第191話 成し遂げたワンチャン
目標をすり潰すために上下左右に吹き荒れる暴風、そこに固く鋭い石の刃が混じっているので中に居る者は生きてはいないだろう。
しかしだ、中にいる敵は普通じゃない再生力や耐久力を持っている。もしかしたら・・・
「あまりにも強い風の所為か景色が歪んでどうなっているか見えねぇ・・・敵はやれているのか?」
ジリジリと身を焦がす様な不安の中、俺はジッと破壊の力が渦巻く場所を見つめた。
「ゴブ・・・治まって来た様ですゴブ・・・」
「あ・・・ああ・・・」
数分ほど経っただろうか、暴風が治まって来たので長老が声を掛けて来た。俺は唾をごくりと飲みこみながら、万が一敵が生きていた時の為に体に力を入れた。
「・・・あ」
「・・・っ!?」
「敵、消えてるね」
「・・・・・・っふぅ~~~~」
だがその心配は杞憂だった様で、俺は安堵のあまり何時の間にか止めていた息を大きく吐き出した。
そんな俺の様子を見てか、エペシュが俺の首へとそっと抱き着いて来た。
「やったね一狼」
「ああ・・・やった・・・やれた・・・」
『リベンジだ!』なんてマルオを倒した後高らかに言っていたが、実はいざキメラドールを目の前にした時に、俺はかなりビビッていた。
しかしそれに気づいたところでもう後戻りできない段階だったので、俺は恐怖心を押し殺し戦いに臨んでいたのだ。
「うぅ・・・やれたんだ・・・」
それが今、解放された気分で一杯になっていた。
「うん。やったね。よかったね。よしよし」
そんな俺の心情を完全に読み取っている訳ではないだろうが俺の様子から何かを感じたのだろう、エペシュは体に抱き着きながら優しく撫でてくれた。
「うぅ・・・エペシュママ・・・」
俺はそれに感極まり、エペシュを第2のママと認定した。
「敵を倒し浮かれるのは良いが、気を抜き過ぎるとまたぞろとんでもない事が起こるのじゃぞ?」
「・・・っはっ!」
(何だ第2のママとは!?危ない危ない・・・第1のママのお陰で正気を取り戻・・・せてないっ!?)
因縁のある相手にリベンジ完了した事で不安定になっていた心を落ち着けるべく、俺はエペシュの腋の下に鼻先を突っ込み、深呼吸する事で気を落ち着ける事にした。
「すぅ~・・・・・・」
「・・・?くっ・・・くふっ・・・くすぐったい」
「・・・うむ。落ち着いた」
「・・・???」
プチ賢者となり落ち着いたところで、敵が居た場所を確認している長老の元へと歩いていき話しかけると、『肉片の1つも残らずにすっかり姿が消えている』との事だったので完全に勝利したと視ていいだろう。
「流石に肉片の1つもない状態からなら再生もクソもないだろうからな。ダンジョンから産まれた魔物が死んだら消える設定でよかったわ」
「ゴブ。それで一狼様、確認も出来た事ですし次へ行きますゴブ?」
「だな。でもその前にゴブリンA達にはレモン空間へ先に戻ってもらおう。この先はコアルームだろうからな」
この先は戦闘も何もなく唯々コアを回収して引き上げるだけなので、居ても暇だろうからゴブリンA達には先にレモン空間へと戻ってもらう事にした。
俺はゴブリンA達に労いの声を掛けた後、先に戻って十分休んでおいてくれと伝えレモン空間へと彼らを送り出した。
それが終わると長老、エペシュ、ごぶ蔵、ニアへと声を掛け、入口と逆にある扉へと向かった。
「うん。やっぱコアルームだったな」
扉を開けるとそこは一面石で出来た部屋で、その空間の中央辺りにはダンジョンコアが台座の上に鎮座していた。
取りあえず俺はダンジョンコアの近くへと歩いていき声を掛けてみる。
「あー・・・こんにちはでいいかな?ダンジョンコアさん?」
【こんにちは侵入者】
「・・・」
【・・・】
と、声を掛けてみたものの、特に喋る事もなかったと思い無言になってしまう。なので一応の礼儀かなと思う最後の通告だけすることにしたのだが、その前にごぶ蔵が俺を呼んできた。
「ごぶごぶー。こっちの部屋にお宝があるごぶー」
「んん?」
その声につられてそちらを向くと、入って来たのとは違う扉の中から手を振るごぶ蔵が見えた。
「お宝ね?あ、そうだ」
ごぶ蔵が言うにはその部屋の中にお宝があるらしいので、もしかしたら答えてくれるかもと思いダンジョンコアへと質問をしてみた。
「なぁ、え~っと・・・名前何だっけ?」
【タマと言います】
「適当すぎない?・・・まぁいいか、なぁタマ、あの部屋にはお宝があるのか?」
【はい、とも、いいえ、とも答えられます】
「ふむ?」
【当迷宮の持ち主と認定されているマルオ様が使わない物を適当に入れている部屋となります。それをお宝ととるかゴミととるかはその方次第となりますので】
「成程な」
ダンジョンコアのタマは意外にも質問にはすんなり答えてくれた。しかしこんなにすんなり教えてくれるなんてダンジョンコアのセキュリティは大丈夫なのだろうか?
