ニャ~・・・114
「ああ、私のお金がない」
「ニャ~≪すいません≫」
ああ、ぶつかっちゃったよ。目の前に佇む黒髪の女の子は、ミヤちゃんに始めて会った時位の年齢だ。
猫らしく行動できれば人に当たらないのだろうが、モモよりも半人前の僕はたまにだけど人にぶつかるのだ。
やはり、建物近くをチョロチョロして人間の皆さんの邪魔にならないように気を付けよう。
「何処、何処に落ちたの」
チャリンとお金が地面に落ちた音は聞こえたけど、市場には人出が多いので、ここでは何処に行ったの探すのが大変そうだ。転がる音が微かに聞こえたので、僕とこの女の子の近くから少し離れた所を探さないと。
キョロキョロと周りを見回したけど、見付からない。野菜や食べ物のかすなら市場全体の露店や屋台の近くに落ちている。
「ニャ~≪何処に行ったんだ≫」
目の前にいた女の子もお金を探す為に地面に視線を落として探し回っている。
「無い、見付けられないよ」
「どうしたの、何か探しているの?」
「お金を落としたんです、人にぶつかって、何処にも落ちていないんです」
ミヤちゃんが露店から僕の前に戻って来た、後ろにはメグちゃんがいて、僕の方を見る為にミヤちゃんの後ろから顔だけを横に出して見ている。
「それは大変ね、探さないとね」
「ニャ~≪ぶつかったのは、僕なんだよ≫」
女の子とぶつかったのは僕だとミヤちゃんにジェスチャーで伝えた。ミヤちゃんの後ろのメグちゃんは何度も頷いていた、本当に分かっているのかな。
「ありがとう」
「それで、お金はいくら落としたのかな?」
「はい、大銅貨1枚です」
「それは大金だね、お菓子が一杯買えるね」
「いえ、お肉を買わないといけないんです、お菓子は買いません」
「メグ、落ちているお金を探すのよ、レイもよ」
「は~い」「ニャ~≪僕の責任です、頑張ります≫」
4人で探す事になったけど、お金は見つからなかった。誰かに蹴られたのなら、近くを探していても見つからない。それに何処を探せばいいのか、分からない。
「美味しい」「美味しい」「美味しい」
「ニャ~≪食べてないので、感想はなし≫」
「そうだろ、うちのお菓子には良い砂糖が一杯使われているからな、上品な甘みなんだぜ」
上品な味か、砂糖の種類はそんなにあるのかな。
「うん、何やら上品な甘みを感じました。もう一枚おまけを下さい」
「勘弁してくれよ、2枚ずつあげただろう」
「我慢します、今日だけは」
「そうね、沢山買ったのに2枚だけだった」
メグちゃんの意見に賛成の様だな、ミヤちゃんは。
お金を見付けられなかった僕達は、取り合えずお菓子を買いに来た。
「この失敗したのは嫌だよな」
「何これ、沢山失敗したのね」
「わぁ、本当だ」
「駄目だよ、大事なお菓子を無駄にしちゃ、おまけが出来なくなるよ」
「アハハは、面白いなお嬢ちゃんは。それがな、焼いている最中に忙しくなってな、焼いてた全部がこの有り様だ。こんな事は滅多にないさ」
みんなの視線の先には木箱が、ミヤちゃんの首に巻かれた僕も木箱の中を覗く。焦げているのは、だいたい、20個位有るな。
「おじさん、後10個買うから、この焦げたのを全部おまけにしてよ」
「いいのか、焦げている味がするぞ」
「まあ、それでいいわ」
「俺は嬉しいぞ、よし、10枚買ってくれたら、1枚ずつおまけのだ、勿論、焦げているのも持っいってくれ」
「おお~、お菓子が増えたぞ」
「ありがとう」
おじさんにお礼を言って、その場を後にした僕達は、人通り少ない路地に入った。
