ニャ~・・・111
「はい、この箱に入れて下さい」
ジャンは窓の外にいる女性と話している。
「入れましたよ」
「家の横から1個取ってね」
「ありがとう、偉いわね」
お金を箱に入れてジャンの頭を撫でた女性は、おもちゃの家の壁に重ねてある木箱を取っだだろう。微かに箱を持ち上げる時の音がした。
「レイ、積み木が売れたよ」
「お疲れ様ニャン、良く出来たニャン」
「えへへへ」
笑い方はメグちゃんだ。
何を思って積み木の販売のお手伝いをしているのか分からないけど、おもちゃの家の窓の前に座って積み木を販売しているジャン。
毎日このおもちゃの家で過ごすうちに、積み木の販売を覚えた様だ。
ジャンが『僕も手伝う、積み木は面白いんだよ』と販売の手伝いをしたいと申し出たジャン、シンシアさんは『あら、そうなの、やってみる』と気軽に販売の手伝いを了承した。
その後に待っていたのが『レイちゃん、ジャンがやりたいと言うのよ、よろしくね』とジャンの手伝い・・・・・・サーポートを任された。
ミヤちゃんにお願いして、看板の作成をして貰った。外の窓枠の横には≪積み木の販売はここ≫の看板が取り付けてある。
積み木をやり慣れているジャンがお客さんに説明をするんだよな。
『面白いんだよ』『色々な形に積める』『飽きないんだ』『積んだ後に崩すのが大好き』『かじっても大丈夫、硬いから』『中で積み木で遊んでもいいんだよ』
だいたい、こんな事を説明している。
忙しくなる事が無いから、店員さんは自分も遊ぶ事が出来る。
「ニー、積み」「ニー、ははく」
おもちゃの家の中をハイハイと伝わり歩きをする双子ちゃん、お兄ちゃんに積み木を積んでとお願いしている。
「積むよ、順番だ、待ってね」
店員さんは妹達と遊ぶ様だ。僕はのんびりとその光景を見ている。
今日は洋服を買うお客さんが少ない、おもちゃの家の外から聞こえてくるのは洋服屋さんの女性店員さんの会話の方が多い。
「はい、お母さん~、お釣りだよ」
寝ていた僕に聞こえたのが『お釣り』、お釣りがあるお客さんなんだな。
「は~い、今行きます・・・・・・銅貨8枚のお釣りです」
顔をあげた僕の前にはメイちゃんの足がある、僕とピッタリとく付いてマヤちゃんが寝ていた。寝ていた僕の周り来て寝たんだな。
「ただいま~、仕入れから帰ったよ」
「ありがとうございます」
「この中に積み木が入っているんだ、喜ぶわねマー君」
「ハリーさん帰りなさい、倉庫に入れるの手伝います」
「ああ、皆、手伝ってくれ」
帰って来たのか、冬の洋服の到着だ。
「ニャンニャンニャン」
「ニャンニャンニャン」
「ニャ~≪モモ、キレイに洗ったか?≫」
「ニャ~≪洗ったよ、お湯かけて≫」
「ジャン、掛けてニャン」
「は~い、耳に手を掛けてね」
「はいニャン」
ジャンがお湯を掛けてくれた、石鹸が流れていく。今日もキレイになりました、うん。
「モモ、もう上がるの?」
「ニャ~≪上がるよ、洗い終わった≫」
隣のモモは脱衣所に向かって行く。僕も出よう。
モモと僕を待っていたアカリちゃん達は、僕達を拭いてくれる。
「レイ、先に入ったのね」
「はいニャン」
ハリーさんの帰って来た夕食後、アカリちゃん達がお風呂に入りに来た。
・・・・・・全員で何人入るんだお風呂に、アカリちゃんの家はモモを入れて6人、うちは僕を入れて・・・・・・7人、8人だ、両家で合計14人だ。
人数が多いのでお湯を足してくれるけど、この大人数だと入れる時間は限られる。僕とモモなら邪魔にならないけど、僕達が入っていると、皆のお風呂の時間が長くなる、お風呂で遊ぶからだ。
「ニャ~≪モモ、先に行くよ≫」
「ニャ~≪待って、待って≫」
走り出した僕の後にモモが付いて来る、モモが急いでいるのは、僕のお皿に用があるからだ。
「ニャ~≪まだ残ってた、わぁ~い≫」