【因みにですが、あの部屋の隣の部屋はマルオ様がお宝部屋と呼んでおります】
「ほぉ?」
【中にはマルオ様が拘られて改造されたドールやパペットが入っております】
「・・・」
セキュリティ駄目だな!帰ったらスラミーにプライベートは覗いちゃいけませんって言っておかなきゃ!
と、それはともかくだ、俺は『こないごぶ?』とこちらを見ているごぶ蔵へとある事を頼んだ。
「ごぶ蔵!その部屋のモノ全部レモン空間に入れておいてくれないか!」
「わかったごぶ!」
それはお宝部屋?の品物の回収だった。もしかしたら中には何か使える者があるかもしれないからだ。
「じゃあ俺は・・・っと」
俺はごぶ蔵へとアイテムを全て収納する様に頼むと、念の為にとその横にあるお宝部屋とやらを覗いてみる事にした。
「危険かもしれないから、先ずは俺が防御しながらチラ見してみるな?」
「ゴブ」
「うん」
タマが『中には改造されたドールやパペットが』なんて言っていたので最大限警戒し、俺は防御を固めてその部屋の扉をそっと開く。
「・・・危険はなさそうだな。でもこれ以上調べる必要も無さそうだ」
結果的に危険はなかったが、正直見なければいいと思ってしまった。
何故ならその部屋に在ったのはパペットやドールだけでなく、ガラスの様な容器に入った・・・
「あいつ・・・変態じゃなくてサイコ野郎だったのか」
この部屋にある物を見て、俺は奴が何を使ってドールやパペットを改造していたか知ってしまった。
そして同時に、あのキメラドールがあれだけ人間に近く美人な訳が解ってしまった。
「南無・・・」
俺達が倒してしまった訳だが、キメラドールの作られた過程が解ってしまった今、少し同情心が沸いてしまったので祈っておく。そして同時に、ここはこのまま葬り去るのが良いなと思い、そのまま扉を閉じておいた。
「回収完了したごぶよー」
すると丁度と言っていいのか、ごぶ蔵の回収が終わった様なので、俺はサッサとここを出る事にした。
「じゃあタマ、お前を頂くな?」
【はい】
タマへと最後通告をするとやはりというか、あっさりと肯定されたので、こちらもサクッとレモン空間へと収納をさせてもらった。
するとダンジョン崩壊の前触れであろう揺れが起こったので、俺達もレモン空間へと非難を始める。
「これでいよいよダンジョン移動が出来るのかな・・・」
長老達がレモン空間へと入って行く間、俺はぽつりと呟く。
元はといえばこのダンジョンのコアを狙ったのは、別大陸にまで行ってしまったごぶ助達を追うのにダンジョン移動をする必要があったからだ。
ニアやスラミーが言うには、このダンジョンコアがあれば恐らくいけるとの事だったので、漸く念願がかなう訳だが・・・
「やっと・・・やっと会えるなごぶ助・・・それにコボルト達・・・」
ここに至り、ようやく実感が沸いてきた俺は少し泣きそうになってしまった。なんせ彼ら彼女らと離れ離れになってから結構な時間が経っていたからだ。
「お土産話が一杯あるんだよな・・・それに、向こうにも何があったのか気になるんだよな・・・はは・・・暫くはゆっくりとお喋りする日々ってのもいいかもな・・・」
俺は胸にこみ上げてきた思いをぽつぽつと呟き、最後に願望を呟いた。
「直ぐ行くからな皆・・・そしたら・・・再開を・・・そしてこれから続く楽しい未来を一緒に祝おうな」
作者より:読んでいただきありがとうございます。何気に4章を切るのを忘れていたのですが、ここでスッキリ切れそうなので、次話より5章に入ると思います。
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☆をもらえて、この小説が人気になると、ごぶ助が 肩パッドが凄いマントと角付き兜衣装で登場します。




