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ニャンだふるワン  作者: 自由人書
99/521

ニャ~・・・99

「おい、レイちゃんだろ」


林に面している道から林の中に入ると、突然声を掛けらえた。驚いた僕は声を上げそうになった。声の主は学校の同級生? ・・・・・・学友かな、学年が無いので学友だ。


レイモンド君は薪を積んだ背負子を背負って、僕の方に向かって歩いて来る。小学校にある二宮さんの銅像は手に本、レイモンド君は手に剣、その剣をブンブンと振り回している。


「レイちゃん、ここで何しているんだ」


「ニャ~≪こんにちは、レイモンド君の家はこの近くだったね≫」


「そうか、猫だから散歩だな。僕は薪拾いに来たんだよ」


やっぱり薪拾いだ、ミヤちゃん達もここに拾いに来ているんだ。林は港の方に向かって段々と細くなっていく三角形で、僕のいる場所は山の麓からだいぶ上がって来たところだ。ここから斜めに向かうと、石切工房の裏に出る。


「家の手伝いニャン?」


「ここだと誰もいないから、話すんだな。そうだよ、俺の家は鍛冶屋だろ、今は手伝いだけど剣の鍛冶屋になりたいんだ、だから、木炭を作る為に材料の木を拾いに来たんだよ。これから俺の家に来ないか、作業を見せてやるよ」


鍛冶屋さんの作業か、アレク君のところでも見た事あるけど・・・・・・暇だから、見に行くかな。


「見に行くニャン、楽しみニャン」


「よし、決まりだな。剣は仕舞って・・・・・・抱いていいんだよな?」


「はいニャン」


レイモンド君は持っていた剣を腰に有った鞘にぶら下げて、僕を抱き上げた。


この世界だと手に本も持って歩くより、剣だな。本の知識も大事だけど、先ずは剣、街の外に出れば僕の知っている大きい動物と魔物に気を付けないといけない。


レイモンド君の家は西側の林の横に隣接している、林の端を港の方に向かって家に向かう僕達。


「撫ですぎニャン、撫ですぎニャン」


「ごめん、ついつい、今のうちにと思って・・・・・・」





「どうだい、煙が出ただろう。こっちの木炭からは煙が出ないんだよ」


レイモンド君の家の裏には木炭作り用の釜があった、その前で拾って来た薪用の枝と木炭を燃やして違いを見せてくれた。


「煙が出ないニャン、違うニャン」


焼肉屋さんの炭は、煙も変な匂いもしない様に加工してあったんだな。備長炭がいいと聞いた事があるけど、この木炭と何が違うんだろう、材料なのかな。


「そうさ、工房の中が煙だらけになるし匂いのも困るだろ、それと燃えた時の温度を上げるのに薪のままだと直ぐに無くなるんだ。だから、鍛冶職人はまず、木炭作りを覚えないといけないんだよ、最初の修業が木炭作りだ」


僕に薪と木炭の違いを説明してくれたレイモンド君は、窯の中に入って行って、拾って来た材料の木の枝を丁寧に隙間がない様に立てている。窯の中には凄い量の木の枝が入れられていた、さっき拾って来た量の数十倍は置かれているようだ。一遍に沢山作るんだな。


「沢山あるニャン、こんなに作るニャン?」


「・・・・・・材料の枝は沢山あるんだけど、木炭にしたら半分よりも小さくなるんだよ。だから、完成すると竃の大きさの半分以下の木炭が出来るんだよ」


半分以下になるのか、僕は外に出て窯の大きさを確認した。こんなに大きい竃の半分・・・・・・それでも凄い量の木炭が出来るんだろうけど、半分にしかならないのかと思ってしまう。


鍛冶屋さんの最初の修行が木炭作り。確か、炭焼き職人さんの間で何かことわざみたいのがあったような、桃栗三年、柿八年・・・・・・これと同じ様な例えが。


「よし、拾って来たのを入れ終わったぞ、次は、木炭切りだ」





「レイモンド、帰っていたのか、切った木炭を持って来てくれ」


「分かった」


木炭を同じ大きさに切る作業をしていたレイモンド君に、家の裏のドアから顔だけを出した男性が、要件だけを伝えると建物の中に戻った。今の人はレイモンド君のお父さんかな、髪の色は同じ赤色で、袖の無い皮のチョッキを着ていた。


