第62話 虫ダンジョンとわんちゃん5
『バクス』迷宮の『守護者』キラーアント・クイーンの巣にて、一つの戦いが始まろうとしていた。
片や無数の・・・それこそ何万もの魔物達。それに対するは、たった3体の魔物達。
いざ、戦いの幕が上がる。
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「イクノデス、ワタクシノコドモタチ。アノシンニュウシャドモヲコロスノデス」
戦いは、クイーンの一声から始まる。クイーンは『眷族召喚』により呼び寄せた者達に命じ、俺達へと攻撃を仕掛けて来た。
「クフフ、スグニソトカラモコドモタチガオシヨセマス。ドウアガイテモオワリデスヨ?」
俺達に向かい、死を運ぶ流れが押し寄せて来る。
クイーンの周囲にある穴から延々と押し寄せる終わりなき死の奔流。
だがぬるい!本物を見せてやる!
「(はんっ!終わりなのはお前らだっ!黒き風よ!!!)」
俺は一度目を閉じ、想う。濁流をも吹き飛ばし、流れを敵を尽く倒し、勝利をつかみ取る強き力を。
「(我が敵の前に・・・死を運べ!!!)」
カッと眼を見開き、赤き瞳にて敵を見る。
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『ブラックドッグ』・・・それは死の先触れや死刑の執行者としての側面を持つと信じられているモノ。
其れ即ち、彼の者が運ぶ風は・・・死なり。
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黒い犬の体から魔力が立ち上がる。
それは本来透明な物だが、黒い犬から立ち上がる魔力には色がついていた。
黒。 黒い魔力。
それはやがて魔力から風へと変化する。
黒い風へと。
黒い風は宙にて渦巻き、合わさり、逆巻き、やがて一つの嵐となる。
そしてその嵐の行方は・・・。
「(行けっ!あの蟻どもに尽く死を!!!)」
嵐は蟻の濁流へとぶつかり、そして濁流をやすやすと飲み込む。そしてそのまま蟻が沸いて出て来る穴へと迫っていった。
しかし敵もただ見てるだけではなかった。
「マタアノカゼカ!エエイ!ワガコドモタチヲマモリタマエ、『マモリノショウヘキ』!」
クイーンから配下に対してスキルが飛ぶ。恐らく最初の時もあれでしのいだのだろう。
だが、クイーンの使ったスキルは自分から離れるほど威力が弱まるのか、自分の周囲以外の魔物は黒い風にのまれてすり潰されていった。
「(よし、このままいけば・・・)」
「わう!きたわう!」
クイーンが使った『眷族召喚』の穴からは未だに敵は湧き出し続けていた。だがこの調子ならいける!そう思っていた時ニコから鋭い声が飛んできた。
ニコの方を見ると、出入り口の方を見ながら言っている。ということは・・・。
「クフフ!ソトカラモコドモタチガキマシタヨ!イツマデモツノデショウネ!」
出入り口からは続々と魔物が入って来ていた。そしてそいつらは壁際にいた俺達を見つけると、凄まじい勢いで俺達へと迫って来た。
俺は迫りくるそいつらにも、クイーンの言葉にも焦らずに、ゆっくりと追加で魔力を放出する。すると追加で放出された魔力は瞬く間に黒い風へと変わり、入口方面へも嵐が出現した。
入口方面の敵にはクイーンの『守りの障壁』の効果が一切及んでいないため、瞬く間に嵐の中へと消えていく。だが、次から次へと入口から魔物は補充され続けた。
「(っちぃ・・・全然減ってる気がしない・・・)」
俺は一向に変わることのない状況につい愚痴を吐いてしまう。するとそれを聞いたニコとミコは一度二人で顔を合わせて何やら話し、そしてその後俺へと話しかけて来た。
「わ・・わうっ!一狼兄ちゃん大丈夫わうっ!」
「あうっ!そうあうっ!ボスはさいきょうあうっ!」
ニコとミコは何故かポージングをしながら俺にそう言ってきた。励ましているつもりなのだろうか・・・?