どうなんだろう、急いでも、遅くても、僕のお皿に載っているカステラを食べるのはモモだけの様な気がする。ソファーの前のテーブルの上に載るお皿には食べかけのカステラ、ランディさんが僕の為に持って来たカステラだ。
「ニャ~≪床に落とすなよ≫」
「ニャ~≪大丈夫だよ、落ちても食べるから≫」
僕は食べかすの事を言ったんだけど、欠片が落ちると勘違いしたようだ。
「レイちゃん、話しを聞いてくれ」
「僕もレイちゃんに話があります」
大の大人が猫の僕に話があると・・・・・・嫌な予感がするけど、聞かないわけにいかないだろうな。
仕方ないか、2人の座るダイニングテーブルに・・・・・・何でサキさんとシンシアさんも座るんだ。台所から急いで来たのは、一緒に居る為? ・・・・・・行き辛くなってきたよ。
モモ、お前はいいな、カステラと遊んでいる様に見えるよ。
「レイちゃん、ここに来て」
ああ、シンシアさんにテーブルの上にあがれと言われたぞ。
「ニャンパラリン、何か用ニャン」
「ハリーさん先に話しますか?」
「いえ、僕の方は込み入っています。ランディさんからどうぞ」
何か嫌な単語が聞こえて来たよ。
「では、レイちゃんお願いします、ホットケーキのレシピをお譲りください」
「お願いします」
ああ、そんな事なんだ、サキさんも頭を下げているけど、そんなに気にする事なのかな。普通に何処にでも売っていたよな、昭和のきさてん、あれ喫茶店か、何処でも食べれると聞いた事がある。大ブームで店内のお客さんの殆どが頼んでいたと・・・・・・都市伝説が。
「レイちゃん、サキの為に試験は無しにしてね」
試験? ・・・・・・何の試験かな、聞いてもいいかな。
「どんな試験ニャン?」
「カステラの時に味の試験をしたのを忘れたの」
「あの時の緊張はもう耐えられないんだ」
そんな事あったのかな・・・・・・覚えているのは、食べたいとミヤちゃん達がお願いしたら作る事だったよな、試験なんかしたかな。
「分かったニャン、試験はなしニャン、美味しいのを作るニャン」
「ありがとう、レイちゃん、前の時と同じで皆が食べたいと言えばすぐに作るよ」
「レイちゃん、ありがとう」
凄く感激されたけど、ホットケーキだよね、酷い言い方すれば、庶民の食べ物だ。わざわざ酷い言い方をするのも面倒な位、普通にみんなが食べてるよね。それに子供のホットケーキを焼くおもちゃがあったよ、誰かの家で見た、子供でも作れるホットケーキ。良いのだろうか、美味しいパンを焼くプロに譲って、本人がいいと言っているからいいか。
「ああ、スッキリした。風呂に入ってくよ」
「アカリ達が入っているから、少し待って」
「おう、待よいつまでも」
人の情熱は見る物ではないな、遠くから応援するのがいい。当てられてしまう、胸が一杯だ。
「そそ、そ、それで、僕のお話があります」
「ランディ、行こう、何か大変な話の様よ」
「そうか・・・・・・そこに?」
「3階で4人を見てよう、シンシア、上に行くね」
「ごめんなさいね、大事な話なのよ」
「何処から話せばいいでしょうか?」
何処からと言われても、何の話か分からないのに、それに僕に関係ある事なのかな。
ランディさん達も真剣だったけど、もっと気軽に話してくれればいいのに、どうせ、僕がどうこう出来る事は少ないのに。
確か事情を知るには、最初からが定番、通常、普通だよな。何の話かな余計に気になるな。
「最初からニャン、分かりやすい様にお願いしますニャン」
特別に長い言葉にしてあげたニャンよ。
「シンシア、ごめんなさい」
「いいのよ、仕方ないわよ」
「いつもの様に仕入れに行って来ただろ」
これは何かな、僕に話してないよね。
「そうね、王都の隣の街のサシンベラね、どうなの冬の洋服は、いいのが有ったのかしら?」
「まあ、いいのは有ったよ」
「待つニャン、説明を簡単にお願いニャン」
今のは小芝居、それも棒読みの、聞いてて辛かった。
「そうだね、最初からは辛いよ」
僕のせいなのかな、最初からと言ったから。
