぁ、歴史は作ろうと思った者が作る物ですからね。それはそれとして、2つ目は失踪した愛人のスプライです。結論から言うと、そんな人物は存在しません」


「えっ??」


俺達は唖然とした。


「これを」


ノビは十数枚の白黒写真をテーブルに置いた。スプライだった。だが、服装は様々。踊子、村娘、貴族の娘、娼婦、女役人、吟遊詩人、乞食、女騎士、占い師、シスター等々・・・古い物は肖像画を写真に撮った物だった。


「スプライという戸籍の無い女は今回初めて現れましたが、この『姿』をした女は300年程前、魔王との戦争があって一時的に文明が後退した頃から存在していたようです」


「エルフ・・にしたって長生き過ぎるし、見た目が変わらな過ぎるな。種族は人間に見えるし」


「秘薬や秘術の類いを使えば可能は可能です」


「うーん・・」


俺達は困惑した。


「この『女』は、いつの時代も名家に取り入って最後は骨肉の争いを招いて姿を消しています。被害の規模が小さく、直接的には災いをもたらさないから見過ごされていましたが、おそらく『魔族』です。ギルドはそう認定しました。ベルシティ以外のギルドにも伝達済みです」


「・・悪いが、何百年も活動してる魔族は俺達じゃ荷が思いぜ?」


俺やアヤメはレベル5前後の初級者の中じゃ頭1つ抜けてる自負はあるが、ガチの魔族退治をするにゃレベルが1桁足りない。


「ええ、過去の例から見て、失踪後に我々のような事件介入者に直接ちょっかいを掛けてくることは無いはずです。が、これは念の為。使いきってもらって大丈夫です」


ノビは聖水+1の瓶をテーブルに置いた。


「この『スプライ』と仮称しておく悪魔はギルド本営で預かります。オサム君達は取り敢えずこの地のミストエイプを始末しておいて下さい。ユーシー家はまぁ、保安官に任せておけばよいのでは?」


ノビの関心は既にこの郷の件から離れているようだった。


「では、私は他にも色々抱えておりますので」


バササッ! ノビは『半獣変化』でミミズクその物に近い姿に変身した。背広も鞄も変化系の素材らしく獣の姿に応じた形に変わったっ。


「ごきげんよう!」


風を操って逆巻き、宿屋の出入り口の戸を開くと砲弾のような勢いで夜の屋外へと飛び出していった。


「大袈裟なヤツ!」


「厄介そうだな・・」


俺は聖水+1の瓶を手に取り、呟いた。

翌朝、かなり早く、俺達は起き出し装備を整えた。

アヤメの武器は打撃系防具『ストライクガントレット』と『ストライクレガース』それから『スローイングナイフ』。

ロンカンは『護りの杖』と『浄めのナイフ』。

俺はいつものハンドアクスとグラディウス以外に、『甲羅の籠手』と『打ち刀』をレンタルしていた。玉系は閃光球を2つ。今回は攻撃回転重視だっ!

薬草以外の回復アイテムは全員ポーション1本ずつ。ロンカンは魔石の欠片も2つ持っていた。

そうしていざ、出陣っ! となったところで、


「待った待ったっ!!」


保安官が大汗かいて馬で駆けてきたっ。


「えらいことになったぞ?!」


「なんだ?」


「前置きいいからっ」


保安官を呼吸を整えた。


「メイドが殺されたっ! メッタ刺しだっ。診療所は大騒ぎだっ」


「マジかっ? クソっ」


「酷いですっ」


「せっかく治したのにっ!」


「合わせて、ルピスさんが・・ルピスがいなくなったっ。ユーシー家は速攻でルピスを家から除籍して、新しい当主を決めちまったっ。えっと、弟? 義弟? 従兄弟?? よくわかんねーけどっ、よそ者が郷に来るらしいっ!」


