ニャ~・・・10
「ただいま、遅くなって悪いね」
ハリーさんが帰って来た。
「おかえり、大変だったみたいね」
へえ~、予定より遅れたんだ。ハリーさんの後ろには、僕をこの街に連れて来てくれた馬車の持ち主のリードさんがいる、洋服の仕入れにも同行してくれる人なんだ。
「ハリーさん、荷物はいつものように家の方から倉庫に運べばいいんですね」
「悪いね、みんなでやれば直ぐに終わるよ」
「それじゃ、ナタリーとジェシカを呼んでくるわね」
仕入れた夏服の搬入作業だ、どれ僕も手伝だおう。
「ニャ~《あそ~れ》ニャニャ、ニャニャ、ニャニャ、ニャニャ」
「ハリーさん、レイちゃんが何かしてますよ」
「僕達が帰って来たので嬉しいんだろう、歓迎の踊りだと思います」
僕の手は荷馬車から倉庫に向かうように振って、応援しているんだよ。
「ジェシカ、ナタリー、空いている所に運んでね」
「は~い」
「は~い、あれレイちゃんが、手を横に振ってますよ、踊っているのかな」
「ニャ~《ナタリーさん、頑張るのだ、荷物を運んだら展示替えだよ》」
「シンシア、レイちゃんを1人に・・・一緒に居なくて大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、お利口のレイちゃんは逃げたりしないのよ、それにこの家がレイちゃんの家なんだから」
「ニャ~《そうです、僕の家はここです》」
荷台から降ろされた木箱を1人1個持って家の入口から入って行く。
「逃げないのなら安心だな、よし、運ぶぞ」
「レイちゃんは、横に移動してね。足元が見えないから、踏まれたら嫌でしょう」
ここにミヤちゃん達が居ないのは遊びに行っているからだ。
「ニャ~《踏まれないように応援します、あそ~れ》ニャニャ、ニャニャ、ニャニャ、ニャニャ」
みんな頑張れ、洋服なら重たくないよ。でも、木箱は沢山あるんだね。
運んでいる木箱は、女性が1個で男性は2個だ、僕の応援のなか次々に倉庫に運ばれて行く。重く無いので、馬車に積まれていた木箱が減るのが早い。
「ああ、お父さんが帰って来たんだ」
「夏の洋服だよね、見たい~」
遊びに行っていたミヤちゃん達が帰って来た、少し臭いけど何処に行っていたんだ。
僕の横に来た2人に「2人とも、小さい箱を運んで」とシンシアさんが言った。
「「は~い」」
僕も働いているように見せるには2人の後を追いかけるのがいいな。
「ニャ~《僕もお供します》」
これで働いているように見える筈だ、歩く速度が遅い2人の後をのんびりと歩く。
倉庫まで付いて行くと、飽きた僕は、毛づくろいをする事にした。毎日お風呂に入れないので自分で綺麗にしよう。
僕の前を何回も皆は通っている、荷物の量がこんなにあるとは驚きだよ、そうか、メーカや業者が運んで来る日本と違い自分でしないといけないから仕入れの量も多いのか、全て自分でしないといけないので仕入れの量も多くなるし、買い付けにも行かないといけないんだ。自動車で運べる時代の人達は本当に幸せなんだな、馬車だと重量があり過ぎると運べない、積める量もそんなに多くないな。
売れ残ってしまうかもしれないけど、沢山仕入れてくるのは仕方がないんだな。
「レイ、今日はお風呂の日よ、今日こそ沈没させるからね」
「ニャ~≪2人掛かりでも、負けないよ≫」
荷物を運んでいるミヤちゃんが、ニヤリと笑った。何か考えがあるんだな。
二人は連係プレイを覚えてきたのだ、遂にミヤちゃん達に沈没させられてしまった僕は、もっと、力を付けるぞと頑張る事にした。
「レイちゃん、気持ちいいわよ」
「ニャ~《荷物運び、ご苦労さま》」
ミヤちゃん達が寝た後にマッサージに呼ばれた僕、いつものように背中から肩にかけて丁寧に指圧していく。もう何回もシンシアさんにマッサージをしているので、こっている所、気持ちいい所は分かっている。力の入れ具合の好みも僕の手は覚えているので、シンシアさんが寝落ちするのも時間の問題だ。
「レイちゃん、僕にもしてくれよ。長旅で疲れたんだ、いいだろ」
「ニャ~《お客さん、匂いが強烈なので水浴びをオススメします、その後ならやってもいいですよ≫」
「レイちゃんが臭いから水浴びして来てと言っているわよ」
「それは、君が思っているんだろ」
「そうね、旅で汗を流せなかったんでしょう、綺麗になってからベッドに入ってよね」
