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オーク戦士っ! 10番勝負っ!!  作者: 大石次郎


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1/10

VSモノアイロック

・・

・・・・っ!


「ハッ!」


俺は目覚めた。午前5時12分。俺の朝は早い。目覚ましが鳴る前に止める。

歯を磨き、顔を洗い、髭を剃り、たてがみ(・・・・)に軽く櫛を入れる。

俺はオーク族だ。口の悪いヤツらは俺達のことを『ワーポーク』と言ってきたりもする。ふんっ!

俺の身長は約2メートル。体重はオークとしてはスマートだ。鍛えてるからなっ。

給水瓶(きゅうすいかめ)の蛇口を捻って水をコップ一杯飲み、ストレッチをして、100キロの重さのある『重しのベスト』を着て、さらに『木綿のトレーナー』に着込み、アパートを出る。


「オサムっ! お前の今日の運勢は・・」


アパートの階段を降りた途端、近くに植えられた楠木の上から話し掛けられてギョッとした。

枝に止まっていた、気配も無いコイツは『ラックバード』。

アヒルだかムクドリだかぬいぐるみだかよくわからない姿をしているが、赤と青のオッドアイを持っていて気紛れに出くわした者の運勢を占う。

ほぼ100パーセント当ててくるから油断できねぇっ!


「なんだよっ、ラックバードかよっ」


コイツは街のここいらを縄張りにしていて、そこそこの頻度で遭遇する。別に嬉しくはない!


「『普通』だねっ! ケケケッ!! オサムっ! お前、今日、普通っ! ケケケケッ」


「あーそうかよっ! ありがたいねっ」


俺はよくわからんが大ウケしているラックバードを放って走りだした。


「オサムっ! 普通っ! オサムっ!」


追ってはこないが後ろから叫んでくる。うるせぇなぁ・・。

そう、俺の名前は『オサム・ボンバ・イエ』歳は21歳。2年前までは大工をやっていたが、なんだかんだで今は冒険者をやってる。メインジョブは『戦士』だっ!

故に、朝のジョギングだって積極的にやるぜっ。呼吸は短く等間隔で、


「ほっほっほっ」


人気の無いの街を走る。

ロバに牛乳の入った大きな缶を乗せた荷車を引かせる農夫や、仕事終わりのシラケた顔をしたバーテンや、送迎の馬車でどこかへ帰る娼婦や、中央通りのガス灯を消して回る点灯夫くらいしかいない。

この街は『ベルシティ』よくある人間主体の中規模の都市だ。いい街だと思う。俺の拠点っ!


「ほっほっほっ」


高台にある公園まで来ると、その端で街を見下ろし、呼吸が整うとおもむろに鉄棒の下に移動した。右隣に既に先客がいる。

冒険者でもなんでもないが趣味でボディビルをやっている役場職員の『ハガーさん』だ。俺は鉄棒にぶらさがった。

俺達は1度視線を合わせるだけで言葉は交わさず、同時に『高速懸垂』を始めたっ!


「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」


「フンッ! フンッ! フンッ!」


300回に達したところで互いに鉄棒から降りた。言葉は交わさず、微笑み合い、互い背を向け俺達はその場を去った。これが、


マッスルコミュニケーションっっ!!!


俺は水筒のハーブ水を飲み、再びアパートへと駆けた。戻ると楠木にラックバードはとっくにいなかった。まぁ『実体』がハッキリしないヤツだから、いるもいないも曖昧なんだが・・

部屋に帰るとササッと風呂場で行水をして、『楽な部屋着』に着替え、アイスジェムを仕込んだ保冷箱から食材を出し、サラダを作ってから小型の調理竈を火を入れ、ベーコンエッグを4つ焼き、缶入りコーンスープを温めてハーブを散らし、黒パン3つに切れ目を入れてチーズを挟んでトングで挟んで炙り、弱火にしてポットを竈にかけ、水筒のハーブ水の残りをコップに入れ、林檎を1つ用意して、俺の朝食の準備完成っ!!

