VSボムフラワー亜種
俺とルービは砂漠の街『トトーリ』を立ってから2日目の夜を迎えていた。
点在する『簡易駅所』の1つでキャンプをしている。簡易駅所は通常無人の小規模な駅所で、安全地帯だ。
井戸もあったが、地下水路の手入れが甘く、砂を取り除いて樹脂タンクに水を一杯に詰め、大量に飲むラクダに水を飲ませてやるのに四苦八苦した。
「酒飲みは砂漠に来るもんじゃない、ってよくわかったよ」
昼間の移動中、酒等飲んでいたらすぐに卒倒するので禁酒して渇きながら長時間耐えるというのがよほど堪えたらしいルービ。
焚き火の側で大事そうにスキットルでウィスキーを飲んでいた。
砂漠は夜になると急速に冷える。
「・・こんな砂漠まで来るハメになるとは思わなかったぜ」
俺は砂っぽい簡易駅所の冷たい石の床の上に寝そべった。屋根はあるが壁は無く、砂漠特有の高度が高いワケでもないのに澄んだ星空がよく見えた。
「『お使いクエストは所属ギルド管轄内まで、行き先は3ヵ所まで、中途での難度変動は認めない』ギルドの教習所でそう教わったがよ、それなりに実情を踏まえた指導だったんだな」
俺達は最初ベルシティでとある住所のはっきりしない教会関係者の男に手紙を届けるクエストを引き受けた。
男はすぐに見付かったが、男に結婚する妹に珍しい花を贈ってやりたいと頼まれて花を探しにゆき、その妹からは昔の男が冤罪で投獄されてるから助けてほしいと頼まれ、助けた男から自分のハメた真犯人の証拠を取ってきてほしいと頼まれ、真犯人からは出所するまでに会えそうにないから老いた母に渡してほしい物があると頼まれ・・・
そんな具合にあっちこっちでほぼお使いクエストを続ける内に、転送門やら飛翔船を乗り継いで、ベルシティから遥か南の国にあるトトーリまで来てしまった。
そのトトーリでは『砂漠でたった1人で暮らしている父に手紙を渡してほしい』という依頼を受けている。
最初にどん亀で依頼を受けてからもう10日以上過ぎていた。
「旅費を差し引いても多少は貯まった。オイラはベルシティで用事があるからよ、これを最後に帰ろうぜ?」
「わかってる。ヤヒコに電信打っといたが、家で冷蔵しといた食材は全部パァーだ。水回りも放ったらかしだしな」
帰ってからの大掃除を考えると憂鬱だった。
「・・ラックバードはなんか占ってなかったのかい?」
「『土産に棗』とは言ってたぜ?」
「酷ぇな。ハハハッ」
ウケるルービ。
「そんなもんよ」
慣れっこさ。
翌朝、まだ薄暗い中、気温が上がる前に俺達は出発した。
・・昼前、面倒なことになった。『砂漠の道』は魔除けと砂避けが施されているのだが、道の前方が砂に埋もれていた。
「魔除けか砂避け、あるいは両方が壊れてんな。ルービはここで待っててくれ!」
俺はルービを置いて手近な砂丘をラクダで駆け上がり、双眼鏡で先を見た。道は2キロ程度先から再び砂が避けられ、正常な状態で続いていた。
地図通りなら目的の男の『家』まであと少し。
埋もれている2キロの区間の中心部に砂が盛り上がり、砂丘ができていた。破損部は中心部と見られる。
「・・・」
俺は霧吹きに入った『ラクダ鎮めコロン』を確認し、鞍のラックの威嚇用のボウガンを取り出し『炸裂矢』も1本抜いて装填し、中心部の砂丘に向かって撃ち込んだ。ドォンっ! 矢は着弾して炸裂したっ。と、
「ボェエエエエェーーーッッッ!!!!」
中心部の砂丘からサボテンとモグラと竜を掛け合わせたような巨体モンスター『キャラバン喰らい』が大口を開けて頭を出した!