どっちかというと『よくわからん新しい貴族が来る』方に関心が強い感じの保安官。ま、そんなもんだよな。


「・・わかったっ。ギルドにも報せといてくれっ。俺達はとにかくミストエイプを始末するっ。こっから話が動かねーからなっ!」


「よしっ!『報告』は得意だっ。ちょっと盛って伝えといてやるっ。じゃあなっ」


保安官は馬で駆け去った。


「『盛る』必要無くない?」


「早く対応させたいんだろ? とにかく、出発だ!」


ミストエイプが簡易結界で囲われているのはヴェルが殺害され、魔族? だというスプライが失踪した。ペイルビレッジの外れの森の中の別宅だ。

一応城壁の中ではあるが、元はミストエイプが封じられた祠も近くにあって、この森は人気が無い。


「別宅が見えてんな」


結界の先、濃い霧の向こうに小洒落たログハウスが影のように見えた。逢い引き部屋と考えると淫靡だっ。というか、相手は魔族??? ヤバそうだな・・


「待って、足跡っ! 新しいっ」


アヤメは素早く犬のように落ち葉の地面に手を付いて俺達とは違うルートから来て、そのまま別宅に続いている足跡を検分した。


「高そうな香水と血の臭いがするっ! こんな森の中にヒールで来てるしっ」


「ルピス、さん。ですかね?」


「だろうな。ミストエイプを使役するなら厄介だぜっ」


「ロンカンは対人戦の経験ある?」


「命を取るまでは、無いです」


「無理そうなら援護専念でいい」


「はい・・」


俺達は仕切り直して、結界の中に入ろうとしたが、


「きゃぁああーーーーっっっ!!!!」


鋭い女の悲鳴が聴こえた。



俺とアヤメが先行して結界を越え、別宅の近くまで駆け付けると、別宅の玄関のドアは開いていて、さらに次々と内部から濃密な霧が噴き出して窓ガラスを割っていったっ! 魔物の気配っ。


「屋内戦かよっ」


状況設定が想定を違う!


「一階の玄関近くに人の気配がするっ。弱ってるっ! 使役に失敗したんだよっ」


「面倒臭ぇなぁっ!」


ここでロンカンが追い付いた。


「はぁはぁっ、・・敵は中ですねっ! 家っ、燃やしますかっ?」


ロンカンは杖に炎を灯した!


「待ちなっ! 一回にルピスらしいのがいるっ。使役に失敗して逆襲されたみたいなんだよっ。治療して捕まえるっ!」


「ええーっ?」


「ロンカン、俺の武器に付与だっ。後は治療中、アヤメをフォローしてくれっ。連れ出せたら、合図! 俺も出たら家ごと燃すっ!!」


俺は打ち刀を抜いた。


「わっかりましたっ。炎よっ!」


ロンカンは『宿り火(やどりび)』の魔法を俺の刀に掛けた。刀が燃え上がるが、この炎は俺と刀に損傷は与えない。


「行くぞっ!」


俺は空いた玄関に閃光球を投げ入れて炸裂させてから、先陣を切って中へ飛び込んだ。


「キィイイーーーッッ!!!」


中で2体、霧のごとき大猿、ミストエイプが中空に浮いて苦しんでいた。閃光が効いたらしい。

一階の床の血溜まりに、ルピスが痙攣して倒れてもいた。近くに砕けた件の短剣も散らばっていた。俺達を始末したかったのか? あるいは、はなから自決するつもりだったのか?


「速く頼むぜっ!」


俺は1体を燃える刀で叩き斬ったっ! 効果抜群だっ。一発で滅っせられたっ。

アヤメは惜しみ無くポーションをルピスにぶっかけてから、ハンドヒーリングを始め、ロンカンは植物系種族特有の『蔓』でドームを作って自分とアヤメとルピスを囲み、さらに『赤の盾』の魔法で炎の盾を周囲に2枚貼って、威嚇を始めた。


「ウキャッ!!」


速くも怯み状態から脱したもう1体のミストエイプが『霧の身体』を生かして変幻自在に形を変えて襲い掛かってきた。


「やり辛ぇしっ、部屋狭ぇしっ!」


刀が壁や家具に当たりそうだっ。丸ごと斬ると今は燃えちまうから始末が悪いっ!

俺は籠手で霧の爪を払って小さく飛び退き、高そうな壺を投げ付けてブチ当て、ダメージは無いようだが、霧の身体を再構成させる隙を作って、再実体化したところを叩き斬って仕止めたっ!

ここで、階段、風呂、天井をつき破って! 3体追加でミストエイプが現れたっ。資料通りならあとさらに2体いるっ!


「球使うっ!」


俺は仲間に知らせてから、最後の閃光球を使った! 迸る閃光っ。宣言したせいで1体しか効かなかったが、残り二体も腕で目を庇って動きは止められたっ。


「うらぁっ!」


俺は閃光を防いだが俺の近くで動きを止めた1体に、タイミングをわかってる分、そいつより速く動作を始めて斬り掛かり、仕止めたっ。


「ウキャウキャッ!」


防いだもう1体が俺に襲い掛かり、閃光を喰らった残り1体もすぐに復帰して攻撃に加わった。手数っ! ヤベぇっっ。俺は防戦一方になったっ。


「オサムっ!」


「炎よっ!」


アヤメは治療を終えた昏倒したルピスを抱えて外へ飛びだし、ロンカンもそれに続きながら蔓を引っ込め『火雀(かじゃく)』の魔法を一発、俺に飛び掛かろうとした1体に放った。

炎をある程度操作できる火炎弾はミストエイプの不定形の身体を吹っ飛ばし、周囲の家具や床を燃やし、ついでに俺にも火の粉を飛ばしたっ。

同時に残る2体も天井の穴とトイレから飛び出してきたっ!


