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初めての父娘喧嘩

結婚式の翌日。


優悟は仕事。


大きな仕事が舞い込んだらしい。


ホテルに大喜びのマネージャーが迎えにきて、さっさと準備を済ませ、行ってしまった。


何も言わず・・・。


あたしは優悟が出て行ってすぐに、ホテルをチェックアウトして、自宅に帰った。


ゆっくりできると思ってるんるんで帰ったあたしを待っていたのは・・・悲劇だった。


「ただいまぁ〜」と声をかけ、自分の部屋に向かう。


そしてあたしは絶句した。


階段を調子よく登り、たどり着いた自分の部屋。


ドアを開くと・・・そこには何もなかった。


昨日までそこにはあたしの部屋があった。


なのに・・・何もない。


クイーンサイズのベッドがない。


かわいくて気に入って買ったカーテンがない。


親友の如月きさらぎからもらったぬいぐるみがない。


ソファがない。


チェストがない。


クローゼットの中も何もない。


お気に入りの服の一つもない。


空っぽの部屋。


「美菜さんっ、美菜さんっ!」


美菜さんとはあたし付きのお手伝い。


小さい頃からお世話になってて、あたしのお姉さんみたいな存在。


一番信頼している人。


「はい、お嬢様。どうかなさいました?」


「どういうことなの?説明して。」


「2週間ほど前だったと思います。お嬢様の留守中に旦那様に呼ばれて・・・。」


美菜さんの話はこう。


2週間前、あたしは如月と一緒に旅行に行った。


2泊3日の卒業旅行。


その間にお父様は美菜さんたちお手伝いさんを集めて、こう言った。


「凜咲の結婚式の日、凜咲の部屋の荷物を全部運び出せるようにしてほしい。凜咲は結婚式が済んだら、優悟君と一緒にマンションに住ませる。」


昨日あたしと優悟をホテルに泊まらせたのは荷物を運び出すためだったんだ。


「お嬢様の荷物は全て昨日のうちにマンションに・・・。」


「マンション?」


「はい。優悟さんももう引っ越し終えてると思いますよ。」


「何それ・・・。」


「お嬢様・・・すみませんでした、黙ってて。」


「美菜さんは悪くないです。悪いのは全部あの人よ。なんでも勝手に決めて。・・・もう我慢できない。」


あたしは運転手の横瀬さんを呼んだ。


「横瀬さん、○○テレビまで。」


今、お父様はそこにいるはず。


あたしの我慢はここまでよ。


もう限界。


仏の顔も三度までよ。


「お嬢様、到着しました。」


「ありがとう、横瀬さん。少し待っててくれる?」


「はい、行ってらっしゃいませ。」


横瀬さんはあたしの気持ちをすごく理解してくれる。


あたしの気持ちを見抜く。


何も言わなくても今もわかってる。


だから笑顔であたしを送り出してくれた。


あたしは横瀬さんを残し、○○テレビ局の中に入っていった。


「ちょっと、そこの君!関係者以外立ち入り禁止だよ!!」


警備員があたしを捕まえる。


「沖田剣哉の娘です。急用があるんです、通して。」


あたしが名乗ると警備員は態度を180度変えて、


「あぁ、沖田さんの。いいよ、通って。」


すんなり通してくれた。


ムカつく話だけど、あの人人気あるし、顔広いし。


あたしは楽屋へと急いだ。


あの人の楽屋はもうチェック済み。


実はあの人のマネージャーと仲がいいあたし。


車の中で電話したらすぐに教えてくれた。


「ここね・・・。」


ドアには『沖田剣哉様』と書かれていた。


コンコンと軽くノックすると中からあの人の「どうぞ」という声がした。


「失礼します、お父様。」


あたしが入るとお父様は一瞬驚いた顔をして、すぐに元のクールな顔に戻った。


「何だ、凜咲。こんなところまで来て。」


「・・・るさい。」


「大きな声で言え。」


「うるさい!!このクソ親父。人の気も知らないで、何でも勝手に決めやがって!!」


お父様はあたしの言葉にとても驚いたらしい。


飲んでいたお茶を落としていた。


温厚でなんでも聞く娘は昨日まで。


ここにいるあなたの娘は怒りで動いてるのよ。


「誰が優悟と一緒に暮らすって言ったのよ?」


「・・・夫婦が一緒に暮らすのは当たり前だろう。」


「なりたくてなったんじゃない!好きで結婚した訳じゃない!!」


「もう決まったことだ。荷物も運んだ。優悟君のどこが気に入らないんだ?」


「優悟だけじゃない、あなたもです!!」


「馬鹿なこと言うな!俺の言うことを聞いてればそれでいいんだ。」


「それが嫌だと言ってるんです!」


「嫌とは言わせない!」


「嫌なものは嫌!!」


「お前はもう優悟君と結婚したんだ。マンションに帰れ。」


「嫌です。誰が帰るものですか。」


「お前は親の顔に泥を塗る気なのか?」


「泥だらけの顔に少し泥が増えるだけでしょう?」


パシッと乾いた音が響いた。


それと同時に左の頬に痛みが走った。


「・・・最低ね、お父様。どんなこと言われたって、何されたって、あたしは帰らない。さようなら!!」


あたしは楽屋を飛び出した。


こんなに分からず屋だったなんて。


あんな人、もう父親なんて思わない。


大ッ嫌い!!


あたしとお父様の初めての喧嘩はお父様の平手打ちで強制終了。


言い合いはしてたけどこんなに真っ向からぶつかったのは初めて。


だったのに・・・。


――「お嬢様!?どうなさったんですか?」


「・・・横瀬さん、如月の家まで行ってください・・・。」


「はい・・・。」


あたしの消えそうな声を聞き取って、横瀬さんは車を走らせてくれた。


――「お嬢様、着きましたよ。」


「ありがとう、横瀬さん。もう帰ってもらってもいいです。」


「・・・そうですか。じゃあ明日、迎えにきますね。」


「・・・お願い。」


横瀬さんは何も聞かなかった。


それがとても有り難かった。


ピンポーン。


「はぁい、どちら・・・凜咲?どうした・・・」


「如月・・・今日泊まってもいい?」


「とりあえず、上がりなよ。」


「うん・・・ごめん。」


如月はあたしの突然の訪問に驚きながらも招き入れてくれた。


――そして、あたしの話を夜中までじっくり聞いてくれた。


あたしが話疲れて眠ってしまうまで・・・。


途中何度も何度も電話が鳴った。


でも、あたしは一切出なかった。


すぐに出たら、今、あたしがここにいる意味がなくなる。


あたしは携帯の電源をオフにした。


そして、しばらくぶりに気持ちよく眠った。


結婚式の前から続いてた寝苦しさを忘れて・・・・・・。



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