「お母さん~お湯足して~、お湯~」
「ミヤの声だわ、行って来る」
「ああ、そんな」
台所横のお湯を沸かす部屋からお湯と叫んだミヤちゃんの声、シンシアさんはあの仕掛けを使ってお湯を注ぐんだな。あの穴から浴槽に流れ込んでいる。
「シンシアさんを待つのかニャン?」
ハリーさんが考えている、そんなに大事な事なのか・・・・・・そう言えば、小芝居には仕入れの話が有ったけどあれから進むとどうなったのかな。
「少し待ってくれ、考えるから」
「お待たせ、どう、話したの?」
「まだだよ、今からだ、高騰した冬の洋服を仕入れて来ました、すいません」
一気に言いたくて、早口だったけど、冬の洋服を仕入れて来た、それだけの事? 報告はそれだけ。
「高騰している冬の洋服ニャン、仕入れて来たニャン?」
「すいません、すいません」
「レイちゃん、許してあげて、仕方ないのよ」
仕事の事は任せている・・・・・違うか、僕を気にしなくていいと言ったのに覚えていないのかな、全てハリーさんが考えて行動すればいいと言ったのに、苦い経験だったんだな。
「ニャンを取って話すニャン、いいかニャン?」
「はい、お願いします」
「実は、高騰した洋服を買うのも作戦の続きでした、ハリーさんとシンシアさんにお伝えしたいなかった作戦が、今、実行の時になりました」
「ええ、作戦ですか?」
「そうなんだ、凄いわね、流石レイちゃんよ」
ええと、何かいいアイデアは、2人が喜びそうで、納得しそうな何かないかな。
2人がテーブルを乗り出して聞きたそうにしているよ、2人を安心させる、何か張ったりを言わないと。
僕大好きなあの人ならこんな時どうするんだ。
小学校の時から何回も見た行商のトラトラさん、あの人は頭が良いその場で何でも思い付く。話もそれらしい、皆も納得する言い訳? 違う、皆も納得する幸せな話だ。
「考えをまとめるニャン、少しまつニャンね」
「お願いします」
時間稼ぎだ、高騰した服を買って来たのが作戦か、凄い事を言ってしまったな。どうする、トラトラさん。
ああ、おじいちゃん、トラトラさんありがとう。これそんなに難しくないな。
「考えがまとまったニャン、ニャンを外すニャン」
僕の考えている間に二人の緊張は解けていた。作戦だと伝えたのが良かったんだな。
「はい、分かりやすく話して下さい」
「レイちゃん、頑張って」
うん、頑張ろう。
「高騰した冬の服を買って来てくれてありがとう、ハリーさん。シンシアさんもお礼をハリーさんに」
「ええと、ハリー、仕入れご苦労さま、高騰していても大助かりよ」
「ああ、頑張ったよ、そうか、作戦なんだよな」
「はい、高騰した洋服を高く売る安く売る、どちらかしかありませんが、商いをしている人が安く売る時は失敗をした時です。でも、ハリーさんは失敗をしていません」
僕が失敗をしていませんと言うと、二人の顔が近づいて来た。近づき過ぎなのを分かっているのかな、このまま話そう。
「作戦①、高騰した時はお客さんに高騰した事を伝える、これは、洋服の値段が変動する事があると客さんに分かって貰う為。作戦②洋服の価格の予想、高騰したけどこれどうなるのか、このまま、安くなる、更に高くなる、この後にどうなるのか、ハリーさんやシンシアさんの予想をお客さんに話す。作戦③価格が変動した時の理由を調べる、もし価格が変動した理由が分かったらお客さんに伝える。作戦④嘘は付かない。ありのままの情報と嘘のない予想ならお客さんに伝える。作戦⑤今回の経験を活かす。以上ニャン」
「ああ、長くて分からなかったよ」
「私は少しだけ分かった」
そうだよな、思い付きを並べただけだからね、でも、間違っていないと思うんだよな。
そうか、今のは詳しい説明だったんだよ。もっと簡単に伝えよう。
「もう一度ニャン、ニャンを外すニャン」
「ええ、またなのか」
「ハリー、レイちゃんは頑張ってくれているのよ」
「すいません、お願いします」