「さあ、鞄を開けて、ここにイノシシのお肉があるのよ。良かったら、貰わない?」
「え・・・いいの、くれるの?」
「いいんだよ、お姉ちゃんと私が倒したんだ、だから無料なんだよ」
「そういう事なの、無料だから気にしなくていいのよ。誰かのお腹に入るだけなのよ」
「ありがとう」
「ニャ~≪良かった、僕の責任だからな≫」
女の子が持っていた鞄を開けたので、ミヤちゃんは自分の鞄からイノシシ肉の塊を出して女の子の鞄に入れた。その上に先ほど買った焼き菓子を革に包んで載せた。
「お姉ちゃん、お菓子は?」
「お土産よ、10枚買って20枚貰えたのよ。なら、10枚あげても私に損はないのよ」
「わぁ~、ありがとう、お姉ちゃん、嬉しい。お母さんとお父さんと食べれる」
「そうね、お釣りはないけど、許してくれるかしらお母さんは?」
「うん、お肉が大きいから喜ぶ。お姉ちゃん達、ありがとう」
お礼を言った女の子は家に向かうのに走り出した。
「今度はお金を落とさないのよ」
「は~い」
ミヤちゃんの声が聞こえたのか、女の子の返事が返って来た。
「お姉ちゃん、焦げている方が残ったよ」
「焦げてても美味しいわよ、それに焦げているのも好きなのよ」
「おお、なるほど。焦げていても美味しい、焦げていればおまけが増える」
「さあ、イノシシのお肉を売りに行こう」
「そうだね、もう1個を売らないと」
「ニャ~≪僕は何しに来たのかな、お肉なら家にある、女の子とぶつかる為なのか≫」
そうだ、イノシシのお肉を売りに街に来たんだった。
イレーヌさんが、僕を含めて5人では食べられないわね、悪くなる前に売った方がいいのかしら、それとも塩漬けにした方がいいのかしらと言った時にニルスさんが、それでも余るよと言うので、適当に売って来る事になった。
あれ、僕がぶっかっても女の子の手からお金は落ちないよね。
「ミヤちゃん、メグちゃん、もう帰ってしまうのね。気を付けて帰るのよ」
「は~い、また遊びにくるね」
「おばあちゃん、またね」
「またニャン、元気でニャン」
イレーヌさんの家の前でお別れをして、何回も振り返っては手を振る僕達、見えなくなると前を向いて進む。この先を左に曲がればシーラスに続く道、右に曲がて沢山ある畑の先にブランシールの街。
「レイ、何で右に曲がったの、私達の街は左よ」
馬車で帰らないのか。乗合馬車の料金はいくらなのかな、便利だけど冒険者なら乗らないんだろうな。僕は乗りたいな、のんびりとガタガタ揺れても寝れるから。
「レイちゃん、鞄に入る? 寝ていけるよ」
「メグ、レイを甘やかしたら駄目よ、冒険する猫の移動が鞄では駄目よ」
「そうだったのか、レイちゃんは冒険猫だったんだ」
「そうなのかニャン、冒険猫だったかニャン」
へ~、冒険猫か・・・・・・僕は何をすると冒険した事になるのかな、ギルドの依頼を受ければいいのか、どれも僕に出来そうな依頼はないよ。ミヤちゃん達と受けるのかな。
「来る時に寝た大岩が見えて来たよ、あんなに近かったんだ」
「寝ないで、おばあちゃんの家に行けたのね」
本当だ、僕達が寝た大岩が見える。あの大岩からイレーヌさんの家まで、歩いて20分位かな。
よくマラソンの様にこの大岩まで走って来たな、凄い体力を二人は付けたんだな。
≪ミルクが言っていたのよ、小さい猫と犬が人間の言葉を話すのよ、でも、話さない事もあると、ふふ、見付けるのが楽しみだと笑っていたのよ≫