「アチチッ、じゃあなっ!」


俺は取り合わず既に破られている窓から外へ飛び出したっ。


「全員っ、一階だっ!」


俺はガラスの破片だらけの窓の下に内心ビビりながら着地しつつ叫んだ。すぐその場を離れるっ。


「燃えて下さぁーいっ!!!」


ロンカンは魔石の欠片2つを対価に『火雀』を9発っ! 玄関や1階の窓に向かって放った。


ドドドドォーーーーンッッッ!!!!


爆裂する別宅一階っ! 破損に2階の重さに耐えられなくなり、1階は潰れて2階の下敷きになった。2階と基礎も燃えだすっ。


「はわわわっっ・・これっ、ひょっとしてっ、成功報酬より高い弁償をすることにっ??」


自分の火力にビビるロンカン。


「大丈夫だって、先輩が保証しとくっ!」


根拠無く保証するアヤメっ。まぁ、こういったケースは裁判になっても勝てる。大丈夫だろうよっ。


「ホントですかぁっ? あっ」


炎上する家屋から魔物気配が膨れ上がり、燃える瓦礫を吹き飛ばして巨大なミストエイプの頭部が出現したっ。


「ウキャアアァァーーーッッッ!!!!」


「アヤメっ!」


「あいよっ」


俺は火炎付与の刀を捨て、近くの燃える大きな木片を火傷に構わず掴んで、即、ミンチブロウの技を発動し、巨大化ミストエイプの顔面に投げ付けたっ!

焼き払われながら頭部に風穴を空けられた巨大化ミストエイプは身体を再構成して2回りは小さな頭部になったが、その頭上にアヤメが飛び上がり両手を構え、魔力を溜めて発光させ始めていたっ!


「しつこいんだよぉーーっ!!!!」


アヤメは『ブラストフォース』の技を発動し、強烈な無属性の波動を巨大化ミストエイプの頭部に打ち込み、消し飛ばして滅ぼした。


「凄いですっ! お二人ともっ」


「いや、でも出費多いなっ、今回っ!」


俺はクソ痛ぇが籠手とオープンフィンガーグローブを剥ぎ取ってから、木片を掴んだ右手の火傷にポーションを振り掛けながら言った。アヤメの魔力は今のでカラだろうしなっ。


「というか、これで解決、したんだよね?」


アヤメは、別宅の残骸を燃やす炎に照らされながら、苦し気に眠り続けるルピスを振り返りながら言った。



ルピスを保安官に引き渡し、ギルドから電話で詳細に報せろと電信が入っていたので、宿屋に1つだけあった電話でことの顛末を伝え、俺達は昼前にはペイルビレッジを去ることにした。

郷内はゴシップに騒然としていて、直に俺達にあれこれ聞き出そうというのも増えだして居られたもんじゃないぜっ。


「ロクに休めてないから馬から転び落ちそうです・・」


また具合悪そうなロンカン。


「それよりあんだけ働いたのに、御飯、食べれてないっ!」


棒状糧食をガシガシ齧っているアヤメ。


「まぁ、ベルシティに戻る前にどっか寄ろうぜ?」


俺は2人を宥めつつ、霧の中、ペイルビレッジ近くの岩場の道を馬で進んだ。と、


「キキキキッ」


猿の鳴き声っ。周囲の岩場の至る所にっ! 小さな猿の影っ!!


「ミストエイプかっ?」


「いやっ、普通の猿の気配だけど? 小さいし??」


「なんですか? なんですかぁっ??」


さらに、


「うふふふっ」


女の笑い声っ! 異様な気配も感じたっ。周囲全体からっ!!

俺達は戦慄し、怯える馬を抑えるのにも苦労するっ。


「・・よーしっ、お前ら、俺にいいプランがあるぞ? とっておきだっ」


俺は聖水+1をロンカンとアヤメと自分と馬達に振り掛け、宣言したっ。


「ズラかるぞっ?!!」


「了解っ!!!」


「ですぅっ!!」


俺達は怯えまくる馬をどうにか乗りこなし、全速でその場から離脱した。

霧の向こうの猿達と女の笑い声は、岩場を抜けるまで俺達から離れなかった・・。



うむっ! 色々アレな点は有ったが『VSミストエイプ』っ! 俺達の勝ちだぁーっ!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