俺は思わずクスリと笑ってしまった。
「わう!笑ったわう!」
「あう!笑ったらもう大丈夫あう!」
「(ああ、そうだな!笑えるほど余裕で大丈夫だ!問題ない!!)」
こんな小さな二人が俺を信じてくれているんだ!大丈夫じゃなかったら嘘だよな!
すっかり二人に励まされてしまった俺はやる気を燃やす。今なら24時間余裕で戦えます、だ!
「(オラオラァーッ!もっとお代わりもってこいやぁーっ!)」
「・・・ソノゲンキガイツマデモチマスカネ」
俺は魔力を迸らせて敵へと死を運び、クイーンは配下へと命じ俺達をすり潰そうとする。
どちらが勝つか・・・。それは・・・。
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場は静まり返っていた。
その場にて音を出す権利をもつのは極一部。
それ以外のものは音を発することは無く、ただあるのみ。
「クフ・・・クフフ・・・」
音を発するは、極一部の権利を持った者、キラーアント・クイーン。
彼女は静かに静かに笑い声を漏らす。
「クフフ・・・クフフフ・・・」
やがてその笑い声は大きくなり、彼女はついに叫んだ!
「クフフフ!・・・ソンナバカナッ!ワタクシノコドモタチガゼンメツ!?ソレニツイカデセイセイサセタマモノマデ!アリエナイ!」
「(ついにネタ切れのようだな?)」
「わう!あとはあいつだけわう!」
「あう!ボスさいきょうあう!」
俺は、俺達は敵との根競べに勝利した。更にクイーンは、途中でダンジョンコアへ追加で魔物の生成までさせていたのだが、それも尽く殲滅してやった。
とはいえ、現状余裕というわけでもなく、体感だが魔力がほぼ空に近い状態になってしまってけっこうツライ・・・。
しかしそんな様子を晒すと、折角相手が動揺しているのにそれが無くなってしまう。なのでクイーンの息の根を止めるまでは我慢だ。
「(さあ・・・覚悟はいいかクイーン?)」
「ギギギ・・・ワタクシヲナメルナッ!」
俺は魔力枯渇気味の体に鞭打ち、クイーンへと迫る。クイーンはそんな俺を迎撃しようと動き出すが・・・遅いっ!
クイーンへと触れる直前でサイドステップを繰り出し、敵のサイドへと回り込み攻撃を加える。魔力を使うのが厳しいのでただの引っ掻き攻撃だが、それはすんなりとクイーンへと刺さった。
「ギギッ!キサマァ!」
クイーンは攻撃されてから俺が側面にいると気づき、慌てて腕を振るって攻撃してくるが、その頃には俺は離脱していた。
「(・・・どうやらお前の方も魔力切れの様だな?それにダンジョンコアに無理をさせたのか、魔力の供給も途切れているみたいだな?)」
「ギギッ・・・!」
どうも図星みたいで、クイーンは言葉を喋らず唸るのみだった。
敵にとってはピンチだが、俺達にとってはチャンスだ。ガンガン攻めるぜ!