ラクダは驚いて逃げようとするがラクダ鎮めコロンを鼻先に一吹きして鎮める。
キャラバン喰らいの周囲の地表から無数の下級の砂漠系モンスター達が慌てて逃れてゆくが、たまたま西側に逃げた下級モンスター群は一呑みで、キャラバン喰らい7割方喰われた。
残る3割は慌てて逃げていった。
キャラバン喰らいは咀嚼後、ゲップをして、また中心部の砂丘に戻ってゆく。
「・・・」
逃げた下級モンスターの一部はこちらにも向かってきていた。俺はルービの元に引き返した。
「どーなった?! とんでもない声と気配がしたぞっ?」
騎乗のルービも臨戦体勢を取っていた。
「埋もれた道の中心部にキャラバン喰らいがいたが、今、『飯』を喰い終わったとこだ。西側の雑魚はだいぶ喰われたから数は少ないはずだが・・どうする?」
「う~ん」
ここからさらに引き返して別のルートを取ると、かなりの遠回りにはなる。
「事前に守備魔法を掛けてから大回りで西から行くか? 中心と言っていたが、先の道はどれくらいから魔除けが利いてる?」
「2キロだ」
「『護り』の回数を3回に絞れば、強い護りのままわりと長く持つ。なんとかなるんじゃねぇか?」
その案で行くことになった。
慎重に気配を探って、進んだこともあって後300メートルで魔除けと砂避けの聞いた先の道に着けるといった所まできたが、
「『ボムフラワー』か」
馬車の車輪くらいの石のような質感の紅い花弁のモンスターが多数地表に顔を出していた。砂漠帯の亜種、だな。
本来砂中に隠れているが、キャラバン喰らいから逃げたばかりなのでまだ剥き出しになっていた。
「周り込んでも他の魔物がいる。オサム、行っちまおう」
「魔石の欠片は?」
「ケチってきたから3つあるっ。帰り用に2つありゃ十分だ!」
「・・よし、やるかっ」
俺達はラクダ鎮めコロンをラクダに吹き付けてから、『突入』を始めたっ!
「光よっ!」
ルービは魔石の欠片1つを対価に『聖鎚』の魔法で大量の光の砲弾を乱射したっ!! ドドドドドッッ!!!
「ビィイイッ??」
属性相性は特によくはないが、『鈍器でブン殴られた』ぐらいの衝撃は与えられてるっ。
「うらぁっ!!」
続けて俺は回収を諦めてハンドアクスでミンチブロウを放ち、進路の向かって右側のボムフラワーを一掃っ! 死ぬと、ボボンッ! と、時間差で爆発するのでやたら派手な有り様になった。
「右寄りで行くぜっ!」
「了解っ!」
俺を先頭に、ラクダを突進させるっ。俺はレンタルした『大曲刀』を構える。
「ビィイイッ!!」
ボムフラワーは次々と触手を放ってくるっ。3撃まではルービの守備魔法の光が弾いたが、それ以降はシャムシールで払うしかないっ! 勢いでラクダの首を落としちまいそうで冷や冷やするっ。
「オオーーっ!!」
攻撃を切り抜け、俺は魔除けの利いた先の道までたどり着いた! だが、
「ぬおっ?!」
光の護りを破られたルービが触手に捕まり、ラクダの鞍から剥がされたっ! ラクダだけ安全な道に駆け込むっ。
焼けるように熱い触手に砂漠用に羽織った『砂海の服』を焦がされるルービ。
「カラシを使うっ!」
ラクダを反転させた俺は宣言してから絡め取られたルービに向かってスイッチを入れたカラシ玉を投げ付けたっ。
パパンッ!! 破裂してカラシ粉末が周囲に散布される。ルービは目と鼻と口を塞いでいたっ。
「ビィイイッ??!!!」
苦しんで触手をルービから離すボムフラワー達、俺はラクダから飛び降りて駆け込む、ルービもなんとか前転して起き上がった。少し吸ったらしく、涙目で咳き込んでもいた。
「ルービ走れっ!」
「悪いっ」
俺ははシャムシールを振り回しつつ、残りのカラシ玉を全て投げ付け、炸裂させた。
「オサム、こっちはいいっ!」
道まで逃げたらしいので俺も慌てて先の道まで逃げ込んだ。
「はぁはぁ、・・戦略的撤退だなっ!」
「おうっ、転進だ転進っ! この場で一杯飲んでやろうっ」
ルービはリュックから小瓶のビールを2本取り出した。
「持って来てたのかよ」
俺は呆れつつ、魔除けの道の前で悔しげに触手をうねらせ、やがて諦めて砂漠に去ってゆくボムフラワーを見ながら、シャムシールの峰で栓を開けた。
