ニャ~・・・33
「ジャン、ママ、ママ、ママ、ママ」
「バブー、マ・マ・・バブー」
≪マ≫を僕も練習した、ジャンに≪ママ≫を覚えて貰うためだ、僕よりもジャンの方が言葉を覚えて話すのが早そうだ、意味はそのうち分かるようになるだろうから、僕はジョンに聞かせるだけでいい、そのうち真似てくれるだろう。
「シンシア、ママ、シンシア、ママ」
「バブー、バブ、マ・・・マ」
「ジャンとレイちゃん、何しているの?」
シンシアさんが台所から戻って来たようだ、寝たふりをしよう。
「ジャン、お腹は空きまちたか・・・・・まだ、大丈夫でちゅね」
「キャッキャ、バブー」
そうだ、ママは言っちゃ駄目だぞ、誕生日に言えばいいんだから。
「レイちゃんは、お寝むでちゅか、ミヤ達を起こして来て下さい」
揺すらないで、寝たふりが続かないよ・・・起きてもいいのか。
「ミヤ、メグ、ニャ~≪起こしてきます≫」
「お願いよ~」
「バブー、アウ」
「ご機嫌でちゅね、いい子でちゅね」
よし、ジャンは『ママ』と言わなかったぞ。
ミヤちゃん達と港に向かっている、本日のマッサージの予約は入っていないので、岸壁を走りまわって体力作りをするつもりだ。
「ミヤ、メグちゃん、レイちゃん、おはよう」
「アカリ、おはよう、何しているの?」
「アカリちゃん、おはよう」
「アカリ、おは」
「レイちゃん、おはよう?」
僕はミヤちゃんの首の所でアカリちゃんに手を振る、意外と色々な単語が言える事が判明してきた。日頃の努力は正確に発音する事で、今までに言えた言葉を並べたら言える事が多いのを考え付かなかった。名前を呼ぶ事ばかりを考えていたので、≪おは≫も言えるのに気が付いて、とっさに挨拶をしたのだ。
「す・ご~い、レイちゃんが朝の挨拶をした・・・・・・あああ~」
「何よメグ?」
「何なのメグちゃん?」
「す・ご~いが、二つ有ったんだよ。挨拶とアカリちゃんの名前をレイちゃんが言ったんだよ」
よく分かったな、僕も気が付かなかったよ。アカリちゃんの『カ』の練習はしていたけど、『おは』をとっさに言っただけ、名前もちゃんと言えていたんだな、無意識だったよ。
「嬉しいな、レイちゃんありがとう」
「もしかして、今までの言葉を並び替えれば、もっと言えるんじゃないの、例えば≪アシ≫とか、母さんの名前が言えるんだから言えそうね、レイ、≪アシ≫と言ってみて」
「アシ」
「お姉ちゃん、す・ご~い」
「そうすると、レイちゃんは色々話せるのよね、意味は分かっているのかしら」
なるほど、シンシアさんの名前だけでも何通りかの単語が作れるのか、安心とかも言えるんだな、紳士、足、獅子、シンシアさんの名前だけでも何個かある、他の人の名前も言えるから・・・・そのうち会話の出来る猫になるな、それでいいのか? 非常に良くない様な、凄く嬉しい様な、どちらなんだ。
「レイ、≪アシ≫で思い当たる事はあるかな?」
「ミヤ、アシ、メグ、アシ、アカリ、アシ、ニャ~≪皆の足≫」
「足が分かるのかしら」
「それなら、レイちゃんに足は何処か指して貰えばいいよ」
なんか、非常に馬鹿にされているような、そんな事をしなければいけないのかと、ミヤちゃん達からすると猫がどこまで知っているのか知りたいかもしれないけど、僕からすると中学生が足し算が出来るか試されているようで少し面倒だ、あたり前の事を聞かれるのは疲れるんだよね。
僕が色々と考えていると地面に降ろされた、何をするつもりなんだ。
「レイ、足が分かれば触ってみて」
ああ、なるほど、足を触ればいいのか・・・・・・間違えた方がいいのか、それとも正解した方がいいのか、今までの僕の行動だと正解していないと一貫性が無くなるよね、皆の会話が分かっていたから行動もしていて、皆も分かっていると思って指示を出している、それに従ってきた、まあ、初めから行動通りに素直に答えよう。
「ミヤ、足、ニャ~≪ここだよ≫」
「合ってる、レイ、足が分かるのね」
「レイちゃんは天才か」
「あれ、でも普通だよ、私達の会話に頷いているんだから、話せるようになっただけだよね」