「分かったよ、浴びてくる。レイちゃん、戻ったらよろしく」
ハリーさんは自分の服の匂いを嗅ぎながら部屋から出ていった、帰ってきた時には僕は居ない、小説のタイトルにマッサージ師旅に出る、疲れたので。自分を癒やしに出かけたんだな。
僕も疲れたら寝よう、猫はそんなに働き者ではありません。
「レイ、この子は鍛冶屋のアレクよ」
「本当だったんだ、小さくて可愛いね」
「ニャ~《アレク君、よろしく》」
鍛冶屋のアレク君は、勝ち気そうな顔の赤髪だ。日本だと黒髪ばかりなのに、この街に住む人々は色々な髪の色の人がいる。こんなに色の違う人達がいるなんて少し変だよ。学者の先生、遺伝子の研究をお願いします、この国は変です。
僕が乗っている両手を突き出しているミヤちゃんは、どこか自信ありげに見える。
「レイちゃんは、足し算が出来るよ」
いや、計算ならほぼ出来ます、因数分解も簡単です。問題は勉強をしても将来に役に立つ職業に付かないと意味がない事、そう、勉強のほとんどは何の意味もない。覚えた方がいいのが、国語と算数で、数学ぐらいになると日常で使われる事はないと僕は思っている。
「それは嘘だろ、足し算が出来るはずがないよ」
疑いの視線を向けてくるアレク君は、頭を動かして違う角度からも僕を観察している。
「レイは出来るわよ、一緒に勉強しているからね」
「私とレイちゃんは勉強しているお姉ちゃんと一緒にしているんだよ」
アレク君、足し算は誰でも出来ますよ、猫だって会話が分かれば出来るはずです。
「よし、それなら足し算の問題を出すから答えてくれ、レイちゃん」
「ニャ~《どうぞ、好きな問題を出して下さい》」
道でばったり会ったので、移動する事になった。移動先はアレク君の家の前だった。
アレク君の家は3階建てで、建物の中からカンカンと音がしている。異世界の鍛冶屋さんか、広い街の外壁近くにあるのはカンカン音が響かない為なのかな。
僕の家の近くは人通りが多いけど、ここでは数人が歩いているだけだ。
家の横に移動したので、ここで、足し算の問題を出すのだな。初めて会うアレク君には答えは、ニャンニャンで答えよう。
「5+3=いくつ?」
「ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン」
「正解ね」
「え、今ので正解なのか、鳴いただけじゃないか」
「ニャンと鳴いた数が答えなのよ」
「そうなんだよね、レイちゃんの泣いた回数なんだよ」
「鳴いた回数か、もう一度鳴いてくれえるかな?」
まあ、誰でも疑うし、鳴いた回数を数えてないよね。
「ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン」
頭を左右に振って余裕のニャンニャンだ。
「鳴いた、8回鳴いたよ。本当に分かって泣いているのかな。やっぱり、偶然じゃないのかな」
「レイちゃんは、間違えないよ。答えが9までなら」
「10以上は出来ないんだな」
「そんなことはないわよ、ただ調子に乗るから答えが少しずれるだけよ」
「それなら7+5=いくつ?」
ミヤちゃんとメグちゃんは驚いている、僕が調子に乗る数の答えだからだ。しかし、真面目に答える事が出来るのだよ、明智くん。
「ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ゴロゴロ・・・・・・『凄え、合ってる』ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン、ニャン」
答えが言えた後には、地面をゴロゴロして、更にニャンニャンと鳴いてみた。
「レイ、調子に乗りすぎよ」
「ニャ~《いいのだ、答えは合っていたんだ》」
「1+1=いくつ?」
アレク君、まだ続いていたのかい。
[ニャン、ニャン」
答えっが短いのでニャンニャン踊りができないな。
「ごめんよ、疑っていた。まさか猫に足し算が出来るとは思わないもんな、それにしても小さい猫だな」
足し算の出来る猫に驚きなさい、小さい猫だって居るんだから。まだ僕の家族以外の小さい猫に会ったことがないけど。
「いいのよ、レイは特別なのよ。勉強中も静かに横で聞いているんだから」