俺はオーク族で鍛えてるから、人間の3倍は食べないとすぐにガリガリになっちまう。パワーはあるが、燃費が悪いんだよオークは。食費が掛かってしょうがないぜ。


「ごちそうさまでした」


速攻食べ終わり、火の始末をして、ポットの湯でコーヒーを淹れ、飲みながら今週号の冒険者ギルドの会報に目を通す。

ほほう、新しい飛竜保険が発売されてるな。ま、俺のレベルじゃ馬を借りるだけでも贅沢だけどさっ!


「さて」


コーヒーを飲み終わり、食器や調理器具を洗い終わり、俺は外出用の服に着替えた。『デニムパンツ』『デニムベスト』『ワイルドなバンダナ』『ワイルドなオープンフィンガーグローブ』だ。鏡で確認する。


「・・ワイルドだなっ!」


ワイルドよしっ!! 俺は出掛けた。



俺は冒険者ギルド加盟店の酒場『どん亀亭』に来た。早速、コルクボードを確認する。多数張られた手配書や依頼書は業界用語で『シナリオ』と呼ぶ。

俺の戦士レベルは『6』。人間ならプロの兵士、つうくらいかな? だが俺はオークだから、その人間のプロの軍人を軽くブッ飛ばせる。ヘッヘッヘッ。

そんな俺でできそうなシナリオは・・


「うーん、ソロ。ってなると少ないな。1人くらい雇っても・・あ、これでいいか」


『ヒシダタウン西部・モノアイロック×4、討伐』のシナリオを受注することにした。


俺は依頼書を取って、どん亀亭の肌の黒いハーフドワーフの主人に資料を貰ってざっと目を通した。

特に複雑な点はなかった。モノアイロックを4体倒すだけ。情報屋に金を払って補完する必要もなさそうだ。だが、注意書きがあった。


「・・『遺族2名との交渉に難あり。尚、依頼主はヒシダタウンである為、無視推奨』か。遺族無視推奨ってのもアレだな」


どん亀亭の主人も程度の低い『その他』のクエストにあまり詳しい話は聞いていなかった。

微妙に嫌な予感はしたが、ラックバードによれば俺の今日の運勢は普通だ! 普通ならいけるっ。



俺は装備を整え、俺でも乗れる大きな馬を借りて、ヒシダタウンに向かった。

・・昼過ぎ、ヒシダタウンに着いた。まぁ田舎街だ。狐型亜人のワーフォックスが多い街ではある。東方から流れてきた者達を先祖に持つらしい。

稲田は苗を植えたばかりだった。


「風情があるな。飯屋も美味いに違いないっ!」


すぐ飯屋に向かいたかったが、馬借に馬を戻し、まず依頼主になる役場に向かった。応接室に通されると、妙齢のワーフォックスの女が対応に出てきた。


「オサム・ボンバ・イエ様ですね。電信承っていました」


「おう、よろしく。俺、オサムっ! 発注は2日前だったが、状況に変化あるか?」


「特には、周囲に大まかに簡易結界を張って閉じ込めてありますので」


「旧石切り場から流れて来たんだろ? そっちの方はどーなってんだ? 処理されてないなら、後からどんどん増えてこられちゃ敵わないぜ?」


発生した魔物と発生した原因が別になってると、現場で変なことになり易い。


「石切り場の魔除けの一部が経年劣化で壊れていたのですが、既に補修済みです。漏れでた魔物で残っているのは受注して頂いたモノアイロックだけです。ただ」


役場の担当者は言い難そうにした。と、子供? の気配がして、突然応接室のドアが開けられた!