ビールはヌルいが、ラクダも無事だし、よしとするか。
目的地は小さなオアシスに見えた。
「簡易駅所を改造したのか?」
「ほぼ使われないルートだ。権利を買ったんじゃねーか?」
ラクダを水飲み場に繋いだ俺達は、小屋の方に向かった。と、中から歳を取った羊型亜人ワーシープの男が出てきた。
「3000ゼム。『ラクダの水代』だ」
いきなり代金請求。
「金は払うよ? それよりこっちも仕事で来てんだ」
「野盗か?」
「違う。なんでだ?」
「へへっ」
「ルービ、面白くねーぞ?」
「なんの用だ?」
俺はため息を吐いて手紙をワーシープの老人に渡した。
「トトーリの娘さんからだ」
「ふんっ、郵便屋だったか」
「・・ああ、それでいいやっ!」
老人はその場で腰に差していた+1はあるナイフで封を切り手紙を読み出した。
俺達の仕事はこれで終わったが、一応相手の反応を報告した方がいいのと、ここで水と食べ物を買いたい。あとは帰り用の別の、劣化してないルートも教わりたかった。
「娘さん、心配してたぜ? 孫もトトーリにいるんだし、こんな砂漠に1人でいないで、街に戻ったらどうだい?」
一応言ってみる。ルービは棗の木の木陰でパイプで煙草を吸いだしていた。対人対応する気ゼロだなっ。
「・・今さら街では暮らせない」
ワーシープの老人は読み終わった手紙を丁寧に畳んで封筒に入れ直した。
「だが、電信機の設備くらいは設置してやろう」
「爺さん電信機なんて使えんのか?」
「私は元、軍の工兵だ」
「へぇ?」
この後、やたら甘いミント茶を飲みながら話を聞くと、昔、この辺りで酷い紛争があって、爺さんはその生き残りらしい。
それでなんでこの場に居座ってるのかまでは言わないので聞きはしなかった。もう、一生の仕事なんだろう。
帰りは遠回りだが、商隊が定期的に使う安全なルートを俺達は通っていた。
よく整備された道で、夕暮れだが魔物の気配は無い。
「爺さんから手紙を受け取ってたが、お使いクエストはこれがホントに最後にしてくれよ?」
「へいへい。トトーリの娘に渡すだけだ」
ラクダの上から沈む夕陽を見詰める。
「冒険者も悪くねーな」
「浸り過ぎだろう? 10日以上たらい回しにされて大して儲かってない。まず、金だぜ? オサムよ」
「ルービ、お前、神官だろ?」
「道理は道理だと神も仰るに違いねぇよ」
「なんだかなぁ」
俺は台無しな気分でラクダを進めた。
俺達がベルシティに戻ったのはそれから3日後の夜だった。
せっかくだからお疲れ会で呑み直そうと思ったが、ルービは「オイラ、それどころじゃねぇんだわ」と、ずっと対応してきたらしい大昔の地下聖堂の補修作業の確認に慌てて向かってしまった。
俗なんだか、敬虔なんだかよくわかんらんヤツ。
俺はなんだかシラけてしまって、どん亀にも寄らず、久し振りに自分のアパートに戻ることにした。
途中で電話した限りじゃ、ヤヒコだけでなくアヤメやロンカンやマカウや商用でベルシティに来たウーンザまで俺の部屋に来て掃除やらなんやらしてくれたらしく、水周りも大丈夫らしいが、俺のプライバシーはことごとく蹂躙されたようだ・・ヤヒコのヤツっ! 勝手に入れやがってっ。
とにかくアパートまで来ると、
「ケケケッ! お帰りーっ!! 棗はぁっ?! ケケケケッ!」
いつもは階段の前の楠木の枝にいるが、今夜は階段の手摺までラックバードが降りてきた。間近で見ると以外とデカいなコイツ。
「ああ、棗はあるぜ?」
「いい心懸けだぁーっ! ケケッ。よぉしっ、今夜は特別サービスでとっておきの占い、むごごっ???」
俺は爺さんから買った干し棗を一粒、ラックバードの口に放り込み、さらに棗の入った小袋を側の階段に口を開けて置いてやった。
「占いは当分勘弁だっ。仕事も一週間は休むかんなっ? お前は大人しく棗でも食ってろっ、て話だ」
「むぐむぐ・・美味ぁーっ! コレ、上手いぞオサムっ。美味しっ!! ケケケケケケッッ」
夢中で小袋に口を突っ込んで喰らい付いているラックバード。
「そりゃよかったな。じゃ、あばよ」
俺は部屋に戻った。
・・
・・・・っ!