「そうだよ、私と一緒に勉強していてレイちゃんが先生のように間違えていると、鳴いて教えてくれるんだよ」
「そこまで賢い猫がいるんだな、僕の家を見学してみないか、鍛冶屋さんがどんな事をしているか見たくないかい?」
「そうね、見てみる、レイ?」
「ニャ~≪アレク君は僕に見学しないかと勧めてくれたんだね、ありがとう≫」
お礼を言って、見学したいので頷く。
「ねえ、ミヤちゃん、君の猫が頷いている様に見えるんだけど、頷いているのかな?」
「そうよ、私達の会話が分かるんだから、頷いたりもするわよ」
「そうだよ、手を振れば振り返してくれるんだから」
「本当に猫なの、凄すぎだよ」
「私の教育がいいのよ」
「2+2=?」
「ニャンニャンニャンニャン」
「合ってる、不意打ちでも間違えないのか。まあいいか、さあ、中に入ろう」
今も聞こえるカンカン、何を作っているのかな。異世界なら剣だよな、他なら防具の胸当てとかだよな。剣と防具は違う鍛冶屋だな、ファンタジー物でも同じ鍛冶屋さんが作っているのを見た事がないな。
アレク君の開けたドアから見えた店内は、店内と呼べない工房だった。工房の真ん中でカンカンしているおじさんがいる。
僕のイメージの鍛冶屋さんだと壁際に暖炉のような釜戸に素材を入れて加熱するのに、この工房だと真ん中に加工台と加熱する為の釜戸がある、工房の真ん中が作業スペースで周りがそれ以外の物が色々と置かれている。
色々な道具は台の上と隅にある台の上に木の棒に引っ掛けられて吊るされている。吊るされた道具は同じ形のようだけど、何であんなに沢山あるんだろう。
「なんだ、また友達か、直ぐにドアを締めてくれ、音が漏れる」
「はい」
ドアを締めたのはミヤちゃんで、作業しているアレク君のお父さんの所に早歩きで見に行くメグちゃん、作業しているのを見るのが好きなのかな。
「あまり近づかないでくれ、怪我したら困る」
「「は~い」」
「ニャ~《はい》」
おじさんがカンカンしているのはハサミのようだ。
「父さんはハサミを作っているんだ、ハサミとナイフがうちの工房で作っている物だよ」
「カン、カン、カン、カン」
どうやら、僕に説明してくれているらしい、アレク君の視線は僕に向いているからね。
ハサミとナイフか、剣と胸当ては作っていないんだな。販売はどうしているんだ、お店があるのかな。
僕も人間に生まれていれば、カンカンしてみたかったな。
「どうだいお嬢ちゃん、叩いてみるか?」
やりたそうにしていたメグちゃんにおじさんが叩いてみないかと言ってきた。
「危なくない」
「叩くだけさ、後は俺が手伝うよ」
「叩きたい」
いいな、僕も叩きたいぞ。
「レイちゃんを持ってて」
「うん、気を付けてね」
メグちゃんに抱かれいた僕はミヤちゃんに渡された。
おじさんは打ちやすいように大きい板を火にかざした、あれを叩くのか。
「ほら、叩いてみな」
「はい」
遂に鍛冶屋見習いメグちゃんが叩くぞ。
「とりゃ~」
「カン」
「いいぞ、次は連続で叩くんだ」
「カン、カン」
女の子の力でも少しは板が変形するんだな。
おじさんは、皆に叩かせてくれた後に、色々と鍛冶屋さんの仕事の話をしてくれた、とても面白かった。
「ありがとう、君達が来てくれたので鉄を打つ事が出来たよ、いつもならやらせてくれないんだ」
帰り際にミヤちゃん達にお礼を言ったアレク君。そうだよな、危ないし、良い物を作るのには大変な根気と時間が掛かる、息子でも優しく出来ない、それが職人さんだ。もっと成長して、習いたいと言い出せば違うだろう。
「そうなの、お手伝いに最初の方だけでも叩かせてくれればいいのにね」
「面白かったです、アレク。また叩かせてね」
「父さんの機嫌が良かったら、また打たせてくれるよ」
「帰ろうメグ、アレクまたね」
「ああ、また」
「じゃね、アレク」
ノリノリで叩きたかったけど金槌が持てない、持てれば、猫の鍛冶屋でもしてみるんだけどな。勿論、剣を名剣を作れた筈だ。
「お姉ちゃん、楽しかった」
「そう、良かったわね」
そうだよな、遊びが少ないよな。僕が人間に生まれていたら、オセロとか作ったかもな、アレほど簡単に作れてルールも簡単な遊びはないよな。
優しいミヤちゃんとメグちゃんと沢山遊ぼう、猫として。
あれ、ミヤちゃんの洋服から変な匂いが・・・最近嗅いだんだけど、思い出せないな。




