第287話 リベンジ戦のわんちゃん 1
5話目
私の名前はイロ。ちょっと性欲の強いピッチピチの250歳の女よ。
・・・ちげぇわ。俺一狼さんだわ。
なんだか脳をムチムチボインな体に乗っ取られた気がしないでもないが・・・どうも、OMOTENASHIの達人こと一狼です。
「えっと・・・この辺りに町がある事を知ってるかしら?あ、そういえばお名前は兵士さん?」
そんな俺は今、俺達の住処に襲撃を掛けてきたパンディムの兵士をOMOTENASHIしている。
「それでねぇ・・・私ぃ・・・」
そしてOMOTENASHIをし始めて解ったのだが、この目の前の兵士は大分チョロイ人物の様で、自分で言うのもなんだが明らかに不審な俺にコロッと騙されこちらの言う事を信じていた。
「うむ・・・うむうむぅ・・・」
恐らく俺の変身した姿に対しての下心もあっての事だとは思うがな。
まぁそれはそれで都合がいいという事でさておきだ、俺はとある作戦の為にこのチョロスとかいう兵士へと取り入る事にした。何故ならこのチョロス、こう見えて襲撃を掛けてきた軍団で魔王に次ぐ地位を持っているからだ。
(でもコイツで大丈夫なのか魔王軍。コイツチョロスギんぞ)
そんな敵ながら心配になってしまうチョロイ・・・じゃなくてチョロスへとボティータッチやスキルを駆使し俺は話を続ける。すると最後には見事完璧に俺の話を信じ込ませる事に成功し、作戦通りに事が進む運びへと誘導する事が出来た。
出来たのだが・・・
「うむ・・・それは大変だ。どれ、魔王様に掛け合ってみよう」
未だ最後の砦、ヨフィエルが残っていた。
(こいつはチョロかったけど、ヨフィエルを上手く騙せるかな・・・)
普通ならばポッと出てきた者に対しては警戒する筈だし、相手が相手だ。俺は100%上手くいくという自信がなかった為、少し弱気になってしまう。
(いや、やるしかねぇ!やってやる!行くんだイロ!お前はハニートラップの女王!失敗は無いっ!!)
だがここで引き下がると計画がガタガタになり勝ち筋が薄くなるので、俺は心の中で闘志を燃やし、自己暗示をかけてやってやると奮起した。
そうして奮起したのなら早速行動開始だという事で、イロになり切りチョロスとの会話を続ける。
「えぇ~!本当にいいの?ありがとうチョロスさぁん!・・・マジチョロ」
「ああ。・・・ん?最後何か・・・」
そう思ったのにイロになり切れていなかった様で、一狼が出てしまった。俺・・・いや、私は自分を戒め、心の中の一狼を押さえつける。
「どうしたのぉチョロスさぁん!早く魔王様の所へ行きましょうよ!」
「うっ・・・うむっ!」
それは上手くいったのか、その後の話はうまい具合に転がったわ。
「・・・ええ・・・解りました。・・・同行を許可しましょう・・・はぁ・・・罪深き者達ですね・・・」
若干ヨフィエルには警戒されていたけれど、チョロスや周りの男性陣へとスキルや体で取り入り見事軍団の道案内役として治まる事が出来たの。
「イロさん、内部の道がどうなっているかパパッと紙に描く事はできるか?」
その後もヨフィエルからは微妙な視線を受け続けたモノの、私の話自体には少し信じるところでもあったのか展開はほぼ私の想定通りに進んだわ。軍団を分断して小分けに出来たし、片方の道案内は私が先頭に立てたの。
「魔王様ぁ!こっちですこっちぃ!」
「・・・ええ・・・」
「い・・・イロさんっ!?魔王様っ!?」
更に隙を見てヨフィエルを軍団から離す事が出来たので、ここまで来ればほぼパーフェクトでしょう。後はこのままダンジョンへと入り・・・
「魔王様ぁ!早く早くぅ!私、友達が心配なんですぅ」
「・・・ええ・・・」
「お待ちください魔王様!イロさ~ん!!」
「「「お待ちください!」」」
(今よっ!)
