ニャ~・・・104
目の前で豪快な食べ方をする、大型猫。猫にもこの言葉が言える大きさの猫だ。
「ニャ~≪美味しいぞ、小娘≫」
「ニャ~≪そうでしょう、試作品だけどね≫」
「ニャ~≪試作品とは何の事だ≫」
「ニャ~≪そうだな、二人が好きな柔らかいパンの味が完成していなくて、入れている材料の量を代えて作ったパンの事かな≫」
説明が難しい、取り合えず作った料理も試作品かな。
「ニャ~≪分かったぞ、俺達に味見をさせて、何が足りないの教えろと言いたいんだろ≫」
「ニャ~≪そうです、流石マックスさんだね、もう一個食べてみて≫」
意外と頭が良いんだよな、二人は。
「ニャ~≪よし、よく味わって食べよう、それで何が足りないのか教えよう≫」
ジョンさん達は、アカリちゃんのパン屋さんの裏の地面に置かれた皿から試作品のホットケーキを食べている。サキさんは飽きて・・・・・・もう食べたくないそうだ。
おかしな皆さんにも試して貰いたいけど、今の段階を食べて貰うとホットケーキに近づけないような気がする、鋭い味の持ち主のミヤちゃんだけど、食べた事のない食べ物を再現する事は出来ないだろう。
一番分かっている筈の僕は、甘いのがそんなに好きではない、どちらかと言えば食べたくない、なので、遠回りになるけど他の人に食べて貰っている。それに猫の僕が食べたとして、味覚が違えば、完成する事がない。
「ニャ~≪何が足りないんだ、美味しいのに≫」
二人の食べっぷりは、僕が見た事のある犬のようだ。口の中でうまい事噛んでいる仕草は犬そのもの、噛んでいる音は『ガウガウ、ガウガウ』と口を大きく開けて食べ物が口の中で行ったり来たりしていそうだ。
「ニャ~≪頑張って下さい、もっと美味しくなるには何を入れたらいいのか教えて≫」
「ニャ~≪美味しい、初めて食べるよ、何で呼んでくれなかったのレイちゃん≫」
モモが家から出て来たようだ、ジャンさん達に混ざって、美味しそうに食べている。
このままでいいのだろうか、ただ食べているだけになっていないだろうか。僕も食べてみるかな、食べたくないんだよな。
「ニャ~≪美味しいのだが・・・・・・甘味が強いな、柔らかいパンよりも甘い≫」
食べるのを止めて意見を言ってくれるマックスさん、他の二人は食べるのに夢中だ。
モモは獲物を狩っている時の様にホットケーキをぶんぶんしたり、飛ばしたりして食べている・・・・・・ジョンさんが紳士に見えて来たぞ。
「ニャ~≪小娘、もしや、辛味が足りないのでは、甘味と辛味を両方入れると人間が話していた事があるぞ・・・・・・・確か、両方入れると味が良くなるだった筈だ≫」
そうなのかな、料理の下手な人が砂糖を間違えて入れて塩を大量に入れるあれの事だよね、両方入れるか、もし合っていたら粉の完成なのかな。そうだ、ランディさんに聞いてみよう、両方入れる事があるのか、あるなら、今度はその粉でホットケーキを焼いて貰おう。
今我が家のリビングには沢山の人が来ているが、僕はのんびりとソファーで毛づくろい中だ。
僕でも分かるくらいに気温が落ちて来たので秋になった、毎日、海で泳いでいるけど、水温が低く感じたら止めるつもりだ。泳いで汚れた毛をキレイにしないと気になる、だから、皆が楽しそうにしていても今は毛づくろいだ。
「沢山焼けたね」
「これだけの人数がいるので、足りないかも」
「早く食べたい」
「これが、温かいお菓子?」
「焼き菓子より大きいね」
我が家のテーブルでは焼けたばかりのホットケーキが次々に運ばれてくる、そのテーブルの周りには授業の時に最前列で質問した人達が集まっている。
「質問です、この食べ物の何ですか? 後、名前は?」
「名前は聞かなかったのよね、でも、見た目は同じだと思うわ。お菓子なの・・・・・・温かいお菓子」
「遂にこの日が来た」
振り返ると、質問したグランカさんは手を上げていた、まだ名前を教えて貰っていないからなのかな。
「みんな、ランディさんと私が沢山焼くから、食べていてね。それと椅子が足りない様だから、ソファーも使ってね」
「は~い」
いい返事をしたのはアカリちゃんだ。ここにいる人達の中で一番真面目だ、他の皆は返事をしないで、用意されたお皿にホットケーキを載せている。
