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クワイエット  作者: 和林
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第十四話『芦谷の半分』

 賑やかな声。元気に走り回る子供たち。前を見ても後ろを振り返っても、街ゆく人々は楽しそうに笑っている。

 蜜はたった一人で、笑顔を見せることもなく、ひたすらに歩いていた。


「お嬢ちゃ〜ん! ぜひうちの服を見に来てちょうだいよ〜!!」


 どんな声かけにも反応せず、人混みをかき分けて突き進む。無視しているわけでもなく、蜜にはその声が、音が届いていなかった。

 彼女は自分の世界にいる。その世界から抜け出すことが出来ずに、ある人に助けを求めに行くのだ。


「——ワカ!!」


「ん……っさいなぁ。和香だってずっと暇なわけじゃないんだからねー。そんで、何の用?」


「なんか今日のワカ冷たいじゃん……ごめんよ、忙しかった??」


「いーや大丈夫っ。いいから早く要件言ってよね! どうせまた立ち直れなくなったとか言い出すんだろうけど」


「……街が、怖くて。ワカは話を聞き流してくれるだけでいいの。芦谷ね、ワカん家に来るまでめっちゃ人とぶつかってさ、その度に気持ち悪くてさ」


「でもワカに会いたかったから……でもまたリィのとこに帰るために、あの道通んなきゃいけないしなぁ……って。どしたらいいんだろ?」


「え、わざわざそんなことを聞くために和香のとこに来たわけ? やっぱ蜜は生粋のバカだわ。和香だったらメールとかで相談しよって考えるもん。和香の方が一枚上手だったってことね!」


「……いや、ワカには直接会って話したいし。てかどーやらリィに疑われてるっぽくてさ、妙に監視されてる感ってゆーか……元凶だと思われてんのかなぁ?」


「は? あってんじゃん。頭空っぽそうな松永ちゃんにすらバレてるってことはさ、他にも疑われてるんじゃね? きーつけな、和香は擁護出来ないよ」


「げ、元凶……だとは決まってないから。もしそうならアズちゃんにも土下座しなきゃだし、まずこの世界をなんとかせねば……!!」


「あー、例の八乙女ちゃん。入院した記録あったけど病気なの? 和香四期の子とあんま話してないから分かんない」


「それ芦谷も知らなかったの。イーちゃんはお医者さんだから知ってたと思うけど、アズちゃん的に言いたくない理由があったのかも。だから芦谷からは聞かないことにした」


「そっかー、その方がよさげ。ねぇ、てか相談とかなら美怜にすりゃいいじゃん? なんで毎回和香んとこ来るの?」


 その言葉で一瞬、息を呑んだ。蜜が毎回和香に相談しに行く理由なんて、単純明快なことだった。

 でも美怜に相談した方がいいと言われれば、確かにそうなのだ。面倒な質問を和香がわざわざすることなんて、裏に他の理由がある時しかない。

 蜜はそう思いながらも、笑顔に切り替えて和香の質問に答えた。


「そんなの、似てるからに決まってんじゃん!」


「似てる? 蜜と和香がってこと?」


「うん。これは芦谷がなんとなーく思ってるだけだけど、和香は出会った時から似てるなぁって思ってた。誰かを笑顔にしたい、明るくさせたい気持ちとか、勢いで乗り切っちゃうところとか?」


「ふーん……つまりは、和香に自分の姿を重ねやすいから相談しに来てるってことだぁね? それならなおさら美怜んとこ行きな! ずっと和香に頼っても蜜は殻から抜け出せないと思う」


「……芦谷、間違ってたのかな。今ワカの話聞いて、そうかもって思ったの。芦谷はワカがもう一人の自分だと……ううん、絶対そんなことないはずなんだよ? でもワカがオトに会いに行けって言うなら……」


「うん、じゃあ行け。今からでも、一旦美怜に会いに行ってこい!!」


「…………分かった。ありがと、ワカ。芦谷、なんか自分が分かってきた気がする」


 蜜は和香の家を飛び出し、また人混みをかき分けて、美怜の家へと向かった。

 蜜にとって彼女たちは、クワイエットというグループを最初から共に盛り上げてきた親友だ。だからこそ、言えることは全て打ち明けたい。

 和香があんなに強く言ってくれるのも、相手が蜜だからだ。本当の自分と向き合ってほしいから、おバカな頭をフル回転させて、そう考えるのだ。


「……自分が分かってきたなんて、どうせ嘘なくせに」




 蜜は和香の家から数分走り、和香と同じく頼れる存在である、(おと)美怜の家に到着した。

 周りの民家たちに比べて洋風な家の外観は、街の雰囲気にはそぐわないものの、住んでいる人間にはよく似合っている。

 玄関の扉をノックすると、可愛らしいポメラニアンを抱えた美怜が蜜を出迎えてくれた。


「和香から大まかな話は聞いたわ。あの子、もしかしたら私の家に芦谷が来るかもしれないって先に言ってたのよ。未来予知とか出来るのかしらね?」


「だってワカだもん。芦谷のことは大体知られてるからね〜。オトもそうだし、同期には弱み握られちゃってるよ」


「まぁ別に、その弱みに漬け込む人なんていないでしょうし、芦谷の弱みを見つけたところで……って感じよ。それで、私はどうしたらいいわけ?」


「途中聞き捨てならない発言があったけど、それは置いといて……簡単に言うとワカに相談したらコテンパンにされて美怜のとこ行け! って言われたから来た!!」


「……意味が分からないんだけど。とりあえず、私の意見を述べるわね。多分和香が言いたいことは、第三者の意見をもっと聞けってことなんだと思うし」


「そ、そうなのかなぁ? 芦谷にはよく分かんなかったけど……じゃあ、オトはどう考えてるの?」


「私は、そうね……」

第十四話、お読みいただきありがとうございます。

良ければブックマーク、感想等よろしくお願いします。

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