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決裂

「凜咲ーっ、この荷物どこに置けばいい?」


優悟が段ボール箱を抱えながらあたしを呼ぶ。


「ちょっと待って。今手が離せないの!」


あたしも目の前にある段ボール箱の中身をいじっているから手が離せない。


――そう。


あたしたちは引っ越しの真っ最中。


結婚してすぐに追い出された家に舞い戻ってきた。


・・・のかな?


「優悟さん、こちらでよろしいですか?」


「えと・・・凜咲に聞いて?」


「お嬢様は、優悟さんに聞いてとおっしゃたんですが・・・?」


「あ゛ぁーーもう!じゃあ、そこに置いてください。」


「はい、わかりました。」


「優悟さーん、すみません。手を貸してもらえませんか?」


「はいー!今行きますっ。」


あたしは以前の部屋に戻り、優悟はその横の空き部屋だったとこ。


たまにあたしが潜伏していた部屋です・・・。


まさか誰も横の部屋に隠れてるなんて思いもしなかったみたいで。


小さい頃、昼から始まったかくれんぼで、夜まであたし見つからなかったこともあった。


隠れるのが上手かったのと、意外性で勝利した。


・・・懐かしい記憶だよね。


――朝から取りかかった引っ越しも夕方には片付いていた。


優秀なお手伝いさんのおかげですっ。


「やっと終わったね。」


「ほんと。凜咲、疲れただろ?」


「まあね。でも大丈夫だよ。優悟こそ。」


「俺は男だからヘーキ。」


「頼もしい旦那様なことで。」


「お嬢様、優悟さん、下で奥様と、旦那様がお待ちですよ。」


「はーい、今行きますっ。」


引っ越し祝いしようって言ってたっけ。


自分の家に帰ってきたってゆうのに引っ越し祝いも何もないような・・・まあいいよね。


――「凜咲、優悟君、早速で悪いが・・・あ、すまん。まず席に着いてくれ。」


部屋に入ると、お父様とお母様が待っていた。


「ごめんなさい、お待たせして。」


優悟はそう言うと言われるまま席に着いた。


あたしも席に着く。


「今日は二人に謝らなければならんことがある。」


「え?」


また引っ越しさせるとかそんなことじゃないよね?


それよりお母様は笑顔だし・・・。


「今日、病院に行ってきたんだが・・・俺は・・・健康、だそうだ。」


「そう、健康が一番よね・・・って、ええーーーっ!!?」


ちょっと待って、お父様は余命半年・・・。


その後のゴタゴタで忘れかけてたけど・・・。


「よくある話なんだが、同姓同名の患者さんのカルテと入れ替わってたらしい。」


「確かによくある話・・・だけど。」


そんなの小説とかドラマの中だけだと思ってた。


「じゃあお義父さんは・・・?」


「まだまだ死なない。孫の顔見るまでは殺しても死なない。」


「・・・・・・・。」


あたしの心配を返せ!


お父様の健康なんか知らないわよ!


「・・・お父様。」


「なんだ?凜咲。」


「一発殴ってもいいですか?」


頭にきたを通り越し、今までで一番、お父様に殺意が芽生えた瞬間だった。


キャラ崩壊?


そんなの考えない。


あたしの今までの恨みが。


積もりに積もった恨みが。


怒りが。


爆発した瞬間だった。


「凜咲、落ち着けっ!!」


荷物の整理で疲れたはずなのに、体は軽かった。


―お父様に殴りかかろうと席を立った瞬間、優悟に捕獲されて本当に殴るまでは至らなかったけれど。


「俺だって、本気で遺書も書いた。凜咲や紗衣香を遺して先に逝くことも苦しかった。」


※紗衣香というのはお母様の本名。


「何でもっと早くちゃんと調べなかったのよ!!」


「詳しく検査してもっと短い余命を告げられたりしたら立ち直れないだろ!」


「そうかもしれないけどッ!!」


「二人が言い合ってても終わったことでしょ?」


「お母様はお父様に腹が立たないの?」


「当たり前じゃない!竜聖さんが健康でよかったって、凜咲はどうして喜べないの?」


※竜聖というのはお父様の本名。


そしてお母様は冷静に言った。


「そうだよ、凜咲。お義父さんが元気でよかったって。」


「優悟も敵なんだ。」


「敵とかじゃなくて・・・素直になれよ。」


「あたしは素直よ!!だからこうして・・・・。」


「意地っ張りはお父様に似たのよね~。」


「意地も張ってません!」


あたしは素直に言ってるじゃない。


「だから・・・もういいじゃない。終わったことでしょ?」


一人、傍観者になっていたのはお母様だった。


「竜聖さんは死なない。孫の顔も見れる。それでいいじゃない。」


「よくないっ!!」


「何がよくないのよ?」


「・・・何もかも!!!」


もう何言ってんのか、自分でも見失った。


でもお父様にもお母様にも優悟にも腹が立った。


あたしは部屋を飛び出した。


後ろから、


「あ~あ、行っちゃった・・・。」


「ちょっ、凜咲!走んなッ!!」


優悟とお母様の声が聞こえた気がした。


でも、止まる気もなく、あたしは一直線に外へ向かった。


今日引っ越してきた実家に、いたくなかったから。


――暗闇に潜む不気味な笑みにも気付かずに・・・。

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