「そうか・・・・・・メグ、意外と頭が良いのね」
「うん、そうでしょう」
「いいのかしら」
メグちゃんは『意外と』に気が付かないで、『頭が良いのね』に凄く反応している、照れているのがとても可愛い。
「ところでアカリ、ここで何しているのか聞いたんだけどその答えは?」
「そうか、忘れてた、お母さん達が歩いているミヤ達が見えて、裏から家に連れて来てと頼まれたの」
「頼まれた?」
「この可愛い猫がレイちゃんか、こんなにキレイにしているなら最初から店内に入っても良かったな」
「ニャ~≪おじさん、ひげが当たって痛いよ、スリスリは止めて~≫」
「だから言っていたでしょう、レイちゃんはキレイ好きで、清潔だと」
アカリちゃんの両親に呼ばれて厨房に来た僕達、雇った女性に客が少ない朝なのでお店を任せて、厨房にアカリちゃん家族と僕達が集まった。
「ランディさん、なんで呼んだんですか?」
アカリちゃんのお父さんはランディさんか、サキさん達と同じ金髪だ。
「ああ、すまん、つい可愛いので我を忘れていた。ミヤちゃん達皆のお陰でお客さんが凄く増えた、ありがとう。従業員も雇えるなんて考えてもいなかったよ。それにだ、見てくれパンを焼く石窯を追加する事も出来たんだよ、みんなのお陰だ」
パンを焼く石窯が全部で4個並んでいるけど、真新しい石窯が増えている、その石窯は今までの1.5倍の大きさがある。僕の知っているパンのオーブンは銀色で、3段か4段位を一緒に焼ける、でも、石窯は1段だけしか焼けない構造だ、注文が多いと大変だ。
「本当だ、石窯が1個増えてる」
「新しいと美味しいのが焼けるのかな」
「いや、美味しさは変わらないよ、沢山焼けるだけだ」
「ランディ、お礼を出さないと」
パン屋さんのお礼だと美味しいパンだよな、柔らかいパンはこないだ食べたからそれよりも美味しいパンなのかな。
厨房の作業台に何かを載せたぞ、床に降ろされたので、僕からでは見えない。
「お肉だね」
「お肉だけど加工した肉でハムと言うんだよ」
「うちで食べている塩漬けのお肉と違うの?」
「ハムは味が付いているんだ、それもとても美味しいんだ」
お肉と聞いてミヤちゃんが反応している、甘いお菓子が大好きだけど、お肉も大好きなんだよな。メグちゃんは甘い物全てが大好きで、甘くなっていればなんでも食べるだろう。
「ハム?」
どうやらアカリちゃんはハムを食べた事がないようだ。
「ハムは貴重なんだよ、だからアカリにも食べさせた事がない」
「偉そうに、貴方も食べた事がないでしょう」
「アハハ、まあそうだ、俺も初めてだ、売り上げも上がっているので奮発した、それに食べてみたかった」
「早く食べようよ」
「ランディさん、早く食べよう」
「ニャ~≪ハムか、西部の地下のタケダハムはとても美味しくて、母さんは池袋に行くと必ず買って来てくれたな、タケダハムは高級感のあるハムだった。もう食べれなんだな≫」
そうだ、特注の骨付きのハムも美味しかったな。骨付きいい響きだ、アニメの骨にお肉が付いているのを焚火で焼いているのを見て、美味しいそうだなと思っていたな。そのアニメとは形が違うけど骨付きハムは別物だな。他の人にも食べて貰いたいぐらい美味しいんだよな。まあ、骨付きハムは裏メニューだけどね。
「先ずは薄く切らないと美味しくないんだそうだ・・・・・誰か薄く切ってくれ」
誰も返事をしない、サキさんかランディさんしか包丁を使ったことがなさそうだぞ。僕は使った事があるけど、この手だと握れないから何も出来ないな。
「私がやりたい、いいでしょう、ランディさん」
「そうか、切ってくれるか、サキ、切り方を教えてあげてくれ」
「私なの、薄く切ったことないのよね」
下からだと見えないけど、まな板の上にハムを載せて薄切りにするんだけど少し冷えていり・・・・半解凍位が切りやすいはずだけど冷蔵庫がないこの時代だと柔らかい状態で切らないといけないんだな。
「私、お皿取りに行ってくる」
「アカリちゃん、私も」
見たくない作業を回避するために二人はいなくなった。