何処からか聞こえて来たイブリンさんの声、周りにはいない様なので、言葉だけを飛ばした? 幽霊の得意技なのか。
それにしても、変な事を思い出したんだな、僕の様に話す小型の犬と猫か。神様の仕業かな。
シーラスに着いたのは夕方、帰りは走るのを禁止にして、のんびりと歩いて来た。
「お土産だよ」
「ありがとう」
「ニャ~≪お菓子だ、甘いのだよね≫」
鞄から出した焼き菓子、あのまとめ買いした上品なお菓子をアカリちゃんに渡すミヤちゃん。抱かれたモモはいつもの様にお菓子を見て興奮気味だ。
「アカリは用意が出来ているの?」
「出来てるよ、ミヤ達が帰って来たら直ぐに行けるようにしてあるよ」
「そう・・・・・なら、2日後にしよう、1日疲れを取るのにのんびりするから」
「分かった、のんびり休んで疲れを取ってね。お土産ありがとう」
「アカリちゃん、またね」
「ブランシールに行った時の話を今度してね」
「は~い、じゃね」
「またニャン」
「ニャ~≪レイちゃん、またね≫」
お土産を渡した僕達は家に向かった。疲れはそんなに無いけど、次の出発までのんびりしよう。お風呂に入って・・・・・・そうだ、ライナーさんが家に来ているんだ。
「どうだ、この攻撃には耐えられるかな。嵐だ」
「津波だよ、レイ」
2人の攻撃で浴槽の中のお湯が、嵐の海の様に波がうねっている。僕は無駄な力を抜いて、嵐と津波をやり過ごす作戦だ。
「何とこらえたか、なら、連続嵐だ」
「連続津波だよ」
「負けないニャン、泳いで回避だニャン」
さっきよりも波が高いな、それでも乗り切ってやる。猫かき全開だ・・・・・・ジャンの津波が横から来たぞ、凄いうねりだ。それでも、水の中で頑張る足が加われば、この位の波なら何とかなる。
「おじいちゃん、もう出てよ」
「そうだよ、毎日入っているてお母さんが言っているよ」
柱から口から、ミヤちゃん達の出てよが聞こえてきた。ライナーさんは毎日入っていたのか、僕達とすれ違ったあの日からだと6日間も。
「引き分けだ、勝負は明日だ」
「頑張ったね、僕も負けないよ」
明日も入る気なのか、7日連続だな。
「ニャ~≪アカリちゃん、寒いよ≫」
「ニャ~≪寒い、鞄に入れてよ≫」
「わぁ、雪が降って来た」
シーラスを出発して畑のある街道を東に向かっていると、曇り空だったのに雪がパラパラと降って来た。
東京に振る雪の様に積もらない位の雪の粒が地面にぶつかると消えていく。ミヤちゃん達を追いかける様に僕とモモは付いて行っている。
寒がりの僕とモモは、ニャ~ニャ~鳴いて訴えているけど、気が付いてくれない。
「アカリ、モモちゃんが寒いと言っているわよ、鞄に入れてあげないと可哀そうだよ」
「そうか、寒いのね。ほら、中にお入り」
「ニャ~≪ありがとう、アカリちゃん。ミアちゃんもありがとう≫」
「寒いニャン、寒いニャン」
「レイは、我慢しなさいよ。自分が言い出した旅なんだから」
「はいニャン」
もう少しだけ我慢しよう。
「寒いニャン、寒いニャンよ」
「メグ、どうする?」
「仕方ないな、今回だけだよレイちゃん」
今回だけ? よく分からないけど、開けてくれた鞄に飛び込む。少し温かいな。
「大丈夫かな、このまま積もるかな」
「いつもだと、もう積もっているんだってお父さんが言ってた」
「そうなんだ、うちのお父さんは家の外に出ないから天気の事は分からないだろうな」
ハリーさんは1年のうちの3分の1位は仕入れの旅をしているであろう、なので、天気の事をよく知っていそうだ。