「っ?」


入って来たのはまさしく子供だった。ワーフォックス族だ。それも男女2人。10歳くらいの男子と、8歳くらいの女子だった。

いやそれよりも何よりもっ! 2人とも『手作り防具』と『手作り武器』で武装しているっ。


「なんだぁ?」


「オジサンっ! 冒険者でしょっ?!」


「仇を討つのっ!」


「・・この子らが遺族か?」


担当者はため息を吐いた。


「グレー・チナナ君とコリー・チナナちゃんです。2人のお父さんは林業をされていたのですが、モノアイロックに遭遇してしまって・・」


こりゃ参ったな。


「お前ら、他の家族は?」


「お母さんとお爺ちゃんとお婆ちゃん。隣街にお父さんの方のお爺ちゃんとお婆ちゃんもいる。あと従兄弟と再従兄弟と伯母さん叔父さんと」


「一杯いるじゃねーかっ! その辺のとこで普通に暮らしてろっ」


「嫌だぁっ! 俺、戦うっ!!」


「あたちもっ!!」


「オイっ、仕事終わるまでなんとかしててくれ! 俺は保育士じゃねぇよっ」


「そう、ですね・・仕方ありませんね」


子供達は役場の連中に取っ捕まえてもらい、俺は役場を後にした。

遅い昼飯は名物料理をゆっくり食べようと思っていたが、それどころじゃなくなった。俺は『特盛山菜ピラフ定食』をかっ込んで完食し、出発に備えた。

装備を確認する。

防具は『甲羅の兜』、『厚皮の鎧』、『甲羅の盾』。

武器は戦闘用の金槌『ウォーハンマー』、ずっしりした小剣『グラディウス』、小型斧『ハンドアクス』。

盾とハンマーは武器屋でレンタルしてきた。今回、ギャラが微妙なのでできれば壊したくない。

主な持ち道具はポーション1つ、薬草3つ、閃光球(せんこうきゅう)だ。ポーションは即効性があるけど1本30000ゼムもするからできれば温存したい。450ゼムでちょっと美味しい食パンが買える物価だぜ?


「よし、行くかっ!」


地図とコンパスで確認し、虫除け剤を自分に振り掛けてから、ヒシダタウン西部の林業区画へと続く林道に向かった。



林業区画も簡易な魔除けで封鎖はされていたが、区画の範囲が広過ぎるのと、この辺りはあまり強い魔物がいなかったのと、林業会社が経費をケチっていたから魔除けの効果に穴があったらしい。悪いことが重なった。

俺は簡易魔除けを越え、途中で出くわしたマムシをウォーハンマーで地を打って追い払い、さらに出くわした普通の熊は鼻先に石を投げ付けて追い払い、モノアイロックを封じた結界の前まできた。


「こっから本番だっ! ガキどもっ、父ちゃんの仇、取ってやっからなっ!!」


俺は気配を消して、結界の中に入っていった。


「・・・」


そっと近付く。・・いたっ! モノアイロックだ。その名の通り単眼を持つ浮遊する岩のモンスター。

4体集まって浮遊しながら、時折気紛れに森の腐葉土から小石を『念力』で拾い上げて喰ってる。

1体ならどーってことないが、4体なら整理が必要だ。木の陰にいる俺はウォーハンマーは一旦置き、閃光球を手に取った。

ふわふわ浮遊しているヤツらが、ちょうどいい位置、向きになるのを待つ。

2分、5分、10分。俺はいくらでも待つ。・・18分は経った頃、位置と向きが揃ったっ!

俺はスィッチを押し、閃光球を投げ付け、自分の目を庇った。カッ!!! まばゆい光っ! モノアイロックは一瞬動きを止めたっ。視界も失われたはずっ!

俺は飛び込んで1体をウォーハンマーで叩き割り、手近な1体に突進して2発連打して砕いた。

残2体は正気に戻って、1体は俺に『石礫(いしつぶて)』を放ち、もう1体は体当たりを仕掛けてきた。


「危ねっ」


俺は石礫を横に躱し、体当たりは転がって避けた。起き上がりにウォーハンマーを持つ右手にフルパワーを込める。魔力も高まる。


「オリャっ!!」


俺は鈍器投擲技『ミンチブロウ』を発動させ、体当たり後に体勢が戻ってない1体にウォーハンマーを投げ付けた。


ブゥンッッッ!!!


魔力を込められたウォーハンマーが凄まじい回転でモノアイロックに命中して砕き、抜けたウォーハンマーは背後の大木も1本へし折った。後1体っ!


「痛ぇっ」


右腕の筋肉痛も凄いが、肩が外れそうだ。無理な体勢で技を使ったから反動が大きい。

加えて距離のある最後のモノアイロックは石礫を連発してきて鬱陶しいっ!


「クソっ、高いんだぞっ? ポーションっ!」


俺は痛む右腕でなんとかポーチからポーションを引き抜き、蓋を開けて飲んだ。ゴクゴクゴクっ! 飲んだ側から力が漲り、右腕と肩の痛みが癒えたっ。


「プッハっ! 桃味かっ」


石礫を躱しながら、右腕の感触を確かめ、腰の後ろのウェストポーチに被せるようにして鞘にキープしていた自前のハンドアクスを抜いた。


「仕上げを」


と呟いたところで、


「っ?!」


背後に小さな馬? の気配を感じた。なんか乗せてる?? なんだ? 走ってくるっ!