台所でホットケーキを焼いてくれているのがランディさんだ、誰でも焼けるけど俺が焼くよと言ってくれた、助手がシンシアさん。
サキさんは赤ちゃん達の面倒を3階のシンシアさんの部屋で見てくれている。4人の赤ちゃんが寝たら下りてくる。
「良い匂いがして来たけど、もう焼けているんだな」
「美味しそうな匂いがする、僕も食べる」
リビングにいなかったハリーさんとジャンも現れた。あれ、モモがいない何処にいるんだ。
食べ物、それも甘い食べ物が有れば必ずいるか、何処からか現れるのにリビングにいないようだ。
「凄いです、見た目は同じだけど、この温かいお菓子の方が美味しいわ。お菓子の上には、シロップが掛かっていませんでした」
「ローラさんが食べたの物よりも美味しいんだ、待ったかいがあった」
「そうだね、それに沢山食べれる」
「お母さんが秘密で味見していたのが、温かいお菓子なんだ」
ミヤちゃん達は待っていたのではなくて、待たされていた筈だけど、最後には早く食べさせろと授業時間の終わりの方でグランカさんに質問させた。いつ食べれるのかと、我慢の限界だったようだ。
しかし、未知のホットケーキを作るのは大変だっただろう、硬いホットケーキから柔らかいホットケーキ、粉の配合が上手くいくまで試行錯誤しただろう、焼き上がりが決まった後も味の微調整、沢山の味見、僕なら無理だった。
完成したのは、パン屋さんのプロのランディさんとサキさんの食べ物を作る情熱がだった。本当に感謝の気持ちしかない。
「ああ~、シロップに違う味があるよ、お姉ちゃんのは違う色をしているよ」
「本当だ、メグのが違うわ、アカリが食べているのも、グランカさんが食べているのも違う」
「レイちゃん、足の上に乗ってね」
テーブルの近くで騒いでいる皆から離れて来たキャシーさんは、僕の横に座ると僕に乗る様に言って来た。手にはホットケーキのお皿とホークが握られている。
「はいニャン」
僕は毛づくろいを止めて、お世話によくなるキャシーさんの足の上に乗る・・・・・・ジョンさん達も足の上に乗る事はあるのかな、大型犬を飼っている人達はどうしているだ。乗っているのを想像したけど、重いか邪魔そうだ。
「ニャ~≪もう食べれないよ、違う味が沢山あるよ、食べてない味も食べたいよ≫」
台所からモモが疲れた人がフラフラと歩く様に僕の前に来た、焼き始めから台所にいたんだな、見かけない筈だよ。
「ニャ~≪美味しかったか?≫」
「ニャ~≪凄く美味しかったよ、違う味があるから沢山食べんだよ、でも、もう食べれないのお腹が一杯なの、まだ違う味を食べてないのに≫」
「ニャ~≪モモにいい事を教えてあげるよ≫」
「ニャ~≪なになに?≫」
僕がいい事を教えてあげると言ったら、勢いよくソファーに飛び乗って来た。もう元気なのか。
キャシーさんの足の上でふみふみをしながらモモにいい事を教えてあげよう。
「ニャ~≪味の違う温かいお菓子は、何種類でも作れるんだよ。味を変える事が出来るんだ、モモが食べたのはその中のほんの少しなんだよ、味を変えれば違う味を楽しめるんだよ≫」
「ニャ~≪凄い、いついつ食べれるの今日は、駄目だから、明日食べたい≫」
「ニャ~≪明日? そうだな、いつでも食べれるんだ、急がなくてもいいんだよ。楽しみは少しずつだよ≫」
「ニャ~≪明日も食べれるのか、嬉しいな≫」
もう僕の言っている事を聞いてもいない、理解もしないだろう。モモはメグちゃんの同類、それもメグちゃんに一番近いだろう。
僕とモモが話しているのをホットケーキを美味しそうに食べながら見ていたキャシーさんと視線が合った。
「レイちゃんよりモモちゃんの方が少し大きいのね、レイちゃんは初めて会った時から変わらないから可愛いままね」
「はいニャン」
喜んでいいのか困ってしまったけど、いい返事をした。他の人が可愛いと言うのだから、それは認めよう、それが成長していないからでも。
「質問です、このお菓子の名前は何?」
「シンシア、お店の方は順調だな」
「そうね、去年の今頃は大変だったわね」
「だが、メイとマヤがはって移動する様になったから違う大変だな」
「今までは、二人は一緒に居てくれたけど、こうも違う方に行かれると大変ね」