ランディさんの仕事は厨房の中、販売もするけど、厨房にいる時間の方が多いだろう・・・・・・ミヤちゃん達とアカリちゃん達の為にカステラとホットケーキを作る事が多々あるから尚更だ。ランディさんが外に出る時は、買い物とかなのかな。
「ニャ~≪雪が止んだら出してね≫」
モモが何か言っているな。
そうだ、今回の旅は、キャロット母さんに会いに行く為の旅だ。冬の間にしたい事を聞かれて、モモが元気なのをキャロット母さんに見せようと思った。
モモと別れた時にキャロット母さんはもう駄目だと思っていた筈で、モモが街を見たいと言わなければ一緒に居たかっただろうと僕は思う。産まれた小さい娘の願いを聞いて、僕に連れていく様に言った。その娘が元気に過ごしているのを知らせるのは、僕の役目だ。
僕の申し出に喜んだミヤちゃん達は、一緒に行くと言った。それは旅が出来るから、おそらく、旅の練習をしているんだと思う。アイシャさんが冒険者になったと聞いて喜んでいた、自分達も冒険者になると決めているからだろう。
冒険者か、想像が出来ないな。毎日が楽しいのか、それとも、凄く大変なのか、全く分からない。
あれ、最近何か冒険者で・・・・・・ああ、猫の冒険者だ。僕も一緒に行くんだろうな、2人のお腹を満たす冒険に。
初の僕達だけで出かけたブランシール、行きにライナーさんと出会い僕達はライナーさんの家に向かった。
帰りの旅で、ミヤちゃん達が猫の冒険者と言っていた、うん、猫の冒険者だ。
雪はすぐに止んで、冬なのにポカポカした天気になってくれたので、僕とモモは鞄の中でぐすり寝れた。
「ねえ、ミヤ。ここは安全かな」
「どうかな、街からだいぶ離れたし、魔物がいるかもよ」
「そうだよね、火は起こさないの?」
「アカリは出来るの? 私は出来ないよ」
「出来ないよ、メグちゃんは出来るの?」
「お姉ちゃんが出来ないのに出来ると思う?」
「出来ないよね、レイちゃんは火を起こせるのかな?」
「出来ないニャン」
「ニャ~≪ねえねえ、火を付けて何するの?≫」
そうだな、ここにいる全員が火を起こせないけど、火を起こして何をするつもりなのかな。
食べ物は干し肉とお菓子、飲み物はジュースと果実酒、料理に作る事は無い、僕の好きなポカポカかな・・・・・・ああ、まだ暖炉の前で寝てないよ。イレーヌさんの家は付いていなかった、我が家は、双子ちゃん対策がまだで、暖炉は使われていなかった。
「何で学校で教えてくれないのかな、役に立ちそうなのにな」
おお、メグちゃんが珍しく、もっともらしい事を言ったぞ。もし、授業で教えるのなら、ベントン先生だな、災害とか天気とか話しているんだから、アウトドア的だよな授業が、何で教えないんだろう。
今何か閃いたよな・・・・・・ああ、親に聞けばいいんだよ、毎日、誰かが火を起こしているよ。当たり前すぎて、先生達も知りたい生徒さんがいるとは思わないんだろう。それに、知らない子供達は、家のお手伝いをしていないんだな。
街道から少し草原に入った地面が土の場所に、敷物の上に3人は横になっている。夕食の干し肉とパンを食べ終わってお菓子を片手に雑談をしている。モモは片手にが出来ないので、敷物の上に置かれたお菓子をがぶがぶしている。
もしかして、冒険者が火を起こすのはどうぶつよけなのかな、もしくは魔物も来なくなるのかな・・・・・・付け方よりも火を起こした時のメリットとデメリットをベントン先生に聞きたいな、自然災害ではないけど知っている筈だ。パール先生達も知っている筈だ、街の西の山で何泊かしている。