「俺は見ているぞ、参考になる」
「ミヤちゃん、手に力が入りすぎ・・・・手が切れちゃうわ、もう少し離して切るのよ」
「そうですか、ギリギリの方が上手くいくと思うんだけどな」
この世界の人は薄切りをしないのかもしれない、ハムを作った人や買いなれている人達の家なら薄切りにも出来るかもしれないけど、普通の家庭は薄切りにした肉を料理に使わないかも。
僕も見学をする為に作業台の上にジャンプする。
「おお、見たいのか、レイちゃんだったな凄い度胸だ」
まな板の上にあるハムは僕のイメージより小さい、それを切ろうとしているミヤちゃんの左手の形が悪い、指を伸ばした先で切ろうとしていた。
「ミヤ、折る、ミヤ、折る」
僕は夢中で指示を出した、怖い、このままだと、とても怖くて見れない。
「レイ、何を折るのよ?」
今まさに切ろうとしていたところに僕が声を掛けたので切るのを止めてくれた。どう伝えればいいのか分からないけど、猫の手を包丁の横にそえる。猫の手の様にと例えがあるけれどミヤちゃんに分かってもらうのは大変そうだ。
最後の手段で、僕の手を包丁に当てて上から押す、この動作を3回続けた。
「レイちゃんはミヤちゃんに何か伝えたいのね、何かしら」
「おい、ハムの切り方だよ、よく分からんが、薄く切るコツか・・・・・・正しい持ち方のどちらかだ」
「そうなのレイ」
「はい、ニャ~≪イノシシとハリーさんの名前が言えれば≪ハイ≫も言えるんだな≫」
「今、レイちゃんが『はい』と言ったわよね」
「お皿持って来たよ・・・・・・まだ切れてない」
「お姉ちゃん、まだ切っていないの」
「これからよ、レイが何か伝えようとしているのよ」
「その『はい』は、どちらなんだ」
「レイ、薄く切るコツなの?」
「ニャ~≪違うよ≫」
「正しい持ち方なの?」
「はい」
「す・ご~い、レイちゃんが『はい』て言ったよ」
「持ち方か、レイちゃんもう一度、同じ事をしてみて」
サキさんに同じ動作をしてと言われたので、ミヤちゃんの包丁を持っている手を上から押す。
「はい、ニャ~≪よく見てて下さい≫」
1回では分からない様なので、ミヤちゃんの手を僕が誘導してそえている手が切れないように上下させた、この動作が分かれば指を切らないで食材を着る事が出来る。
「そうか、最初にレイちゃんが折ると言っていたのは、曲げるだったのよ、そうでしょう?」
「はい、ニャ~≪そうですよ≫」
「ミヤちゃんの左手の指を曲げてハムに乗せると指を切らないですむのよ、食材を切る時の基本なのかなのかもしれないわ」
「そうか、安全に切る為なのね、よし、やってみます」
なんとか伝わったようだ、ミヤちゃんがハムを切り始めた、最初なので少し厚いけど仕方ない、薄く切るのは難しいから。
「切るのを見ていたら、なるほどと思ったよ。これなら指を切る心配はない、上げ過ぎなければ指を切る事もない、ミヤちゃん、少し動かして見て」
「はい、こうですか?」
「なるほどね、包丁の添える部分と同じ角度にして、添えている指の長さが短いと包丁を動かすと危ないのよ、添えている部分が長いと包丁が乗りにくいんだわ」
「私にも分かりました、ハムを切ってみます」
良かった、これで恐ろしい光景を見なくて済んだ。
「なんだ、手を切るかと思ってお皿を取りに行ったのに、でも、切らなくて良かった」
ミヤちゃんはハムを切らないで、切る動作を何回も試した。ミヤちゃんは頷くと薄切りのハムを1枚切る事に成功した。
僕は、中華屋のおじいちゃんに持ち方と切り方を教えて貰ったんだよな、キャベツの千切りをなるべく薄く切るように言われたな。
「この通り、薄く切れるようになったよ」
「切れたハムをお皿に乗せよう」
切れたハムをお皿に載せると、ミヤちゃんはハムを切り始めた。2枚目も上手く行くと、お皿に載せないで、どんどん切っていった。
「お姉ちゃんが、ハムを切ってる。良かった」
メグちゃんが戻って来た、お皿を持っていないから、ミヤちゃんの切っているところを見たくなかったんだな。メグちゃんの良かったは手を切ってなくて良かっただろうな。