「お父さんニャン?」


「そうさ、おやじの名前はアイザック、武器鍛冶屋でアイザックを知らない人はいないんだぜ」


確か凄腕の職人さんで、ミヤちゃんが武器を買うならレイモンド君のお父さんから買うと決めていた。誕生日に自分のプレゼントを買わないのもお金を貯めてアイザックさんの作った武器を買う為だ。


武器か・・・・・・異世界に転生したら鍛冶屋さんもいいかも、修行は大変かもしれないけど、凄い名刀を作るのも悪くないな、現代の日本で出来ない事を仕事にしたいよな。


木の株の上で木炭を同じ大きさに切っていたレイモンド君は、頼まれた木炭・・・・・・均一の大きさの木炭を木箱に詰めて裏の入口から中に入って行った、僕もその後を追う様に建物の中に入った。





「小さくて可愛いお客さんだな」


僕はドアの所に立ち止まり、作業場の様子をキョロキョロと動いて見る。


雑貨などの日用品の作業場と違って、ここにある道具の全てが剣を作る為に大きい様だ。大きい木槌は大人の男性しか持てそうにないくらい大きい。


アレク君の家でメグちゃんは、トントンとハサミになる材料を叩かせて貰ったけど、ここでは大人の男性しか剣を叩く工程が出来ないだろう。レイモンド君は1本の剣を自分で作ったと言っていたけど、あの大きい金槌を振るうことが出来たんだな、それと、どれくらいの期間で剣は出来るのかな。


「父さん、剣を作るところをレイちゃんに見せたいけどいいかな?」


「おう、怪我したら可哀そうだから、目を離すなよ」


「はい」


有名な鍛冶職人さんが、剣を作るところを見せてくれるのか、光栄だな。


アイザックさんは僕にニヤリと笑い、材料を加熱する炉の中に均一に切った木炭を入れた。レイモンド君はお手伝いをするようで、空気を送る為に機械の仕掛けを前後に動かした。


温度を上げて材料を加熱するんだな。ゲームの世界、アニメの世界でお馴染みの高温にあげる作業が今、行われている・・・・・・。


長かった材料の加熱は終わった。大きいペンチで挟むと、叩く台の上に赤くなった材料を載せて叩き出した。


「ニャ~≪あの板が剣になるのか≫」


赤く熱しられた材料の板は分厚い、沢山叩くと細くなっていくんだ、凄いな。


それにしても熱いな、今は夏、暖かい陽気の中で寝るのが大好きな猫の僕もここまで暑いとこの状態では寝れそうもない。





「合っている、本当に字が読めるんだな、レイモンドよりも頭がいいのか」


まあ、そんな感じだね、この街で使われている文字なら完璧だ。


「僕よりも文字が読めるのか・・・・・・先生達が褒めるのは当たり前だったんだな」


へ~、先生達が僕を褒めてくれたのか、どんな風にかな。


「勉強したニャン、難しくないニャン」


「もしや、俺よりも利口そうだな、あははは・・・・・・文字は書けるのかな、レイちゃん」


とても楽しそうに笑うな。豪快な声を上げて笑うアイザックさんは素晴らしい職人さんだ。


「ペンが持てないニャン、書けないニャン」


「そうか、持てないのかな。それは残念だな、手紙の代筆とかも出来たのにな」


手紙の代筆、猫学生の新しい仕事かな、ペンが持てないから、何も書けないけどね。


今、僕達がいるのは2階のリビングだ、作業を見せてくれていたけど・・・・・・飽きてしまった僕は抱かれて2階に連れて来られた様だ。鍛冶屋のイメージの材料を叩くところまで見たから、まあいいのかな。剣が出来るまで見ていられない、何日掛かるか分からないほど大変そうだ。


今しているのは、恒例になりつつある猫の僕が話す事、文字が読める事をアイザックさんにレイモンド君が得意げに話して、本当の事だと証明したところだ。


証明するのに読んだ書物は、鍛冶屋さんに伝わる秘伝書で、節々にニャンを入れるのを忘れないで読み終えた。


「父さん、猫なんだから手紙の代筆はしなくていいんだよ、寝ているだけで可愛いんだから」


「そうだな、小さい猫は俺の心を癒してくれる。王都のドゥサックに負けない剣を作る、新しい材料がどこかにないかな、まだ誰にも知られていない鉱物でも・・・・・・」


王都にライバルが居るのか・・・・・・剣の良さはどうやって比べるんだ。日本刀なら、ワラを切るあれだよな、知らないけど決定だ。剣だと魔物をぶっ叩くとかなのかな、それとも切れ味がいい剣もあるのかな。