「ああ、目が離せない」
ソファーの上で寝ていると二人の会話が聞こえてきたので目を開けると、メイちゃん達がハイハイで移動していた。少し前からハイハイは出来ていたけど、移動するのが速くなっているので、シンシアさん達もそれにつられて追いかけている。
何をするか分からない赤ちゃん、見ていてあげないと口に何を入れるか分からない。ぬいぐるみとかかじるだけならいいけど、誤飲する物・・・・・・無い、異世界の床にある物は、僕の食事だ。
「シンシアさんニャン、僕のお皿しまうニャン」
「そうね、気が付かなったわ、ありがとう」
「お皿が割れても危ないな、他に床にある物は・・・・・・埃ぐらいか」
「ハリー、掃除をお願いね。私は、二人を部屋で見ているわね」
「そんな、こんなに広いんだぞ、僕一人でか、ハァ~」
床の大掃除か、大変だな、猫の僕なら自分の寝る場所だけでいいけど、人間の皆は部屋をキレイにしよう。
シンシアさんは二人を抱っこをして、階段を上がって行った。足音が段々遠くなって行く。
邪魔にならないだろうけど、どこかに行こう、ミヤちゃん達は岸壁に魔法の練習と剣の練習に出かけている。僕も岸壁に行こうかな、お客さんの少ない日を定休日にしたので、今日は休みだからお店に行ってもジェシカさん達はいないんだな。
「とりゃ~」
「どっこいしょう」
久しぶりに見るミヤちゃんとメグちゃんの剣の練習は、掛け声のイメージとは違い、鋭い打ち合いになっている。
撃ち合う方が決まっているのかもしれないけど、練習ならそれでもいいのかも。実戦には実戦の心構えで立ち向かうだろう。そこから、新たな経験を積むんだな。
しかし、あの頭を叩き合っていた人と同じ人に見えないな、体も成長したけど、それ以上に剣を使うのが上手くなっている。
「あら、レイ、来たの」
「はいニャン」
今頃はハリーさんがリビングの床とお店の床を走り回っているだろう。困っていたハリーさんにモップを教えて来た。アイザックさんのペンのおかげで、イラストを描く事が出来たので、説明も楽だった。
イラスト・・・・・・ジェシカさんに描いてあげれるな、描くのに時間が掛かるかもしれないけど、頼まれていた約束は守らないといけないな。
「お姉ちゃん、次は私の番だよ」
「は~い、打ち込んで来て」
「うりゃ~、どっこいしょう」
イブリンさんの杖、イレーヌさんから託された杖を巧みに操って攻撃をしている。杖の攻撃だから撲殺・・・・・・するんだろうな、それの練習だ。ミヤちゃんは剣での攻撃、そのうち魔物が討伐されそうだ。
二人の打ち合いを見ていても仕方ない、僕に出来るのは体力作りと俊敏さだ。いきなり方向を変える方向転換の練習だ、何かのスポーツで見た、笛が鳴ると反対に走るのを僕もしてみよう。
「ニャン、ニャン、ニャン」
適当に声を出して反転する。この動きを何回も練習だ。
「ニャンパラリン、・・・フー」
方向転換の練習を終えて、次の練習は、方向転換の時に思い付いた動きの練習だ。
「ニャンパラリン、・・・オー」
走って移動した後に反転に回転を加えた魔法の攻撃、追われた敵から離れる様にした後に攻撃するカッコいい動作だ。カッコいい動作は戦闘には大事だ、洗礼されたら動きならもっといいだろう。男の憧れだろう。僕にはそんな憧れはないけど、この世界なら練習して出来る様になるのも悪くない、そんな練習をしていても笑われる事がない。
「面白いわね、それで魔法が撃てたら、串焼きを食べさせてあげるわよ」
「うんうん、それも沢山買ってあげるよ」
戦闘練習が終わって、走り込みをしていた二人が、僕の練習をしているところに来た。
「頑張るニャン、串焼き食べるニャン」
いつになるか分からないけど、動きを完璧にしよう、そうすれば好きなだけ串焼きが食べれるぞ。
「メグ、帰って着替えたらお菓子を食べに行こうよ」
「そうだね、積み木が沢山売れてるもんね」
練習の終わった二人は、お風呂で汗を流してお菓子を食べに行くようだ・・・・・・積み木を考えたのは僕なのに、串焼きを食べる機会が少ないぞ。
まあいいか、僕が食べたいのは西側の串焼き・・・・・・キャシーさんの家のお肉だ、遊びに行こうかな、そんなに待つのは体に悪いよな。