「さっき話した事は板に書いて渡します。もっと簡単に説明すると、高騰したと思った洋服は、今が一番安いかも、ハリーさんは高騰していると思っても買う、絶対に仕入れて来ないといけない。価格の変動は誰にも分からないから、その時の値段でハリーさんもお客さんも買わないといけない。待っていても安くならない可能性もある。それと前回の・・・・・・・・」
前回の失敗の事を話して聞かせた、猫先生になる位に言葉を話せる様になったので、今の方が上手く説明できる。一番の失敗の資金効率で、お金に戻らなかった在庫の洋服の事を数字を入れて説明した。資金になっていた場合と、在庫を1年間も抱えた時のお金の動きと仕入れの量を詳しいけど簡単に分かる様に説明した。グラフにすればもっと分かりやすかっただろうけど、書くのが大変なのと、どうしてそんな事が出来るのか説明できないので止めた。
「そうだったのか、それなら、今仕入れた冬の洋服を販売すれば資金に戻るから・・・・・・問題ないのか」
「そうニャン、少し安くても資金に戻るニャン、洋服が有る事が大事ニャン」
話している間に思い出したのが、おじいさんが『昔はラーメンが260円だった、材料が高騰して我慢していたが、二度と260円で売れる値段に戻らなかった、戻ると信じてそのままの値段で販売しなくて良かった。他の皆は、どうしたのかな、我慢をし続けたのかな』と昔話をしてくれた。
逆もあるかも、260円に戻らないかなと考えるお客、値上げしたラーメンは食べないのかな。
「そうか、仕入れと販売の値段は難しかったんだな」
「そうね」
今更かと思ったけど、値段の変動が少なかったらハリーさんの様な考えが普通かも。
「お風呂が空いたけど誰も来ないよ~」
今度はメグちゃんの声だ、あの穴の開いた柱に叫んでいる、楽しそうな声が響いて来る。
「ええとニャン、冬の洋服はニャン、こんなに買って来たニャン」
「ごめんなさい、言い出せなくて」
なるほどなるほど、そうだよね、こんなに多くなければ、あんなに深刻そうにしないよね。
「ああ、そんな目で見ないでくれよ、反省しているんだよ」
「いい作戦があるニャン、聞くかニャン」
「レイちゃん、ありがとう。串焼き奢るよ」
まあ、串焼きが食べれるならよく考えるかな、何かいい作戦はないかな。
ハリーさんを安心させるために、高騰しても洋服は仕入れなくてはいけない事、違う季節の前位にしか仕入れ先でも販売していないなら、他の洋服屋さんも同じ高騰した値段で買っていると説明すると『ああ、うちだけじゃないんだ。そうか、皆も苦労しているんだな』と納得して、安堵している様だった。
勿論、シンシアさんにはマッサージをしながら、ハリーさんの仕入れは失敗じゃなく、これからも起こる事で、いい経験になる筈だと話した。
『そうよね、経験は大事なのよ、レイちゃんが話せるのもミヤとメグと一緒に勉強したからなんだわ、うんうん、そのお陰でジャンも早く話せる様になったし、良い事ばかりだわ』
シンシアさんは安心したのか、いつもより早く寝た。隣のハリーさんは心配事を打ち明けた安心感からシンシアさんにマッサージを始めた時には寝ていた。
「あい、レイ」
「レイ、きい」
両親は寝たけど、メイちゃんとマヤちゃんは起きていた。一緒に寝るか、もう直ぐ冬でポカポカで寝れるのは誰かの間に挟まれた時、寒いのは苦手だけど、間に挟まれて寝る冬は大好きだ。
「いい子ニャンね、静かに歌うニャンね、眠れ、眠れ、いい子達よ、シンシアお母さんはメイちゃんが大好き、眠れ、眠れ、いい子達よ、シンシアお母さんはマヤちゃんが大好き、なでなでしたら気持ちいいのね・・・・・・・」
変な替え歌を静かに小鳥のさえずりの様に歌った、眠くなったのは僕の方だった。意識の薄れて行く僕は、2人のウサギのぬいぐるみでがぶがぶとかじっている仕草をすると喜んだ、その後は僕ががぶがぶされたけど、そのまま寝てしまった。