悔しがっていたアイザックさんが突然席から立ち上がり、引き出しからペンを出して来て、木の板に文字を書き始めた。何か思い付いたのかな・・・・・・剣の材料の事とか。


「よし書けた、レイちゃんこれを読んでくれ」


テーブルの上で撫でられていた僕の前に板が置かれた、書いた文字を読んで欲しいらしい。


「・・・・・・アイザックさんニャン、世界一ニャン、剣の鍛冶屋ニャン、有名人ニャン」


「・・・・・・父さん嬉しい?」


「とても嬉しいぞ、俺は一番だ」


読んだ板に書かれた文字をもう一度、声に出さないで読んでみる。


《この世界で一番の剣の鍛冶屋はアイザックだ》


良い剣を作るためのアイデアを思い付いたんじゃないんだな、文字の読める僕に読ませて、アイザックさんはとても嬉しそうだ・・・・・・・本当に良い剣を作れるのか、とてもそんな人に見えなくなってきたよ。


自分で書いた文字、読んで貰った事がとても嬉しいんだろう、今も文字を見て満足気に何回も頷ている。


もっと喜んで貰おう・・・・・・何か名言みたいのはないかな、少ない知識をフル動員すれば言葉が思い付くはずだ。


楽しそうな二人はほっといて、よく考えるんだ。天下の名刀・・・・・・変だな、史上最高の名刀・・・・・・いい感じだな、史上最高の名刀アイザック・・・・・・名刀ザックソード、良い名前だ。名刀ザックソード、これだ。


何処にでもある石の壁で研いできた僕の爪、インクに付けるのは少し嫌だけど、文字を書こう、書いた事は無いけど簡単な筈だ、丸びを帯びた文字が無くて良かったな。


「おい、何をしているんだ」


「汚れるぞ、レイちゃん」


驚いている二人をしりめに僕は板の端に書く、人生初の文字を書くぞ。


横書きの文字が書きやすい様に板の横に移動する。文字数が多いので、それを計算して一文字の大きさを決めた。バランス良く、見えやすい様に。


「・・・すげえ、文字を書いているぞ、バランスが良くて見やすいな」


「何でも出来るんだな・・・・・・俺は文字を書いた事がないけど、上手いな」


「レイモンド、文字ぐらい書け、学校に通っているんだから」


「仕方ないんだよ、文字を書く機会がないよ」


そうだな、メグちゃんとミヤちゃんは僕の説明をメモしたり、看板を書いたりしているけど、他の事で文字を書くのを見た事がないぞ。確かに書く機会がないんだな。


≪史上最高の名刀ザックソード、ここに生まれる。見届け人・・・レイ、雑用・・・レイモンド君≫


二人の話声が聞こえていたけど、最後まで集中して書く事が出来た。


「書けたニャン、いい出来ニャン」


直線だけの文字だから、上手いも下手もない。なんてすばらしい世界なんだ。中学生の僕の字は壊滅的だった・・・・・・書いた本人が読めないんだから。


友達にノートを貸した事があるけど、二度と貸してくれろ言われなかったな。隣の席の女子は凄く綺麗なな字を書いていた、成績も優秀だったな。


「おお~、素晴らしい綺麗な文字、それに、いい言葉を書いてくれたんだな、史上最高の名刀・・・・・・」


「名刀か、おやじより先に俺が作るぞ」


「先ずは、木炭作りを完璧に出来るようになるんだな、それからだぞ。後3年は基本を忠実に出来るように努力する事だ。ザックソード・・・・・・ザックザック切れるな」


駄洒落か、ザックソードはアイザックさんの名前から付けたんだけど、ザックザック切れるか、そんな言い方があるとはね。


「3年も基本を・・・・・・」


恐ろしく暑い中で作業を見学していたから疲れた僕は、二人が真剣に鍛冶の作業について話し出したので帰る事にした。カンカンとうるさい作業かもしれないけど、エアコンが無ければドアは開いている。でも、エアコンが有っても使わないだろうな、部屋の中の湿度とかが良い剣を作るのに影響してそうだ。


ダジャレは聞き流す、これが男の友情。レイモンド君は、お金がザックザックと言っていた。

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