「・・・おや?いきなり様子が変わりましたね・・・」
この様にヨフィエルだけ分断出来たのならミッションコンプリートね。
(上手くいったわ!他の人達も・・・うん、上手く飛ばせたわね。そっちは任せるわよ皆)
更にダンジョンの情報を呼び出し確認してみるとチョロス達や正面の入口から入った人達も予定通りの場所に送れていた様だったので、私は心の中でガッツポーズをとる。
そしてガッツポーズをとったなら、ヨフィエルからスススーっと距離をとる。
「やはり罠でしたか・・・。それでイロさん・・・ここからはどうするおつもりですか?」
距離を取ると勘の良い・・・というより、元から私を100%信じていなかったヨフィエルはこちらへと問いかけてきた。正直ここまで来たのならもうだましている必要もないので、私はネタバラシを始める。
「どうするおつもりも何も・・・解るでしょう人間さん?」
「その言い方は・・・そうですか・・・。大よその所は掴んでいると・・・。それなら私を殺すおつもりですね・・・」
「ええその通り。正解したからキスでも差し上げましょうか?」
「結構ですよ・・・化け物からそんな事をされては穢れますしね・・・」
こちらがネタバラシを始めると向こうも色々我慢している必要がないと感じたのか、態度が少し変わり始めた。それならばこちらも態度を変えるとしましょうか・・・
「というかイロの振りをし過ぎて変なこと言っちまったよ・・・何が『キスして差し上げましょうか?』だよ・・・うぼぉぇぇ」
「・・・?」
俺が口調を変えるとヨフィエルが不思議そうな顔をしていたので、何故口調が変わったのかを奴に見せてやるために俺は変身を解く事にした。
「まぁあれだヨフィエル・・・久しぶりだな」
「人型魔族が犬に・・・?久しぶり・・・?」
変身を解き挨拶をしてやったのだが、ヨフィエルは俺の事を覚えていなさそうな様子だった。
しかしそれならば別にそれでいいだろう。
「覚えてないならそれでいいさ。仲良くする気も無いしな。というより、今から死ぬ人間に覚えておいてくれって言うのも意味がないしな」
俺はそう言い何時でも動けるように四肢の力をだらりと抜く。そして様子を見るのだがヨフィエルは『ふふふ』と笑い出した。
「・・・何かおかしい事でもあったのか?」
「ふふふ・・・いえ、アナタの事を思い出しまして・・・。魔王選でしたか・・・?あの時戦った相手の1人ですよね?」
「思い出したのか。そうだ、準決勝で戦った相手だよ」
「そうでしたそうでした・・・ふふふ・・・」
「だから何がおかしいんだよ」
ヨフィエルは俺の事を思い出したみたいだが、もしかしたら俺のキテレツぶりを思い出し笑っているのだろうか?そうだとしたら許せないので、俺は様子見など止めて先制攻撃を掛けようかと考えてしまう。
「・・・いえ・・・あの時アナタは私に負けましたよね・・・?」
「まぁそうだな」
「ふふふその様な者がどの様にして私を殺すと・・・?それに、あの時私は本気を出していなかったのですよ・・・?」
だがそれは少し違った様で、彼我の実力差を思い出し笑っていた様だった。確かに俺がヨフィエルでもそれは笑ってしまう事実だっただろう。
(ま、こっちはしっかりパワーアップさせてもらっている訳だがな)
しかし俺達はルキの秘術によりパワーアップしている。だからヨフィエルのこの笑いは見当違いだろう。
・・・まぁ馬鹿正直にそれを言ってやる必要もないので言わないのだが。
(慢心したまま死ね。というやつだ。されど俺は慢心せぬと・・・)
こちらを侮り隙を見せてくれれば御の字なので、俺は未だに『ふふふ』と笑うヨフィエルに何も言わず視線だけを送る。
いや、視線だけ送るのもどうかと思うのでやはり声も送るとしようか。
「これを見てもそうやって笑っていられるかな?」
「・・・他に何かあるのですか?ええ・・・ええ、あるのなら存分に出しなさい。そうすれば万に1つも勝機が増えるでしょうからね・・・」
「っはん!ならそうさせてもらうぜ!ごぶ助!長老!エペシュ!ごぶ蔵!」
俺がごぶ助達の名前を呼ぶと物陰に潜んでいたごぶ助達が姿を現す。が、ごぶ助達の気配でも感じていたのかヨフィエルはさほど驚いた様子も無く、寧ろ『漸く出てきましたか』みたいな顔をしていた。
「俺と同等、若しくはほんの少し劣っている奴らを呼ばせてもらった。まさか卑怯とか言わないよな?」
「ええ・・・問題はありませんよ、ええ・・・」
ヨフィエルは余裕綽々で5人と戦う事を了承したがこいつは解っているのだろうか?ここは俺達のホームであるダンジョン、仕掛けはこれだけではないのだ。
(アレを発動だっ!)
俺は密やかに対ヨフィエルに組んだ罠を起動させる。
こうして俺達の戦いは静かに始まりを告げた。
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☆をもらえて、この小説が人気になると、主人公が イロになります。




