和解
「ちょっ・・・凜咲!待て・・・ってどこ行ったんだよ。」
そんな声が聞こえた気がした。
優悟は必死にあたしのことを追ってきたんだ。
でもこんな場所に隠れられるスペースがあるなんて知らないから、そのまま走り去ったみたい。
あたしはそれを確認すると、堂々と外に出た。
お父様やお母様は何があっても絶対動かないだろうし・・・。
「あ~あ。これからどうしよう・・・。」
勢いに任せて家を出たものの、どこへ行こう。
如月の家?
タクシー拾わないと・・・あ、お金持ってない。
はぁ・・・。
仕方ない、歩こう。
ちょっと遠いけど。
――そのとき・・・・。
後ろからバタバタと足音が聞こえたと思った瞬間。
銀色の光が見えて、とっさに出た腕に焼けるような痛みが走った。
「きゃッ・・・!!!」
あたしを切りつけるとそれは闇へと走り去った。
切りかかったそれを後ろ姿しか捕らえられなかった。
「凜咲・・・?」
「優悟・・・助けて・・・っ!」
「どうし・・・おいっ!しっかりしろ!!!凜咲ッ!!」
悲鳴を聞いて戻ってきた優悟に助けて、と言ってあたしは意識を失った。
腕の痛みと恐怖で・・・。
――「う・・・・ん。」
「凜咲?目、覚めた?」
「優悟?ここはどこ?」
目が覚めると、横には優悟がいて、見慣れない景色がそこにあった。
「病院だよ。覚えてる?通り魔に遭ったんだ。」
「通り魔・・・。」
さっきの恐怖がフラッシュバックする。
「・・・いやっ!!」
「凜咲、落ち着け!大丈夫だから。俺がいる。」
「痛・・・。」
あたし、腕切られたんだ。
きれいに包帯が巻かれた右腕。
「腕の怪我は軽いみたいだけど、しばらくは安静にだって。先生呼んでくるな。目が覚めたって。」
「ん・・・優悟。」
「何?」
「やっぱりもう少しだけ・・・側にいて。」
「甘えん坊だな。わかった。」
優悟は部屋を出るのをやめて、あたしの近くに戻ってきた。
「大変だったな。」
「何が起こったのか、わからない。」
「凜咲を襲った奴は今必死で捜索してもらってるから。」
「何もわからないのに?」
「少しだけ・・・後ろ姿が見えた。その姿に見覚えがあって・・・。」
「・・・知り合い?」
「恐らく。ただ・・・そいつは俺をかなり恨んでる。」
「優悟を間接的に追い詰めるために、あたしを襲った?」
「多分な。」
♪~~
携帯電話が鳴り響く。
「ごめん、ちょっと外行ってくる。」
「うん。」
携帯電話を握り、優悟は部屋を出た。
――「もしもし、美波です。はい・・・え?捕まったんですか?そう・・・ですか。ありがとうございました。」
ピッ。
犯人が捕まった。
凜咲は安心できるかな。
俺を陥れるために凜咲を狙ったことは絶対に許せない。
けど、俺にも落ち度はあったのかもしれないな・・・。
凜咲のとこに戻るか。
きっと不安でいっぱいだろうし。
「ただいま。今な電話があって、犯人捕まったって。」
優悟は戻ってくるなり、そう言った。
「捕まった?」
「そう。だからもう大丈夫だよ。」
「・・・・・・・。」
犯人が捕まった。
確かに少し、ほっとした。
でも・・・ここには恐怖が渦巻いていた。
外灯の光を借りて放たれた銀の光・・・。
鋭い先端・・・。
切られる寸前に見えた男の・・・ニヤリとした口元・・・・。
頭から離れない。
「凜咲?」
「・・・・・。」
「大丈夫、落ち着け。犯人は捕まったんだ。明日から凜咲の身辺警護もつく。な?」
「・・・・・。」
「とりあえず、先生呼んでくるから。」
先生を呼びに行った優悟の後ろ姿に元気がなかったような。
・・・ううん、あたしの見間違いかも。
でも・・・忘れてた。
優悟が若手ナンバーワンの人気があるタレントって事。
有名芸能人の娘である事、タレントの妻であること。
ちゃんと覚悟しておかなければならなかったんだ。
今まで襲われたことなかったし、油断してた。
あたし・・・運転手付きのお嬢様で、守られていたんだ・・・。
――「凜咲!」
「お父様・・・!」
部屋の入り口にはお父様が立っていた。
後ろにはお母様の姿もある。
「・・・怪我は大丈夫か?」
「・・・・うん。少し痛いけど。」
お父様は真っ青な顔をしていた。
あたしのことで?
「よかった・・・無事で。」
「・・・ごめんなさい。心配かけて。」
「凜咲が襲われて、一番動揺したのはたぶんお義父さんだよ。」
「え・・・?」
衝撃だった。
「俺が救急車呼ぶために凜咲を抱えて家に戻ったとき、一番早く動いたのはお義父さんだった。」
「優悟くん、それは言わないでくれ。」
「すみません。でも、凜咲は知るべきだと思う。本当は凜咲をちゃんと愛してること。何よりも大切な一人娘ってこと。」
「お父様・・・。」
「・・・ああ、その通りだよ。凜咲は目に入れても痛くない、大切な娘。だから俺が一番信頼できる、君を婿に選んだ。」
お父様はずっとあたしのこと・・・。
あたし、バカだった。
そう・・・口を開けば悪態ついてしまうけど・・・きっとあたしもお父様にちゃんと愛されたかったんだ。
素直じゃなかった・・・。
ひねくれ者だった。
さっきも・・・病気が嘘だってわかったときだって、素直に喜べばよかったのに。
「お父様・・・ごめんなさい。あたしは誤解してた・・・。」
「凜咲にそんなこと言わせるようじゃ親失格だな。」
「ううん、お父様はちゃんといつもあたしのこと考えてくれてたんだよね?あたし、何にもわかってなかった。」
「・・・すまなかった。」
「ちゃんと伝わったよ、お父様の心。」
お父様がちゃんとあたしを思ってくれていたこと、よおくわかった。