「ハッ!」
俺は目覚めた。午前5時12分。俺の朝は早い。目覚ましが鳴る前に止める。
歯を磨き、顔を洗い、髭を剃り、たてがみに軽く櫛を入れる。
給水瓶の蛇口を捻って水をコップ一杯飲み、ストレッチをして、100キロの重さのある『重しのベスト』を着て、さらに『木綿のトレーナー』に着込み、アパートを出る。
棗で満足したのか? ラックバードのヤツの姿は役所のケアで雪害から回復している楠木の上に無かった。
久し振りに朝のジョギングを始めるぜ。呼吸は短く等間隔で、
「ほっほっほっ」
人気の無いの街を走る。
ロバに牛乳の入った大きな缶を乗せた荷車を引かせる農夫や、仕事終わりの寂しげな顔をしたバーテンや、送迎の馬車でどこかへ帰る娼婦や、中央通りのガス灯を消して回る点灯夫くらいしかいない。
いい街だ。俺の拠点っ!
「ほっほっほっ」
高台にある公園まで来ると、その端で街を見下ろし、呼吸が整うとおもむろに鉄棒の下に移動した。
いつもなら右隣に既に先客がいるはずだが、暫く来ない間に生活習慣が変わったのかもしれない。俺、1人だ。
俺は『高速懸垂』を始めたっ!
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
300回に達したところで鉄棒から降りた。
「まだ軽い気がすんな。そろそろレベルアップ申請すっかな?」
俺は呟きつつ水筒のハーブ水を飲み、再びアパートへと駆けた。
部屋に帰り風呂を済ませ、『楽な部屋着』に着替え、保冷箱から食材を出し、サラダを作ってから小型の調理竈を火を入れ、ハムエッグを3つ焼き、缶入り芋スープを温めてハーブを散らし、ハーフの燕麦バタールをトングで挟んで炙りカットしてカマンベールチーズとオリーブ漬けを乗せ、弱火にしてポットを竈にかけ、水筒のハーブ水の残りをコップに入れ、洋梨を1つ用意して、朝食の完成っ!
「ごちそうさまでした」
速攻食べ終わり、火の始末をして、ポットの湯でコーヒーを淹れ、飲みながら今週号の冒険者ギルドの会報に目を通す。
四コマ漫画が新しい人に変わってるな。チッ! 留守にしてる間に前の人の最終回、読み損なったぜっ。
「ふーむ」
俺はコーヒーカップを手に部屋を見回した。微妙にイジられてるが、配置はそう変わってない。
棚に、グレーとコリーから送られてきた2人とロバのモノクロ写真。アームストロンググリーンスライム・ガムが1つ。聖水+1の空き瓶。ダルとゼルからもらった不味そうな未開封のカレー缶。レインフロッグで買った蛙のポップ。ユッフインの浮く小石。保安局からの逮捕協力感謝状。ナナセからもらったなんてことない貝殻。1枚残した氷のコイン。まだ半分残ってるラクダ鎮めコロン・・。
コーヒーを飲み終わり、食器や調理器具を洗い終わり、俺は外出用の服に着替えた。『デニムパンツ』『デニムベスト』『ワイルドなバンダナ』『ワイルドなオープンフィンガーグローブ』だ。鏡で確認する。
「・・ワイルドだなっ!」
ワイルドよしっ!! 俺は出掛けた。
俺は冒険者ギルド加盟店の酒場『どん亀亭』に来た。今日の早番は店長だった。店にはいつもの席にサンラーが来ていて、軽く手を上げて合図してやると、小さく頷いてすぐに文庫本に目を落とした。
暫くぶりだが反応うっすっ!
当分、仕事を受けるつもりないが、冷やかしでコルクボードに貼られたシナリオを見て見る。
「ん?」
調査部のミヨコから『オサム君、このシナリオを見たら至急ギルド本部へっ!』
と書かれている。
「なんだぁ? 御指名かよ。・・しょうがねぇなぁっ!」
俺は仕方無く、ベルシティの冒険者ギルド本部へ向かった。
うむっ!『VSボムフラワー亜種』戦略的に俺達の、勝ちだぁーっっ!!!
10・連・勝・だぁーっっ!!!!!
読んでくれてありがとうございました!!