「チッ」


俺は足元の小石を蹴ってモノアイロックを牽制してから位置を変え、横目で後方を確認した。


「嘘だろっ?!」


グレーとコリーだっ。チナナ兄妹っ!! ロバに乗ってやがるっ!


「オジサぁーンっ!!」


「助太刀ぃっ!」


何が助太刀だっ!! ここまで来たら帰れもないっ。とっとと倒した方が安全かっ? くっそっ。


「お前らっ! 落ち着けっ、一旦、距離を取って様子を見」


「おっらぁーっ!!」


「お父ちゃんの仇ぃーっ!」


ロバをモノアイロックに突進させる2人っ! 言うこと聞かねぇっ?!!


「こっちだっ!!」


俺も大声を出して突進した。モノアイロックは攻撃対象を迷う素振りを見せた。

その隙に俺は既に持っていたハンドアクスを投げ付けたが、浅いっ! しかも、俺より子供達の方が早く間合いに入るっ。


「ギュウィッ?!」


ロバが独特の声で鳴いて急停止した。魔物を恐れたんだ。反動で子供達がモノアイロックの眼前に投げ出されたっ! 逃げるロバっ。

オイオイっ、今日の運勢、ホントに普通かっ?!


「うわっ?!」


「きゃあっ?」


石片を纏い石礫の構えを取るモノアイロック。辛うじて兄のグレーが妹のコリーを庇ったが、震え上がる子供達。


「どぉらっ!!!」


俺は飛び付いてグラディウスをハンドアクスで傷付いたモノアイロックのヒビに打ち込んだ。ヒビが拡大したが、


ドドドドドドッッッ!!!!


0距離で石礫の連打を喰らった。受けた甲羅の盾が砕かれ俺は吹っ飛ばされた。

だが、モノアイロックは砕け掛けている。


「チビどもっ、動けっ!」


と言いつつ、撃ってきやがった石礫の中で一番デカい石片を拾う。


「っ!」


「っ?」


チナナ兄妹は立ち上がり、モノアイロックに手製の『トゲ棍棒』『棒きれの剣』で打ち掛かった。


「うわぁーっ!!」


「バカぁーっ!」


ペチペチッ。効いた様子は無かったが、意識を向けさせることには成功したっ! 十分っ!!


「注意力散漫だぞぉーっ?!!!」


俺はほぼ真上から飛び掛かって石片をヒビに打ち込み、モノアイロックを打ち砕き、倒した。


「はぁはぁ・・そんな強くねぇんだからな、モノアイロックっ!」


「うわぁーん、オジサぁンっ!!」


「仇取ったぁっ、わぁーんっ!!」


チナナ兄妹は泣き付いてきた。


「それから、俺、21歳な。オジサンじゃねぇっ」


よく言われるけどなっ!



俺は軽く説教しつつ、子供達を途中、1人で帰れなくなって寄ってきたロバと一緒にヒシダタウンまで送り、役場でギャラをもらった。

兄妹は待ち構えていた母親や他の親族にどちゃんこ怒られていたが・・

本当は今日はヒシダタウンで温泉入ったり、なんなら一泊して疲れを癒したかったが、グレーとコリーが妙に懐いて扱いに困る感じだったので、適当な土産物と行動食用に『黒糖イナリスシ』を3箱買い、馬を借り直してさっさと引き上げることにした。

俺は街の裏手からスッと出ようしたが、


「オサムお兄さーんっ!」


「さよならぁーっ!!」


どこかで嗅ぎ付けたらしいチナナ兄妹がロバに乗って駆け付けて見送ってきた。謎に機動力高いなこの2人っ。というか大袈裟だってのっ。恥ずかしいっ!


「・・おうっ」


ちょっと赤面しつつ、片手を上げ、全体としては『普通の範囲だったな』と思いつつ、俺は馬の上でイナリスシを摘みながらベルシティへと帰っていった。



うむっ!『 VSモノアイロック』、俺の勝ちだぁーっ!!!

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