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クワイエット  作者: 和林
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第十五話『実は犯罪』

「私は、芦谷が悩んでいることを解決まで導くことが出来るか分からない。でも、あんたの力になりたいことは確かよ。和香が言っていることは、芦谷に自分とよく向き合ってほしい……って意味なんじゃないかしら」


「だからまずは、誰にも言わなくていいから一人で洗いざらい人生を振り返ることね。人混みにいたら気分が悪くなる理由も、何かしらのトラウマが根底にあるはずだもの」


「トラウマかぁ……芦谷いつも能天気だからあんまし考えてないけど、お父さんは怖かったかも……」


「あぁ、研究者の。確かにあまり感情を表に出さない印象があるわね。でもそこは、あんたが父親と似てるところよ」


「……えぇ!? オトは芦谷が物静かな人間だと思ってるのかいぃ!?!?」


「思ってるわよ。だって、その陽気さは作り物でしょう? 緊張していたら一言も喋らなくなるし、基本的に無理矢理スイッチを入れないと黙り込むことが多いから」


「そ、そうかなぁ……ほんとは違うって言いたいけど、同期に言われちゃったら嘘じゃないだろうし……芦谷、頭ん中で考え続けるクセあるのかも」


「その勢いで振り返ってみるといいわよ。あと、そろそろ私たちがここにいることは知られていそうだけど、報告はまだしなくていいの?」


「……うんっ。芦谷が納得出来るまでは、まだ待っててほしいんだ。もしバレちゃっても、芦谷たちには最終兵器がいるからね!!」


「はぁ。その最終兵器ちゃんは今頃おねんねしてるんじゃないかしら。あの子本当に夜型なのね、本気で生活ルーティンが狂ってる人間は初めて見たわ」


 そう、彼女たちには、まだ仮想現実にいる誰にも知られていないであろう、最終兵器というあだ名が付けられた一期生が残っているのだ。

 はてさて出番があるのかは不明だが、芦谷はスパイとして動かすにはもってこいの人材だと胸を張っている。

 最終兵器本人はというと、完全なる夜型、つまり昼夜逆転生活で日々生きているので、美怜と蜜が話している間も絶賛爆睡しているであろう。

 彼女の出番が本当にあるのか。それは未だ誰も確信を持つことが出来ない、伝説となりそうな話であった。




「街ってどんな感じなんですか??」


 ふと、梓は街のことが気になった。仮想現実に来てから一度も行ったことがなく、楓と紫苑ですら行くことがないという場所。

 そこまで言われてしまえば、どれほど恐ろしいのかを逆に知りたくなってしまうものだ。

 そんな梓に問いかけられ、二人は若干頭を悩ませていた。


「いやぁ、僕たちも二回くらいしか顔出してないんだよね。一回目はまだ来たばかりの時に探索で、二回目は一華ちゃんたちと」


「なるほど……賑やかなんだろうなぁ、とは思ってるんですけど。変な人に絡まれたりとかしませんでした??」


「お前は中心街をどんな場所だと想像してんだよ……別に現実世界と変わりはねぇよ、売店が並んでておっさんおばさんが声かけてきたり、たまに警察みたいなやつらが来て逮捕劇始まったり」


「……た、逮捕劇???」


「一華ちゃんと竜くんと四人で行った時にね、防具を身に纏った兵隊さんみたいな人たちが大通りにいて、何があったんだろーって話してたら突然兵隊さんに囲まれた男の人が暴れ出して……」


「ありゃ大変そうだったな。やっぱ統治する人間が一人いないと社会は成り立たねーんだよ。全部ボランティアだから一般庶民は何でもありになってんだ」


「ボランティア!? 兵隊の皆さんもボランティアでやってるんですか!?」


「中心街は元々建物が残ってて、多少現実世界より古くはあるんだけど、警察署みたいなところとか民家も並んでたりとか……そこに送られてきた人たちが住んで、復興させようと頑張ってるみたい」


「それなら、私たちも手伝った方が良くないですか? わざわざこんな森の奥で暮らしていなくても……」


「住民票」


「へ?」


「俺らは提出が義務付けられてる住民票を提出してない。だから街に行ってそれがバレると困るから安易に行けねぇってわけ」


「え、なんで出してないんですか」


「実はね、この森は自然保護と今後の調査のために僕たちが住むことを禁じているんだよ。それに家も僕たちの所有物じゃなくて、不法侵入して勝手に住んでるだけだからね」


「…………わ、私たちって犯罪者なんですね!!!! 知りませんでした!!! 本当に何も知らなかったので私は無罪なんですなので帰らせてもらいます!!」


「別にいいけど行くあてあんのかよー。松永は絶縁したから会えねぇんだろ? 一華さんは診療所こもってそうだし竜ん家は女子入れられるようなとこじゃねーからなーー」


 そうして結局、梓は無実を免れることを諦めたのであった。

 犯罪と言っても、梓たちのいる世界は仮想現実であり、今のところ現実世界での犯罪と同じような扱いにはされていない。

 なので捕まっても厳重注意で済むことが多いのだが、何せ街に行かないので彼らはその事実すら知らないのである。


「いざとなったら一華さんに助けてもらおう……紫苑さんも楓さんも最終的には私を裏切るような香りが……」


「楓はともかく僕は裏切らないよ〜!! 楓は分かんないけどね!!」


「なんで俺だけ悪者扱いになってんだよ!? そういうお前こそ俺とあいつ置いて逃げるだろ!! 女連れて!!」


「女ぁ!? じゃあ梓ちゃん連れて逃げま〜すけどね〜???」


「うっっっっざ……うぜぇ……」


「はい、今回は僕の勝ち」


「……すいません、何ですかこのくだらない儀式のようなものは」


「ただの喧嘩だよ〜、大声で罵り合ってイライラしすぎて折れた方が負けだから、大体は楓がこうなってるけど」


「まぁ、そんな気はしてましたけど……」


「うっぜ……まじでこいつ毎度のごとくうぜぇ…………」

第十五話、お読みいただきありがとうございます。

良ければブックマーク、感想等よろしくお願いします。

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