晴れ 時々 曇り
あたしのお腹に小さな命が宿った。
結婚して半年。
・・・そもそもこんなに早く結婚することになるとは思わなかったけど。
こんなに早く親になるなんて・・・。
強がってみるけど、まだ少し信じられないし・・・。
ちょっと怖いよ・・・。
――午前1時を少しまわった頃。
優悟は帰ってきた。
ほのかにお酒の匂いが漂ってきた。
「ただいま~」
「・・・・・」
いつもはあたし、「おかえり」っていって玄関まで行くけど、今日は・・・。
「凜咲・・・?もう寝てるの?」
「・・・おかえり。優悟。」
「よかった~、起きてたんだ。ごめんな、待たせて。」
「ううん、平気。あ、あのね・・・話があるの・・・。」
「凜咲も?」
「え、優悟も?」
優悟の顔から想像すると多分良いことなんだと思う。
あたしの話はかなり驚くことだから後でゆっくり・・・。
「優悟の話って何?」
「あぁ、俺な、大河ドラマ決まりそうなんだ!」
「嘘・・・っ。」
「明後日に正式に決まるんだけど、今日マネージャーに連絡あってさ。」
「よかったね、優悟!やったじゃん。」
「主役ではないけど、鍵を握る人物なんだって。」
「優悟、また人気出ちゃうんじゃない?」
「だといいけど。で、凜咲の話って?」
「あ~、えっと・・・驚かないで聞いてね?」
「うん・・・?」
「あたしね・・・・今日、病院行ってきたの。」
「凜咲、どこか悪いのか!?」
「・・・あたしのお腹にね・・・赤ちゃんがいるの。」
「・・・マジで?」
「マジ。大マジ。」
「・・・ここに?」
あたしのお腹にそっと触れながら優悟は言った。
「いるの。今、3ヶ月・・・。」
「・・・俺の・・・。」
「あたしと優悟の子・・・。」
「ほんとにここに・・・。」
信じられないという顔をしながら、あたしのお腹を愛しそうにさする。
「優悟・・・あたし・・・。」
「やったな!凜咲!!俺たちの家族が増えるんだ。」
「産んでもいいの?」
「何言ってんだよ!!当たり前だろ!!!そっかぁー、俺父親になるんだ♪」
「だよ、パパさん♪」
「おーい、聞こえてるかー?俺がお前のパパだよー♪元気か?」
あたしのお腹の向かって話かける優悟。
よかった、優悟が受け入れてくれて。
堕ろせって言われることも覚悟してた。
あたしより年上っていっても、3つだけで、21歳。
仕事も順調で今は・・・って言われることを一番恐れてた。
だから、喜んでくれたことが、凄く嬉しかった。
――翌々日、正式に優悟の大河ドラマの出演が決まった。
そして・・・あたしたちはその報告も兼ねてお父様とお母様に会いに行った。
久しぶりの実家・・・。
やっぱり緊張した。
よくこんな家に18年も住んでたな、なんて思いながら・・・。
そして気が重かった。
「柳さ・・・お義父さん、お義母さん、今日は突然お邪魔して申し訳ありません。」
「気になさらないで、優悟さん。」
お父様は黙ったまま。
「今日伺ったのは、今度の大河ドラマの役を戴いたのでその報告と・・・子どものことです。」
「子ども?もしかして・・・。」
お母様は気づいたようだった。
「あたし、妊娠したの。今3ヶ月で・・・。」
「まぁ・・・そう!やったじゃない、凜咲!」
思いの外、お母様は喜んでくれた。
「産んでもらおうと思ってます。」
「私たちに出来ることがあったら何でも言ってちょうだい。凜咲も不安になることもあるだろうけど、力になるからね。」
「ありがとう、お母様。」
「私、ついにおばあちゃんになるのねぇ。」
「・・・ごめんなさい。」
「何言ってるの!喜んでるのよ?」
「・・・そう?」
「当たり前でしょ?娘より、孫よ!!」
・・・喜んでいいの?悪いの?
「ねぇ、凜咲。この家に戻ってくる?」
「え!?」
「ほら、この家の方がいつでも一人は居てくれるし、何かあったとき安心じゃない?」
お母様がいきなり言い出した。
この家に戻ってくる・・・?
「そうよ、そうしなさい!ね?優悟さんもそう思わない?」
優悟に話を振った。
「あ、はい。そうですね。僕もその方が安心できます。仕事で帰れなかったりするととても不安になりますし。」
「そうよね。優悟さん今、忙しいものね。じゃあ、早速手配しましょ。」
お母様はそう言うと立ち上がってさっさと部屋を出て行った。
知らない内に決まってた。
この家に戻ること。
でも、それはもういい。
確かに一人じゃ不安で仕方ない。
誰かはいつも居てくれるこの家は安心できる。
――でも・・・問題が一つ。
部屋に残されたあたしたちとお父様。
そう。
あたしはお父様とはあの喧嘩以来、一切話していない。
つまり・・・めちゃくちゃ気まずい。
優悟も気付いたらしい。
あたしとお父様の間に流れる、ピリピリとした空気を。
あたしは意地でも話すつもりはなかった。
「優悟、帰ろうか。用は済んだし。引っ越すなら準備しなきゃ。」
さっさとこの雰囲気から逃れたかった。
「ゴホン・・・ちょっと待ちなさい。」
沈黙を破って、お父様があたしに話しかけてきた。
あたしは無視して部屋を出ようとした。
「待ちなさいと言っているだろう。」
待つ気はさらさらない。
ドアノブに手をかけた瞬間――・・・。
「凜咲、話すべきだよ。」
優悟があたしの肩をつかんだ。
「どうして?あたしは話すことなんて何もないわ。」
「お義父さんにはあるんじゃないか。」
「そんなの知らない。」
「今の凜咲、子どもみたい。意地になってるだけ。」
「そうよ、子どもよ。でもね、子どもでもちゃんと自分の意志持ってるの。」
「話すべきだよ。絶対に後悔する。」
「しないわ。」
「俺、部屋出てくから、父娘〈おやこ〉水入らずで話しなよ。」
優悟はいつになく真剣な眼差しでそう告げると部屋を後にした。
その直後、お父様はあたしに話してきた。
「凜咲、おまえに大切な話がある。座ってくれ。」
その声は消えてしまいそうな声だった。