俺が再びクイーンに攻撃を加えようとすると、ニコが俺に魔法をかけて来た。俺は言葉は出さずに頷きで感謝を伝え、再びクイーンへと飛びかかった。
今度はフェイントをかけず正面から攻撃をあたえ、遅れて反撃をしてくるクイーンの隙を突き今度は背後へ。そして俺を見失ってキョロキョロしているクイーンへと連撃を加える。
「ギィィィイ!ウシロカアア」
クイーンが再びそれに気付き振り向きながら攻撃をしてくる。しかしそれも動き出しを見切り、クイーンの振り向く方向に合わせて一緒に回って再び背後に。
そろそろ決め時だと思い、なけなしの魔力を振り絞り一点に凝縮する。そしてそれを『黒風』へと変換した。
「(これで終わりだっ!黒き風よっ!)」
「ギッ!?」
凝縮した魔力から返還した『黒風』を、クイーンに付けた傷へと叩き込んだ。クイーンはそれに気付き俺に攻撃しようと手を振り回すも、俺はニコとミコの傍へと離脱していた。
「(・・・ふぅ。こんな時は決め台詞でも言うんだろうが思いつかないな)」
クイーンは悠長に何かを言っている俺に向かって突進してこようとしていた。だが足を2,3歩進めるとそこで止まってしまう。
「ギッ!?ギギギ・・・!」
「(んー・・・そうだなぁ・・・)」
「「マッスルー!」わう!あう!」
「(えぇ~・・・。流石にそ・・・)」
それはないだろう、と言いかけたところでクイーンに異変が起こる。
体の内部で何かが暴れるような感じになり、体が膨らんでいく。そして・・・。
「ギィィィイイイイ!」
『ボンッ』
体内のいたるところから黒い風が吹き出し、遂には破裂してしまった。
「(これにて前哨戦終了ってな・・・)」
戦いは終わった。俺達の勝利だっ!
結構ギリギリな感じだったが何とかなったのだ!俺達は喜び吠えた!
そしてひとしきり騒いだところでいよいよダンジョンコアとご対面だ。俺達は巣の奥側にあった通路を見つけそこへと歩いて行く。
ニコとミコの後に続きながら歩き、俺はぽつりと呟いた。
「(しかし、俺の決め台詞は マッスルー! か・・・)」
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「(この辺はもうポンコダンジョンの近くだな)」
俺達はあの後無事にダンジョンコアを回収することに成功したのだが、あまりに疲れていたのと、ダンジョンから出ると夜だったので、一晩休んでから帰る事にした。
流石にダンジョンコアを放置したままレモン空間で休むことも出来なかったので、バグスダンジョンから少し離れたところで休むことになったのだが、俺は魔力が枯渇寸前だったせいか、休む場所を決めたとたんに気絶する様に眠ってしまった。
暫く経ってから目覚めて焦ったのだが、ニコとミコが休む為の準備や周囲の警戒をしてくれていた。俺は二人に謝罪と感謝をした後に、そういえば食事がまだだったと思い出して3人で食事をとることにした。
食事が終わると流石に二人も限界だった様で、フラフラとし始めたので今度は俺が周囲の警戒をするからと言い二人に休むように言うと、二人は直ぐに眠り始めた。
俺はそんな二人を見守りながら周囲の警戒を行い夜を過ごした。
日が昇る頃になると二人が起きだしてきたので、軽く朝食を取り、それが終わると直ぐに出発することにした。
そして順調に帰路を進み、現在はポンコダンジョンの近くにいる・・・というわけである。
「わう!これパパとママにじまんするわう!」
「あう!ミコもママにじまんするあう!」
俺の上でダンジョンコアを持っている二人はそんな事を言ってはしゃいでいた。確かにニコパパもニコママもミコママも、いや、それどころか全員に褒められるだろう。ダンジョンコアを回収してくるとはそれだけの事だと俺は思う。
「(ああ、してやれしてやれ。きっと皆が褒めてくれるさ!)」
「わう!」
「あう!」
そんな事を話しながら進むと、後丘1つというところまで来た。その時俺はポンコダンジョンの入口付近に大勢の気配を感じた。恐らくあと一つのダンジョンから攻めてきている魔物だろう。
俺は背中の二人にそれを話すと、走るペースを上げることにした。ごぶ助とコボルト達なら大丈夫だとは思うが、気づいたのに放置しておくわけにも行かないからだ。
急いで丘を越えダンジョン入口へとたどり着く、そこには予想外の光景が待っていた。
「(魔物と・・・人間!?)」
ダンジョン前ではごぶ助達、敵性魔物、人間の三つ巴が繰り広げられていた。
作者より:読んでいただきありがとうございます。
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☆をもらえて、この小説が人気になると、主人公が、ゴリゴリになります。
追記:カクヨム様。にてコンテスト参加中です。よろしければ応援おねがいします。
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